四・五、カレンダーの再利用
四・五、カレンダーの再利用
黄平洋戦争末期…。
折り紙にも事欠くくらい物資が不足していた。
靄島市黄橋通りに在る美根我家…。
富士枝は、卓袱台の上に在る父が、酸の島の守備隊へ入隊した月のカレンダーとにらめっこをして居た。他の月は、父への手紙として、使い果たしたからだ。
「富士枝、父様の代わりだって、大事にしてたのに、折り紙に使っちゃうの?」と、母が、尋ねた。
「うん」と、富士枝は、頷いた。何かしらの形にして、折って置きたいからだ。
「まあ、富士枝の宝物だから、好きにしなさい。でも、先に、朝ごはんにしましょう」と、母が、告げた。
「はい!」と、富士枝は、力強く返事をした。朝食の後でも良いと思ったからだ。そして、一先ず、カレンダーを取り除いた。
しばらくして、朝食が終わった頃、連日の雨空から一転して、ひさびさの晴天となった。
その瞬間、「そうだ!」と、富士枝は、閃いた。何を折るか、決まったからだ。そして、再度、卓上で、カレンダーを広げるなり、折り始めた。程無くして、紙飛行機を折り上げた。
そこへ、母が、通り掛かり、「そんなの折って、どうするの?」と、眉を顰めた。
「良いお天気だから、お外で遊びたいと思って…」と、富士枝は、理由を述べた。同じ空の下で、紙飛行機を飛ばして、父と遊んでいる気分になりたいと思ったからだ。
「富士枝が、そうしたいのなら、そうすれば良いわ。私は、裏で、洗濯物を干して居るわね」と、母が告げた。そして、奥へ消えた。
「ぱんきぃ。私達も、表へ出て、飛ばしましょう」と、富士枝は、左腕で、兎耳の付いた蛸顔のぬいぐるみを抱き抱えた。その間に、右手で、紙飛行機を持った。そして、立ち上がり、玄関へ足早に向かった。少しして、勢いそのままに、通りへ出た。その直後、真ん中で、歩を止めるなり、天を仰いだ。次の瞬間、視界が、青一色となった。その途端、あまりの清々しさに、言葉を失った。魅力的だったからだ。
そこへ、黄金色の光が、白い線のような雲を引きながら、割り込んだ。
間も無く、富士枝は、我に返り、「そうそう。父様と遊ぶんだったわ」と、右手を肩まで上げて、投げようとした。
その瞬間、周囲が、黄色い光に包まれた。
その刹那、富士枝の衣服が、灰と化し、同時に、血肉が溶けて混ざり合って、地面へ流れ落ちた。そして、骨だけとなった。
少し後れて、熱風が、ぱんきぃの頭を舞い上がらせた。
程無くして、黄色い雨が降り始めた。
三日後、父と再会するのだった。