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一致団結、桜クラス-1

 食事を終え、五人と別れた竜秋は、これから三年間世話になる自室と初めて対面した。六畳一間のワンルーム。ベッドにテレビ、一通りの家電も揃って、バス・トイレ別。学生寮にしては贅沢すぎる部屋だ。


 竜秋は制服からスポーツウェアに着替え、外に出て、習慣化している鍛錬を始めた。自重トレーニング、シャドー、素振り、ランニング、ダッシュ、瞑想――明日からは自由利用できるという訓練室を試してみる予定だ。


 部屋に戻ってシャワーを浴び、髪を半分ほど乾かしてからベランダに出た。


 竜秋の部屋は七階だ。風呂上がりの肌に夜風が心地いい。夜の学園は全く違う場所みたいだった。暗闇に沈むキャンパスを眺めながら、回顧する。


 想像以上に、濃い一日だった。初日からいくつも目標が生まれたし、そのためのアクションプランも頭の中で無秩序に湧いていて、整理できていない。


 それに加えて、色んな人間と知り合った。一人ひとりの顔が、妙に頭の裏っかわに貼りついて落とせない。


 ガラガラ、と隣の部屋の窓が開いて、隣の住人がベランダに出てきた。


「あれ? たっつんも黄昏れタイム? オレもオレもー、奇遇ね」


「常磐……」


 部屋着菅の爽司が人好きのする笑顔で近づいてくる。まさか隣の部屋だったとは。互いのベランダは柵で囲われているが、その間隔は一メートル程度。その気になれば飛び越えられる距離だ。


「たっつんのおかげで楽しかったわ、初日から」


「……お前を楽しませた記憶がねえ」


「だっておもしれーもん、たっつん。……見てたぜ、さっき、外走ってたろ。すげーな、あれ毎日やってんの?」


「今日は軽めだ」


「ストイックだねぇ。あのさ……オレ、たっつんと仲良くなりたくて今日も色々絡んだし、ウザかったと思うんだよね」


 なんだ、自覚があったのか。驚いて爽司を見つめると、彼は涼しい夜風に茶髪を揺らして、どこか切なげに外を眺めている。


「オレはさー、ぶっちゃけ桜クラスのままでもいいんだ。自慢じゃないけど、どんな環境でも誰とでも、それなりに楽しくやれちゃう自信だけはあんの。……でも、他のみんなは違う。佐倉先生に【塔】に行かせないって言われた途端、みんな目の色変えて佐倉先生にかかっていった。違うな、って思ったんだよ。オレとは違う。みんなすげー、かっこいい。……だからさ、みんながいなくなっちゃうのは寂しいけど、みんなの夢が叶ってほしいって思うんだ」


 爽司はやけに真剣な顔で竜秋を見た。


「頼む。みんなを松クラスへ連れて行ってやってくれ。たっつんの力が必要だ」


 思わぬ眼光の強さに、竜秋も反射的に居住まいを正した。


「お前……自己紹介のときもカードのときも、他にも端末奪ってグループ入れたりとか……なにかと俺をあいつらと関わらせようと働きかけてたの、それでかよ」


「うん。仮にたっつんが一抜けしちゃったら、他のやつらで佐倉先生に勝てる可能性がぐっと下がると思った。一人で戦いたいんだろうなってのは、伝わってる。でもこのとおりだ。みんなと一緒に佐倉先生に挑んでほしい」


「そこにお前は入らねえってか?」


「オレの異能バベルじゃなんの役にも立てないからさ。オレまで連れて行ってくれなんて、虫のいいことは言わないよ」


 知り合ったばかりの友のために、ここまでプライドを捨てられるのか。竜秋には全く理解ができなかった。だからこそ、心が震えた。こいつもだ――俺にできないことを、平然とやってのけやがる。


「……俺が、他人と連携? 無理だな。自分の思い通りに動かねえ味方はいるだけ邪魔だ。苛つくだけだし、自分の戦いに集中できねえ」


「そこをなんとかさ……」



「――けど、お前がいるなら、できるかもな」



「え?」


 耳を疑うような顔で、爽司が聞き返す。


「俺と他八人の橋渡しから、俺が誰かと揉めた場合の仲裁、火消し、場の和やかしまで。集団行動において俺がわずらわしいと思うもん――お前が、全部やれ。"お前は向いてる"。だから、"任せる"」


 そんな台詞、生まれて初めて吐いた。なんだろう、悔しいし、自力解決を放棄した自分に腹が立つ。でも肩の荷がすっと降りたような……身軽な気分だ。


「それって……」


「いちいち言わせんな。――お前も入れた、十人で。佐倉を倒すぞ」


 強風が二人の間を吹き荒れた。こうして、竜秋のアクションプランは固まった。



『校内大会の概要は、"クラス対抗"の闘技大会です――』



 カフェで伊都は、二週間後にあるという校内大会をそう形容した。クラス対抗……あれを聞いた段階で、竜秋の頭では、個ではなく、桜クラスの連中と協力して戦う必要性を考慮し始めていた。


 二週間で佐倉を倒すのは至難。そうなれば、竜秋は桜クラスの一員として校内大会に臨まなければならない。上級異能(バベル)の使い手が集まるであろう松や竹を相手に、クラスメイトの協力なくして結果を残せるとは流石に考えにくかった。


「なんか……朝とだいぶ雰囲気変わったな、たっつん」


「俺は変わらねえよ。変えたのは手段だ」


 ぶっきらぼうに言い切る。そう、常に変えるべきは、自分ではなく手段。


 協力して佐倉に挑む過程は、クラス内の連携を高める上で合理的だ。結果的に佐倉を倒せたならば御の字。状況的に、佐倉との一騎打ちにこだわっている場合ではないと判断したまで。


「これであとは、あの子一人だな」


白夜びゃくやのことか。佐倉が、あいつ一人に傷をつけられたって言ってたな」


「そうそう! オレ見てたんだよ! なんせ戦いに参戦せず逃げ回ってたからね!」


 全く自慢にならないことを誇らしげに。


「他のみんなが全員気絶させられて、あとオレと白夜ちゃんだけってところで、彼女が自分の異能バベルを発動させてさ。――あの子、ヤバいよ。佐倉先生の見えないバリア、異能バベルでぶった斬っちまったんだから」

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