01 迷宮都市の冒険者ギルド
本日より、第五章の連載を開始します。
月・水・金の隔日投稿となりますが、よろしくお願いします。
「紹介状はありますか?」
大陸中央部にある国境山脈、そこにあるわずかな平地に作られた迷宮都市の町門で、三人は異なる制服に身を包んだ兵士らから追加の身分証明を求められ顔を見合わせた。
「町に入るのに紹介状が必要なのか?」
「聞いてねーけど?」
彼らの返事に、それまではにこやかだった門兵の顔つきが硬化した。
「持ってないんだな?」
「ええ、ありません」
「ならばお前たちの宿は東区だ。まずは冒険者ギルドで説明を受けろ。それが済むまでは他区へと勝手に動き回るなよ」
穏やかな話しぶりが、一転厳しい命令口調となり、門兵は制限付きで町に入ることを許可した。冒険者ギルドで登録が終わるまでは、決められた建物にしか出入りできないと念を押される。そのギルドはどこにあるのかとコウメイがたずねても「入って右手に進めばわかる」との素っ気なさだ。
いつまでも居座るな、邪魔ださっさと行けとばかりに急かされて三人は門をくぐった。
「感じわりー」
「苦労して山登りして着いたらこれかよ」
「声を落とせ、聞こえるぞ」
ふもとの村から山道に入り、五日かかってやっとたどり着いたというのに、歓迎されるどころか邪魔者扱いだ。
町壁の内側にも、異なる制服を着た兵士がずらりと並んでいた。それぞれ制服ごとに集まり、町に入る冒険者らを吟味している。三人も探るような目で見られ、こそこそと何やら評価されているようだ。
「落ち着かねぇ」
「値踏みされてるようだな」
「取り締まりでもやってんのかよー」
コウメイらは兵士たちの前を無言で通り過ぎ、教えられた冒険者ギルドへと向かう。門前の広場を過ぎて兵士らから離れたところで、コウメイが声を潜めてアキラに問うた。
「兵士の制服が三種類ってコトは、国別ってヤツか?」
「だろうな。青地に白がウェルシュタント、草色に黒がヘル・ヘルタントだ。残った黄土色がオルステインだろう」
「さすが国境だな、ピリピリしてらぁ」
「迷宮都市ていうから期待してたのに、なんかショボい町だよなー」
好奇心のままにあちこちに目を向けていたシュウは、期待外れだと肩を落とした。
ダンジョンを目的に集まった冒険者や商人でにぎわう場所を想像していたのに、現実はさびれた灰色の山岳村だ。
道は踏み固められただけの剥き出しの土だし、その両端に建物はあるが、ほとんどは掘っ立て小屋のような粗末なものだ。テントがチラホラと見える様子からも、雰囲気は難民キャンプという印象が強い。
町中にはぽつりぽつりと冒険者らしき者が歩いているが、他には人の姿は見当たらず、大半はテントや建物の中で身を潜めているような気配がした。活気というものが感じられない町だ。
「スタンピード中のハリハルタみてぇだな」
「殺伐とした感じは似ているが、一緒にするな。戦力はこちらが上だぞ」
「閑散としてんのにか?」
「アキラのいうとーり、あっちからすげー闘気を感じるぜー」
シュウが指し示したのは、町の中心部と思われる方角だった。
「もしかして、あそこが迷宮なのか?」
「おそらくな」
粗末な建物群の向こうに見える石造りの立派な楼閣を見つけ、シュウの目が輝いた。
「人が居ねぇのは迷宮に出払ってるからか」
「なー、直接あっち行ったほうが早くねーか?」
「こら、待てって」
楼閣へと身体が方向転換しかかっているシュウの後ろ襟を、コウメイが慌ててつかんだ。
「門に勢揃いしてた兵士を見ただろ、初っぱなから面倒になりそうなことはすんな」
「面倒な場所だと聞いていたが、見た感じ、予想以上に厄介そうな場所だぞ。慎重に行動しろ」
「えー」
「まずは門兵の指示に従って冒険者ギルドだな。そこで情報収集だ」
「せっかくダンジョンがすぐそこにあるのにー」
ちょっと様子を見るだけだと粘るシュウを引きずって、コウメイとアキラは殺伐とした通りを抜け、周辺とは異なるどっしりとした三階建ての冒険者ギルドの扉を叩いたのだった。
+++
建物の外観は立派だったが、内部は閑散としていた。
広いロビーは静まりかえっており、依頼の掲示や買取の相場なども貼られておらず、冒険者の姿もない。三人がロビーに踏み込むと、受付の椅子に座っていた男が、怠そうに顔をあげる。
「こりゃまた、派手なのが来たな。色男とべっぴんと筋肉か」
四角く厳つい輪郭をもじゃもじゃの髭が縁取った顔の中年男は、三人の顔を順番に見て呆れ顔で確認を取る。
「紹介状なしの冒険者か?」
「ああ、門兵にここで説明を受けろって言われてきた」
冒険者証を見せると、男はカウンターを出て三人をロビーのテーブル席に座らせた。
「ホウレンソウのコウメイにアキラにシュウだな。俺はここのギルド長のギーグだ」
「ギルド長自らが受付業務をしているのですか?」
「うちは人手が足りてないんだよ。他には解体と査定のオルソン、金庫番のチェックがいる」
「まあ、暇そうだしなぁ」
「たまたま暇な時間なんだ」
パーティー証を返しながら髭もじゃギーグは彼らの正面に腰をおろした。
「目的は迷宮探索だろうが、残念だが、あんたらは迷宮には入れない」
町に入ったときの兵士らの様子から事態を予想していた二人とは異なり、希望を打ち砕かれたシュウは髭男に噛みつくように説明を求めた。
「何でだよ! 俺は竜と戦うためにここまで来たんだぜ!!」
「ここに来た冒険者はみなそう喚くが、仕方がなかろう、ここは名前のない都市だ」
壁で囲み、便宜上「町」としているが、迷宮都市と呼ばれているここに名前は存在しない。ウェルシュタント、ヘル・ヘルタント、オルステインの三ヵ国の国境の真上に存在するため、名前をつけることができないのだ。
「この場所はな、もともとは洞窟探索を目当てに集まった冒険者の集落だったんだ。それが地底から竜が湧いた途端に、各国が乗り出してきやがってこの状態だ」
迷宮は周囲を壁で囲われ権力によって占拠された。同時に町にも壁が作られ、三つある門は、各国の兵士によって人の出入りが厳しく管理されるようになってしまったのだという。
「成り立ちはハリハルタの町と似てるのに、結果はずいぶんと違うものだなぁ」
「なんだ、お前たちハリハルタで活動経験があるのか?」
コウメイの呟きに、町の説明をしていたギーグは、ホウレンソウに詳しい経歴をたずねた。
「あちこち移動してたから、通過ぐらいはな」
「一週間くらいだったよなー」
腰を据えて活動していたわけではないという言葉から、ギーグは彼らの力量を大雑把に見積もったようだ。
「ハリハルタと異なるのは、こちらは三ヵ国の行政所が置かれているという点だな」
それぞれの国が迷宮の支配権を主張し長く争った結果、現在は三国が公平に占有している状態だ。
「公平?」
「十日交替で探索する国が変わるんだよ」
「よくまあ平和的解決に落ちつきましたね」
「まったくだ。魔核の性質がはっきりしなければ、今でも争いは続いていただろうぜ」
一般的に魔核から湧き出す魔物は、一種類に固定されているものだ。だが地底の魔核から出現する魔物にはそれがなかった。およそ十種類ほどの幻獣が湧くことは確認されているが、そこに規則性はなく、ミノタウロスが連続して出現することもあれば、火竜やサイクロプスにケルベロスといった、他では決して見られない魔物が出現することもある。
「狩る獲物を奪い合ってちゃ儲けにならないだろう、偉い連中が早々に協定を結んだんだ」
迷宮に壁と屋根を作って許可のない者の出入りを禁じ、国家直属の兵士や冒険者らだけが探索を許された。一ヵ月を三分割し、割り当てられた十日間を有効に使い、出現した魔物を討伐する。
「出現する魔物によっては、引き連れた眷属から稀少な素材が取れるんだ。稼げる魔物のときは十日間ギリギリまで倒さずにおくし、ハズレ魔物は速攻で倒して次の魔物の出没を待つ」
「マジでガチャみてぇな仕様なのかよ」
「面白そー」
ギーグの説明を聞いたシュウは、なおさら探索したくてたまらなくなったようだ。
「何とかさー、その探索隊に入りてーよな」
「無理だな」
「……もしかして、紹介状を求められたのは」
「国家が雇い入れる探索者だぞ、敵国の間者に紛れ込まれては困るだろう」
王都発行の紹介状を持った冒険者ですら、一定期間は探索隊の後方で監視下に置かれる徹底ぶりだ。
「俺ら入れねーじゃんっ」
迷宮の底で古代種と呼ばれる魔物と戦うことを楽しみにここまでやってきたシュウは、目に見えて落胆した。肩を落としてうな垂れるシュウに、厳ついギルド職員は「入るだけならできるぞ」と希望を示した。
「ポーターとして、だがな」
「荷運び?」
「そうだ」と頷いた男は、この地に冒険者ギルドが存在する意味を説明しはじめた。
「いくら巨大魔物が迷宮から出てこられないといっても、討伐するのは簡単ではない。損害率は高く、人員は常に不足している。かといって素性の怪しい冒険者をほいほいと雇い入れはできん」
「戦闘中に後ろから斬りつけられてはたまらねぇってことか」
「そうだ。そこで各国は考えた。武器を持たないポーターで人員を水増しすれば良いのではないか、とな」
戦闘要員だけでなく、物資の搬入や怪我人の救護といった、後方支援の役割を果たすポーターも不足している。そこでポーター斡旋のためにこの地に冒険者ギルドが作られたのだ。
「丸腰で戦線かよ」
「盾か、露骨だな」
「まあな、迷宮都市の噂を聞きつけてのこのこやってきた間抜けな冒険者らを取りまとめて、安くこき使ってやろうって算段だ」
「間抜けな冒険者だってよ」
「確かに、のこのこやってきたわけだしな」
二人から向けられた視線に、シュウは「お前らだっておもしろそーって賛成したじゃねーか」と唇を尖らせ睨み返す。
「だがポーターも生き残ればそれなりに認められるようになる。うまく立ち回って討伐隊に正式に組み入れられた連中もいる。お前たちは経験もありそうだし見込みはあるだろう」
髭もじゃギルド長にそう励まされて、シュウの機嫌はあっさりと直った。
現在、このギルドが取りまとめている冒険者らは十九パーティー、約百名ほどである。こちらも人材が不足しており、三人はさっそくポーター登録してくれと頼まれた。即座に了承しようとしたシュウを引き止めて、アキラが「条件次第です」と交渉の前面に立つ。
ポーターの制度はミシェルからの情報にはなかった。ここは魔法使いギルドの諜報も機能していないようだ、行動は慎重にすべきだろうと気を引き締める。
「ポーターとして雇われた場合の報酬、制約などを全て開示いただけますか?」
「もちろんだ。後で話が違うと文句を言われちゃかなわんからな」
ギーグは挑発的なアキラの笑みに、真っ向から返したのだった。
+
冒険者ギルドとの交渉は八の鐘が鳴るまでかかった。
「ここのギルドは三カ国の下請けみてぇだったな」
「独立した組織とは言いがたいだろうな。そもそもの成り立ちも特殊だし、経済的な事情からも仕方ないとは思うが」
ポーター登録手続きを終わらせてギルドを出た三人は、指定された宿へと向かっていた。日暮れ時となり町中に冒険者らの姿を見かけるようになったが、それでも活気があるとは言いがたい。
「ポーターかー」
決定事項を思い出したシュウは、つまらなそうに息を吐いた。
各国から不足しているポーターを補充しろとせっつかれているギルドは、もっとも条件の良いオルステインの探索隊に三人を推薦しようとした。だがアキラはそれをきっぱりと断った。オルステインだけではない、他の国とも専属契約を結ぶつもりはない。
「ウェルシュタントは論外だし、オルステインは内乱を抱えた戦好き、ヘル・ヘルタントは他に比べればましだが、ウェルシュタントと長年にわたって穀物地帯を争っている。アレ・テタルがウェルシュタント国内に存在する以上、敵対する国に所属して面倒になるのはごめんだ」
専属になれば探索隊への勧誘もかかりやすいと説得されたが、迷宮魔物と戦いたいのはシュウ一人だ、多数決は覆らない。
「ボス戦楽しみにしてたのになー」
「ポーターが戦っちゃいけねぇって決まりはねぇんだぜ」
「武器なしでやれっていうのかよー」
ポーターとして探索に参加した場合の報酬は、前金で一人五百ダル、迷宮から戻って残り三千五百ダルの合計四千ダルだけで、探索隊が手に入れた迷宮素材への権利は無い。武器の携帯は禁止されているが、身を守ることは許されているため、魔物が攻撃してくれば当然反撃はできる。
だが素手で反撃なんて状況では、それこそ変身するしかないじゃないかとシュウは不貞腐れている。そんな彼を見て、コウメイはニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
「武器は現地調達って方法があるんだぜ?」
ギーグの話によれば、各探索隊の損害率はかなりのもので、毎回戦闘不能状態の負傷者が複数出ているらしいのだ。誰かが落とした武器は自分が持ち込んだ武器ではない、それを使用したところで罰せられる筋合いではない、とアキラも薄く笑みを浮かべている。
「武器を拾うなとは言われていないし、身を守ることも禁止されていないんだ、拾った物を有効活用しただけでは罪にはならない」
「ギーグさんから教えられたのは、武器の持ち込み禁止ってだけだ。武器は拾ったものだし、襲ってきたから反撃するだけだし、結果的に魔物を屠っても文句言われる筋合いじゃねぇんだし?」
「武器じゃなければ持ち込めるんだから、相応しい獲物はあるだろう?」
各国ともポーターに対してさほど注意を払っていないのか、あるいはポーターごときに大それたことができないとたかをくくっているのか、条件や契約内容の抜け道はいくらでもあった。
「面倒くせーなー」
「国家間の争いに巻き込まれたくない、それくらいは我慢しろ」
三人はフリーのポーターとして各国の探索隊に均等に参加すると決めた。十日ごとに迷宮に入る国が変わるというのだから、十日荷運びをして十日休み、次の十日で別の探索隊で荷運びという具合だ。現在探索中なのはヘル・ヘルタント国だ。三人は三日後のウェルシュタント国の探索からポーターとして活動することになっていた。
「最初の一ヵ月は様子見だ、のんびりいこうぜ」
踏み固められただけの土の道を歩き宿にたどり着いたコウメイたちは、周囲に馴染む古びた建物を見て深くため息をついた。朽ちるまま放置された外装、手にかけた扉はキシキシと音を立てている。全く手入れがされていない外観を見れば、客室も似たようなものだろうと想像できた。
「風呂は諦めるしかなさそうだな」
「それに飯も期待できそうにねぇぜ」
「腹減ってんのになー」
扉を開けたそこは酒場兼食堂だった。奥に宿の受付があり、その脇に客室への階段があるという定番の作りだ。そろそろ夕食時だというのに、客の姿はない。無人のカウンターに置かれているベルを鳴らすと、奥から「少し待て」と野太い声が返った。
改めて食堂を見回したアキラは、ほこりっぽさに顔をしかめた。コウメイもテーブルを撫でた指先についた汚れに呆れかえっている。他人の飯屋、他人の厨房に口を出すつもりはないが、ここで食事を楽しめるとは到底思えなかった。
「待たせたな」と現れた料理人兼宿主が案内したのは、二階の端部屋だ。この宿ではパーティー単位で一部屋を割り当てる決まりらしく、小さな窓が二つある狭い部屋が三人に与えられた寝室だった。よどんだ空気から逃れるように足を速めたアキラは、軋む木窓を大きく開け放ち、外の空気を吸ってほっと息をついた。
「ベッドはない。毛布は物入れの中だ。備品は好きに使ってかまわないが、消耗品は使い切ったら下で買って戻しておくように。迷宮に入る前には一度精算してもらうが、荷物を預かることは可能だ。朝の食事は三の鐘からだ」
視線で「聞きたいことはないか」と問いかける宿主にコウメイがたずねた。
「洗い場は使えるか?」
「そんなものは無い」
「じゃあ風呂や洗濯はどこでするんだよ?」
「中庭の井戸を使え」
アキラは窓から顔を出して中庭を見下ろした。厩舎の近くに滑車式の井戸があり、その脇では冒険者とおぼしき男が手ぬぐいで汗を拭っていた。
「水は貴重だ、無駄に使うなよ」
そう言い残して宿主は部屋を出て行った。
「この毛布、きたねー」
「部屋の大掃除が必要だな、かび臭い」
「土埃で床が白くなってるじゃねぇか」
その部屋は六畳一間に納戸がひとつという狭さで、しかもほとんど掃除されていないのだ、コウメイは苦笑い、アキラは顔をしかめ、シュウはうんざりしていた。
「シュウ、このタライに水汲んできてくれ」
「コウメイがちょいちょいって出せば早いだろー」
「カモフラージュだよ、井戸を使っている様子くらいは見せておきてぇからな」
納戸を物色していたコウメイは、ベッドシーツはかろうじて洗濯済みなのを確かめ安堵した。
アキラが風で室内の土埃を集め、コウメイがぞうきんで床を拭き、シュウは井戸端へと毛布を洗いに向かった。アキラが急速乾燥させた毛布を数枚重ね、それを床に敷いてシーツで包む。何とか体裁を整えた寝床だが、三人で分け合うには小さすぎた。
「シュウはそっちの端っこな」
「何でだよー。背中いてーじゃねーか」
「お前の寝相が一番乱暴だからだ」
「寝返りついでに殴られて青あざ作ったことは忘れてねぇからな」
二人に睨まれたシュウは、視線を逸らし壁際の隅っこに腰をおろした。
「ベッドのある宿に泊まりてーなー」
「同感だ。明日、ギルドで家を借りられねぇか聞いてみようぜ」
「期待薄だと思うが……」
ほんの数鐘の間に、国に属さない、あるいは属せない冒険者に対する扱いは嫌と言うほど聞かされた。底辺よりはマシだが、金があっても好環境を得られないというのは地味にストレスだ。
「さて、そろそろ夕食に下りるか」
「せめて酒が美味けりゃいいんだがなぁ」
「腹減ってるし、食えればいーよ、食えれば」
食堂は外から戻ってきた冒険者らでそれなりに混雑していた。スキンヘッドに頬傷に眼帯。岩のような角張った顔や、目つきの悪さを隠そうともしない表情、そして卑屈に歪んだ口。荒くれと表現するよりも、ゴロツキと言ったほうが相応しいような連中ばかりが顔を揃えている。
「ガラ悪ぃ」
向けられる無遠慮な視線を無視して、三人は空席を探す。隅に見つけたテーブルに腰をおろそうとしたアキラの動きが止まった。座るのを躊躇うほど埃まみれの椅子を前に顔をしかめている。こんなことだろうと持参した手ぬぐいでコウメイが手早く拭き、なんとか我慢して腰をおろす。夕食を頼んだ後も、床やテーブルの埃っぽさから目を逸らすアキラは、必死で表情を取り繕っていた。
「明日は環境改善に最大限努力することにしよう」
「だな。最悪、テント生活でもいいと思うぜ」
埃まみれの食堂で、食器やカトラリーの汚れを気にしながら食べるくらいなら、野営飯の方がどれほど安心で美味だろうか。
岩鳥肉と芋の煮込みと硬い黒パンを胃に押し込み食事を終えた三人は、酒宴で騒がしくなる食堂から逃げるようにして客室へと戻ったのだった。
説明ばかりの第一話になってしまいました…。




