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美根我の幸せな時間  作者: しろ組
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六、舞い降りた“ぱんきぃ”

六、舞い降りた“ぱんきぃ”


 美根我達は、靄島市街への上陸を河川から試みようとした。しかし、(おびただ)しい人間や家屋の建材が、漂流して居て、断念するしかなかった。そして、仕方無く、郊外の川を遡上(そじょう)して、上陸した。

「まさか、こんな事になっているなんて…」と、檜本が、顔面蒼白で、口にした。

「ありゃあ、ただの空襲じゃないぜ」と、河崎も、思い詰めた表情で、同調した。

「そうですね。普通の空襲とは、違う気がしますね」と、美根我も、真顔で頷いた。爆撃機の姿を見て居ないからだ。

「新兵器かも知れませんよ」と、河崎が、口にした。

「しっ! 河崎さん、滅多(めった)な事は、口にしちゃあいけませんよ!」と、檜本が、窘めた。

「へへへ。これで、“黄紙”を貰ったんだった…」と、河崎が、苦笑した。

「お二方、駄弁(だべ)くるのは、これくらいにして、取り敢えず、進めるだけ進みましょう。遊びに来て居る訳じゃないんですからね」と、美根我は、口を挟んだ。一刻も早く、冨歌梨と富士枝の安否を確認したいからだ。

「そうですね。何が起きたのか、見極めなければなりませんからね」と、檜本も、賛同した。

「さっさと済ませちゃいましょう。まあ、大体、報告する事は決まっているけどね…」と、河崎が、表情を曇らせた。

「そうですね。しかし、私は、どうしても、市街地へ向かわなければなりません。しかし、お二方は、先に帰って、報告して頂いても構いませんよ」と、美根我は、告げた。無理に、付き合わせる必要は無いからだ。

「美根我さん、これは、命令ですか?」と、檜本が、尋ねた。

「いいえ。命令ではありません。ここから先は、私事(わたくしごと)ですので、任務は、これで終わりと言う事ですよ」と、美根我は、考えを述べた。

「そうですか。じゃあ、ある意味、自由行動って事になりますね」と、河崎が、にこやかに言った。

「そうですね。でも、私と河崎さんだけが帰っても、説得力が無いのでは?」と、檜本も、口にした。

「確かに、言い出しっぺの私が居ないと、部隊長も、納得しませんでしょうね」と、美根我も、理解を示した。二人だけを帰らすのも、無責任だからだ。

「美根我さん、ここまで来たのですから、付き合いますよ」と、檜本が、申し出た。

「そうだぜ。三人で行った方が、楽なんじゃないのかい?」と、河崎も、力強く言った。

「分かりました。三人で、向かいましょう!」と、美根我は、聞き入れた。確かに、三人で進んだ方が、無難だからだ。

 少しして、三人は、土手を駆け上がった。程無くして、市街の方を並んで見やった。すると、市街の方々(ほうぼう)から火の手が上がって居るのを視認した。

「美根我さん、あれじゃあ、市街地へ入るのは、無理だぜ」と、河崎が、見解を述べた。

「そうですね。しかし…」と、美根我は、言葉を詰まらせた。現時点では、不可能だとはっきりしているからだ。

「手前の建物なんかは、どうですか? 火の手は、来て居ないようですけど…」と、檜本が、提言した。

 美根我も、視認するなり、「あそこは、第七黄橋国民小学校でしたね。ひょっとすると…」と、はっとなった。冨歌梨と富士枝が、避難しているかも知れないからだ。そして、「そうと決まれば、出発しましょう!」と、意気込んだ。 一縷(いちる)の希望が視えたからだ。

 そこへ、黒焦げの丸い物体が、飛来した。

 河崎が、「オーライ!」と、それを受け止めた。その直後、「あちちち!」と、地面に落とした。

「河崎さん、大丈夫ですか?」と、美根我は、心配した。かなりの高温の物体だと見受けられたからだ。

「大丈夫ですよ」と、河崎が、あっけらかんと返答した。そして、「熱さにびっくりしただけですよ」と、補足した。

「そうですか…」と、美根我は、安堵した。大事ならないで良かったからだ。

「まさか、敵の兵器とか…」と、檜本が、警戒した。

「そうですね。時限式の爆弾を投下したという話を耳にした事も在りましたねぇ」と、美根我も、同調した。その噂を聞いた記憶が在ったからだ。そして、「お二方は、離れて下さい」と、退避を促した。時限爆弾かも知れないからだ。

 間も無く、二人が、乗って来た発動艇(モーターボート)の所まで、退避した。

 美根我は、確認すると、丸い物体へ、視線を戻した。しばらくして、「まさか…!」と、息を()んだ。“ぱんきぃの頭部”だと判ったからだ。その瞬間、「ぱ、ぱんきぃー!」と、拾い上げた。

 その直後、「美根我さーん、どうしたんですかー?」と、河崎が、問い掛けた。

 美根我は、発動艇を見やり、「大丈夫です。爆弾じゃないですよ!」と、穏やかに返答した。だが、心中は、発狂しそうなくらい不安で(たま)らなかった。悪い予感しかしないからだ。そして、「出発しましょう」と、提言した。

 間も無く、二人が、戻って来た。

「では、参りましょう」と、美根我は、市街地へ向けて、踏み出すのだった。

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