チャットの日
ライン
『今日はチャットでお話しよう』
同居人の麗奈がスマホを俺に突きつけて来て、そんなことを言い出した。
は?なんだ?どうした急に。
『何その嫌そうな顔(・ε・`*)ぶー』
「隣に居るのにチャットする意味がないだろ。話せば済む話だ」
そう。意味が無いのだ。チャットなんてしなくても、こいつはずっと俺の傍を離れないから。
『分かってない。分かってないよ君は。お姉さんはいつもチャットで、君は喋る。お姉さんの大変さが分かってない( ・̆⤙・̆ )』
確かに麗奈は失声症だ。表情も無表情で何を考えているか文章をみないとわからない。
「そりゃお前は喋れないんだから仕方ないだろ」
『お姉さんだって話せるなら話したいよ(´ー`*)ウンウンでも話せないからチャットを使ってる。でも君はいつも通りのスピードで喋る』
「お、おう」
俺だってお前の声を聞いてみたい。思ってるけど恥ずかしくて言えない。
『お姉さんは大変なのです!!!バ━━\( •̀ω•́ )/━━ン』
「悪かったな」
麗奈が文章を打つの早いから気にしてなかったけど、たしかに少し気遣いにかけてたかもしれない。
『だから今日はチャットしよ。LINEで((o(。>ω<。)o))』
言い出したら聞かないからなあ、麗奈ちゃんは。
はっ、父親面してしまった
「了解。じゃあ別の部屋行くか?」
『ここでいい』
立ち上がろうとしたところ、服の袖を掴んで止めてきた。
『いつも通り(´ー`*)ウンウン』
「そうか」
『じゃあ、ここからスタート!\(❁´∀`❁)´-』
『了解』
『短!』
『文章打つのは慣れてないんだよ』
『確かに君がLINEでメッセージ送るの見たことないかも。それにしても短い』
『だろ?慣れてないから遅いんだよ』
『お姉さんは君たちの会話スピードについていかないとだからね( *¯ ꒳¯*)フフン慣れてる』
『ぐぬぬ』
無い胸を張りやがって、なんかちょっと悔しい。
『じゃあ少しゆっくり話してくれよヽ(•̀ω•́ )ゝ』
『顔文字のチョイス(*´艸`)』
『笑うんじゃねえよ』
『怖いよ:( ;´꒳`;)』
チャットって難しい。いつも通り話そうとすると無愛想になるし、顔文字のチョイスをミスると気持ちが伝わらない。
麗奈ってめちゃくちゃ伝えるの上手いんだな。
『じっと固まってどうしたの?(-_-)ジィー』
『いや、麗奈は凄いなって思ってただけ。俺は文章で気持ち伝えるの下手だから』
『そうだよねぇ。私と君の間柄だからそうはならないけど、顔も見た事ない。現実で話した事ない人だと文章に乗った感情を読み間違えちゃったりするからね:( ;´꒳`;)』
SNSの話しか。
『麗奈もそう言うことあるのか?』
『お姉さんはTwitterやってて身内としか話してないから喧嘩とか無いけど、タイムラインにはやっぱり流れてくるわけで( ・᷄ࡇ・᷅ )』
『なるほどな。気持ちを伝える方法としてチャットを身につける為にも今回のこれはうってつけかも知れないな』
『そだよー\(❁´∀`❁)ノだからお姉さんとレッツチャレンジ(*`・ω・)ゞビシッ!!』
『おう!(˙꒳˙ก̀)ハーイ』
『君はTwitterとかしてないの?(=^▽^)σ』
『アカウントはあるぞ』
『まさかそこで際どい写真を(; 'ω')ゴクリ』
『そんなわけねえだろ。涼夏が作ってくれたやつだよ。一回も呟いたことない。ほら』
Twitterの画面を開いてほぼまっさらのアカウントを麗奈に見せてやる。
あいつ頼んでもないのに登録してくれやがって、消し方も分からないからそのままだ。
唯一フォローとフォロワーが1人いる。もちろん涼夏だ。
『ふふっ。何このアカウント名(*´艸`)』
『浪速の金髪男の娘』
『ぶふっ名前を聞いたんじゃなくてなんでこの名前なの?(*´艸`)フフフッ♡』
おかしいよな。俺じゃ絶対名乗らねえわ。一瞬かっこいいかもって思ったのは、浪速の魔力。謎のかっこよさがある。
『涼夏がやった。変え方がわかんねーんだよ(´・ω・`)』
『変えてあげようか?(#´ᗜ`#)ニコニコ』
『お願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ』
麗奈がたまに使う顔文字を使ってお願いしてみた。
『じゃあお姉さんにスマホ貸して(* 'ᵕ' )』
麗奈にスマホを手渡してしばらく待つ。
スマホを返してもらい画面を見る
『お姉さんの男の娘』
とTwitter名を変えられていた。
『お前の者でもなければ俺男の娘じゃない( #・᷄ὢ・᷅ )』
『違うの?お姉さんのじゃないの?(・ᴗ・`; )』
『付き合ってるわけでもないから違うなあ』
『じゃあ付き合ったらお姉さんのになる?』
ドキッとして麗奈の顔をチラと見てしまった。
無表情だが、耳が赤かった。
『なる、けど』
多分俺も顔が赤い。あー頬が熱い。
『( ˙³˙)( ˙罒˙)』
『???』
『好きだよ。お姉さん。君のこと。大好き』
「なっばっ!おま!」
焦って声を出した俺の口を麗奈が抑えてきた。
『今日はチャットでお話だよ?声を出したから君の負けー(*´艸`)』
麗奈は無表情で口の端だけを指で持ち上げて、ニヒルな顔をした。
これって勝負だったんだ。なら最初から俺の負けは決まってんじゃねえか。
『ずるいなお前』
『ふふふ。ズルい女は嫌い?』
嫌いじゃねえ。