契約
「この糞ガキ!」
隙だらけの俺にナイフを持った男が突進してくる。
ドスッ
刺された腹に血が滲み出ていく。
力が入らない。敵があと二人残っているのに・・・。視界がぼやける・・・。リヒト・・・?そこにいるのか・・・?
「おつかれさま~」
目を覚ますと、倒れている俺をリヒトが見下ろしていた。俺はガバッと飛び起き、状況を確認する。周りには三人の男達の死体。刺された腹の傷は治っている。リヒトがやってくれたのだろう。
「一人しか斃せなかったな・・・。」
「いや~?初めてにしてはよくやった方じゃない?」
労わってくれているのだろうか。まだ出会って数分だがコイツにしては珍しい気がする。
「それで、これからどうするの?」
どうするか、か・・・。こうなってしまった以上、仲介人の仕事はもう続けられない。だったら・・・
「組織に入ろう。」
この辺りを支配しているスクーザとヴェスパに目をつけられたんだ。大きい組織に守ってもらうしかない。
「へえ~、よく考えてるんだね。けど、組織に入る前にやってもらいたい事があるんだ」
やってもらいたい事?
「それってなんだ?」
俺が尋ねるとリヒトはニヤッとして、答えた。
「契約」
「契約って何するんだ?」
訊きながら俺は床に胡坐をかいた。
「今、僕と君は仮契約状態なんだ。本契約をすると、君
は僕の力をもっと借りられるようになる。」
ふむ・・・。正直言ってコイツの能力は大分凄い。やる価値はあるが・・・。
「なにか条件があるのか?」
「特になにも?」
リヒトはニコニコしながら答える。
怪しいな・・・。
「やった方が強くなれるんだよな?」
「もちろん」
「じゃあ、契約する!」
リヒトはニヤッと笑い、帽巾を被った。
「死神 リヒト、汝との契約を求める。 契約者 レオン」
カッ
辺りが紫色の光に包まれる。
「うっ!」
眩しい。眼が眩んでリヒトの姿が見えない。
徐々に光が収まっていく。
「はい、契約完了~」
「えっ、これだけなのか?」
「うん、思ってたのと違った?こういうのって、台詞は仰々しいけど、契約自体は結構ユルいんだよね~」
と、リヒトは面白おかしくはにかむ。
「お、おう、そうなのか。」
「では、契約記念にプレゼントを差し上げましょう。この中から選んでね!」
リヒトはまた悪趣味なペンを取り出し、空中に文字を書いていった。
・死神の能力トリセツ
・歩行術 ナンバ
・鎌術 魂喰い
・〇〇〇〇(自主規制)
「このトリセツってのはなんだ?」
「これは手に入れた能力の取扱説明書だよ~。死神の鎌の使い
方も載ってるから、オススメだよ〜。魂狩りも覚えら
れるし。」
「能力を一気に二つも手に入れられるって事か?」
「トリセツだと習得、修行段階だから、熟練度を上げないと、
完全にはならないよ。あと、トリセツは経験を積めば新しい
技を習得できるよ〜」
「じゃあこのナンバってのは?」
「足音を立てずに歩けるようになるよ~」
「次は・・・魂喰い?お前がやってた魂狩りとは違うのか?」
「うん。文字通り魂自体を喰う技だから、物理攻撃にも
なるし、当たれば相手に精神異常を齎す事も出来る
んだ。」
「そりゃおっかないな。」
「で、最後は・・・またお前は・・・どうしてこんな事を恥
ずかしげもなく書けるんだよ!」
「だから僕なりの君への気遣いなんだって〜。君の為を
思って言ってるんだよ?」
「うるせぇ!こういうのは俺より年下のお前が言うもん
じゃねぇ!」
「僕、君より年上なんだけどな〜」
「見た目が14くらいだろ、お前は!お前も未経験のくせ
に揶揄うんじゃねぇよ!」
「え?」
リヒトはキョトンとした顔で言った。
「え?」
思わず訊き返す。
「お前・・・未経験じゃないの?」
「うん。」
・・・・・・
「出ろ、死神の鎌!」
「ちょっと待って、何するつもりだよ!?」
たじろぐリヒトにジリジリと近づく。
「お前・・・死ね!」
鎌をリヒトに振り下ろした瞬間、
「ちょっと待って待って!多分君が想像してる事と違う
よ!?」
ピタッと鎌を止める。
「じゃあ、なんなんだよ。」
「え・・・キスの事でしょ?ほら、キスなんて誰でもするし、
どっかの国では挨拶みたいなもんでしょ!?」
リヒトは必死に弁明するが、俺には逆効果だった。
「俺は・・・、それもした事ねえんだよ!」
ドスッ
鎌がリヒトの胴体に突き刺さり、仰向けに倒れる。
ハッ やっちまった・・・ついカッとなって・・・生きてるよな?・・・死神なんだし。
だが、そんな心配は無用だっだ。
リヒトに突き刺さった鎌は蒼い炎に変わり、リヒトに吸収されていった。
「まったく、アブナイ奴だね、君って。まあ、僕は殺しても死
なないけど。」
リヒトはパッと起き上がり、服についた埃を払いながら言った。
「結局どれを選ぶの?」
迷うが、今は組織に入るのが優先だ。この中からだと・・・
「トリセツで」
ーーーーー
「それで、何処に行くんだっけ?」
「強い組織に守ってもらうって言ったろ?」
この辺りで一番大規模な組織は・・・、
「スフィーダファミリーに行くぞ」