七、見当たらない…。
七、見当たらない…。
美根我達は、昼過ぎに、第七黄橋国民小学校へ辿り着いた。そして、正門から校庭へ進入した。次の瞬間、校舎から溢れ出る殺到する負傷者や避難民の姿を目の当たりにした。
「こりゃあ、酷いぜ…」と、河崎が、顔をしかめた。
「確かに、気の毒で、見て居られませんね」と、檜本も、頷いた。
「私は、ちょっと、校長に会って来ますので、自由にして居て下さい」と、美根我は、返事を待たずに、校舎へ向かった。間も無く、人混みの中へ割って入った。その瞬間、目を見張った。場に居るほとんどの者達が、大火傷を負って見るに堪えられないからだ。しかし、妻と娘の安否を知る為にも、前進した。しばらくして、人混みの先頭が、視界に入った。そして、包帯を鉢巻のように巻いた杖を突いた高齢の男性を視認するなり、近寄った。顔見知りかも知れないからだ。
「あ! 美根我君!と、高齢の男性も、気付くなり、覚束無い足取りで、歩み寄って来た。
程無くして、二人は、合流出来た。
「美根我君、よく、戻らせて貰ったなぁ〜」と、高齢の男性が、信じられない面持ちで、開口一番に、発した。
「先遣隊として、来て居るだけですよ」と、美根我は、返答した。そして、「妻と娘が、心配でしたので、志願しただけですよ」と、補足した。任務よりも、家族の安否確認が、主だからだ。
「すまないねぇ。私が、懲罰入隊させられる筈だったのに…」と、高齢の男性が、詫びた。
「江来さん、校長先生に、お会いしたいのですが…」と、美根我は、尋ねた。校長の所在を把握していると思ったからだ。
「私が、校長ですよ」と、江来が、恐縮しながら、告げた。
その瞬間、「ええーっ!」と、美根我は、素っ頓狂な声を発した。まさか、江来が、校長に就任しているとは、思っても居なかったからだ。そして、「妻と娘は、来てませんか?」と、間髪容れずに、問うた。早く、二人を確認したいからだ。
「私の知る限りでは、見掛けて居ないねぇ」と、江来が、眉根を寄せた。そして、「この混み具合だから、いつの間にか、来ているかも知れないが…」と、溜め息を吐いた。
「そうですね。でも、どの辺りに落ちたんでしょうかねぇ〜?」と、美根我は、口にした。炎で行く手を阻まれて、別の避難場所へ向かったとも考えられるからだ。
「わしの聞いた話では、物産展の側で、雷の強烈な閃光が、突然、走ったそうですよ。その直後に、大爆発が起こったそうです」と、江来が、語った。
「たった、それだけですか…」と、美根我は、驚愕した。檜本の言うように、とんでもない“新型爆弾”を使用されたと考えられるからだ。
「美根我君、君の抱いている黒い物は?」と、江来が、興味津々に、尋ねた。
「これは、娘に与えたぬいぐるみの成れの果てですよ」と、美根我は、力無く回答した。持って居れば、富士枝に会えるような気がしたからだ。
「ああ。あの“ぬいぐるみ”ね」と、江来が、目を細めた。「しかし、どこで、それを?」と、眉をひそめた。
「これは…」と、美根我は、経緯を語り始めた。
しばらくして、「そんな遠くまで!」と、江来が、驚嘆した。
「私も、信じられませんよ…」と、美根我も、冴えない表情で、口にした。自宅からはかなりの距離が在るからだ。
「う〜ん。何から何まで、どうなっているのか、さっぱりじゃ。わしも、教員達に聞いて回るから、君も、自身で、探してくれたまえ」と、江来が、告げた。
「分かりました。お手数掛けます」と、美根我は、一礼をすると、一年生の教室へ向かって行った。しかし、校舎内をくまなく捜したのだが、見当たらないまま、逗留する事になるのだった。