「11」 イレブン・レイブン
「え、何のことですか?橘君。本来ならあなたは、僕に昨日ぶりだな。皇。と言うんじゃないですか?どういうことですか?」
その口から吐いた台詞はあまりに空虚で、別人のようだった。とても橙星の発言には思えなかった。やっぱり………俺の予想は当たっているのか?アカセは橙星じゃない?本当なんだとしたら、俺でも腰抜かすぜ。
「は!?」
NBA野郎も動揺してんな。今のは、橘の声だ。迫力のある声だった。例えるなら、その一言に気がこもってるみたいにな。気といえば、ドラゴン………なんでもねえ。煩わしいか。俺のアニメ好きがこうじてる。気にしないでくれ。
「とぼけんな!俺の代わりになるだとか。俺の存在を消すとかどうとか言ってたろ!あれよ、お前が言ったんだよな?お前が言ってたんだよなあ?だとしたらおかしいぜ。なんでその当人であるお前が覚えてねえんだよ。」
俺は、橙星に畳みかける。言わせてもらったぜ。ここで言わなきゃ男じゃねえよな。にしてもよ、ここでしらばっくれる気かよ。とんでもねえな。絶対逃がさねえ。
待て待て、一旦冷静になれよ俺。別の可能性でアプローチしてみる。よくよく考えてみれば、あのロボット達を操縦していたのは、橙星に他ならない。
つまりだ。教室を埋め尽くすほどロボットがいたんだから、精神的な負荷がかかってもおかしくはないわけだぜ。ということはだ、橙星はその精神的負荷により、今現在記憶喪失になっているかもしれねえ。
そして、もうひとつ………俺には気になることがあった。
「本当に覚えてねえのか?証拠もなんもねえけど、確かに俺が覚えてんだよ!どういうことなんだよ!待てよ、証拠ならあるじゃねえか。この目の前の荒れ果てた教室。この惨状は、どう説明する?大災害がこの教室にだけ来たとでも説明するのか?それはおかしいだろ?」
気になること………それは色だ。あの、艶の良い髪の色じゃない。そのオレンジ色の髪とは正反対の橙星の瞳の色………緑じゃねえか。
さっきは…さっき近づいた時、それこそ瞳の色が見えるぐらいに近づいた時には、橙星の瞳の色は紫だったんだ。にしてもよ、このイケメンフェイスなんでも似合うなって、そんなこと考えてる場合じゃねえな。どういうことなんだ?
俺はここで、気づくべきだった―――事態の異常さに。見て見ぬふりをする。
それとはまた違ったが、見たのに、見ていない。その言葉が一番適当かもしれない。
「ぼ、僕は一体………教室が滅茶苦茶だ。まさか、僕のニトロゼウスが………?ちょっと待ってください。ニトロゼウス………ニトロゼウス………反応しない?どうなってるんですか?」
「橙星。それはこっちの台詞だぜ。」
「いや、違うんですよ。ニトロゼウスには、カメラが搭載されているので、確認しようとしたのですが、何も………残っていないんですよ。まるで、何もなかったかのように………」
なんだって?記録されていない?
俺は、工学については詳しくはないからな、ロボットがなんたるかを説明するのも怪しかったが、俺の見聞から話せば、ニトロゼウスというロボットには、人型故に頭部に顔のようなものがついている。おそらく、その目にカメラがついているのではないか。と、踏んだ。
今、橙星は何度もあの指輪を触っている。どうしたんだろうか。ひどく焦っている。
まさか、故障なのか?カメラが作動していないとなると、故障しているとしか考えられ………
待てよ。もしかしてだけどよ、誰かが意図的に切ったんじゃ………わからねえけどよ。ありえない話じゃねえぜ。瞳の色から察するに、橙星は、幻術のようなもので操られていたんだ。
てことはだ。その術師が、ロボットを操作している、橙星を操り、カメラを切ったとしか………確証は持てねえな。聞いてみるか………
「なあんだよ。暴走か。皇。対処しとけよ。まあ、それにしても本気でも俺には敵わねえみたいだけどな。目屎鼻屎を笑うじゃねえけどよ。自分のことぐらい知っとけよな。」
めくそはなくそをわらう………11文字か。どうでもいいか。
ロボットの暴走………なるほど。それなら、説明がつくな。やっぱり。この橘、ただのバスケ好きだと思ってたが、只者じゃないな。俺よりも早く、最適解を出したか。やるな。ここはひとつ、聞いておくか。
「その、聞いてもいいか。」
俺は、橘に質問する。
「誰だ?ああ、自己紹介の時に手挙げてたやつだろ?名前は確か………」
「歴史也だ。なんで皇って苗字を覚えてる。俺の名前も覚えてねえのに。」
「史也だったか?そいつは、本人から聞いてくれ。」
え?なんでだよ。本人に直接聞く?なんでだ?それなりの理由があるのか?
「ぼ、僕にですか?まあ、いいですけど。僕の一族は、橘さん程ではないですが、由緒ある一族で、お爺様は、あの巨大企業群AMTを牛耳っていたとか聞きますね。ちなみに、母は、AMTの一部である京世良の代表でもある………皇螺旋なんですよ。あれ?どうしたんですか?」
俺は、すっとぼけた顔をする。
「何度聞いてもわかんねえわ。AMTってなんだよ。」
「知らないんですか。」
「おいおいそれ、マクドナルドを知らないって言ってるのと同じだぜ。その反応はびっくりだぜ。史也だったよな?調べたことぐらいあるだろ?足利、源、徳川の三大………」
頭の中で考えて、橘の話が頭に入ってこない。かろうじて聞こえた徳川から幕府の話でもしてんのかと、俺は推測する。まあ、いいか。
「わかった。後で調べとく。にしてもよ。さっきの化け物はなんだよ。たちびなだっけか?」
俺は、橘の七面倒な話を遮り、名前をわざと間違える。橘の反応が知りたいからだ。それに「あやかし」とやらのからくりも気になったが、俺の質問に対し、どんな返答をするのか。どう受け答えするのか。俺は、少しばかり期待していた。この橘という男に………。
「おい。橘だ。間違えるな。さっき、名前呼んでなかったか。まあ、いいが。いいか。よく聞けよ。俺はな、妖の力を借りられるんだ。妖に興味を持ってるようだな。見せてやろうか?」
なるほど、自己開示か。悪くないな。自己開示は、コミュニケーショにおいて、必須のスキルだ。これができるやつは、まちがいなくコミュ力が高い。
まさか、橘も優等生なのか?思い返してみれば、俺が事故に会う前、こんな奴はいなかった。随分と優秀なんだな。文武両道を体現したような男だ。
「いや………その………今はいい。」
「と、とりあえず。源先生に報告しましょう!」
皆、橙星に賛成だった。滅茶苦茶になった教室を出ると、職員室へ向かった。職員室へと繋がる階段を三人で下りていると、下から階段を駆け上がってくる音が聞こえる。どう聞いても女性のものだった。カツン。カツン。と、ハイヒールの音が階段に当たる度、下から聞こえてくるのだ。
俺の記憶が定かなら、俺のクラスメイトにハイヒールを履いた女子はいない。となると、外部の人間か。俺は、ぶらさげていた腕を上げると、戦闘態勢と思わしき格好を取ってしまったが、先に歩いて行った2人の様子を後ろから見てみると、呆然と立ち尽くしている。橙星に関しては、後ずさりしていた。
「え、母さん。」
母さん………?
「え?橙星?何しとるん?そいや、ニトロゼウスはどしたん?この前あげたやんか。」
てことは、さっき言っていた京世良の代表の皇螺旋か?なんでいる!?この人が、皇螺旋その人なのか。美人だな。髪色は赤毛だった。地毛か、染めたのかはわからないが、橙星のように、瞳が大きい。目力があるとでも表現すればいいのか。そういった点から見ても、似てなくもないか。橙星の母さんなんだよな。でも、よくよく考えてみると髪色が違う。なぜなら、橙星はオレンジだからだ。ひょっとしてだが、橙星は父親に似ているのか?
「その、それが………あはは。」
橙星は、茫洋とした表情で頭を搔いている。
「ええ?ニトロゼウスは最高傑作やからね?わかっとるん?」
「言いづれえ………」
言ってんじゃねえか。橘が困窮してんじゃねえか。さっきまで自信ありありだったのによ。
「お母様。すみません。暴走しちゃって………」
あれは………本当に暴走だったのか?
瞳の色に関しては俺だけが気づいていたが、今は言う必要はないな。と、俺は判断した。
「なわけ………うーん。確認できてなかったかもしれん。ところで、お母さん。先生になったから、よろしく。」
「はあ!?」
俺たち三人の内、橘と俺だけが驚いた声を出した。
「あれ?聞いてないん?ワタリガラスのレイブンで手紙出しといたけどね。」
「そ、それが………僕の所にも来てないんです。お母様。」
「なんやて!一大事やわ!創立先生と話してくると。」
「はい!」
「………行っちゃいましたね。すみません。お母様!」
誰に向かって言ってんだか、橙星は誰もいない空間に向かって「お母さま」と言い放つと、深々とお辞儀をしている。敬意の表れなんだろうか。角度は、ピッタリ90度だった。
「いや、いねえよ。なんで皇が謝ってんだ?壊したの俺だろ?」
そうなんだよな。庇ってんだよ。とても敵になってたとは思えねえんだよなあ。マジでどういうことなんだ?
謎は増えるばかりだ。ニトロゼウスの暴走。同じくニトロゼウスのカメラの故障。橙星の俺に対する意味不明な発言。
そして………瞳の色。瞳の色に関しては、特にあり得ない。 加齢によって、虹彩の機能が低下するなどで眼の色が変化するが、緑から紫だ。黒から茶色、灰色ならまだしも………様子を見る必要がありそうだな。橙星からは、目を離せないな。瞳だけに………俺は、つまらないことばかり思いつくな。でもよ、紫の瞳の人間………どこかで、見たことあるような気がするのはなんでだ?
どっかで見たんだよあ。一体いつだ?記憶が多すぎて把握しきれねえ。まあ、そのうち思い出すだろ。あれ?他にもなんか忘れてねえか?
あとは………あれだ。じゅりも気になるな。どういう経緯を経てあの関係性になるのか。見当もつかねえ。だって、まだ話してねえんだぜ?時間ってのは、不思議なもんだな。
今の俺は、濃い霧の中にいるみたいだ。
「史也。何考えてるの?」
「いやー、そのな。ん?」
「ん?」
《衝撃に備えろ》
「ヴァイヴァロス!!」
咄嗟に名前を言ってしまったが、変に思われないだろうか。まあ、小さなことを気にしても仕方ない。テキトウに理由を言っておくか。
「ヴァイヴァロス?誰ですか?史也。」
「な、なんでもねえ。俺の好きなアニメだ。」
喋ってる場合か。逃げねえと。
「みんな。逃げろおお!」
「え?なんでですか?」
「おい、どうした?」
間に合うか?間に合わないか。どっちだ?今は、時間操れるのか………
《操れる》
《が、待て》
とま………危ねえな!本当によ。時止めるとこだったぞ。
《すまないな》
「Within target area.Gotcha.」
どこからともなく、その声は聞こえてくる。
「Hey,motherf〇cker!!Screw you!!」
「ウィリアム?ですよね?それに、その言葉遣いどうしたんですか?」
その間、1秒もなかった。
BANG
な、なんだよこれ。校舎に四角い穴が空いた。七メートル四方の立方体を切り取ったみたいだ。
「I'm micron.」
「日本語の方がよさそうですね。みなさん。ごきげんよう。」
「誰からにしますか?」
「おい、史也。逃げろって言ったのはこいつが来るからか、なんでわかった。だが、今はよ聞いてる場合じゃねえな。『宿禰』頼む。………………任せとけ。涼将。こいつが相手か。さては、留学生か。眼鏡野郎。学校の使い方教えてやるよ。もちろん拳でな!」
「Justice enforcement!!」
「ああん?なんだ?」
どうする。いつでも時は止めれる。もう止めちまうか。いや、でもよ。橘がウィリアムを倒せる可能性もある。どうする………どうする………俺………。
番外編
「11.5」バナナ・オレンジ
その昔、かの有名な仏陀は言いました。
「私は、あなたの言葉を受け取らない。受け取ってしまえば、あなたと同じ机で料理を食べていることになるからだ。」
と、やはり………歴史上の人物は、皆賢いのですね。
おっと、申し遅れました。皇橙星です!
今日も本を読んでいます。
僕は、いつも5時に起きて、朝からコーヒーを沸かしシナモンロールを食べています。朝食から、シナモンロールを食べる方はあまりいないかもしれませんが、糖分が不足しているので、朝食にシナモンロールは打ってつけなんですよ!
1番いいのは、バナナなんですけどね。まあ、僕はオレンジ派ですが………
シナモンロールの話題が出ましたので、申し上げておきましょう。
休日の学校がやっていない日には、もちろんスターバックスに行きます。
スターバックスのシナモンロールは絶品なのですよ!
いつも、財布と相談をして何個にするか決めているんです。
財布は喋りませんけどね。
今日は、土曜日です。もうそろそろ10時ですかね。
今日は、本を読んでいます。僕は、自己紹介でも言ったかもしれませんが。本が好きです。
小さい頃から、家に本棚が沢山ありました。
どうでしょう。冊数はおそらく、500冊といったところでしょうか。
あ、もちろん全部は読んでいませんよ。
年数を重ねても、とても読める量ではありません。
今日手に取ったのは、『コンビニ人間』という本ですね。
とても面白いです。
主人公はコンビニで働くパートの女性。
そんな彼女が、コンビニでとあるペットと出会うのですが、これがまた摩訶不思議で………
おっと、喋りすぎてしまいましたかね。
ネタバレは厳禁ですよね。
ミステリにおいても、鉄則です。
ところで、この作品は純文学に該当するわけなのですが………勘のいい方なら、わかったかもしれませんね。
芥川賞受賞作です。
そういった理由からも、読み進めています。
おや、読んでいるうちに、お昼になってしまいまたね。
時間がもったいないですね。
「時を戻そう!」
なーんて、言ってみたり。
まあ、戻りませんけどね。
時を戻せたらなんて、言わない方がいいのでしょうね。
まあ、僕は………
おっと、喋りすぎましたかね。
それでは!
次回までどうぞよしなに!