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初陣-1

 見惚れている暇は与えられなかった。


 再び赤い閃光と轟音が、今度は竜秋たち全員を取り囲むように爆ぜた。七、八……総勢十体もの塔棲生物エネミーが、空間の裂け目から今にも這い出そうとしている。


「また来たぁ……っ!?」


「本格的に始まっただな……これが塔の防衛本能だか」


 半数が縋るように伊都を見ると、彼女は聖母のように微笑んで言った。


「任せます。見ているので自由に倒してください」


 ギョッと目を見開き、たたらを踏んだのが七割。反対に燃えるような闘争心を抜き身にしたのが三名だった。


「よっしゃあ! 初陣初陣ー!」


「右の六体を受け持つわ、残りをお願い」


「あぁッ!? 俺が七体瞬殺すんだよ!」


 ヒュー、沙珱、そして竜秋。それぞれの愛器に握力をめ、手近の塔棲生物エネミーに向かって飛びかかる。


 脚力を爆発させたヒューが太刀型の塔伐器、《斬鉄ざんてつ》で一体目を斬り伏せたのを皮切りに、沙珱の鎌と、竜秋の棍棒が一体ずつをちりに帰した。残り七体。競うように次の獲物へ向かう三人を見て、一査が生唾を飲む。


「よ、よし、僕らも……」


「来なくていい、この程度の数! ひばりの盾使って、他の連中守ってろ!」


 一査の踏み出しかけた足が、師の一喝で押し戻される。


「竜秋くん、後ろ!」


 ひばりの悲鳴。竜秋の背後から、大弓を刀のように振りかぶった塔棲生物エネミーが肉薄していた。


「チッ」、と振り返りもせずそれをかわすと、身をひるがえらせて目にも留まらぬ蹴りを炸裂させた。アゴに直撃した蹴りそのものにダメージはないが、怯んだところを如意棒の追撃で叩き潰す。


「次――……ッ!?」


 ドスッ、と竜秋の肩口に矢が食い込んだ。総員顔面蒼白になる中、竜秋本人は舌打ちしながら乱暴に矢を引き抜き、放り投げる。


「クソが、どっからだ!? 全員視界に入れてたぞ!」


「見えている数で全部だと思わないほうがいい! デビ太!」


 幸永に呼ばれて彼の肩に出現した小さな悪魔は、『血祭りデビー!』と拳を突き上げた。


「隠れてる敵の位置を教えてくれ!」


『むむむ、臭う、臭うデビ……美味そうな悪意のにおい……こっそりオレサマたちを殺そうとしてる、一番美味そうな臭いは…………――あっちデビィッ!!』


 デビ太が短い指でさした方角、百メートルほど先――茂みの陰に半身を隠し、息を潜めてこちらへ弓を引いている塔棲生物エネミーの姿を幸永が捉えた。


 刹那。二発の銃声が轟き、塔棲生物エネミーの胸と頭が同時に弾け飛ぶ。


「オラのがちょっと早かっただぁよ」


「寝てたの? あたしのほうが早かったわよ」


 煙を上げる狙撃銃を持ち上げて、閃と恋が言葉をかわす。《イーグルアイ》――全5種のうち、射程距離リーチと一発の威力に全振りした量産型塔伐器である。


「これでもう伏兵はいない! でも気をつけて!」


「――……もう、終わる」


 ヒューが一匹をぶった斬り、竜秋が一匹の頭蓋を粉砕したあたりで、漆黒の辻風が一息に残り四体全ての首をねた。


 鬼のものとするには美しすぎる金属音の残響が、醜悪な小人たちの亡骸とともに空気に溶ける。白髪を黒く戻し、沙珱は少し疲れたように息を吐いた。


 竜秋が舌を打ち、爽司は「ほ、惚れる〜〜〜〜ッ!!!」と絶叫。かくして桜組は、塔棲生物エネミーによる最初の襲撃レイドを凌ぎきった。



「お疲れさまでしたー。皆さん、思ったよりも動けますね。えらいです。ただ――」


 拍手しながら近づいてきた伊都の次の一言が、空気を凍りつかせた。


たつみくん、あなただけは0点です。もっと頑張ってください」


「……は?」


 ざわりと空気が揺らぐが、伊都本人は気にも留めない顔でいる。


「全部自分でやろうとしすぎ。もっと周りを信じて預けてください」


「お前な……知らねえんなら教えてやるが、このクラスにはまともな戦闘員がほとんどいねえんだ。俺と沙珱で前線を張って、他の連中で隙を突くのが一番リスクヘッジになる」


「傲慢ですねー。そうやってナチュラルに見下してるこのクラスの中ですら、あなた、下から数えた方が早いですよ」


 一瞬のをおいて。――ブチブチブチ、と竜秋のこめかみに大量の血管が浮いた。


「なんだそりゃ……笑えねぇな、ジョークのつもりか?」


「忠告ですよ、たつみくん。あなたは自分が思っているより弱いし、あなたのお友達はあなたが思っている以上に強いです。そこを履き違えたままだと、死にますよ。現に今回の襲撃で、一人だけ派手に手傷負ってるじゃないですかぁ、恥ずかしい〜」


 にっこり笑って猛毒を吐く。この女が、出会ったときからそういう女だったことを、竜秋は今思い出した。


「お前が何を知ってんだ……俺たちは何ヶ月も佐倉相手に戦ってんだ、誰がどれくらい戦えるかくらい、お互いに把握しきってるに決まってんだろ!!」


「なるほど、そうやって"戦える者"と"戦えない者"を見極めていったわけですね」


「あぁそうだ、分かったんなら……」


「――誰が、見極めたんですか?」


 竜秋は思わず口を閉じかけた。喉元に、刃を突きつけられたような圧力を感じたからだ。


「このクラスで最も発言に力のある人は誰ですか? その一挙手一投足に、最も影響力のある人は」


 クラスの全員が、自然と、一人の人物を――竜秋を見ていた。


「あなたですよね、たつみくん。あなたが決めてしまったんです。お前は戦える、お前は戦えないと。……確かに、この中に万能な異能バベルの持ち主はいません。全員が、落ちこぼれと呼ばれ、少なからず自尊心を傷つけられて入学してきたはず。そこに、あなたが……あなたのような人が、『戦えない』とラベルを貼ってしまったら……そうだと思ってしまうじゃないですか。――戦えない人間なんて、いません」


 一査が、幸永が、ひばりが、ヒューが、恋が、閃が、小町が、爽司が、沙珱が、顔色を変えた。


「無能力者という、大きなハンデを克服したあなたなら……分かっていると思っていました。残念です」


 絶句した竜秋に背を向け、さぁ、と伊都は、竜秋以外に声をかけるように言った。


「気を取り直して、階段を探しましょうか」

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