Color 1 始まりの光(3)
「何だこれ……?」
雲ひとつない天頂から降り注ぐ、数え切れない、細い光の筋。
黄昏の中をいくつもの光の筋が流れては消えていくその繰り返しは、星の全てが消えてしまうのではないかという焦燥感を覚えさせ、淡い不安が水面に垂らした墨のように広がる。
守護の胸の中で、得体の知れない冷たい感覚が長い眠りから覚めたように、ザワリと騒ぎ出した。それは降り注ぐ光に反応するように、高鳴る心臓の鼓動に乗って全身に広がっていく。
「ねぇ……守護……」
不意に、亜姫に服の裾を引っ張られ、守護は我に返った。
同時に指先にまで行き渡っていた冷たい感覚から解放され、じんわりと熱が戻ってくる。
先ほどの感覚が何だったのかと守護が考える間も無く、亜姫は青ざめ、強張った表情のまま震える指でゆっくりと後ろを指す。
「あれ……」
等間隔に並ぶ電柱や、路上に駐車された車の影。
それが揺らぎ、膨れ上がり、黒い腕が何本も、芽吹く植物のようにじりじりと姿を現した。
形は人間に近いが、影のように黒く、背を丸め、地面スレスレにまで伸びた、異様に長い腕を持つシルエット。
影のような黒い身体と黄色く光る丸い目は獲物を狙う獣のように爛々と光り、手は指の代わりに鋭い鉤爪を供えている。
「いっ……!?」
二人の背筋を冷えたものが走った。
腕や足を引き摺るように、一体の黒い影の化け物が踏み出したことを皮切りに、他の黒い影の化け物もゆっくりと動き始める。
守護の目と、化け物の目が合った。
守護の頬をじっとりとした冷や汗が伝い、胃の腑がすっと真下に落ちるような感覚に襲われる。
生き物としての意思や感情も何も感じられない、ただ戦慄を覚える燐光だけを宿す目。今にも口が開き、舌なめずりをするようにも感じた。
いくら喧嘩っ早い守護でも、立ち向かうべき相手ではないことは直感で分かる。
一歩後ろに退いた亜姫の靴底が地面と擦れる音で、守護の思考回路は動き出した。
理屈抜きで、本能が危険を叫んでいる。
「亜姫っ! 走れっ!!」
「うっ、うん!!」
二人は脇目も振らず一目散に走り出した。