表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美根我の幸せな時間  作者: しろ組
5/10

四・五、カレンダーの再利用

四・五、カレンダーの再利用


黄平洋(こうへいよう)戦争末期…。

 折り紙にも事欠くくらい物資が不足していた。

 靄島(もやしま)黄橋(こうはし)通りに在る美根我(びねが)家…。

 富士枝(ふじえ)は、卓袱台(ちゃぶだい)の上に在る父が、酸の島の守備隊へ入隊した月のカレンダーとにらめっこをして居た。他の月は、父への手紙として、使い果たしたからだ。

「富士枝、父様の代わりだって、大事にしてたのに、折り紙に使っちゃうの?」と、母が、尋ねた。

「うん」と、富士枝は、頷いた。何かしらの形にして、折って置きたいからだ。

「まあ、富士枝の宝物だから、好きにしなさい。でも、先に、朝ごはんにしましょう」と、母が、告げた。

「はい!」と、富士枝は、力強く返事をした。朝食の後でも良いと思ったからだ。そして、一先ず、カレンダーを取り除いた。

 しばらくして、朝食が終わった頃、連日の雨空から一転して、ひさびさの晴天となった。

 その瞬間、「そうだ!」と、富士枝は、(ひらめ)いた。何を折るか、決まったからだ。そして、再度、卓上で、カレンダーを広げるなり、折り始めた。程無くして、紙飛行機を折り上げた。

 そこへ、母が、通り掛かり、「そんなの折って、どうするの?」と、眉を(ひそ)めた。

「良いお天気だから、お外で遊びたいと思って…」と、富士枝は、理由を述べた。同じ空の下で、紙飛行機を飛ばして、父と遊んでいる気分になりたいと思ったからだ。

「富士枝が、そうしたいのなら、そうすれば良いわ。私は、裏で、洗濯物を干して居るわね」と、母が告げた。そして、奥へ消えた。

「ぱんきぃ。私達も、表へ出て、飛ばしましょう」と、富士枝は、左腕で、(うさぎ)耳の付いた(たこ)顔のぬいぐるみを抱き抱えた。その間に、右手で、紙飛行機を持った。そして、立ち上がり、玄関へ足早に向かった。少しして、勢いそのままに、通りへ出た。その直後、真ん中で、歩を止めるなり、天を(あお)いだ。次の瞬間、視界が、青一色となった。その途端、あまりの清々しさに、言葉を失った。魅力的だったからだ。

 そこへ、黄金色の光が、白い線のような雲を引きながら、割り込んだ。

 間も無く、富士枝は、我に返り、「そうそう。父様と遊ぶんだったわ」と、右手を肩まで上げて、投げようとした。

 その瞬間、周囲が、黄色い光に包まれた。

 その刹那、富士枝の衣服が、灰と化し、同時に、血肉が溶けて混ざり合って、地面へ流れ落ちた。そして、骨だけとなった。

 少し後れて、熱風が、ぱんきぃの頭を舞い上がらせた。

 程無くして、黄色い雨が降り始めた。

 三日後、父と再会するのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ