Color 3 石の名前(2)
守護の動きを見て、夢田は小さく感嘆の息を吐く。
「豪胆というか向こう見ずと言いますか……。普通なら多少は躊躇するものでしょう、この状況」
「うっせーな! とにかくこいつの核になってる黒い石をぶった斬ればいいんだろ?」
「それはそうですけどね」
守護は刀を肩に担いだ。白銀の刃がスラリと光る。
ーーーあー、どうするんだよ。あんなデカブツ。今のお前じゃ斬れねぇぞ。
守護の耳元で散葉が赤い毛先を面倒くさそう揺らしながら囁いた。
「んなこたぁ分かってる」
守護はフンッと鼻を鳴らした。
ブレイムとの戦いにおいて、自分一人の力で退けることも出来ないのは夕方の遭遇時に実感済みだ。
「そもそもこのケンカ自体、オレだけの力じゃ買うことも出来ねえんだ。だから……」
ーーーだから?
守護はポソポソと不本意ながら呟くように言った。
「……力、貸してくれよ。“散葉”」
守護の横にいた散葉は、意地を張ってでも自分一人の力だけで何とかしようとする守護を予想していたのが、予想を裏切る言葉に一瞬ポカンとした。しかし、すぐ、あー……と呟きながら意地の悪い顔を作る。
ーーー俺も暴れ足りないから丁度良いぜ。
散葉の姿は夕刻のように花弁となって崩れ去り、守護が肩に担いだ刀ーーー黒漆塗りの柄から鍔元、刃、刃先へと覆っていく。
「おや」
夢田も守護が持つ刀の異変に気が付いた。そして微笑む。
「呼びましたか。錬願石の名を」
巨人のブレイムが守護につかみ掛かろうと、その巨大な手のひらを掲げ、振り下ろす。
しかし、守護の刀ーーー散葉は錬願石と同じ、鮮やかな赤い光を放つと、振り下ろされた手に差し向かうように大きく振りかぶった。
「『紅陽』!!」
赤い光が刃を包み、覆うと、その光は斬撃となってブレイムの腕を、胴体を、頭を、稲光のように走って叩き斬る。
そしてその光が止む頃には、守護が持つ刀の本当の姿ーーー黒い漆塗りの柄に唾がないまでは同じだが、刀身は夕陽を透かし輝く紅葉のように鮮やかな赤色となっていた。