偽物「私とあなた」
「ガシャーン」
真っ二つに割れたそれは、国宝の楽茶碗。
引率の先生が、その場にへたり込む。
修学旅行の最中、友人の背中を押した私が悪いようだ。
少しして、警察がやってきた。
「君、こちらに来てもらえるかな?」
「私?私がやったの?」
何をしたのか、よくわからない。
実感もない。
この夢のようなふわふわした状態が、現実味を持ったのは、警察署についてからだった。
◆◆◆
「ここは、どこですか?」
「警察署の留置所です。あなたは重要参考人になります。」
「今後、どうなるのでしょうか?」
「御実家のある北海道の警察署へ移送されます。」
私は、恐怖で震え出した。
「今日はもう寝なさい。」
◆◆◆
翌朝、留置所で目を覚まし、そのまま北海道まで移送された。
少し警備が緩くなった。
もはや考えている暇はない。
私は、走り出した。
「こら待て、逃げるな。」
後ろから聞こえる声を無視し、何度か細い道を駆け抜け、空き家に入り込んだ。
そこには、先客がいた。
私に似た格好、同じ体格の人物だった。
「私が二人いる。」
ここで、恐ろしい計画が私の頭をよぎった。
◆◆◆
「見つけました。道路で転んでいます。気を失っているようです。」
複数の警察が、私と似た格好をした人物を連れて行った。
私は一人、空き家から一部始終を覗いていた。
「これからどうしよう。」
そこには、誰かの持ち物が置いてあった。
そして私は別人になった。
◆◆◆
3年間、私はあちこちを転々としながらアルバイトをした。
割と幸せな生活が送れそうになった時、私と同じ格好をした人物が目の前に現れた。
「見つけた。もう逃がさない。」
何かで頭を殴られ、私は意識を失った。
◆◆◆
気が付いた時、私は、椅子に座り、目隠しをされ、後ろ手に縛られていた。
「ここは、どこですか?」
「ある廃ビルの地下室です。3年間の苦痛を味わっていただきます。」
私は注射を打たれた。
「食事は点滴で充分ですね。さて、このビルは、明日取り壊されます。」
部屋の電気が消されたようだ。
「私は、あなたとして生きていきます。あなたは、私として死んでください。」
意味が分からなかった。
「さようなら、私。」
◆◆◆
翌朝、工事の音が聞こえた。
「誰か、誰かいないですか!」
私の最後の言葉は、誰にも届くことはなかった。