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Color 2 花菖蒲(2)
守護と亜姫が暮らす、なのめ商店街の歴史は古く、親子三代で続いている店も珍しくない。
大型商店よりも古びた小店舗が多く、長い年月をかけて集積した店の種類は多岐にわたる。
駅を始点に伸びた、錆や色褪せが目立つアーケードに吊り看板。
特に大通りは、夕方にもなれば夕飯の支度をする買い物客の活気に溢れ、賑わうのだが、守護と亜姫が着いた頃にはもう、店仕舞いを終えた店舗がほとんどで、シャッターの下りた通りはひどくガランとした印象を覚える。
その大通りに面した、コンクリート造りの喫茶店『Lemon pop』と、その左隣に建つ木造建ての文房具店『河元文房具店』。
共に二階建てで、営業時間を終えた両店は、一階の明かりを落とし、静かに佇んでいる。
守護と亜姫は互いに、それぞれの家の前で足を止めた。
「じゃあね~守護」
亜姫は、滑りの悪い木製の雨戸を慣れた手つきでこじ開けると、笑顔で手を振り、守護はそれに、おう、と一言だけ素っ気なく返した。
いつもと同じ別れの挨拶。また明日、会う為の言葉。
それは、やっと戻ってきた二人の日常の一部だった。