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ディメンション-Dimension-  作者: みなとたぬき
13/16

Color 2 花菖蒲(6)

―――あー。何してんだ、お前。

赤い髪の男――散葉の呆れたような顔が、闇の中でぼんやりと浮かんで見えた。

―――相手が石を使ってるならこっちも使えよ。石には石。心力を込めろ。オレと取引した時を思い出せよ。

「心力……?」

散葉は、頭をかきながら面倒くさそうに言った。

―――人間で言う、“想い”とか“感情”ってやつ。

守護の目に映る、散葉の姿が霞んだ。同時に、手の中に宿る重み。

―――あ。

何かを思い出したような散葉の声が聞こえたが、構う余裕は無かった。体中を冷えた感覚が駆け巡る。


避けられないようなら、刺さる直前に錬願石の発動を解除して、針は消す。

そう思っていた夢田だったが、針をなぎ払う白銀の刃の閃光。白銀の刃に形を変えた赤い練願石ーーー散葉を手にし、その切っ先を夢田に向けて構え、真っ直ぐに見据える守護を見ると、表情は崩さないまま感嘆の声を漏らす。

「おや、錬願石の名も呼ばずに使いますか」

更に数本の針を投げるが、守護は刀で全て払い落すと夢田に向かって駆けた。

「うおらぁっ!」

力任せに、横にないだ一閃。それを夢田は一歩右に動いただけで守護との間合いを空けると、すかさず、この少年の足元に針を放つ。しかし、守護はそれらを一足で跳び越えると刀を顔の横に構え、突いた。

夢田の黒髪の先が、僅かに切れて宙に飛ぶ。そのまま刀から手を放して拳を固めた守護は、着地した片足を軸に、一気に間合いを詰めるように右拳を繰り出した。投げられた刀は、からからと音を立てて屋敷の玄関先に転がる。

「……けれど、まだまだ」

夢田はボソリと呟くと、重心を落として体勢を屈め、守護の足を払う。


「うっ!」

仰向けに倒れた守護に、夢田は針を握った手を振りおろし、その鼻先で止めた。

息一つ乱すことなく、夢田はにっこりと微笑んだ。

「思ったよりは上々の動きですね。本来なら錬願石と半分ずつ補い出し合う心力も、君一人で負担して発動させている。並大抵の心力では出来ない芸当です」

「錬願石……?」

「僕の花菖蒲や、君の持つ赤い石のことです。……そう睨まないでください」

そう笑って、夢田は針を守護の鼻先から引いた。守護は跳び起きると、次に何が起きてもいいように、この青年から距離を取る。

掴みどころがない青年だが、その佇まいの中から、何か強いものを感じ取れる。同時に、巨大なブレイムを倒した時と同じように、身体中の力が抜けるような疲労感に襲われ、荒い呼吸で肩を揺らしながら、ぐらつきそうになる身体を必死で支えた。


若いなぁ、と眩しそうに呟いてから、夢田は守護の右手を指さす。

「僕相手ならいいですが、ブレイムとの戦闘中に錬願石を手放したら、自殺行為にも等しいですよ。それに君は何も知らない」

ほら、と夢田は守護の右手を指差し、そちらを守護が見ると、刀はいつの間にか赤い石に戻っており、手のひらの中に収まっていた。

「てめぇは本当に一体……」

歯を食いしばり睨みつける守護に、夢田はただ微笑んで、下唇に人差し指をそっと当てた。

「ゆっくりお喋りしたいところですが、どうも奴らに嗅ぎつけられたようで……」

夢田のその言葉と同時に守護の中でザワリとした冷たい感覚が走り、同時に遠くから低い地響きが聞こえた。

夕方、守護たちを追って来た鋭い爪を持つブレイムが数体、先駆けのようにゆらりゆらりと庭の中に現れ、腕をダラリと下げ、肩を揺らして佇んでいる。

「来ますよ」

ブレイムが二人に向かって次々と跳びかかる。爪を振りかざし、獲物をその黄色い目に写す。しかし、夢田はにっこりと微笑むと、一歩前に踏み出した。

「『細雨(ささめ)』」

素早く横に振られた右手から紫の閃光のように針が放たれ、花菖蒲がブレイムの体を貫く。

ブレイムは光に包まれて弾けるように消え、後には針で貫かれた黒い石のようなものが残ったが、それもまた針が刺さった部分から砂のように崩れ、風にさらわれていった。

一瞬だった。夢田は守護に向かってにっこりと笑う。

「先程お話したように、ブレイムは人の心を喰らう。あれらがどんな場所でも人の心の在りかを嗅ぎつけるのは、どんな人間も多かれ少なかれ心力を持ち、その心力に惹きつけられるから。……特に、錬願石の能力者の心力は、他の人間と比べて心力が強い。加えて、錬願石はブレイムを唯一倒す武器。ですから、ブレイムは錬願石の能力者を狙う習性があります。より強い心力を宿す心を喰らい、自らに害をなす者を排除するために」

低い地響きは次第に大きくなり、ゆっくりと近づいてくる。館を囲う石垣はその巨体に呆気なく破られ、守護は近づいてくる地響きの主を見上げた。


館と高さの変わらぬ体躯、乱れた髪、ぞろりと並ぶ青い歯、片手に握られた棍棒。爛々と光る黄色い目玉に感情はなく、ブレイムの足元に影はない。しかし、その代わりに鋭い爪を持った――夕方、守護と亜姫を追って来たものと同じブレイムが三体、巨人につき従う。そのブレイムにも、地に落ちる影は存在しない。

やれやれ、と夢田は肩をすくめてため息をついた。

「大型のブレイムは苦手なんですけどね」

巨人の目が守護と夢田の姿を捉え、棍棒を握った腕が動く。

「来ますよ」

夢田が言うとほぼ同時に、巨人の腕が高々と上がり、二人のいる玄関先へ振り下ろされた。

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