「1」 静と動・生と死
――どうか、最後までお付き合いください。
地球が誕生した、46億年から現在までを1日に例えると・・・
生命の誕生は夜明け前の4時10分
光合成物が発生したのは9時55分
脊椎動物の祖先が生まれたのは21時11分
哺乳類の祖先が現れたのは22時48分
人類の登場は日付が変わろうかという23時58分
地球誕生からの長い時間に比べれば
人類の繁栄などたったの数分間に満たない・・・
その、人類の歴史に名を刻む者、偉人たちは、どんな人生を歩んだのか。
その、歴史を、史実を、私達は学ぶ。
その際、興味を持つ者と、無関心な者がいる。
そして、今、彼の人生が、歴史が、始まろうとしていた・・・
俺は歴史也、低学歴の落ちこぼれな、赤点ばかりで、運動神経ゼロの、所謂ダメ高校生。友達もいない、別に顔だってイケメンじゃないから、彼女もいない。
俺は、勉強ができない。父さんは、教師だが、話が難しくて理解できない。
今日は、俺の高校。源高校の卒業式だ。虚しいな。卒業式って、楽しいものだとばかりだと思っていた。こんなにもつまんねえなんて。もし、過去に戻れんならさやり直してえよな。成績も学年で最下位。ぼっち。非リア。
アニメキャラみたいなチートになって、やり直してえよ。
気がつくと、俺は橋の上にたっていた。そこから、川が見えた。吸い込まれていくように、俺は歩を進めた。
「俺なんて、生きてる価値ねえよ。このままつまんねえ人生送るぐらいならよ。終わらせてやる……」
「ニャー」
猫の声が聞こえる。おかしいな。まだ、飛び込んでねえぞ。
ふと後ろを見た。猫がいたんだ。猫には、ネームプレートがついてた。『サイショウ』?変わった名前だな。確かに、小さいけどよ。あんなところにいたら危ないんじゃねえのか?猫がこっちを見た。その可愛らしい瞳で、また、にゃーと鳴く。事態は起こった。起こってしまった。起きなきゃよかったのに。
その猫の死角から、車が走ってきていた。
「止まれ! 止まれ! おい! 聞こえねえのか! 止まりやがれ! 嘘だろ。……助けねえと」
俺は、全力で走ったが、橋の端から、橋の中央までは、距離があった。猫を抱えて、走り抜けるには間に合いそうになかった。
――どうせ死ぬつもりだったんだ。猫だけでも、助けてやらねえと。
俺は、そのサイショウって名前の猫を突き飛ばした。俺は、床に這いつくばるような姿勢で、勢いよく飛び込んだんで、車から、見えなかったらしい。このまま死ぬんだ。と、思った。
走馬灯が、駆け巡る。父さん。馬鹿な俺に、歴史教えてくれたよな。さっぱりわかんなかったぜ。でも、ありがとよ。父さんは俺の誇りだ。父さんはシングルファザーだ。父さんとの思い出しか、走馬灯には映らなかった。
あーあ、しまったな。遺書すら書いてねえよ。悪ぃな。父さん。歴家の恥さらしだぜ。俺は。
死がすぐそこまで、迫ると恐怖でおかしくなりそうだった。後悔しかなかった。
あの時、ああすればよかった。こうすればよかった。と、できもしないのに、やっておけばよかった。と、後悔した。もっと、勉強すれば………もっと、父さんに感謝すれば………俺は、俺は、生きてるだけで、幸せだったのかよ。泣きたいのに、涙すら出ねえよ。
視界が真っ暗になった。
「――あ、積んだ。俺の人生終わったんだ」
一瞬のうちに、場面が移りかわり、俺は家に居た。そこには、俺の父さんが目の前にいた。ソファーに座りながら、新聞を読んでいる。黒い眼鏡。ボサボサの髪。ゴツゴツとした手。父さんなのか………
俺は、勢いよく飛び込んでいき、強く抱きしめた。
「ごめんな! 父さん。ありがとう。う、うう……」
「史也急にどうした? なぜ泣いているんだ? 学校は行ってるか?」
「え? 学校…?」
「そうだ。昨日始業式だったろう?」
どういうことだよ!
俺は、卒業式を終えて……あの橋に……俺、死んだんじゃないのか?
繰り返してる?
そんなまさか、俺は、アニメの世界にでも生きてるのか。ありえないだろ。俺は、あの世で、夢でも見てんだよ。間違いねえ。
「父さん俺のほっぺ叩いてくれ」
「大丈夫か? 気でも狂ったのか?息子を叩くわけなだろう」
って言いながら、俺の頭を父さんは叩いた。