表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
If I wasn't me 俺が俺じゃなかったら  作者: VIKASH
Longevity and Misfortune-寿夭禍福
19/24

「19」 Endeavor―決然とした努力

There’s(覆水盆に) No(返らず) Crying Over Spilt Milk―




「とーちゃん!もーいっかい!」


 父は、何も言わずに竹刀(しない)を構えた。


 そういえば、無口だったな。昔から、父は無口だった。

 だが、笑顔だけは()やさなかった。


 俺も見様見真似で、構えてみる。


 ガキの頃の俺と言ったら、無鉄砲で、猪突猛進なガキだった。


「おらぁ!」


 馬鹿正直に真っ直ぐに前進し、打突を狙ったが、くるりと身を(ひるがえ)した父に、俺は面をくらった。


「やるじゃないか。数義(かずよし)。休憩するか?」


「俺、負けてんじゃん!まだまだ!もっかい!もっかいやろ!」


 父は、俺の我儘(わがまま)に付き合ってくれた。




 稽古(けいこ)の後、防具を脱いで、父に歩み寄る。

 父が防具を脱ぎ、手拭いが(あらわ)になる。汗が(したた)る。それが何を意味するのか。俺には、わかっていた。それは、俺との勝負に本気になってくれていたこと。それがなにより嬉しかった。

 それに、父の精悍(せいかん)な顔つきに似たことを微笑ましく思った。小学生の頃の俺は、足は早くなかったからな。モテなかったが、将来は、俳優だの、アイドルだのとはやされた。

 父は、勇敢で、出世株で、困った人がいたら、迷わず助ける。いつだってそうだった。


 これが、俺の父。源君朝(みなもときみとも)その人だ。


 なんでだろうな。この記憶はいつまでたっても忘れられない。

 俺が、初めて剣道をした日のことだ。楽しかった。防具をつけていても、あちこちが痛かった。父から学ぶことは多くあった。



 そんな、優しかった父を今でも覚えている。


 小学校高学年で、部活はもちろん剣道部に入った。部活には、毎日顔を出し、腕を磨いた。


 そして、俺は中学生になった。今の父は、会社一筋で中学に通う俺には目もくれない。剣道の話をしようとも、先祖の話をしようとも、睨みつけては、口を開かなかった。幽閉の後遺症だろうと、そう思っていた。



 何の後遺症か、話す必要があるな。実を言うと、父はとある事件に巻き込まれ、マルチバースという場所に幽閉されいたらしい。そこで、何年間帰ってこなかった。あの、ヒーローKが連れ戻してきてはくれたものの、その空白が、何年もの幾重に重なる壁が、俺達に距離を作っていた。

 まだ、それだけならよかった。父が……父はまるで………


「なあ、父さん。」


「なんだ」


「俺の漫画知らないか。」


「捨てた」


「なんでだよ。父さんが買ってくれたんだぜ?覚えてるよな。俺が、小学生の時に父さんにねだったケンドーの漫画。」


「ああ」


 気のない返事だった。父は、そっぽを向いて、まるで、俺にさっさと行け。と言わんばかりの態度を決め込む。


「どういうことだよ。」


 なぜ捨てた。俺は、(はや)る気持ちを抑えられないでいた。新しく買ってもいいかもしれないが、あの(わず)かに酸化した、古ぼけた漫画が、匂いが、俺は好きだった。別にどこにでもある漫画だ。プレミアでもなければ、サイン入りでもない。だが、俺にとっては宝物と同じだった。それを捨てるなんて………


「本を読め」


 何を言ってるんだ。俺は、どうにかなりそうだった。本を読め?今は、俺は漫画の話をしている。


 頼むぜ。父さん。冗談でもいいから、間違えてほかったと言ってほしかった。なんなら、燃やしたでもいい。

 その方が、(いさぎよ)かった。だって、忘れられる。俺の目は潤んでた。


「………そうかよ。」


 いつからだろうか。父はさらに口数が少なくなり。家族と過ごす時間も減っていった。家に帰ってこない日も少なくなかった。

 母は「あの事故が原因だろう」と何も言わなかった。俺と似たような事を考えていたが………

 寛大な母とは、打って変わって俺は文句しかなかった。おかしいだろうよ。俺の好きな漫画を捨てるなんて、それだけじゃない。

 俺の名前、「数義(かずよし)」を呼ばなくなった。

 俺の顔すら見ない。

 つまり、目を合わせないんだ。

 どういうことなんだ。


 父に振り向いてもらいたい。父の喜ぶ姿が見たい。その一心で剣道をひたむきに頑張った。

 毎日、毎日素振りをした。何も考えたくなくて、素振りをしていると、百を超えてた。   

 汗を滝のようにかいたし、肩や背中が痛かった。普通、こんなにきつかったら、続けようとは思わないだろう。

 だが俺は、夏休みが来ようとも、クリスマスが来ようとも、正月だろうと、ひたすら剣道に向き合った。理由は依然として、変わらない。忘れたいから、考えたくないから。父に元に戻ってほしかった。何度も、もう無理なのかな。と、考えては、いや、まだ大丈夫だと、言う俺の考えが頭の中を駆け巡った。


 そうこうしているうちに、気がつけば県大会。勝ち負けにこだわってはいなかった。そこで、結果を出すことだけが、俺に意味をもたらすと、そう考えていた。ふと、観客席を見渡すと、そこにいるのは母の姿だけ。


「母さん………」


 俺は、父の事が頭から離れず、試合中に余所事(よそごと)ばかり考えて、俺のどこが悪かったのか。思い当たる節はなかったが、更生しようと、また、やり直せばいい。と思っていた。

 そんなことを考えているうちに、最後の1本取られた。「あっ」と思った。「しまった」と思った。迂闊(うかつ)だった。もし、願いが叶うのなら………やり直したい。でも、キラキラ星は、残念ながら、全人類の願いを叶えるほど、悠長じゃなかった。赤子から、優先されるとしても、俺は後の方だ。決して、やり直せない。今まで努力してきたものが、全て水の泡になってしまうのかと思うと、本当に悔しかった。


 時間というものは普遍(ふへん)だ。

 その流れは誰にも止めることができない。  

 もし、時間が戻るなら、俺は、俺は………




 会場を後にすると、母さんが駆けつけてくれた。


「かずくん。頑張ったね。」


「うん。」



 俺は迷わず、父に会いに行った。結果を報告した。準優勝だったが、伝えれば、そうすれば、何もかも変わると思ってたんだ。父は俺に振り向いてくれると、きっと忘れてるだけなんだと、甘く見ていた。そうだ。俺は甘かったんだ。




 ある時、父が母に手を振るった。俺は信じられなかった。父はそんな人間じゃない。近くで見てた。俺だから、知ってる。どちらにせよ。理由が分からなかった。何が気に入らなかったのか。なんで、俺じゃないのか。そんなことばかり考えては、もし自分だったら、と思うと、俺は、思わず頬を押さえた。


「あなた………」


「家を出ていく」


「・・・」


 本気なのか?その言葉は、喉に留まり、俺の口からは吐き出されなかった。


「かずくん!」


 母が俺に気づいた。母は………泣いてた。俺は、母親を見て、その光景を見て、誰がやったんだろうと、人生を共に歩むパートナーをその手で殴ったのかと、弱者を痛めつけるのかと、そう思った。


「お前………誰だよ。」


 わかっていた。お前とは言ってはいけないこと。俺がお前という時は………


君朝(きみとも)だ。」


 その人間に対して憎悪がある時、怨念がある時、激しい怒りがある時。感情を制御できない時。


「嘘だ………父さんはそんなことはしない。

「お前は、お前は俺の父親なんかじゃない。

「どこ行くつもりだよ。

「なあ!」


「斬るぞ」


「何言って………」


 その時は、何を言ってるんだろうと、聞き間違えだろうと勝手に思ってた。

 父………いや、君朝の手には、包丁があった。

 なんの躊躇いもなく、俺に襲いかかってくる。

 俺は、急いで竹刀を取り出すと、何度も何度も何度も、何度も打たれた。面を君朝にくらわそうと思ったが、読まれると判断したが故に、小手を狙った。


「俺に歯向かうか」


 なんで、なんでなんでなんで、なんで。


 俺の顔の横をスレスレに包丁が飛んできた。


 実の息子を殺す気なのか。


 目、覚ましてくれよ。


「ひとつ言っておく」


「・・・」


「貴様は、俺につくか?」


「もっと、考えて言えよ。後ろにいる母さんがどんな気持ちで、俺を産んだのか。あんたなら、わかるだろ?」


「もう一度問う。貴様はどっちにつく?3度目はない。」


「俺は、あんたなんかにつかねえ。」


「それでいい。数義だったか。祖父に俺の事を聞くといい。強くなれ。」




―4GM―




 源創立(あらた)こと、祖父から話は聞いた。そして、俺は高校生になり、今はジャディシャルズと出くわす時の数週間前だ。場所は聞いていた。彼はいたんだ。もう誰もあてにはできない。信じられない。驚愕の事実を聞いた時、人は口を開く。聞いたわけではなかったが、面影があった。最初は、兄弟が何かだと思った。非常に似ている。彼が、彼こそが………


「なあ、君朝。じいちゃんから聞いたぜ。」


 あの、鬼切丸の話から推測するに………


「俺は、悪役なんかじゃない。あれは、演技だ。数義、お前を育てるためのな。どうしていた?創立に会ったか?お前がここにいるなんてな。驚いた。俺と何を話にきた。何も話すことはないはずだ。」


 君朝は、荘厳(そうごん)な態度で振る舞い、俺を軽くあしらう。


 だからといって、こちらも引けない。


「それは忙しいからか?あんたは、数多九という人物を知っている。その人に会ってから変わったんだろう?しかも、それだけじゃない。中身は全くの別物だ。」


 入れ替わっている………


「そこまで言われては、言い逃れはできんな。彼に言うべきだったか。俺は、弟が嫌いだと。」


(ここのつ)が、初代ヒーローKだ。数多京(あまたけい)の功績も大きい。そして次はお前だ。」


「俺に何をしろと。」


「父、まあ、義理になるのかもしれんが、創立も同じことを言うに違いない。なに、平氏を滅ぼせなどとは言わん。歴文也を過去の俺に会わせろ。そして、精神の摘出。できるだろう?それが数義、お前の使命だ。そして………」


「新しい歴史を創ること。

「新たなる歴史を創りあげ、王となり星々を照らすのだ。

「そのように彼に伝えてくれないか?数義(かずよし)。」


 何を言ってるのかさっぱりわからないな。


「名は(てい)をあらわすとはよく言うだろう。ところで、(すめらぎ)一族には会ったか?」


「・・・」


「わからんか。刀を持て」


「戦う必要は無いはずだ。」


 俺は1歩退き、手で制止する。


「つまらないのは、ここからだ。

「耳を塞ぎたければ、塞いでもいい。

「もう、この手で何人殺したかわからぬ。

「歴史の過ち。

「源の過ち。

「幕府の過ち。

「そうするしか、方法はなかったのか。

「今でも考える。

「死人を出さずに、歴史を変えてはくれまいか?数義よ。」


 君朝(きみとも)は、俺の目線が下を向いているのを確認するとゆっくり息を吸い、口から吐いた。

 そして、天を仰いだ。その、表情は何か言いたげでもあった。

 俺は黙って、喋るのを待っていた。


「断末魔が聞こえるのだ。亡霊達のな。『なぜ貴様が生きている』『貴様を絶対に許さない』『呪ってやる』その度に俺はおかしくなる。誰の声かは、わからん。人を殺してから、私はおかしくなった。人であるはずが、人ではなくなった。それゆえ、過去の私を変えて欲しいのだ。二度と過ちを犯さぬよう。変えて欲しいのだ。」


「過去は変えらない………」


「そうか。では、どうする?」


(たちばな)から聞いた話だと、歴は時間を操れるんだろ?そうとしか思えねえ、なら歴史也(れきふみや)と協力する。」


「構わん。源頼朝つまり、以前の私も未来人だ。1000年以上後の未来から来ている。過去の私に事情を話せばわかってくれるだろう。上手くいくといいがな。」


「気になったんだが、それは………」


 君朝が、腰に(たずさ)えた、刀を抜刀する。ゆっくり、ゆっくりと抜き終えると、刀は錆びておらず、しっかりと手入れされているのか。ギラリと輝いた。


「これか、俺の愛刀よ。名を鬼切丸。数義。真実を知りたいか?」


「もちろんだ。」


「実は、元々幕府というものは存在しなかった。順当に天皇が国を収めていた。しかし、世界大統領の発足により、様々な時代に、未来人が送られることになった。」


「つまり、歴史というのは都合のいいように作り替えられたものだと………」


 混乱するな。


「だが、ありえない。」


「マルチバースを思いついたのは、皇一族に違いないが、歴史也だ。彼だ。」


「あいつが、マルチバースを?」


「そうだ。」


「待ってくれ、そもそもマルチバースって………」


「早く刀を持て」


「わかった。」


 刀を抜く姿勢が様になっている。これが、SAMURAI。

 一体、どれ程の実戦を積めば、この殺気を漂わせられるのか。

 78センチの刃が俺を威嚇(いかく)する。


番外編

「蹶」Monologue―独白



「―――人の話聞けよ。」


「あぁ、そうかよ。自分は話しといて、俺の話は聞かねえってか?おい、聞けよ。なあ、聞いてんのか?」


「自分が喋ってばっかでよ。人の話を聞かないのはどういう魂胆だ。話を要約すると、あんたは愚痴しか言ってない。つまり、無意味だ。ここで、愚痴を言っても何も変わらないからな。」


「あれか?それで、私は勝ちました。とでも、言いたげだな。それで勝った気になるなよ。」


「勝ち誇って、恍惚とするなよ。」


「まあ、認めるよ。人生経験だって、あんたの方が上だ。俺なんて、まだ高校生になって、2年と1ヶ月のひよこちゃんだ。年齢だって、18だ。たったの、18回、一年を過ごしただけだ。だがよ。言わせてもらうぜ。」


「ここで、言い返したらあんたと同じなんだよ。」


「俺の言ってる意味わかるか?」


「奥歯ガタガタ震わせて、恐怖に怖気付いたか?」


「わかるよな?」


「口は災いの元なんて言葉、今更誰でも知ってる。」


「わかった。覚えといてやるよ。その言葉、胸に閉まっておく。」


「実際と違った。期待してたものと違った。なんてよ、わかっちまうのよ。わかるんだよ。その文言から伝わってくるわけよ。」


「いいか。あんたは、知ってるかもしれねえ。だが、俺は知らねえし。周りの誰もが、知らねえんだ。要するにだ。ここで、何を言おうが、どう思うが、その人の自由ってことだぜ。」


「わかったか?」


私は、首を縦に頷いた。












次回までどうぞよしなに!

Please wait until next time :-)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ