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If I wasn't me 俺が俺じゃなかったら  作者: VIKASH
Judicialz-ジャディシャルズ
10/24

「10」 宿禰(すくね)・少ねえ




 俺が教室に戻ると、あろうことか、眼前に目を疑う光景が飛び込んできた。おい。みんなは?みんな表情が無機質なのはなんでだ?俺は夢でも見てんのか?誰か………頼む。嘘だと言ってくれ。


 クラスメイトが全員機械人形になっていやがった。しかも、この形にあの装備。それに………この色は………


「マジか………………」


 全部オレンジだ。全部ニトロゼウスなのか。おかしいだろ。未来に橙星(あかせ)はいなかった。

 三つの記憶のうち、ニトロゼウスは、いや、皇橙星(すめらぎあかせ)は、どの記憶にいた?もう、覚えちゃいねえのかよ。たった一人の親友。二日しか会ってないのに、強烈だった。鮮明だった。今でもあの顔を思い出せる。記憶が、薄れていっても、あの橙星(あかせ)の顔だけは、決して忘れない。

 無論、忘れられるわけがなかった。忘れたとしたら、歯を磨くことを忘れるに等しいと思った。どうもおかしな表現だが、その表現が適当だとしか、考えられなかった。それは、つまり橙星がいることを当たり前だと意味することに等しい。

 おかしいよなあ。どう考えてもおかしいだろ。俺は今、過去にいる。そうだ過去にいる。過去で何かをする。未来に影響が出る。未来から過去に戻る。過去で違う行動を取る。未来が変わる。でもそれは、橙星(あかせ)をいつも巻き込んでいた。橙星(あかせ)を巻き込むことで、日常が非日常へと変わっていくような気がした。


「キサマをハイジョする。」


 そうかよ。ロボット野郎がしゃしゃるなよ。排除。排除ってよ。俺を排除したところで、何も変わらないだろ。俺が死んでも、ニュースにすらならねえよ。悲しむ人もいない。唯一悲しむと思われた友人は、今どこにいる。どこにいんだ?遠隔操作か。どこかで、こいつらを操ってんだな。俺に友人なんて、できねえんだよ。こうして、生まれ変わっても、実際は死んでんだろうけどよ。これだけは、言っておっきたかった。人間はいつか死ぬ。それが、怖いとか。それを頭の片隅に入れて生きることが重要なんじゃねえ。『そうだよなあ。人間死ぬんだから頑張らなくちゃな。』じゃなくてよ。ただ、頑張るだけじゃ意味ねえし。方向性違ってたら、元も子もねえし。俺が言いたいのはな、『忘れるな』ってことだ。人間は忘れちまう生き物だ。まあ、それは仕方ない訳だ。そういう構造してるからな。エビングハウスの忘却曲線というものがある、これがどれだけ人間の脳が都合のいい構造をしてるかわかる。一日で覚えたことが、まるで走ることを覚えたかのように加速して、日を増すごとに記憶が薄れていくんだ。

 だからよ、俺は、『忘れたくない。』一度忘れたのも()()だ。それには、おそらく時間が関係している。親類が死んだら、泣くだろ。あんなに、良い人だったのにって綺麗ごと吐くじゃねえか。なのによ。一年経ったら、なかったことみたいになってんのは、何故だ?おっかしいだろうよ。忘れんなよ俺。今度こそは………まったく、反吐がでるぜ。ったくよお。



「おい。ロボット。よく、覚えとけ。(ひとえ)に可能性ってもんがある。可能性を尺度で測ろうとしてはいけない。なぜなら人間の可能性は、無限大だ。既定の数値をも超えてくる。で、俺ら人間達はよ。賢いやつらに操られてきたんだよ。所詮、お前らも操られてんだろ?やれるもんならやってみろよ。俺を排除できるなら、跡形もなく消し炭にしてみろよ。」



 ロボット相手に煽りは効かねえ、だが、橙星(あかせ)が必ず近くにいるはずだ。


 血眼(ちまなこ)になって、教室内を見渡す。どうやら、俺の眼は節穴だったらしいな。


 教壇に、1人の男が立っているのがわかった。


 普通、教壇に立っていたら先生だと思う。なんの真似だ。しけたことしやがる。


 俺は、視覚の隅でそいつを捉える。口が動いているが、何言ってるかわからねえ。


 待てよ………。この声、聞き覚えがあるぞ。橙星(あかせ)


「アカセ………なのか?」



「―――やあ、フミヤ。僕は、君の代わりになりたい。君の存在を消しにきた。この歴史から、なかったことにする。邪魔なんだよ。排除しなければならないんだ。受け入れてくれ。」



「………はい。そうですか。」


「………え、いいんですか?」



「なわけねーだろ!そんな簡単によ。はいそうですか。って言うわけねえだろ!なんでもかんでも上手くいくと思ったら大間違いなんだよ。いいか、耳の穴かっぽじってよく聞けよ。人生は理不尽だ。思い通りになるのは自分のことぐらいなんだよ!頭いいんじゃなかったのかよ。そんなこともわからねえならよ。一年からやり直して来いよ!ちったあ頭使いやがれ!なんのためにそこに脳みそがついてんだ!考えるためだろ?だったらよ、もっとましな文言考えて出直してこいよ!あかせ!」



 時間稼ぐぐらいしか俺にはできねえよ。どうするよ。相手は、大勢いる。なんとかして逃げる算段か、倒す方法を考えねえと、今か今かとロボットが近づいてくるぜ。ロボットに好かれるとは夢にも思わなかったぜ。橙星は何してんだ?あれ?ちょっと待てよ。なんだよ。あの瞳、紫色になってやがる。俺の見間違いか?


「メツ・イッシキ。」


 目の前にあった。机が真っ二つに切れる。は!?マジかよ。

 机が、豆腐でできているかのような錯覚をする。机ってそんな柔らかいのか。―――いや、そんなわけねえ!

 驚くほどの切れ味だぜこれはよ。こんなアホみたいな化け物が、何体もいやがんのか。どうやって倒す………







タッ

   タッ

 タッ

     タッ


 廊下から、走ってくる音が聞こえる。誰だ?もしや・・・橙星の仲間か?マジかよ。俺積んだな。考えたくもなかったが、俺死んだらどうなるんだ?2回目の死ってことになるのか。天国にも地獄にもいけねえかもしれねえ、おそらく行くのは、虚無だろうな。なんちゃらノートってアニメで見たな。そうか。俺、死ぬのか。くっ………死にたくねえ!死にたくねえよ!こえーよ。こえー!!頼むよ!つーかよ、俺の代わりってなんだよ。

 いや、ちょっと待て。橙星(あかせ)は、攻撃してこねえ………てことはよ。


「おい!橙星(あかせ)!」


「なんですか?」


 なんで敬語なんだ?まさか、俺に敬意を表している。ちげえな。慇懃無礼(いんぎんぶれい)だろ。この野郎。見下してるに違いねえ。まあ、いい。そんな細かいこと気にしてる場合かよ。


「ちょっと、話そうぜ。その………………なんだ、俺にとってはこれが最後なんだしよ。最後つったら、わかるだろ?ほら、あれだよ。ここに、紙はねえからその………」


「もしかして、遺言ですか?」


 何食わぬ顔で、こっちを見る。俺は必死に作り笑いをした。眼前に死が迫っている。相手に作り笑いってこともバレてるだろうけどよ。


「えっと、そうだよ。冥土に行く前に、遺言を残しときたくてな。」


「へえ、そうですか。まあ、いいでしょう。」


「俺には、父さんがいる。父さんに俺の最後のメッセージを伝えてくれ。方法は何だっていい。お前は、普通じゃねえから。直接会うなんて馬鹿な真似はしねえと思うけどよ。父さんに感謝してもしきれねえ。俺が両親がいると言わなかったのは、なにも。母さんが亡くなってるからじゃねえ。勘違いすんなよ。母さんはどこにいるか知らねえが、引き取ったのは父さんなんだ。親権は、どちらも譲れなかったらしい。ところがどっこいだぜ、父さんは料理も家事も最初はまともにできなかったんだ。しかもよ、教師だったからな。勉強はできるが、その反面、家庭的な面で、母さんには、劣る部分があったんだ。だから、弁当を買ってきたり、ウーバー頼んだりして、作らなかったんだぜ。洗濯や皿洗いなんかも家事代行ってサービスが今じゃ世間では浸透してるからよ。それを、使ってたな。こんなこと聞かされてもよ、なんの話だと思うかもしれねえ。で、なのに俺は学校へ行かなかったんだよ。人間関係に特に悩んでた。何喋ったらいいかわからねえ。友達の作り方がわからねえ。父さんに、色んなことを教えてもらった。この十七年間。俺は、屑だったかもしれねえ。でもよ、一つわかったことがある。父さんは、1人だけなんだよ。父さんは一人だけなんだよ。お前さ、どの面下げて、俺の親によ。代わりになりたかったんで、排除しました。って、言いに行くつもりだよ。俺は、気づいたよ。さよなら。父さん。」


「情けは人の為ならず………ですか?」


「間違ってんだよ!」


 時間稼ぎはこれで充分だろ。

 俺は、ゆっくりと橙星(あかせ)に近づく。一歩一歩着実に………………俺の予想が当たってれば、間違いねえ。

 あれだな。今も禍々しく光ってる。そうなんだろ?あれで、操作してんなら。使えなくしちまえばいい。

 俺は、橙星の瞳孔が見える程、近づくと指にはめてあるそのオレンジ色の指輪にペッ、と唾を吐いた。


「馬鹿野郎。死んでたまるかよ!」


「なんのつもりですか?」


 やっぱりな。これだけ近づいたからわかったけどよ、瞳の色がちげえ。紫だ。幻術か何かで操られてるんじゃねえか?そもそも、幻術なんてあるのか?


「ニトロゼウス。やれ。」


「メツ・イッ………」


  誰だ?この黒い影はよ、目にもとまらぬ速さ、こいつは………………さっき走ってたやつだ。

 この肌の色。そして、黄色い服。紫の文字のプリント、こいつは………


「おいガラクタ。ところで、どういう状況だ。おたくは、誰だ?赤いジャケット。」


歴史也(れきふみや)だ。こうこうこうでな。」


「そうか。」


「あんたこそ誰だ?」


「俺は、NBAを志すもの。名前をタチ………………」


(たちばな)だろ?」


「そうだ。話が早いな。フミヤ。」


「あったりめえだ。お前より、長生きしてらあ。おまえさ、なんでレモンかじってんだ?」


「腹が減っては戦はできん。」


「へえ。そうかよ。」


 俺と橘は、背中を合わせ、なるべく隙を減らした。


「どけ。タチバナ。」


 でもよ雑魚ふたりじゃなんもできねえぞ。


「あんたよ。バスケしかできねえんだろ?なんで、逃げなかった?それどころか、助けに来たよな?」


「その通りだ。だがしかし、俺ができるのは、バスケだけじゃねえ。バスケはもちろん好きだ。でも、ここにいる理由は他にある。俺が………………」


()()だからだ。」


宿禰(すくね)


 すくね?なんだそれはよ。あれ、服が縮んでねえか。何が起こってる!?


「―――呼んだか?涼将(りょうすけ)。俺様の番か?久々の人間界だ。派手に暴れてやらあ!」


 なんだ?喋り方が違う?違うな。それだけじゃねえ。肌の色が、紫?それにあの筋骨隆々な肉体は、面影がねえ。それに頭部に角が生えてるぜ。鬼………なのか。


「なんだ。キサマは。」


 ロボットも動揺してるな。まあ、俺も動揺したが。




           ドゴオオオン





  ロボットの頭部が床に叩きつけられる。化け物か、こいつ。


「あ、ああああああああああああああ、キ、キサ、キサ、マを、ハイ………」


「排除される気分はどうだ?ペッ。カラクリ人形ごときが。この俺様に図がたけえ。貴様は、頭を床につけねばならんな。」


 な、なんなんだよ。こいつはよ。


 強すぎるだろ。


「ハイゴががらアきだ。タチバナ。」


「関係ねえ。俺は人ではない。そういった意味ではお前も同じか。カラクリ。」


「メツ・イッシキ。」





             ズドオオオン





 流石に、やられた………のか!?


「図が高いと言ったぞ?聞こえなかったか?」


 それから、次々に華麗な動きで、ロボットを打ち負かしてくNBA野郎こと橘涼将(たちばなりょうすけ)。見た目はちげえが、面影がねえ。強いな。強すぎる。で、この青色の肌の奴はなんだっけ。あの呪いのアニメのキャラクターに名前が似てたな。もしかしてよ、考えたくもねえが指でも食ったのか?いや、まさかな。


「こんだけかよ、少ねえ。次は、もっと用意しとけよ。朝飯前だぜ。戻るぜ。涼将(りょうすけ)


「おお。サンキュ。宿禰(すくね)。全部倒したぜ。話聞かせろよ。(すめらぎ)。」





【橘家の由来】

第43代天皇である元明天皇は、即位を祝う宴で、天武朝以後の宮廷に歴仕した忠誠を嘉して、さかずきに浮かぶ橘をみて、次のようにいいます。


「橘は果実の王なり。その枝は霜雪を恐れずして繁茂し、葉は寒暑をしのぎてしもばず。しかも光は珠玉と争い色は金銀と交わりて益々美し。ゆえに橘を氏とせよ。」


このようにして、元明天皇は三千代に橘宿禰たちばなのすくねの氏姓を与えたといわれています。宿禰すくねとは当時の氏姓制度「八色の姓」で朝臣あそんに次ぐ上から3番目の位にあたります。これが橘氏の由来です。


番外編

「10.5」走る・かじ


まあ、ここまでくれば紹介も必要ないとは思うが、名乗っておく。


俺は、たちばな涼将りょうすけで、由緒正しき橘家の子孫だ。


子どもの頃から、何か特別優れていた訳ではなかった。


所謂いわゆる、天賦の才というものは何一つなかったと言ってもいい。だが、走るのは好きだった。


小学生の時に部活動の選択があった。その時、先生に聞いたわけよ。


「先生、たくさん走るスポーツって何ですか?」


俺は、てっきり陸上部を勧められると思った。


だが、その先生の答えは予想を反するもので、俺の度肝を抜いた。


「りょうすけ君。君はバスケットボールを知っているかい?」


いきなり、何だと思った。知ってるに決まっていたが、俺は陸上部に入りたかったもんで、わざと知らないと答えた。


「そうなんだね。実は、日本人でNBAに行った人がいてね。先生はその人に憧れていたんだよ。」


へえ、そうかよ。だから何だと思った。


「やってみないかい?バスケ。」


先生は、アニメやNBAの影響でバスケをしていたらしく上手かった。


ゴールに玉を投げて入れるだけのスポーツだと、当時はそう思っていた。


だが、実際は違った。初めて三週間ほど経ったころ、俺の投げたボールが吸い込まれていくように、リングに入った。


その時の感覚は今でも忘れられない。


バスケのゴールにはネットがついているんだが、リングの丸い部分に当たらずにボールが入ると、スカッと綺麗な音がする。


その音が鳴った時、俺はバスケに惚れたんだろう。


それは、俺が恋に落ちた音だったのかもしれない。


故に、俺はNBAを志している。


先生と日本の意志を受け継ぐため………




話は現在に戻るが、俺には毎日行う。朝の日課ってやつがあった。


試合の次の日は休みにしてる。


休むことも、練習だからだ。


で、俺の朝の日課は、学校に早く行き、朝方から校舎の周りをランニングをすること。


距離でいうと、10キロ。


朝方からの運動はあまりよろしくない。


だが、俺はそれを承知で行っている。


ランナーズハイを味わうためにな。


ランナーズハイとは、走った後に短時間訪れる強い幸福感や陶酔状態のことだ。


喜び、深い満足感、高揚感、ウェルビーイングといったポジティブな感情を経験し、穏やかな気持ちをもたらすそうだ。


俺は、ランナーズハイって言葉を意味も知らずに使っていた。


だがしかし、知ったかぶりってのはよろしくないな。


短期的には、得をするが、後で損をする。


俺は、何度か損をしている。


で、そういうやつのことを、短絡的というらしい。


イライラするよな。だが、走っていれば怒りなんてものはどうでもよくなる。


怒りってのは過去に執着しているに過ぎない。


過去にばかり、目を向けていれば、本当に大事なものを未来で見逃してしまう。


だから、俺は走ってる。未来をこの手で掴むために………………



そんな時だった。


校舎の方から、変な音がしたんだ。


俺は、どうもおかしいと思った。


でもって、今に至る。


忘れてた。走った後は、いつもレモンを齧ってる。塩分が不足するからな。


先生、ありがとう。







次回までどうぞよしなに!

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