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ディメンション-Dimension-  作者: みなとたぬき
4/16

Color 1 始まりの光(4)

「数増えてる数増えてるっ!! なんで~っ!?」

半べそをかきながら亜姫は叫ぶ。

「うっせえっ!! んなこと、オレの方が知りてえ!!」

守護は怒鳴り返した。

化け物は二人が通り過ぎた後、地面や壁に落ちる影の中から次々と暇なく湧き出してくる。

始めは緩慢な動きなのだが、動き始めると徐々にその動きは滑らかになり、追ってくるスピードは恐ろしく速い。

気がつくと辺りは空き地の目立つ、町の外れになっていた。

「守護、こっち!」

突然、亜姫が走りながら指を差した方向。その先にあるのは、扉の外れかけた古びた門扉。

「おばけ屋敷? 何かいい手があるのか!?」

「なんとかなる……気がする!」

亜姫は後半だけ妙に自信のある声で、走りながら小さくガッツポーズを作り、守護は思わずがっくりと肩を落とした。

「どこからそんな自信がくるんだてめえは!!」

いくら長年の付き合いでも、こればかりは守護にも理解できないが、亜姫の勘は昔からよく当たる。


そうこうしている間に別の進路から黒い影の化け物が現れ、否応無く屋敷へ進むしか選択肢が無くなってしまう。

守護は小さく舌打ちした。

「なんとかならなかったら承知しねーぞ!!」

守護と亜姫は息を止めて一気に加速すると、壊れた門扉の隙間から屋敷の敷地へ飛びこむ。

飛び込むと同時に、守護はすぐさま振り返って背後を確認した。

つい先刻まで、背後に迫っていた黒い影の化け物たちの姿はまさに影も形も無く、追ってくる気配はない。

二人は安心して、今までの緊張を全て吐き出すように大きく息をつくと、亜姫は息も絶え絶えにその場に座り込んだ。

「ね~。な……なんとか、なったでしょ~……」

「そ、そうだな……」

えへへ、と弱々しくも少し誇らしげに笑う亜姫の隣で、守護も肩で息をしながら答える。

汗ばむ熱い体に風を送るため、シャツの襟に指をかけながら、守護は久しぶりに来た屋敷の庭へ踏み込み、辺りを見回した。


背の低い草で覆われた、荒れ放題の庭。雨と埃で薄汚れた窓ガラス。一部が風化したレンガの塀や壁。

この場所はまるで時間が止まっているように、記憶と寸分も変わらず不思議と落ち着く空気を湛えている。

「何だったんだよ、さっきの黒い奴らは……」

幼い頃にはもっと大きく見えた屋敷の見上げた守護は、ふと屋敷の屋根の上で何かが動いたような気がして、目を凝らした。

そして、それを視認した瞬間、一歩後ずさる。

どうしたの? と、亜姫は小さく首を傾げた。

「亜姫……立てるか?」

守護は乾いてくる口を必死で開き、声を振り絞る。

「え?」

呑気に聞き返す亜姫に、守護は屋根の方へなるべく顔を向けたまま、視線をだけを向ける。

しかしそこへ、すすすす、と黒い布のような影が地面を滑り、亜姫の死角から近づいているのが見えた。

「早く立て!」

守護は咄嗟に手を伸ばした。


しかし、その瞬間に地面を滑っていた影が急激に伸びあがり、獲物を丸呑みにするように、一瞬で亜姫の姿を包み隠す。

「亜姫っ!」

守護は咄嗟に、亜姫を包み込み、ぐにゃぐにゃと歪む黒い影を殴りつけたが、手ごたえの感じられない奇妙な弾力と、焼け付くような痛みに似た冷たさに阻まれる。

その守護の背後で、屋根は悲痛な叫び声にも似た軋みを上げ、巨大な黒い塊が大きく跳躍した。

その巨大な黒い塊が守護の背後に着地すると、重く低い地響きと共に、砂埃が舞い、衝撃でバランスを崩しかけた守護は転びそうになるがなんとか踏み止まって、振り返る。

今まで追ってきた黒い影の姿はまだ人間に近かったが、その巨体は違った。

ゆうに三メートルはある体長。動きは俊敏そうには見えないが、丸太ほど太く長い腕を持て余すように地面に引き摺り、足は太くて短い。

その身体の上に乗った、前に突き出た鼻や二本の角を持つ面長な顔は、どこか牛と似ている。

黄色く爛々と光る目だけが、他の黒い影の化け物との唯一の共通点だった。

巨大な黒い影の化け物が狙いを定めるように両手を組み、ハンマーのように振り上げる。


「おいおいおい……!!」

空気を切り裂くように生み出された風圧と轟音。

考えるよりも先に身体が動いた。重力のままに振り下ろされた拳を、守護は間一髪で横っ飛びに避ける。

「あ、危ねー……!」

巨大な黒い影の化け物は地面にめり込んだ両手を持ち上げ、緩慢な動きで守護の方へ向き直った。

守護は、巨大な黒い影の化け物の脇から亜姫の方面を伺う。

しかし、亜姫を包み込む影は球状に落ち着いて、全く動かなくなっている。

その内側にいる亜姫が、無事なのかどうかすら分からず、目の前にいる巨大な化け物にも、拳一つで立ち向かえるとも思えない。

一振りの枝や手頃な石一つすら落ちていないこの庭で、武器に出来そうなものは無い。視線を泳がせていると、ほんの一瞬、注意が逸れた。


その隙を狙った巨大な拳が真正面から襲いかかり、その勢いで吹っ飛ばされた守護は背後の塀に背中と後頭部をしたたか打ちつけた。

一瞬の鋭い痛みと、身体の奥から遅れて響く鈍い痛みが混ざり合い、息が詰まって何度も咳き込んだ。

そして、その痛みは意識と共に徐々に鈍くなり、視界が暗く霞む。

耳元で、脆く砕けやすくなった塀の一部が剥がれ落ち、乾いた音を立て、ずしりずしりと地面を揺らしながら、化け物は腕を引き摺るようにして近づいてくる。

「何だってんだよチクショウ……」

呻き声にしかならない悪態をついた守護の意識は、張り詰めた糸が切ったようにプツリと途切れた。


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