Color 3 石の名前(3)
「上出来ですね」
夢田は静かに微笑むと、守護の斬撃によって剥き出しになったブレイムの黒い核に針を一本打ち込んだ。
「『一輪挿し 皐月』」
夢田がそっと呟くと、突き刺さった針は目も眩むような薄紫の光と共に爆ぜた。それは夜明けの訪れを告げる薄明かりのようでもあり、邪を打ち消す破魔の光の様でもあった。
黒い石は砕かれ、巨人のブレイムの姿も光に包まれて消えていく。
守護は突然の閃光に目を瞬かせながら、ブレイムが包まれていった光に目を細めた。
それは幼き日にどこかで見た、一番古い記憶。心の隅で、自分の生立ちに繋がりがあるのではないかと信じている、真っ白な光の風景に似ている気がした。
「あんた、何者なんだよ」
ブレイムが消え、消えた花火を観終わったように、ふぅと小さく肩をすくめた夢田の横顔に、守護は警戒を緩めることなく尋ねた。
右手の中で散葉はまだ消えず、赤い刃が薄明かりの中で煌めく。
ふふふ、と夢田は細い目を更に細め、守護が警戒していたにも関わらず、ゆっくりと近付くとその髪や服を柔らかい手つきで払う。
「僕は雪村夢田。こことは違う世界から来た者です」
夢田は役者のように優雅な礼をした。
「まさか、こんな小さな島で今日に至る様々な文化が発展したと? 君たちは忘れているだけです。世界を繋ぐ鎖が砕け、数々の世界が闇に呑み込まれたことを」
夢田は守護に向かってにっこりと微笑んだ。
「世界を繋ぐ鎖は光の中に潜んでいます。君ならきっとその片鱗を掴めるはずです。僕たちのお手伝い、よろしくお願いしますね」
「あんの野郎……」
どうやって家に帰ってきたのか記憶がない。
ベッドの上で見慣れた天井を見つめながら、朝日が差し込む自室で守護は低く呻いた。