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塔伐科高校、入学試験-1

 見上げるほど高い城壁が、総勢三百名を超える受験者を出迎えた。


 東京都は八王子にその威容を誇る、《国立塔伐科大学附属高等学校》――通称"塔伐科高校"。塔伐者を養成する教育機関では日本一の名門と名高い。この東京校を含めて、全国に十二のキャンパスがある。


 八王子の山林を切り拓いてつくられたキャンパスの総面積は、実に五十万平方メートル。総生徒数三百人弱のたかが一高校の私有地にあって、ディズニーランドをも凌ぐ広大さというのだから恐ろしい。


 その敷地内のすべてが高さ十メートルの分厚い石壁で覆われており、南に位置する唯一の出入り口である鉄門はいつも固く閉ざされて、このような特別な日以外は微動だにしない。


 受験者たちはまさに、その鉄門の前に集合していた。


「すげぇ……」「でっけー!」「これが噂の校門……まるでお城みたい」――人だかりをつくる受験者たちも、そそり立つ校門の威容を前にしては、それぞれ感嘆のため息を禁じえない。


 その中に一人、ため息どころか舌打ちを飛ばす不届き者がいた。


「いつまで待たせんだよクソが、もう集合時間一分過ぎてんだろうが」


 張り切りすぎて一時間前に到着していた竜秋である。棘のような銀髪も今日は心なしか普段より鋭く殺気立つようで、彼に気づいた周囲の人間たちが控えめに距離をとる。


「あ、開くぞ!」


 誰かが叫んだと同時、重い音を上げて、鉄門が向こう側に開き始めた。ざわめく群衆の中で、竜秋は「ようやくか」と好戦的に唇を舐める。


 とはいえ、息を呑まざるを得ない瞬間だった。


 塔伐科高校はウェブページにも敷地内の画像が一切公開されておらず、"国家機密"であるとして航空写真も非公開のため、中がどうなっているかは壁の中に住んでいる職員と生徒しか知らない。今日も周辺では大規模な交通規制が行われ、マスコミはもちろん部外者は誰一人校区に入れないようになっている。


 拷問じみた訓練が行われているとか、日常茶飯事の体罰で中は死屍累々の有様だとか、黒い噂の絶えない魔境だ。


 それがどうした。どんな地獄も望むところ。二の足を踏む先頭集団を威勢よく突っ切り、竜秋は一番乗りに門をくぐった。



「――いぇーい! 塔伐科高校東京校にようこそ、受験者の諸君! ぱふぱふっ、ぱふーっ!」



 盛大に鳴る無数のクラッカー。飛び交う紙吹雪。両手を広げて竜秋たちを出迎える――ゆるいウサギの着ぐるみ。


「……あ?」


 銀髪に紙吹雪をひっかけた竜秋が、ポカンと立ち尽くす。それはあとを続いてきた生徒たちも同じだった。


「今から入学試験を始めるよ! それぞれの試験会場を伝えるから、よく聞いてね! ほらっ、後ろがつっかえてる、君たちもっと奥までカモン!」


 大仰な手振りで受験者たちを招き入れる着ぐるみは、肩に『ボクが本日の主役です!』と書かれたタスキを斜めにかけていた。なんてふざけたウサギだ。


 ともかくウサギのアナウンスで、受験番号ごとに試験会場を伝えられた。竜秋の番号は「58」番で、グループ「F」。試験会場は「訓練場6」。


 アナウンスが終わると、敷地内の空中に、それぞれのアルファベットを映し出す巨大ホログラムが浮かび上がって歓声をさらった。『F』が浮かんでいる地点を目指して、またも竜秋が先陣を切って歩き出す。


 壁の中は思っていたよりも、随分キラキラしていた。舗装された道の両脇は豊かな芝生と木々で溢れ、さながら自然公園。あちこちに見える新築同然の校舎は全面ガラス張り。他にも遠方にはなにやら、飲食店やカラオケ屋らしき看板が立ち並ぶ妙な一角まであって、もはや一つの"街"のようである。


「な、なんか……思ってたより楽しそう……?」「ホントに学校かよ、ここ!?」後ろをついてくる受験者たちから、徐々に緊張感が抜けていく。開幕の出迎えがあの着ぐるみでは無理もない。


 たどり着いた「訓練場6」は、言うなれば小型の体育館だった。Fグループに振り分けられた十二名が揃うなり、迷彩パンツにタンクトップの教官が声を張り上げる。


「これよりぃ! 塔伐科高校東京校の入学試験を始める! 私は貴様らFグループを担当する本校教員の鬼瓦おにがわらだ!」


 筋骨隆々の胸を張って怒鳴る禿頭とうとうの男性教官の迫力に一同縮み上がる中、竜秋は心のなかで彼に"軍曹"とあだ名をつけた。


「全員、注ゥ目!!」


 鬼瓦は自分の隣にある、中型トラックほどもある巨大なナニカを覆い隠している黒い布の端を掴むと、勢いよく取り去った。


 バサリと宙を舞った黒布の下から現れたのは――……ゲームセンターにあるような、パンチングマシーン。ただし随分巨大である。


「第一試験は、"パンチ力測定"だ!」

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