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美根我の幸せな時間  作者: しろ組
8/10

七、見当たらない…。

七、見当たらない…。


 美根我達は、昼過ぎに、第七黄橋国民小学校へ辿(たど)り着いた。そして、正門から校庭へ進入した。次の瞬間、校舎から(あふ)れ出る殺到する負傷者や避難民の姿を目の当たりにした。

「こりゃあ、(ひど)いぜ…」と、河崎が、顔をしかめた。

「確かに、気の毒で、見て居られませんね」と、檜本も、頷いた。

「私は、ちょっと、校長に会って来ますので、自由にして居て下さい」と、美根我は、返事を待たずに、校舎へ向かった。間も無く、人混みの中へ割って入った。その瞬間、目を見張った。場に居るほとんどの者達が、大火傷(やけど)を負って見るに堪えられないからだ。しかし、妻と娘の安否を知る為にも、前進した。しばらくして、人混みの先頭が、視界に入った。そして、包帯を鉢巻のように巻いた杖を突いた高齢の男性を視認するなり、近寄った。顔見知りかも知れないからだ。

「あ! 美根我君!と、高齢の男性も、気付くなり、覚束無い足取りで、歩み寄って来た。

 程無くして、二人は、合流出来た。

「美根我君、よく、戻らせて貰ったなぁ〜」と、高齢の男性が、信じられない面持(おもも)ちで、開口一番に、発した。

「先遣隊として、来て居るだけですよ」と、美根我は、返答した。そして、「妻と娘が、心配でしたので、志願しただけですよ」と、補足した。任務よりも、家族の安否確認が、主だからだ。

「すまないねぇ。私が、懲罰入隊させられる筈だったのに…」と、高齢の男性が、()びた。

「江来さん、校長先生に、お会いしたいのですが…」と、美根我は、尋ねた。校長の所在を把握(はあく)していると思ったからだ。

「私が、校長ですよ」と、江来が、恐縮しながら、告げた。

 その瞬間、「ええーっ!」と、美根我は、()頓狂(とんきょう)な声を発した。まさか、江来が、校長に就任しているとは、思っても居なかったからだ。そして、「妻と娘は、来てませんか?」と、間髪()れずに、問うた。早く、二人を確認したいからだ。

「私の知る限りでは、見掛けて居ないねぇ」と、江来が、眉根を寄せた。そして、「この混み具合だから、いつの間にか、来ているかも知れないが…」と、溜め息を吐いた。

「そうですね。でも、どの辺りに落ちたんでしょうかねぇ〜?」と、美根我は、口にした。炎で行く手を(はば)まれて、別の避難場所へ向かったとも考えられるからだ。

「わしの聞いた話では、物産展の側で、雷の強烈な閃光が、突然、走ったそうですよ。その直後に、大爆発が起こったそうです」と、江来が、語った。

「たった、それだけですか…」と、美根我は、驚愕(きょうがく)した。檜本の言うように、とんでもない“新型爆弾”を使用されたと考えられるからだ。

「美根我君、君の抱いている黒い物は?」と、江来が、興味津々(しんしん)に、尋ねた。

「これは、娘に与えたぬいぐるみの成れの果てですよ」と、美根我は、力無く回答した。持って居れば、富士枝に会えるような気がしたからだ。

「ああ。あの“ぬいぐるみ”ね」と、江来が、目を細めた。「しかし、どこで、それを?」と、眉をひそめた。

「これは…」と、美根我は、経緯(けいい)を語り始めた。

 しばらくして、「そんな遠くまで!」と、江来が、驚嘆(きょうたん)した。

「私も、信じられませんよ…」と、美根我も、冴えない表情で、口にした。自宅からはかなりの距離が在るからだ。

「う〜ん。何から何まで、どうなっているのか、さっぱりじゃ。わしも、教員達に聞いて回るから、君も、自身で、探してくれたまえ」と、江来が、告げた。

「分かりました。お手数掛けます」と、美根我は、一礼をすると、一年生の教室へ向かって行った。しかし、校舎内をくまなく(さが)したのだが、見当たらないまま、逗留(とうりゅう)する事になるのだった。

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