「16」 Beyond Measure―測定不可能
―We Are Always In Your Heart―
『 ―――二の足を踏んではいられないわ。』
『今だからできることがあるんだ。今しかできないことが。』
『羽撃け、天使達よ。闇を穿て同志達よ。』
『後継者となるホープに継ぐ、我々こそが希望だ。』
似ている。だが、違うな。この声は、ヴァイヴァロスとはまた違う。まるで、何世紀も前から俺に語りかけているみたいだ。
そして、全員違う声だ。今のところ、四人の声が確認できた。
こんなの聞いて、冷静じゃいられないぜ。誰が聞かせてる。発信源はどこだ。どんな機械で俺に話しかけてる。どんな能力で俺に聞かせてる。もしくはさっきのアイツなのか?
いや、にしては声が多いぜ。それに、最初に聞こえた声は女だった。多重人格の可能性も考えられる。なんだよこれ。もう一度言うぜ。なんなんだよこれ。
ひでえことしやがる。見せんなよ。俺の頭に知ってるはずのない記憶が流れ込んでくる。鮮烈な叫び声。轟く銃声。なんだよこれ。見たくない。もう、たくさんだ。
そういった途端に、消え失せていく。
まるで意思を持っているかのように、俺に優しくしてくれている。見せる必要があったのか。これを人類の誰かに伝えればいいのか。
いや、それも違うな。
でも、なんだろうな。忘れちゃいけねえ気がする。
さっきの記憶は、一体………
それに、意味深長な言葉達。どの言葉も意味不明だ。「今」「天使」「同志」「ホープ」「希望」この言葉に関連性があるのか?繋げてみるか?しかし、繋がらないよな。何かを黙示しているのか?答えはわからないままだ。俺には、誰かに尋ねる暇もないんだからな。
にしてもよ、なんだって?俺が、この俺が希望?勘違いも甚だしいぜ。何かの間違いだ。送る相手を間違えたのか。真意は、わからねえが。
俺はホープじゃねえ。
歴史也だ!
《否むのか》
まだ、何かわからねえ。何も言えねえよ。ヴァイヴァロス。
《そうか》
―Walk Into The Wall―
そんなことより、俺達を遮るようにして割って入ってきた、謎の人物。
コイツに俺と王子は肩を叩かれた。ポンっと音がしたんじゃないかと思うくらいにな。それぐらい軽かった。いつからいたんだよ。俺たちは、話に夢中で、足音や気配に気付けなかった。
でも、待てよ。思い返してみる。足音なんてしたか?
でもさっきの声、聞き覚えがあるんだよなぁ・・・
俺は、この声をどこかで聞いている。
それだけは、間違いなかった。
つまり、俺はコイツを知っている。と、いうことだぜ。
眼前にいるコイツは・・・見た目を言い表すと、これは・・・白を基調としたスーツに、赤・黄色・緑・青。その四色が流線型を描くように、スーツに刻まれている。そして、胸にデカデカと描かれた。「G」のアルファベット。顔は隠れている。
誰なんだ・・・?
「これは、これは。歴史也さん。」
何故か拍手をしている。何の真似だ?
「茶番もここまでだ。
「目的を遂行するためには知る必要がある。
「正体がなんであろうと………関係ない。
「しかり、任務の邪魔をするなら、それ相応の対処を施す。」
目的・・・何だろうか。未だ、はっきりとしない。敵なのか。味方なのかさえも。敵だったら、逃げる。
いや、王子の力でなんとかする。方法はいくらでもあるんだよ。こっちは、チートとチートだぜ。
さあ、どんな手段でくるつもりだ。見せてみろよ。
『言葉一つで、足りた。』
また、語りかけてくる。なんなんだよ。一体。言葉一つ?なんの話だよ。二の句も継げない。とでも、言いてえのかよ。言葉は足りてもなぁ。俺には、敵を圧倒するような力が足りない。敵を欺くような、賢さや知恵が足りない。そして、今の俺には仲間が足りない。三人寄れば文殊の知恵。あと一人でもいいから、欲しいんだ。そうだ。人員がまるで足りていない。
ふと、考えちまう。ここに橙星がいたらと………
『それ相応の対処を施す。』
その言葉がどうしても、頭から離れなかった。
どんな対処なんだ。攻撃か。捕縛か。はたまた………
まるで、誰かが念じたテレパシーを聞かされているみたいに、半強制的に頭に反芻するその声。
この状況を受け入れるしか、俺の頭の中の選択肢には、残されていなかった。
「降参する………」
え?
王子?
何言ってんだよ。
降参って、負けを認めたのか?
まだ、戦ってすらいないのによ。この人が誰か知ってるのか。
知っててその判断なら懸命だな。
でも俺は運命に抗いたい。
「…そうか。王子真夏。」
名前まで知ってるのかよ。にしても、なんで王子は、包帯を巻いたまんまなんだよ。触れないほうがいいのか。もしかして、ラブシンドロームなんて本当にあるのか?いや、まさかなぁ。
『正体が知りたいのか?』
え?まただ、声が聞こえる。さっき聞こえた声のどれかだ。
『彼は、Mr.Gだ。我々の意志を継ぐもの。その意志は、独立戦争の頃から、変化していないんだ。』
《忘れるな、君はその名前を1度聞いている》
ヴァイヴァロスの言っていることは、何よりも正しいってこと―――俺が一番わかってた。そうだ。だけどよ、独立戦争だって?いつの話をしてんだよ。
『生命、 自由、幸福追求の権利を求めて。』
言ってる意味がさっぱりわからねえが、一つだけわかったことがある。ヒントは橙星の口にしていた言葉からだ。
『あのマイクロンにも、Mr.Gにも、トランセンドにも、アズにも、アプフェルにも勝てなかった。
『なにせ、あのセブンスターがいる。』
この名前は、この面々は、全員ジャディシャルズなんだよ!
俺は一度目の当たりにしたことがあるよな。マイクロンという男を。橘涼将は、完膚なきまでに敗北を喫していた。
もっと聞いておくべきだった。攻略サイトや、攻略本を見ずに、めちゃくちゃ難しいゲームをやるようなもの。
つまり、時間が掛かる。王子は戦いたくなかったのか。理由がわかないが、降参すると言ったのは確かだ。
しかも、順番通りじゃねえか?マイクロンそして、Mr.G。橙星は未来人だ。ひょっとすると、俺たちにとって今である。過去の俺たちからすれば、未来の今に先回りして、彼らと戦ったんじゃねえのか?違うのか?わからねえが。一つ言えることがある。俺はひとりじゃないってことだ。隣には、降参はしたが、王子がいる。王子の人を操る力は最強だ。それプラス、俺の時間操作。この2つがあれは、きっと倒せる。
「Are you serious?」
「I know. May you be strong. But that doesn't mean we can't win. Power is not the only thing that determines victory or defeat. It's also a feeling.」
「王子、聞いてるか?聞こえるか王子!
「なんで、応えねえ!反応しろよ!
「お前さ・・・
「俺を必要としているって言ったよな。
「本当はこんなこと言いたくもないけどよ。
「事態が事態だ。
「俺を利用しろ。
「頼む!返事してくれ!
「俺を使え。
「頼むからよ。
「俺を使ってくれ………
これが、Mr.Gかよ。雰囲気がヤベエ。負けたら、骨折じゃ済まなそうだな。
「・・・」
王子は、他所の家に来た犬のように、ピクリとも動かず、喋らねえんだ。
なんでだよ!
こんな時、感情的にもなるよな。怒り………とは、また違うが。思い通りにいかない現実に嫌気がさす。
「なあなあなあ、Mr.G。」
「なんだ?」
「あんたよ。」
「ん?」
「誰なんだよ。」
「そうか。忘れたか?」
「じゃあ、質問を変える。」
「なんだ。」
「俺と戦ってどうするつもりだ?」
「戦う必要がある。」
「これは、無意味と呼ばれるものじゃないのか。」
「そこに、是非は問われるのかよ。」
「一切合切を捨て去った俺は、ここに意味があるとは思えねえな。」
「…そうか。」
「意味が欲しいか?」
「あぁ、そうだな。見いだせるのか?」
「…そうか。では、こうする。」
「気づいてるんだろう。」
「なにをだ?」
「私が、ジャディシャルズの一員であることを。」
「そうだな。知ってる。
「とある未来人がな、教えてくれたんだよ!」
正体は、分からねえ。誰なんだよ。
―The Gate Was Opened―
「『OVERDRIVE』」
始めやがった。どんな攻撃だ。
どっからでも、かかってこい。もしもの時は止めてやる。
ヴァイヴァロス。頼む。
◁SLOW DOWN▷
「まて………………」
喋れるのか!?
時間を減速した。いわば俺だけが、普通の速度で動ける状態。
これは、一度行っている。その一度とは、ウィリアムことマイクロンと戦った時。意図せず行ったんだ。
感覚だけで言えば、周りの人間は、カメラのシャッターを一枚一枚丁寧に見ている状態で、その中で行動していることになる。
俺は、そのフィルムを連続で一秒間に何百枚も再生し、アニメーションを見ているような状態のはずなんだが………どうなってやがる。
まさか、追いつけるのか。
オーバードライブってまさか・・・
加速――?
「まだ………………」
どうなってる。ありえねえだろうよ。
一秒を一分に正すと、60分の1。てことは、0.01秒。
それなのに、なぜだ。つまりだ、こういうことか。俺にとっての一秒が相手にとっての一分であり、相手にとっての一分は、俺にとっての一時間。で、間違いないはずだ。
「ほんき………………」
やっぱり、本気なんだろ?俺には追いつけない。俺は、魔法は使えないが、時間の魔術師という言葉が相応しいかもしれない。
そういや、王子はどうなった?
あれ?いない?どこだ?どこなんだ?
Mr.Gは俺めがけて、追ってくるが亀みたくゆっくりだ。
にしても喋れるなんてな。計り知れないぜ。
「じゃない……………」
顔が隠れているからな。表情は読み取れないが、この声で喋ってるのがはっきりとわかるぜ。
今しかないんだ。
王子を探す。
あの、ならず者を見つけねえと。
だが、いない。どこに消えた。
俺はまた、ひとりなのか。
兎と亀の亀は、最後まで走りきった。油断大敵なんだよな。俺は兎かもしれねえ。
なぜなら、俺の肩にMr.Gの手が触れていた。
気づいた時には遅かった。
《解除する》
◁REVERT▷
「待てって!」
「まだだ。」
《相手は、銃を所持しているが敵意は感じられない。おそらく、君を試している》
ふっ。先に言ってくれよ。怖すぎるだろ。引き金引かれたらお釈迦じゃねえかよ。
「何者だ?」
マジかよ。
「俺か?」
一応聞き返しておく。
「そうだ。」
わかったぜ。
「答えてやるよ。」
「ただの高校生だ。」
「そうか。」
「認めてやる。」
「I'm the fastest man alive.だが、私よりも速いな。」
「本気じゃねえけどな。」
「ほう。」
「ジャディシャルズに入らないか?」
「構わねえ。」
「と、言いたいところだが」
「生憎、先客がいる。」
「どこだ?Koreaか?Chinaか?まさか、連邦ではあるまいな。」
「なわけねえよ。ここだ。」
俺は、親指を床に向けると、「ここ」と示した。
「AMTだな。やられたな。使者が来る。私は失礼する。歴史也だったな。」
「ああ。」
「数字は好きか?」
「普通だな。」
「HERO=Kの正体ではないか。わからんな。」
「じゃ…あれ?」
いないな。消えたか。
「And you don't notice me.」
次から次へとよぉ。世紀末かよ!
え、ちょっと待ってくれよ。行動を当てられた?
ま、まさかな。そんなわけねえよな。はは。
―One After Another―
「Make the impossible possible.」
「That’s us.]
「日本語で頼むぜ。」
「エリオット。」
番外編
「肉」Share―相席
ある日のことだった。俺は、ファミレスでミックスグリルを頼むと、四人席であろう場所に鎮座し、注文を終えてから、数分経つとまだこないものかと、考えあぐねていた。
「申し訳ございません。ただいま満席でして、相席でもよろしいですか?」
横から声が聞こえた。店員が繁盛しているがゆえに、断っていた。
「ええ、構いませんよ。」
構いませんよ?え?なんだって?おっと、これは予想外だった。普通なら、「違う店にするか」「他人と顔を合わせて食事はしたくない」等の、余計な考えが浮かぶ。
「構いませんよ。」と言った男はそういったことは考えない質なのだろう。俗に変人ともいう。もしくは、気にしていないのか。
「チキンステーキを一つ。お願いします。」
チキンステーキか無難な選択だ。この店の人気メニューであるハンバーグだが、チキンステーキも捨てがたいのだ。うまいと評判だ。
「すいません。席が空いていなかったので。」
「気にするなよ。ここは自由の国じゃねえが、自由なことの方が多いだろ?」
おっ、来たな。
「お待たせしました。ミックスグリルとチキンステーキでございます。」
「さんきゅ。」
「ありがとうございます。」
俺は、手を挙げてミックスグリルを受け取ると、チキンステーキを相席してる奴に渡してやった。
「ハンバーグに目玉焼き、ウインナーもついてるんですね。」
「まあ、雑食でな。チキンステーキ…うまそうだな。」
「食べますか?」
「遠慮するぜ。あんたに悪いだろ。」
「そうですか。少しいいですか。」
「なんだ。」
「ミックスグリルは、異なる主張を表していると思うんです。例えば、世論とか。」
「へぇ。」
俺は、食いながら相槌をうつ。
「で、チキンステーキは結論なんですよ。」
「合理的な結論。だから、ひとつにまとまっている。あ、気にしないでください。意味を持たせるのが、好きなんですよ。どんなことにも。意味がある。」
やっぱり、変人か。相席して、チキンステーキを合理的な結論とは言わねえだろ。なんか言っておくか。
「うまいこというな。このミックスグリルもうまいがな。」
「どうも。」
その男は、チキンステーキに手をつけていなかった。
「食わねえのか?」
「待ってる人がいるんです。」
「そうか。俺からの感謝だ。受け取ってくれ。」
俺は、千円札を渡すと、相手は戸惑っていた。
「受け取れませんよ。」
「いいんだ。使ってくれ。足りなかったか?」
「いえ、では。」
「おう。」
「ありがとうございます。」
俺が、会計を済ませて、自動扉を出ようとすると、一人の男とすれ違った。
「ごめん。ごめん。おまたせ。」
「待ってないので、おまたせと言わなくて大丈夫ですよ。京さん。」
「いやあ、マルチバースって―――」
もう少し聞きたくなったが、どうも不格好だったんで。店を後にした。マルチバースってなんだろうな。
まあ、相席もたまには悪くないな。ふっ。俺が、鼻で笑うとズボンのポケットが不自然に膨らんでいた。手を入れてみると、千円札が入っていた。
次回までどうぞよしなに。