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校内大会-2

『えー……ただいまより塔伐科大学附属高等学校東京校、第二十四回校内大会を開催します……生徒の皆さんは昨晩ゆっくり眠れたでしょうか、ちなみにこの準備で私は一週間寝ていません』


 学園雑務主任黒沼による、世界一盛り上がりにくい開会宣言で幕を開けた校内大会。一学年の全生徒は、入学初日同様に講堂ホールに集められていた。一つだけ前と違うのは、今度はクラスごとにまとまって座っていることだ。


「校内大会って、てっきり体育祭みたいな感じかと思ってたけど」


「外じゃなくて講堂ホール集合って……ここでなにすんの?」


 口々につぶやく生徒たちの疑問に答えるように、黒沼がクマだらけの目を見開く。


『これだけの人数に外で暴れられては敷地内がめちゃくちゃになりますし、普通に死人が出ます。よって――皆さんには、少し移動していただきます。座席の下に置かれた箱を開封してください』


 言われて竜秋は、座席の下から黒い強化ダンボール箱を引き出して足元に持ってきた。箱の上面中央部でエメラルド色に光るボタンに触れると、強化ダンボールが紙細工のサイコロみたいにバラけて開き、中身があらわになる。


「なんだ、これ……」


 黒い、フルフェイスのヘルメットのようだった。バイク用にしてはゴツくて物々しい。側面にいくつかの細かいスイッチがついていて、何かの機械のようでもある。


『そちらは私から君たちへのプレゼントです。《DIVER》――これから先の大規模訓練では欠かせないものですから、なくさないように。……さぁ、つべこべ言わず被ってみてください。口で言うより早いんで』


 周囲がためらう中、竜秋はいの一番に、そいつに頭を突っ込んだ。


 奥まで装着すると、半透明のフェイスガードが自動で降りて顎までを覆い、外の音が籠もる。一瞬の静寂――


『学生証を認識しました。一年桜組、たつみ竜秋。転送を開始します』


 耳元で機械的なアナウンスが流れた途端、竜秋の目の奥で七色の閃光が弾けた。色彩が混ざり、視界が真っ白に染まる。意識が飛翔して、急降下する――



「……マジか」



 蒸し暑い大密林のど真ん中で、竜秋はぽかんと立ち尽くしていた。


 意識が薄れてから、僅か数秒後の出来事である。目を開けると密林に立っていた。正確には鬱蒼と茂るジャングルに一点、竜秋の立っている周囲だけがぽっかり、樹海をくり抜いたような更地になっている。見上げれば、背の高い熱帯樹に囲まれて青空が狭く、丸く象られていた。


 ほどなくして、その更地の中に、光とともに桜クラスのメンバーが続々と現れ始めた。他クラスの一年生の姿はない。


「えええええええっ、どこだよここ!? あぁっ、皆いる!」


「ジャングル、だよね……? 春なのにこの暑さ、まさか外国……?」


 幸永が汗を拭ったその時だった。


『――全員のダイブが完了したようです。皆さん、気分はどうですか』


 天から降り注ぐように黒沼の声がして、竜秋たちは一様にギョッと空を見上げた。


『ここは外国ではありません。科学技術と【塔】の財宝の融合によって完成した、現実に等しい没入感の"仮想世界"です。皆さんの体も仮初のアバター、本体はこちらの講堂で眠っています』


「か、仮想世界ぃ!?」


 爽司が頓狂な声を上げるのも全く無理はない。二十一世紀も半ばを超えた昨今、仮想空間を創造する技術自体はもう珍しいものではなくなったが――今、ここにいる感覚は、家庭に普及しているようなフルダイブ型VRゲームの没入体験とは比べ物にならない。


 呼吸するたび肺が膨らむ。蒸し暑さで汗が滴る。試しに手の甲をつねると、鋭く痛い。全身のあらゆる感覚が、「ここは現実だ」と言っている。


『これから先、学園内での戦闘訓練はほとんど《DIVER》を用いた仮想空間内で行います。この校内大会で、仮想空間での戦闘に少しずつ慣れてください。……それでは、本題。今大会のルールを説明します』

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