Color 2 花菖蒲(4)
「結局、何なんだよ。これ」
風呂上りの髪はまだ湿ったままだったが、守護は赤い石を手にして、ベッドの上へ仰向けに寝転がった。
あの、赤い髪の男――散葉。あの男が、黒い柄の刀に姿を変えたことは、しっかりと覚えている。そして、その赤い刀で影のような化け物――ブレイムを倒したことも。
しかし、今この手の中にあるものは何の変哲もない、ただの赤い石だ。しかも、半分に割れているような完全とは言いがたい不格好な形。
電灯の明かりが石を通って赤い色となり、守護の顔を照らす。
「くそっ!」
守護は石を思いっきり、天井に投げつけた。しかし、石は天井に当たると跳ね返り、守護の腹の上に落ちてくる。
「てっ……!」
ムシャクシャとしたやり場のない感情が、守護の中で渦を巻いていた。
刀を手にした時、ブレイムを倒した時、まるで、何かを変えられるような気がした。自分の知る世界が、変わるような高揚感。だが目覚めてみると、巨大なブレイムが地面に残した拳の跡も、体の痛みも嘘のように消えていた。
守護はもう一度、石を手にした。手の中で転がし、角度を変えて眺めているうちに突如、ブレイムと対峙した時に感じた、あのザワリとした冷たい感覚が体中を駆け抜け、反射的に飛び起きた。
しかし、今回は指先まで熱を失っていくことは無く、ここからそう遠くない所に何かがいると、感覚的なものが告げている。まるで、何かが呼んでいるようにも感じた。
「何だ……?」
守護は跳び起き、大通りに面した窓を開け放って乗り出すように顔を出した。大通りを見渡したが、珍しいことに猫一匹いない。気分が悪くなるような、生ぬるい風が頬を掠めていく。
……もう一度、行ってみるか。
『おばけ屋敷』に出向けば、何か答えが見つかるような気がして、守護はそっと部屋を出て玄関から自分の靴を持ってきて履くと、大通りに誰もいないことを確かめた。
「……よし」
そして、窓の縁に足を掛けるとグッと体を乗り出す。
「どっこ行くの~?」
「のわっ!」
隣から気の抜ける声をかけられ拍子抜けした守護は、バランスを崩しかけた。
「あー! 不良だ不良だ~! こんな夜中におうち抜け出して〜」
見ると、亜姫も自身の部屋の窓を開け、窓縁にもたれかかっている。髪は下ろし、その毛先が風に吹かれて揺れる。
亜姫の部屋も大通りに面し、窓を開けて顔を出せば互いに話が出来る。幼い頃はよく窓を開けて話をし、屋根を伝い歩いて部屋の行き来もしていたが、小学校の上級生になった頃には、もうそんなことをしなくなった。
こうやって窓から話をしたのも、ずいぶん久しぶりのことだ。
守護は窓枠に足をかけたまま、むっと表情を険しくした。
「別にいいだろ。……斑と三日月には黙っとけよ」
「はーい。分かった~!」
「声がでけぇ!!」
亜姫は、特に深く尋ねることなく、片手を挙げて返事をした。それを聞いた守護は、慣れたように部屋から飛び降りると大通りに着地する。
「ちゃんと、帰っておいでよ~」
「……おう」
背後から投げかけられた柔らかな声に、守護は少し面倒くさそうに片手を上げた。




