入団試験
「やります!」
男はニッと笑い、
「では、私についてきてください。」
と言って、男はビルの中へ入って行く。ふと後ろを見ると、黒いスーツに黒いサングラスをかけた男達が数人がかりでレオナルドを運んでいた。
自動ドアを抜けて中へ入ると、冷暖房空調設備機械の冷房が効いているのか、とても涼しい。
男が通る道は黒いスーツを着た厳つい男達が頭を下げて並んでいる。男は昇降機エレベーターのボタンを押し、くるっと身体をこちらに向けた。
「貴方のお名前をお聞きしても宜よろしいでしょうか?」
「・・・レオンです。一応。」
「そうですか。レオンさんですね?私はスフィーダファミリー幹部の一人、マッテオと云います。」
幹部?ギャングの幹部なのにこんな物腰柔らかくて敬語なのか?まあ、そういうのは人それぞれだしな。
チーンという音がし、昇降機が到着した。マッテオは振り向き、昇降機に乗り込む。
「ところでレオンさん、貴方は『前科』をお持ちですね?」
「前科?いいえ、無いですけど。」
レオナルドにもアイツにも訊かれたな。俺ってそんな犯罪者に見えるのか?
「いいえ、持っている筈です。どうやら勘違いをされているようですね。私が言っている『前科』は犯罪の事では御座いませんよ?レオナルドと戦った時に使用していたでしょう?」
レオナルドと戦った時・・・?もしかして・・・、
「もしかして、鎌の事ですか?」
「そうです。貴方の戦い、一部始終を見せてもらいましたから、間違いありません。」
昇降機から降り、通路を抜けて、広い部屋に出た。
「貴方は前科について何処まで知っていますか?」
前科か・・・。さっき初めて聞いたからな・・・。
「殆ど知りません。」
「そうですか。では、『前科』について軽く説明をさせて頂きます。前科者とは、稀に現れるこの世の理を外れた異能力を持った人間の事です。その異能力は多種多様で、レオナルドは火炎の拳の異能力者です。前科について、色々な考察がされていますが、とくにこれと云った成果は無く、前世で犯した『業』なんて言われています。」
業・・・、ね・・・。リヒトも異能力なのか?それとも、リヒトがくれた力は『前科』とは違う物なのか?・・・兎に角、今はリヒトと喋れない。できるだけ多くの情報を聞き出そう。
「それでは、異能力を見せて頂けませんか?」
「はい?それが試験ですか?」
「はい。実を言うと、試験内容は現団員と戦う事でして・・・貴方はレオナルドを倒したので合格なんです。後は異能力さえ見せて頂ければ入団できます。」
・・・マジか。まぁ、アイツ(レオナルド)を倒すの、結構大変だったからな。
「じゃあ、鎌を出せば良いんですね?」
「はい。」
俺は手から赭い炎を出し、鎌の形に変え、顕現させた。
「おお!では、その鎌の能力を教えてくれませんか?個人的にはあの丈夫なレオナルドが外傷も殆ど無いのに失神していたのが不思議だったんです。」
・・・こんなに押しが強い人だったとは・・・。しかもお喋りで、早口だ。この人こそ、早口になる病気なんじゃないのか?リヒト。それはさておき、リヒトの力は多分前科じゃ無い。あまり詳しく教える訳にはいかないな・・・。
「実は、斬った相手の精神に影響を与えるという事しか分かっていなくて・・・。」
「フムゥ・・・。そうですか。精神攻撃とは珍しい異能力ですね。」
マッテオは顎に拳眼を当て、口を尖とがらせた。
「そうなんですか?」
「はい。試験管として様々な前科者を見てきましたが、精神攻撃の異能力者は初めてです。」
「それで、合格なんですか?」
「ええ。入団おめでとうございます。証としてスフィーダの記章を差し上げましょう。付けていて下さい。それがあれば大抵の厄介事は処理出来ますから。」
と言い、マッテオは俺に記章を手渡す。
「では、詳しい話はまた明日します。この街には宿がありますので、今日はそこでお休みになられると良いでしょう。」
「はい。ありがとうございます・・・。」
俺はビルを出て、ホテルに向かおうとするが、見覚えのある顔が一人、俺の前に現れた。
「オイお前!さっきはよくもやってくれたな!覚悟しろ!」
朱色の髪・・・、レオナルドだ。胸には大袈裟に包帯を巻いている。
俺が煽り気味に笑顔で手を振ると、レオナルドは、
「てめぇ!」
と、拳を振り上げながら突進して来た。
「食らいやがれ!って、スフィーダの記章!?」
レオナルドは俺の胸についている記章をまじまじと見て言った。
「ウソだろ・・・。こんな奴がマッテオさんに認められるなんて・・・」
レオナルドは俯き、青い顔をしてビルの方へトボトボと帰っていった。
「リヒト!」
俺はリヒトを呼び、歩き出す。
「おっ!話終わった?」
「リヒト・・・、お前から借りてる力って、前科なのか?」
リヒトはこちらをじっと見つめた後、言った。
「違うよ。彼らが言ってた前科と僕じゃ根本的に違う。僕はそんな業なんて低俗な物じゃあないよ。」
「じゃあ、お前はなんなんだ?」
リヒトは少し寂しそうな顔をして、
「分からない。」
と言った。
「じゃあなんなんだよ?」
「前にも言ったでしょ?死神だって。」
「でも・・・。」
「レオン」
と言い、リヒトは俺の肩に手を置く。
「別に知らなくても良いことは沢山ある。お前は面白いし、僕は役に立っているだろ?それで良いじゃないか。」
そう言い残して、リヒトはフードを被って消えてしまった。
俺は、今アイツの力無しでは生きられないんだ。アイツが「訊くな」と言ったら言う通りにするしかない。
俺はぎゅっと拳を握り込んで、ホテルへ足を進めた。