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真夏の校外学習-3

しばらく更新できなくてすみませんでした!

仕事が繁忙期に入りましたので、少しペースは落ちてしまうと思いますが、コツコツ頑張りますので引き続きご贔屓にお願いします。


感想や評価などが更新の励みになりますので、ぜひ僕に燃料投下をおねがいします、、、!

「――桜クラスの皆を、信用しないでほしいだよ」


 喫茶店のテーブルにつくなり、閃はこちらのグループに飛び入り参加した真意を竜秋に尋ねられ、そう切り出した。


「……どうした、いきなり」


 長い前髪の奥で光る、山猫のような瞳の思わぬ真剣な眼差しに、うっかり呑まれかけながら竜秋が問う。


「ごめんだよ、この話をしたくて、無理言ってついてきただよ。式部先輩、少しだけオラの話に付き合ってもらっていいだか?」


 微笑を浮かべてうなずく伊都も、閃が何を語り出すのか測りかねているようだった。



「オラは、松組殺しの犯人が、桜組にいるかもしれないと思ってるだよ」



 ワントーン落とした閃の声に、竜秋も、沙珱も、伊都までもが戦慄した。


「……なにいってんだ。恋の能力で、俺たちのクラスどころか校内中の人間が潔白を証明されただろうが」


「それは、恋ちゃんがシロである前提じゃなきゃ成り立たない話だよ。彼女が犯人である可能性、彼女が犯人をかばっている可能性がある以上、なんの参考にもならんだよ」


「んなこと言われるまでもねぇ。でも恋は自分から志願して尋問を提案したんだろ。仮に恋がクロだったとして、全員のシロを証明するメリットがどこにある? むしろ誰かに濡衣ぬれぎぬ着せちまえばいい」


「恋ちゃんの能力は、どのみち上層部に目をつけられるのも時間の問題だっただよ。頼まれる前に自分から協力しといた方がシロを偽装できる。誰かに濡衣着せるのは論外、その誰かを裁くにはまず恋ちゃんをはっきりシロと断定しなきゃいけないから、かえって恋ちゃん自身がめちゃくちゃ調べられる羽目になるだよ」


 うぐ、と閉口する竜秋に、閃は「実際、竜秋くんがそう思ってるなら、恋ちゃんの行動はシロでもクロでもメリットがあるものだったってことだよ」とトドメを刺した。


「……誤解しないで欲しいのは、恋ちゃんがクロだって決めつけてるわけじゃないってことだよ。ただ現状、犯人が校内の人間じゃないとは全く言い切れない。油断してる竜秋くんたちに、早く教えてあげなきゃと思ってただよ」


「それで、このメンバーが集まったこのタイミングなのね」と沙珱が呟いた。松組殺しのアリバイが証明されているのは、神谷孔鳴が殺された瞬間に仮想空間にいた竜秋と沙珱だけだ。


「……実行犯じゃないにしても、俺と沙珱のどっちかがクロと繋がってる可能性だってあるだろ。今ぶっちゃけてよかったのか?」


 悔しくなって口撃してみたが、閃は「そのために、式部先輩がいる今、ここで話しただよ」とあっさり切り替えした。


「まぁ二人がクロの線は限りなくゼロだと思ってるけど、もしそうなら、近いうちオラは消されるだな。そうなったら、式部先輩はすぐに先生に連絡して、竜秋くんと沙珱ちゃんをとっ捕まえて欲しいだよ」


 今度こそ舌鋒を封じられた竜秋に代わって、伊都は「はーい」と実に物分かりよく笑った。


「すごく頭が切れるんですね、相宮くん。この二ヶ月半、さぞ辛かったでしょう」


 閃は一瞬ハッとした顔になって、髪をいじりながらはにかんだ。


「いやぁ、はは……確かにちょっと、辛かっただよ。オラ、みんなのこと大好きだから。この中の誰かが殺人鬼かもしれないなんて、ずっと疑いながら過ごすのは……」


 わずかに声が潤んだところで、閃は唇を結んで鼻をすすった。


 竜秋と沙珱すら完全に信用はできない状況だったから、閃は誰にも相談できずに、この二ヶ月半を過ごしてきたのだ。全員を疑うとなれば、隠密ドローン持ちの一査を警戒してなにもできない。


 伊都がいて、他の連中も集団行動で自由に動けないこのタイミングは、千載一遇だったのだ。


「悪かった」と口にした竜秋に、閃は「へっ」と耳を疑うような表情になった。


「正直もう、あの事件から勝手に頭切り替えてた。お前は一人だけ頭が回りすぎるから、一人でずっと悩ませちまって……あー……だから……あれだ、もうこれからは、俺たちがいるんだから。肩の力抜きたくなった俺のとこに来りゃいい。目の届くとこにいさえすりゃ、なにがあっても守ってやるからよ」


 気恥ずかしくなって目をそらしながら言いつつ、反応がないのでチラッと見てみると――閃の長い前髪の奥から、はらりと一筋の涙が伝って、ギョッとした。


「なっ、なに泣いてんだ!? 拭けっ!」


 テーブルの紙ナプキンを数枚とって渡してやると、閃はそれでチーンッと鼻をかんだ。


「私からも、ごめんなさい。これからはなんでも頼ってほしい」


 沙珱が言葉を重ねると、せっかく落ち着きかけていた閃の顔がまた歪んだ。


「あ、ありがとうだよ、二人ともぉ……」


 泣き出した閃にあたふたする竜秋と沙珱を、伊都が微笑んで見つめていた。





「沙珱ってさぁ、やっぱり竜秋くんのこと好きなのかなぁ?」


 派手なチェリーピンクの髪をやや不安げにいじりながら、桃春恋が言い出した。


「どう思う?」と問われて、隣を歩く爽司が「さーねー」とテキトーに返事をする。


 竜秋たちと別れた恋たち七名は、現在原宿の竹下通りを歩いていた。手にそれぞれストローが刺さった甘いドリンクを持ってブラブラしているところである。目移りしてあちこち寄り道するヒューと小町があっという間にはぐれてしまったのにも気づかず、恋と爽司の失恋コンビはすたすた先頭を歩いている。


「校内大会終わったあとからいい感じじゃない? さっきだって、竜秋くんと式部先輩を二人きりにしたくなかったのかもしれないし」


「塔の話聞きたいってのは嘘じゃなかったんだろ?」


「そうだけど、心が読めるわけじゃないし。塔の話が聞きたいのもホントで、プラス二人きりにしたくないってのもあるかもじゃん」


「そんなに気になるなら、沙珱チャンに聞いてみたら? たっつんのこと好きなのってー」


「するわけないでしょ。あたしの場合、ただの質問が尋問になんの。友達にそんなマネできるか」


「そんな能力持ってて、未だ色恋に懲りてねーなんて尊敬する」


「竜秋くんは別! 彼は、ウソ言わないんだもん」


 まるで脈がないにもかかわらず、意中の彼の顔を思い浮かべたか口元を緩ませる恋を横目に、はぁ、と爽司が盛大なため息をついた。「どいつもこいつもたっつんたっつん。オレの気持ちにもなってほしいぜ」


「たいして傷ついてもないくせに」


「あり? やっぱ心読めるじゃん」


「読めないわよ、あんたは特に」今度は恋がため息をついた。


「……あの二人、なんだかんだ仲いい? のかな」


 少し後ろを歩くひばりが小首をかしげると、隣で幸永が苦笑する。


「なんだろう、こういうとき自然とあの二人になってるよね。お互いぜんぜん楽しそうにしないけど、なんとなく波長が合ってるのかな」


「並んでいる後ろ姿は、意外とお似合いだな」と一査もメガネをかけ直す。


 背後から級友たちに生暖かい目で見られているとは知らず、恋と爽司はつまらなそうな顔で同時にミルクティーをすすりながら歩く。


「つーか、そっちこそ色んな女子と遊んでるみたいだけど、なに考えてんの?」


「別にー? 男子とも遊んでるよ、同じくらい。色んなやつと遊んだほうが楽しいじゃん? 式部先輩ともお近づきになりたかったなー」


「節操のないヤツ」


「オレは可愛い女子が好きなの、シンプルに。あんたはどう? たっつんは無理ぽだからオレにしとかね?」


「有り得ねー。だってウソばっかりじゃん、あんた。ペラペラすぎてそのうち風に飛ばされそうよ」


「だよねー」


 一瞬、自虐的に爽司が笑った。

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