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美根我の幸せな時間  作者: しろ組
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八、戻らない“団欒”の時間

八、戻らない“団欒”の時間


 美根我達は、三日目に、市街地へ入る事が出来た。ようやく、梅雨に戻った事で、火の勢いが、鎮静化したからである。

「まだ、熱気が、残っていますねぇ」と、美根我は、口にした。まだ、ほとぼり冷めやらぬ状態だからだ。

「ほとんど焼けてて、遠くまで見えるぜ」と、河崎が、周囲を見回しながら、見解を述べた。

「そうですね。ほとんどの家屋が、焼失して居ますね」と、檜本も、同調した。

「美根我さん、この様子だと、家の場所は、判らないんじゃないのか?」と、河崎が、冴えない表情で、尋ねた。

「そうですね。でも、少し先に、“物産館”が、骨組みだけ残って居ますので、何とか、自宅まで、辿り着けるかも知れませんね」と、美根我は、回答した。“物産館”の大通りの左手の路地へ入って、しばらく進んだ場所だと記憶しているからだ。

「しかし、瓦礫(がれき)だらけですから、道は、見当たりませんよ」と、檜本が、ぼやいた。

「まあ、土地勘で、何とかなると思いますよ」と、美根我は、得意満面に、言った。道は無くとも、“物産館”の見える大きさから自宅の位置を割り出そうと考えたからだ。その直後、先立って、道無き道を進み始めた。

 少し後れて、河崎と檜本も、続いた。

「それにしても、白い棒みたいな物が、立って居るなあ」と、河崎が、口にした。

「そうですね。建材にしては、妙ですね」と、美根我も、同調した。不規則に、立って居るのが、気になっては居たからだ。

「ふ、二人共、人の骨ですよ!」と、檜本が、驚きの声を発した。

「何だって!」と、河崎も、驚嘆した。そして、「じゃあ、逃げる間も無く…」と、言葉を詰まらせた。

「あの炎に巻き込まれてでしょうかねぇ?」と、美根我も、身震いをした。逃げ遅れて、このような状態になったのだと推察したからだ。

「美根我さん、早いとこ、確認を済ませて、学校へ戻りましょう」と、河崎が、進言した。

「そうですね。ここは、別世界ですよ。この世のものじゃないですよ!」と、檜本も、口添えした。

「ええ」と、美根我も、同意した。自宅の様子を確認したら、早々に戻るつもりだからだ。しばらくして、“物産館”が、丁度の大きさに見える位置に着いた。そして、周囲を見回した。程無くして、原型を留めた子供の白骨死体を視認した。その瞬間、「もしや!」と、駆け寄った。間も無く、子供の白骨死体の前に立った。

「この骸骨だけは、綺麗に残って居ますねぇ」と、河崎が、感心した。

「ですね」と、檜本も、相槌を打った。

「そ、そんな筈は無い…」と、美根我は、両膝を着いた。自宅の玄関先だとは、信じたく無かったからだ。しかし、骸骨の奥の台所と思われる場所に、見覚えの有る割れた土鍋が、現実を突き付けた。

「美根我さん…」と、河崎が、しんみりとなった。

「河崎さん、今は…」と、檜本が、制止した。

「あ…あ…」と、美根我は、目を白黒させた。こんな形で、再会するとは、思ってなかったからだ。しばらくして、我に返り、“ぱんきぃ”の頭を、骸骨の前へ置いた。そして、立ち上がった。

「美根我さん、気を確かに…」と、河崎が、声を掛けた。

「ありがとうございます。少し落ち着きましたので…」と、美根我は、落ち着き払って、弱々しく返答した。残念な結果だが、不思議と清々しい気分だからだ。そして、「妻も、捜したいんですが…」と、申し出た。

「構いませんよ」と、河崎が、快諾した。

「美根我さんの気の済むまで、付き合いますよ」と、檜本も、了承した。

 美根我は、振り返り、「ありがとう…ぐ…」と、涙ぐんだ。二人の心遣いが、ありがたいからだ。

 少しして、三人は、冨歌梨の捜索を開始した。

 しばらくして、「び、美根我さん! き、来て下さい!」と、裏庭と思われる場所を捜索していた檜本が、慌てふためきながら、呼んだ。

 美根我と河崎は、檜本の所へ(つど)った。

「檜本さん、どうかしましたか?」と、美根我は、冴えない表情で、問い掛けた。冨歌梨の変わり果てた姿だと察したからだ。そして、「何処です?」と、尋ねた。富士枝と同様に、現実を受け止めなければならないからだ。

「こ、ここです…」と、檜本が、足下を右手で指した。

 美根我は、指した先へ、視線を向けた。程無くして、(すね)の骨が、露出した膝下の肉の付いた一対の足を視認した。その瞬間、「冨歌梨ぃー!」と、天を仰いだ。足だけとなった妻を見るのは、(しの)びないからだ。

「美根我さん、奥さんの足も、娘さんの傍へ、運ぼうか?」と、河崎が、尋ねた。

 美根我は、左隣の河崎を見やり、「そうですね。せめて、一緒にしておきましょう」と、賛同した。家族を一緒にしておくべきだからだ。

「美根我さんは、辛いだろうから、俺と檜本さんとで、運んでおくよ」と、河崎が、告げた。

「お願いします…」と、美根我は、一任した。今一度、半年前の“団欒”の思い出に浸りたいからだ。

 突然、「ひゃっ!」と、檜本の悲鳴が、響いた。

「檜本さん、どうしたんですか?」と、美根我は、咄嗟に、声を掛けた。何事かと思ったからだ。

「すみません! 奥さんの足が、こんなに!」と、檜本が、肉の抜け落ちた足の骨を見せた。

 少し後れて、「俺の方も、肉が、抜けちまったぜ」と、河崎も、表情を曇らせた。

「構いませんよ。どんな状態でも、妻なんですから…」と、美根我は、涙を堪えた。足だけとなった妻を()の当たりにすると、切ないからだ。

 しばらくして、三人は、骸骨の所へ戻った。

 河崎と檜本が、富士枝の骸骨の左隣へ、冨歌梨の足の骨を置いた。

 間も無く、美根我達は、両手を合わせて拝むのだった。

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