仲介人の仕事
痛い痛い痛い。
チクショウ、なんだってこんな事にーーー
あいつ、最初からーーー
ピロン
なんだ?『死神アプリ』のインストール完了?
・・・どうせ死ぬんだし、起動してみるか。
ポチッ
2時間前ーーー
「ふわあぁぁ〜〜〜」
眠りから醒めて、まずは欠伸。それから俺の一日は始まる。コーヒーを淹れて、トースターからチンッという軽やかな音が聴こえ、トーストを取り出し、その上にはベーコンと目玉焼きをのせて食べるーーーーー
なんて優雅な朝食ではない。そもそも朝食なんてない。パンの耳があれば良い方だ。優雅な朝なんて夢のまた夢。
なんたって俺の住処は裏路地。楽しそうな人の声なんか少しも聴こえず、ネズミの鳴き声が聴こえる。人通りでなくネズミ通りって感じだ。
衣食住は一応ある。食べるものは大抵パンの耳。家はダンボールハウス。あまり人間的な生活とは言えないだろう。そんな俺でも、衣服はなかなか立派なものがある。この裏路地には毎日のようにギャングの死体が捨てられてくる。その外套やスーツ、シャツを剥ぎ取って、自分の衣服としているわけだ。
・・・血だらけだからオススメはしない。
ここはとあるギャングが支配している街だ。この街には無数のギャングが存在していて、俺のような腕っぷしもツテもコネも何も無いような奴は、震えながら生きていくしかない。そんな街の中で、俺の職業はギャング間の取引の仲介人。ギャングだった父さんに憧れて就いた職だ。
スーツに着替え、外套を羽織り、路地から出る。向かうはギャングの麻薬取引場所。今日は仲介人の仕事だ。依頼元はスクーザファミリー。信用出来ない奴が多いが、依頼を受けた以上、仕事は仕事。生活の為にこなさなくては。それにしても、昨晩は寒かったな。布団が風で飛ばされてしまって・・・
なんて考えているうちに取引場所の廃墟裏のゴミ捨て場に着いた。居るのはスクーザファミリーのみ。もう一つの組織は遅れてくるのだろうか。と考え事をしていると 突然スクーザファミリーの赤髪の若い男がズカズカと近寄ってきて、俺の胸ぐらのネクタイを掴んだ。
「オイ仲介人。てめぇ、今回の仕事の内容分か
ってんだろうなぁ?」
・・・コイツ誰だっけ。
誰だか知らないが随分と高圧的な態度だ。いくらなんでもいきなり胸ぐらを掴むのはないんじゃあないか?
ハッ・・・!真逆、俺がイケメンすぎて嫉妬しちまったのか・・・?まあそれはいいとして今回の依頼内容?勿論覚えているとも。先方のヴェスパファミリーに麻薬の入ったアタッシュケースを渡す取引だよな?
「オイ聞いてんのか!」
おっと怒鳴られてしまった。とりあえず返しておこう。
「ええ、もちろん覚えていますよ麻薬取引でしたよね。」
「・・・」
なんで睨んでくるの?コイツ怖い。
「チッ」
舌打ちをしてから、赤髪の男はようやく手を離した。まったく、気性の荒い奴だなぁ。
あ、やっと思い出した。確かコイツの名前はロッゾ。スクーザファミリーの最年少幹部だっけ。俺と同じハタチくらいに見える。
ザッ ザッ ザッ
誰か複数人がこちらに歩いてくる。ヴェスパファミリーだ。来たのは数人の黒服の男と身長2米はあるであろう巨躯な青髪の男だった。奴がこのファミリーのリーダーだろう。。だと思う。たぶん。だって1人だけ髪染めてんだもん。おっかない顔してるし。
ギロリ
「ヒィッ!」
やばい、情けない声出た。顔をじろじろと見ていた所為か、突然眼をこちらに向け、睨まれてしまった。俺の上げた情けない声の所為か、辺りに暫くの沈黙が広がる。
「それで、今日は麻薬取引だったよなぁ?ヴェスパファミリー
さんよぉ」
先に話を切り出したのはロッゾだった。
「俺はスクーザファミリーのロッゾだ。そちら
は?」
「・・・ヴェスパファミリーのブルーノだ。」
ほ〜、あのデカいのブルーノっていうのか〜。
「こちらはボスである俺が出向いたのに部下を遣すとは舐めら
れたものだな、スクーザのロッゾとやら。」
おっと、何やら喧嘩が始まったぞ?てかあいつボスなの?
「そんなもんは知らねぇよ。文句があるならうちのボスに言っ
てくれ。」
おいおいロッゾ、随分と強気だな?今のうちに仲裁した方が良さそうだ。
「御二方、落ち着いて下さい。今度はスクーザファミリーとヴ
ェスパファミリーの麻薬取引という事で宜しいですね? 」
「・・・」
オイオイ黙るなよ。俺がなんか滑ったみたいじゃん・・・。考えていると、青髪の男が頷く。おお!どうもありがとう!えーと...誰だっけ?ブルーノさん!
「ではスクーザファミリーからは物品を、ヴェ
スパファミリーからは444万ドルをお願いい
たします」
ん?444万ドル?なんか不吉だな。そんな事を考えつつもブルーノから金が入ったアタッシュケースを、ロッゾからは麻薬の入ったアタッシュケースを受け取る。
さて、ここからの物品確認が仲介人の仕事だ。麻薬の方を調べてみると、上の方はしっかりと麻薬。そこから下は・・・片栗粉じゃん。
なんでこれが通用すると思ったんだ? もしかして馬鹿なのか?・・・いや・・・もしかしなくても馬鹿だな。
俺はチラリとロッゾの方へ眼を遣る。ん?あいつ・・・目配せしてるぞ?はぁ・・・誤魔化せって事か?しょうがない・・・
金の入ったケースを開ける。ウッヒョオォーすげー!現ナマだぜ現ナマ!思わず涎が垂れそうになるが、心を無にしてケースを閉じ、
「物品確認完了しました。」と呟く。
ケースを交換して渡し、取引が完了すると思った矢先、ブルーノはアタッシュケースを開けている。ん?俺が確認したよね?そんなに信用されてない?
「オイ!この麻薬、大半がパチモンだ!」
あ、ロッゾの奴終わった。あれ?でもこれ俺もヤバくない?でも大丈夫!俺にはロッゾ輩先がついている!って、いねえぇぇ〜〜!
クソッ、ハメられた!バレた上に、ロッゾ達がいない以上、ヴェスパファミリーの怒りの矛先(銃口)は当然俺に向くだろう。案の定、ブルーノが俺を睨みつける。
「お前・・・ロッゾとグルだったのか・・・道理で怪しいと思
ってたんだ・・・スクーザの用意した仲介人だったから
な・・・」
「いや〜、あはは。まさか僕も物品が偽物だと
は思わなくてですね・・・」
ジャキッ
銃口が俺に向かい、「殺れ」とブルーノが呟く。
ブルーノの手下が引金に力を込める。
死を悟った俺であった。