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デスマッチ-1

 開戦しても、ジャングルは静かだった。正確な位置は公表されていないが、クラス単位で等間隔に、ある程度離れた位置にそれぞれ転送させられたという話だったから、そういきなり正面戦闘にはならない。


「今のうちに作戦立てるぞ。閃」


「はいだよ」


 ジャングルの中にぽっかり空いた更地の中央に集合して、桜クラスの九人が頭を突き合わせる。閃が頭をひねっている間に、一人その輪から外れて早くも茂みに入ろうとしている人間がいた。


「うおおい、どこいくの白夜ちゃん!?」


 爽司が犬のごとく追いかけて、手もみしながら白夜に並走する。


「私のことは気にしないで。ポイントを稼いでくるだけだから」


「いやいやっ、一人は危ないってぇ! 今閃ちんが作戦立ててるとこだからさ!」


「ごめんなさい」


「謝ることないよ!? ほらそよ風! どう、気持ちいい!?」


 絵面は完全に少女とナンパ師だ。爽司に見向きもせずに白夜はスタスタ足を動かし、ついに根負けした爽司を振り切って茂みに消えてしまった。


「ちっくしょぉぉぉ、やっぱりこうなるか! 貴重な戦力が早速一人お散歩を始めたぜ!?」


「大丈夫だぁよ爽司くん」


 輪の中心でそう言った閃の正面には、薄氷のような二次元ディスプレイが浮かんでいる。黒沼が言っていた《パネル》――この仮想世界で使用できる機能の一つだ。閃のパネルには、このジャングルの全容らしき円形の大地が描かれた、オープンワールドゲームのマップ画面のようなものが映し出されていた。


 大地の南端を除いてマップの大地は濃い霧に覆われており、唯一開放されている南端には、一つの青い点と、九つの黄色い点が明滅している。


「この青い点が自分、黄色い点がどうやら仲間を示すアイコンだぁよ。一つ、少しずつ北へ離れていってるのが白夜さんのだ。こうやってどこにいるかは把握できるから、ひとまず好きにさせるだよ」


「すげーっ! それどうやって開いた!?」


「あとで色々教えるだよ。ほら、ここ見るだ。白夜さんが歩いた周囲の霧が晴れていくだよ。仲間の誰かが踏破すると、マップデータが解放されていく仕組みみたいだなぁ。そういう意味でも、白夜さんの単独行動は悪いことばかりじゃないだよ」


 閃の言うとおり、彼のマップ上でずんずん北上していく白夜のアイコンが、マップにかかる霧を晴らしていく。開放されたマップは、拡大するとおおよその地形を把握することができた。それだけで多少のアドバンテージにはなる。


「あっ!」


 恋が不意に大きな声を出した。北上する白夜のアイコンの前方に、突然三つの"赤い"点が出現したのだ。


「これ、もしかして敵か!?」


「やばいやんかぁ!? 助けにいかんと!」


 慌てて立ち上がりかけた一同が、白夜を追って茂みに突っ込む間もなく――


『桜クラスの白夜沙珱が、梅クラスの佐藤泰生、鈴木杏、高橋幸洋を撃破。ボーナス三倍、桜クラスに『27』ポイントが入ります』


 ジャングル全域が、戦慄で揺れるようだった。


 竜秋たちの内耳に、明るいファンファーレのようなものが短く響いて、視界の端に一瞬『0』の数字が飛び出したかと思うと、カタカタカタッと軽快な音を鳴らしてあっという間に『27』まで膨れ上がって、消えた。


「……す……すげええええええええええ!!」


「沙珱ちゃんすごいっ、いきなり一位やんかぁ!!」


 有頂天になって飛び上がり、ハイタッチする爽司と小町。一方閃は、顔をほころばせながらも一番に現状の把握を優先していた。


「もう交戦なんて、早すぎるだよ。どう思うだか、竜秋くん」


「そうだな、俺は……」


「梅クラスのメンバーに索敵や高速移動できる能力者がいたんだと思うだよ」


「聞いといて自己完結すんなクソが!!」


「ああっ、ごめんだよ、聞いてる間に思いついちゃっただよ!」


 慌てて謝る閃の髪がもさもさ揺れる。頭の回転が速すぎるのも考えものだ。しかし竜秋も、考えられるのはそれぐらいだと思った。互いの拠点はある程度離れているという話だったからだ。


「どうやら仲間が敵を視認すると、一時的に敵のアイコンがマップ上に表示されるみたいだぁよ。黒沼先生は松クラス相手には『全力で逃げろ』って言ってただな。逃走が現実的な選択肢として成立するってことだから、見失ったら敵アイコンも消えるとか、そんな仕様だと思うだ」


「三つ現れて全部消えたってことは、残さず全滅させたんだろうな。死んだやつの能力なんて予測するだけ時間の無駄だ、話を切り替えるぞ」


「そうだなぁ。索敵にしろ高速移動にしろ、生きていたとしたら厄介な存在だっただよ。白夜さんが落としてくれて助かっただ」


 竜秋と閃が口に出して状況を確認し合い、すり合わせていく。それを残り七人が感心しながら黙って見守るという、いつもの構図だった。


「これからどうする」


「とりあえず、今のアナウンスで、オラたちは一気に警戒される存在になったと思うだよ」


 閃が前髪に隠れた両目で一同をぐるりと見回すと、桜クラスの面々に緊張が走る。


「特に白夜さんのことは、探し出して複数で確実に仕留めようと思うはずだよ」


「じゃあ、助けに行かなきゃ!」


「いや、とりあえずっとくだよ」


 幸永の言葉を閃があっさり否定する。


「えっ、ちょっと待ってや、沙珱ちゃんのこと見捨てるん!?」


「そうは言ってないだよ。でも追いかけたところで、爽司くんが引き留められなかった彼女と建設的な会話をするのは難しいだよ。幸いなことに、彼女はめちゃくちゃ強いだ。佐倉先生といい勝負するぐらいだから、梅にも竹にも簡単にはやられないだよ。白夜さんは好きにさせて、彼女を尖兵として――オラたちは、彼女を狙って手薄になった敵の残存兵力を、すり潰していくだよ」

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