おちゃらけ死神
ジャキッ
銃口が俺に向かい、「殺れ」ブルーノが呟くと、その先から銃弾が発射され、俺の顔の横をすり抜ける。
「うわ〜〜〜!」
背を向け一気に駆け出す。ブルーノの部下が俺を追ってくる。クソクソクソ、どうしてこうなった!
今回の報酬でダンボール生活から抜け出せると思ったのに!全てあのロッゾの所為だ!
俺に擦りつけやがって・・・あんな粗末な作戦、通用するわけねぇだろ!
あいつ・・・、絶対に許さねぇ!けど、今は生き残る事が先決だ!幸いな事にブルーノは追ってきてない!あいつが1番強いからな!
バンッ パンッ
自分の横を銃弾がすり抜けていく。走りながらでは銃が当たりにくいのだろうか。これならなんとか逃げ切れーーー
ドチュッ
なんとも不快な音が響く。痛みを堪え、近くにあった建物の中へ逃げ込む。錆鉄のドアを閉じ、ボロボロのソファや本棚で扉を抑える。
痛い痛い痛い!
チクショウ、脚を撃たれて、これじゃもう逃げ切れない!
ドンドンドン!
ギャング達が扉を叩く音が聞こえる。
まだ18歳で成人もしてないのに・・・
まだ・・・酒も飲めてない・・・
まだ・・・・・・・・まだ・・・・・・・・
死にたく・・・ない・・・
ドカッ
扉が破られた音が響いた・・・
瞬間、辺りには静寂が広がる。
扉が叩かれる音も聞こえない。血の滴る感覚もない。
「どう・・・なってんだ?」
いつの間にか痛みも感じない。
「生きたい?」
突然頭の中に声が聞こえた。生きたいかって?
「そりゃ生きたいさ!こんなところで・・・死にたくな
い!」
「何でも言うこと聞く?」
また頭の中で声がする。どういう事だ・・・?なんか嫌な予感がする・・・
でも今はそんな事考えてる暇はない!・・・生き残れるなら・・・
「ああ!何をしてでも生きたい!」
ピカッ
眼前が眩いばかりの光で包まれる。
ユーザーを仮登録中・・・
微かに聴こえる女性寄りの機械音声。
やがて光は視界の隅から影に蝕まれ、辺りは真っ暗になる。その中から出て来たのは・・・
子供?
少年と云っても通じそうな男の子が出て来た。灰色の短髪に、茶色い猫目。黒いパーカーと長ズボン。それにフードを被っている。
「君は・・・誰だ?」
俺が問うと、少年は口角を上げ、少しニヤっとすると、横向きの円錐状の立体物から垂れている紐を引っ張り、
パンッ
と乾いた音がした。・・・クラッカー?
「おめでとうございます!あなたは僕との最初の契約者
です!」
少年はニコニコとしながらクラッカーの塵紙のシャワーを俺に浴びせる。
・・・なんだかよく分からないが俺怪我人だぞ?脚の怪我に視線を寄越すと、少年はクスクスと笑った。
「怪我なんて無いでしょ?」
え?俺は慌てて脚を見る。・・・銃創が無くなっている?
「怪我なんてすぐ治るよ。」
フツウは銃創なんてすぐには治らない。どうして・・・?
「僕が力を貸してるから。」
そういえば・・・さっきから喋ってないのに・・・心が読まれてる?・・・
戸惑いながらも固唾を飲み込む。
「あんた・・・何なんだ?」
少年はまた嗤い、
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったね。」
フードを取り、胡散臭そうな笑顔で云う。
「僕は死神だよ。名前はリヒト。」
死・・・神・・・?何云ってんだコイツ・・・厨二病か?
心を読み取られたのか何処となく少年の笑顔がこわばっている気がする。
「初対面なのに失礼だね。君は?」
「・・・俺?」
「そうだよ、君の名前は?」
名前・・・?俺の名前・・・なんだっけ。ずっと・・・仲介人とか・・・乞食とか呼ばれてたからな・・・あるような・・・無い気もする・・・
「もしかして・・・名前がないの?」
少年の問いに俺は静かに頷く。
「じゃあ僕が付けてあげよう。良いかい?」
承諾したら、こんな得体の知れない奴が俺の名付け親になるって事か?ヤだなぁ〜・・・
「・・・黙っているという事はOKだよね?」
おい待て待て待て。いつの間にかコイツのペースに呑まれてしまっている。
「君の名前は・・・うん、レオンか、ヘルメスか、タナ
トスか、ヴァンかクレイか・・・。」
待て待て、候補が多い・・・
「ああ、ごめんね?君は何が良い?もちろん、僕がさっ
き言った中からね?」
・・・さっき出た候補の中でだと・・・
「レオンで」
これが1番マシだろう。いや、マシっていうかカッコいい。英雄みたいな人に付いてそう。
「え〜でもな〜レオンって大体善人系に付いてる名前じ
ゃ〜ん。君には相応しくないと思うな〜」
ブチン
何かが切れた音がした。
「お前ぇ!なら最初からそんな名前提示するんじゃねぇ
よ!」
怒鳴り散らすが、アイツははまだ飄々とした笑顔のままだ。
「まぁまぁ、そう怒らないでよ。せっかくプレゼントも
用意してあるんだからさ。」
ピタリと手を止める。プレゼント?
「そう、プレゼント。君に死神の能力を貸してあげるの
さ。」
能力?そんなのもうあるじゃないか。
リヒトは驚いた顔で「え?もう持ってんの?」と訊く。
そう、例えばーーー
『ダンボールハウス組み立て』とか、『ダンボール拾い』とか、『スリ』とか、『詐欺』とか・・・まだまだいっぱいあるぞ!
ん?なんでそんな呆れた顔で溜息を吐いているんだ?
「はぁ・・・そういう下らない事じゃなく て・・・」
下らないだと?失礼な!じゃあお前は何をくれるって言うんだ!
少しニヤッとして、リヒトは鎌のデザインが施された悪趣味なペンを取り出し、何も無い空間に何か書き出した。すると、空中に文字が浮かび上がった。
「・・・この中から選んで・・・。」
なになに?えーと・・・
・死神の鎌
・陰影外套
・僕!!!←超オススメ!
・瞬間移動(非売品)
・○○○○○○(自主規制)
「オイ・・・なんだよコレ」
「何か問題でも?」
フーッ・・・一つずつ考えていこう。
「まず死神の鎌ってのは?」
「僕が使う鎌の事さ。まぁ、君が使ってもほぼただの刃
物だね〜。」
「じゃあ、この陰影外套ってのは?」
「一定時間姿を隠せる服だよ。隠れ蓑みたいな物さ。ホ
ラ、御伽話とかで出て来るだろ?」
「次は・・・、お前?説明なしでいいや。パスで。」
「待って待って!スゴいんだよ!?自動戦闘機能付きだ
よ!?」
「ゼッタイ嫌だな。次〜」
「あ〜もう!いいよ!」
「次は・・・瞬間移動か。何で非売品なんだよ。俺、コ
レがいいんだが。」
「! そ・・・、それはやめておいた方がいいと思う
な〜」
リヒトが焦った顔で俺を説得しようとしている。
「ほ、ホントにやめておいた方が良いと思うよ!」
なんでこんなに止めるんだ?
「・・・君が本当にその能力がいいって言うんなら止め
はしない。たとえ君が天に召されたとしても!」
天に召される!?
「どう言う事だよ!」
「どうも何も・・・瞬間移動はまだ不完全だから使うと
当事者が亜空間に閉じ込められて移動先に全く同じ体
と記憶を持ったクローンを作り上げるだけで、使った
ら即ゲームオーバー(死亡)だよ?」
は!?そんなヤバい能力だったのか・・・
「って!だったら最初から紹介すんなよ!」
「ごめんごめ〜ん」
コイツ・・・ヘラヘラしてるし絶対反省してないな・・・
まあいい・・・問題なのは最後だ・・・
「なんだよ○○○○○○(自主規制)って!死神関係ねぇだ
ろ!よくこんな事恥ずかしげも無く書けるな!」
「え〜?僕は君の為を思って書いたんだけどな〜だって
君、もう10年以上あんな生活してるんでしょ?だから
さぁ、ホラ・・・色々と・・・ね?いやぁ〜ホント僕
って気が利くなぁ〜」
「ふざけんな!それに・・・俺にそういうのはまだ早い
と思うし・・・」
ああ、こんな事自分でゴニョゴニョ言ってて恥ずかしくなる・・・
「あれ〜!?今『まだ』って言ったぁ〜?て事は予定は
あるって事だよね!まぁ君まだ18歳だし・・・って、
痛い痛い痛い!ごめんって!」
結構ムカついたから腕ひしぎを掛けてやったぜ・・・
「それで・・・結局どうするの?」
迷うが・・・やはり1番使いやすそうなのは・・・これだな!
「じゃあ、そろそろこの時間停止みたいの解いてくれ
よ。」
「OK、最初の一人は僕がお手本として倒すからね〜」
リヒトが親指と中指を重ねる。
パチン