18 黒檀の杖
大通りの魔道具の修繕と魔石補充が終わると、ウナ・パレムの夜は再び明るさを取り戻した。夜空に煌々と輝く灯りを見あげる街の人々は、みな嬉しそうに目を細めている。
「やっぱり街はこうでなくちゃなぁ」
「魔術都市が蘇ったんだ、また前みたいに賑やかになって欲しいよ」
「春に修繕してくれれば、夏の観光客も増えたはずなのにねぇ」
そんな、期待や少しばかりの恨み言を込めて灯りを眺める人々の間をすり抜け、マサユキが閉店時間を過ぎた医薬師ギルドに駆け込んできた。
「遅くなってごめん」
マサユキはギルド長室に入るなり、今日もゆっくりしていられないのだと言った。
「慌ただしいですね」
「領主様の命令で、十五日後にもう一度試用実験をすることに決まったんだ。新しい試作品の製作にすぐに取りかからないと間に合わないからって、凄いことになってるよ」
雑用にしか役に立たない自分がいても仕方がないと思うマサユキだが、所長に居ろと命じられては断り切れない。
「それでマジックバッグの出来はどうでしたか?」
「やっぱり同じで、失敗でもあり成功でもあるってところ。ただ、被害はゼロだったよ」
過去二回の試用実験で多大な損害を出した魔法使いギルドは、今回収納する物を、石ではなく水に変更した。それならば領主にケガをさせることはないだろうとの配慮はうまくゆき、大樽三杯分の水を収納したのち、容量の限界に達したバッグは内側から破裂するように壊れた。その際に水が飛び散ったが、被害は研究室にいた者が頭から水を被っただけだったそうだ。
「領主の立ち会いはどうでしたか?」
「ちょっと揉めたけど、まあ無事に終わったのかな」
予定時間よりも鐘一つ以上早くやってきた領主は、準備ができていないことに腹を立て魔術師たちを怒鳴り散らしていた。
「貴族っていうからもっと上品な感じだと思ってたけど、なんかギラギラしてたなぁ」
衣装は派手だったが、そういう意味のギラギラではなく、顔つきや表情が商人や冒険者によく見る野心的なタイプに似ている、とマサユキは評価していた。
「まだ資金が必要だというのか、とか、投資に見合うものを寄こせ、って所長に詰め寄ってたよ」
七年も大金を投資しているのにそれに見合うだけの結果が出せていない、これ以上の追加投資はしないと宣言する領主に対し、所長は派生発明の魔道具を献上して十分に儲けさせているはずだ、この試作品を見ればその価値が理解できる、と反論し追加投資を迫ったらしい。
「貴族と魔術師の会話じゃねぇな」
「ここの領主は権力も好きだが、金を稼ぐのはもっと大好きでね、マジックバッグにも相当に投資しているようだから、何年も待たされれば苦情くらい言うだろうよ」
儲けた金を領民のために使ってくれれば褒められた領主なんだがな、とサイモンが顔をしかめている。
「領主の反応はどうでした?」
「小さな布鞄に大量の水が入るのを見て、凄く喜んでいたよ」
結果的にマジックバッグの破損で終わったが、試作のたびに容量が増え、収納時間も長くなっていると説明を受けた領主は、完成はそれほど遠くないと確信し、その機嫌はたちどころに良くなった。これまでの資金提供の見返りとして、マジックバッグの販売権は領主が持つことを確約させ、容量は現状のまま、物を入れても崩壊しない試作品を作れと命令して帰っていった。
「それで、ですね」
「なんだね?」
懐から取り出した手紙を、申し訳なさそうに差し出されたサイモンは、ギルド所長からだと聞いて顔をしかめ受け取った。乱暴に封印を破って目を通すと、さらに眉間のしわを深くし唸る。
「何か面倒なことでも?」
「……試用実験に、高貴な身分の方が視察に来る予定がある、治療魔術師として万一に備え参加するように、だそうだ」
高貴な身分の者とは誰なのだとたずねたアキラに、マサユキはフランクと領主の会話をかいつまんで説明した。
「次の試用実験に、王族が視察に来るんだそうです」
「王族ですか?」
名代として高位貴族が来るのではなく、王族が直にやってくるのかとアキラに問われて、マサユキは確かに「王族」と聞いたと頷いた。
「領主様が言うには、マジックバッグの試作品の知らせを聞いて、国に売り込んだらしいです」
これまでの資金援助は、魔道具の独占販売で莫大な利益を上げているカザルタス領主にとっても、危ない投資だったらしい。そろそろ資金の回収が必要だと考えていたところに試作品の知らせだ。利益を確保しつつ、影響力を強めるための地位固めを模索した結果、王族に献上することを決めたらしい。だが王族が直々に視察に訪れることになったのは、領主としても予想外だったらしい。妻子を置いて慌てて戻り、街の整備をはじめ、試作品が確かに報告通りの品質かを確かめにきたのだ。
「領主からも医薬師ギルドに徴集がかかると思います」
万が一王族が負傷した際の治療にあたる役割は、魔法使いギルドではない外部から招いておきたいという思惑だろう。
「領主から正式に命令が下れば、拒否することはできないな」
「私も同行できませんか?」
アキラがグッと身を乗り出してサイモンに頼んだ。マサユキとの関係を表にすることなく、堂々と立ち入り禁止エリアに入るチャンスだ。マジックバッグに施された術式を見ることができれば、ミシェルからの依頼は完了したも同然だ。
「私の助手ということにすれば許可は得られると思うが」
「ぜひお願いします」
「アキラさん、俺の魔術契約書はどうしたら……」
隙を見てそれらしい場所を探しているのだが見つからないとマサユキは焦っていた。
「サイモンさん、隠し場所に心当たりはありませんか?」
「心当たりと言ってもなぁ」
フランクが物を隠しそうな場所など知るはずもないし、ギルド内部の構造もマサユキ以上に知らないので心当たりもアドバイスできない。
「ギルドではなく自宅に隠している可能性は?」
大切なものだからこそ自分の管理下で保管するのではないかとのアキラの疑問に、サイモンは「ありえない」と断言した。
「魔術契約書は魔力の影響を受けやすい。契約内容がより強い魔力によって改編されないよう、魔力を遮蔽する特殊な場所に保管する必要があるのだ」
個人でそのような部屋を持つのは、経済的にも魔力的にも不可能だ、というサイモンの説明よりも、アキラが引っかかったのは別の部分だった。
「契約は魔力で改編できるものなんですか?」
「理論上は可能だ。もの凄く強力な魔力が大量に必要だがね。純度の高い魔石とともに長時間置いておけば、影響されて契約が歪むこともままある」
そう答えたサイモンは、口元を隠すようにして考え込んでいる薬魔術師を見た。彼の魔力なら改編も可能かもしれない、と。
「塔のどこかに魔力を遮蔽するような部屋や、入れ物のようなもの、か」
三人の中では最もギルド内部に詳しいマサユキだが、思い当たる場所も物もなかった。
すぐに研究室に詰めなくてはならないからと、報告を終えアドバイスを得たマサユキは、早々に医薬師ギルドから出て行った。
「アキラ、契約魔術の改編は止めておきなさい」
「……そんな事、考えてもいませんよ」
「では何を深刻に思案していたのかね?」
「魔力を遮断する物に心当たりがあったので……」
アキラは虹魔石を包む布の存在を話した。フランクがそれを使っている可能性は高いのではないかという意見を、サイモンは即座に否定する。
「アレ・テタルの魔布なら、フランクは絶対に取り入れんだろう」
フランクの本部への――いや、ミシェルへの対抗心は天井知らずだ。アレ・テタルで開発された魔道具や素材は、ウナ・パレムでは取り扱わなくなったのも彼女がギルド長に就任してからだ。どれだけ素晴らしい魔道具でも、応用のきく有用な素材であっても、それがアレ・テタル産というだけでフランクは排除する。
「マジックバッグには取り入れているようですが」
「背に腹は代えられなかったということだろう。それだけでも奴の追い詰められっぷりがよくわかるよ」
「プライドが高すぎて損をするタイプですか」
「ミシェル殿に迷惑が掛かってなければよいのだが」
十五日後の試用実験にアキラを同行するのはかまわないが、一つだけ条件があるとサイモンは真剣な表情で言った。
「黒檀の杖を用意しなさい。アキラのそれは少々不味い」
「杖、ですか?」
アキラは腰に下げていた自分の杖を手に取った。師匠とは思いたくない相手から、無理やり押し付けられたものだ。魔力の調整が絶妙で使い勝手が良いため、手放せなくなってしまい嫌々ながらも使わざるを得ない杖だ。
「白級がミノタウロスの杖はやはり不味いですか?」
「不味すぎるな。見る者が見ればアキラの正体がバレてしまうぞ」
「正体なんてたいそうなものはありませんよ」
魔術師証は本物だし、身元の詐称はしていないと苦笑いの彼に、サイモンは呆れ顔で指摘する。
「白級の薬魔術師なら火蜥蜴の牙を使った杖を持つ。ミノタウロスの杖は橙から青級の魔術師の証明だ。それにその魔石」
「これが、何か?」
「紫色の意味くらいわかるだろう」
当たり前のように言われてアキラは眉をしかめた。杖の情報はジョイスに少し教わったくらいで、しっかりとしたスペックは確認していなかった。
「色の意味……とは?」
サイモンは驚きの混じる渋面でアキラをまじまじと見つめると、やはり歪だとため息をついた。
「杖に埋め込む魔石は、所有者の魔力の質と量をあらわすのだよ」
下級魔術師の杖には、自らの魔力の質に似た魔石を探して埋め込む。だが赤級以上の杖には、所有者の魔力に染まる特殊な石が用いられるのだ。魔術師たちが階級を色で区別するのはそこからきていた。つまりアキラの杖は、本来の階級は紫級だが、何かの都合で橙級にいる、と宣言しているようなものだった。
「その杖をフランクに見られたら、面倒なことになるぞ」
あいつは紫級を目の敵にしているからな、とのサイモンの忠告に、アキラは頭を抱えた。魔石の色の意味なんて知らずに使っていた。だが知ってしまえば、この杖は人目のある場所では使えない。ましてや魔法使いギルドでは命取りになる。
「別の杖を調達します」
実のところ、杖がなくても魔法を使うのに不便はないのだが、そこは擬態の一環だ。
しかし現実的な問題として、火蜥蜴はこの辺りに生息していないため牙の入手は難しいし、手に入ったとしても杖に加工するのに時間がかかり過ぎる。魔術師の杖ならば魔法使いギルドの売店で売られているが、まさか買いにゆくわけにも……。困っているアキラに、サイモンが医薬師ギルドの資材庫を探せば何かあるだろうと言った。
「黒檀の杖が……七本もありましたよ」
サイモンの厚意に甘え倉庫を探すと、奥の隅で埃をかぶった状態の黒檀の杖が十本も見つかった。そのうち三本は折れたり割れていて使用不能状態だ。
「魔石をはめこめばいいんですよね?」
「あまり目立つ魔石は止めておきなさい。ゴブリンかオークくらいが丁度いい」
あいにく手持ちにはないので、近々調達に出かけるしかないだろう。コウメイとシュウを誘っての狩りは久しぶりだ。アキラは少しだけ気持ちが躍るのを自覚していた。
+++
「風刃」
アキラの構えた黒檀の杖から、ふわりと風が舞い上がり、刃となって銀狼を襲う。人の頭ほどの風刃は銀狼の腹を切り裂いて消滅した。
「……使いにくいな」
「そうなの? 一発必中だったじゃない?」
「アキが気に入らねぇのは、コントロールか?」
銀狼の死骸を調べていたコウメイが、風刃の切り口を確かめながら指摘した。腹を大きくえぐられた銀狼の毛皮は、査定価値を大きく下げている。
「俺は足を狙ったんだ、胴体を切り裂くつもりはなかった。魔力の通りが悪くて、思い通りに狙えない」
「繊細なのねぇ」
マサユキからは聞いたことのない感想だとケイトは呆れて見ていた。攻撃魔術なんて敵を確実に倒せればよいと思うのだが、アキラはそうではないらしい。このこだわりが魔術師としての成功の一因なのかと妙に納得したケイトだった。
「なー、まだ試し撃ちするのかよ?」
退屈していたシュウが、早く今日の本命を狩りに行こうとせっついた。街の北で出没が確認された青銅大蛇が今日の獲物だ。
「蛇って寒さに弱くなかったか?」
「冬ごもり前の食いだめらしいぜ。夜の間に家畜が何頭か食われたらしい」
「ヤギが丸呑みされたらしーぜ」
「人間の子供くらいなら丸呑みしそうだな」
「ちょっと、やめてよね! 想像しちゃったじゃない」
ブルリと震えた身体を抱えるようにして身をよじったケイトは、研究室に呼び出されたままのマサユキが早く解放されることを祈った。やはりパーティーを組むなら価値観や感覚が同じでなければついてゆけない、と。
青銅大蛇に襲われた村に挨拶をし、家畜小屋周辺を見せてもらった。足跡というのもおかしいが、蛇の痕跡を確かめたコウメイは「三匹だな」と断言した。
「しかも一匹は双尾だぞ」
「そーび?」
「尻尾が二つあるんだよ。頭が複数ある大蛇に魔石と心臓が頭の数あったように、双尾も双頭の可能性も考えておいた方がいい」
「あー、あれか。ヤマタノオロチは強かったよなー」
「あなたたち、伝説級っぽい大蛇と戦闘経験があるわけ?」
「前のパーティーでだけどな」
「あの時は死にかけたよなー。今ならもっと楽に倒せると思うぜ」
そのうち再チャレンジしたいと目を輝かせるシュウに、希少な素材は手に入れておきたいと頷くアキラ、コウメイまでが「全力出し切るにはいい相手だよな」と乗り気で頷いている。
「本当に、止めてくれないかな? 今日の相手は青銅大蛇なんだから。ヤマタノオロチなんて冗談じゃないわよ」
フラグは立てようと思って立つものではないが、この三人は自ら立てに行っている節がある。巻き込まれ回避のためにケイトはフラグの神に「私は無関係です」と繰り返し訴えた。ケイトの訴えが届いたのかはわからないが、足跡をたどって見つけた青銅大蛇の巣にいたのは、普通の大蛇が一匹に、双頭が一匹、そして巨大な頭に目が四つついている双尾の大蛇が一匹だった。
「……楽でいいけど、なんだかなぁ」
ケイトはため息をつきながら、嬉々として大蛇討伐を張り切る面々を眺めていた。シュウは双頭の青銅大蛇の尾をがっしりと掴み、怪力を存分に活かし振り回して周囲の大木に打ち付け弱らせてからとどめを刺したし、コウメイは目で追うのも難しいほどの速い剣さばきで四ツ目を惑わせた隙に、ぶさりとその喉に剣を深々と突き込んで倒してしまった。ノーマルな青銅大蛇を相手にするアキラの支援に入ったケイトだが、不慣れだという割に風刃やウォーターランスや火の矢といった魔術を次々に放って大蛇の生命力を削っていく。ケイトの射た矢など、牽制にもなっていなかったのではないだろうか。
「ケイトさん、喉を狙ってください」
「あ、うん」
アキラのお膳立てで最後のとどめを譲ってもらったが、どうにも納得しきれないケイトだ。
「私が同行する必要なかったよね?」
マサユキが研究室で拘束されている間は、いつもひとりで狩りに出ていたケイトだ。今日は角ウサギか双尾狐あたりを狩るつもりでいたのだが、買取相場を確かめに寄ったギルドで、コウメイらの誘いにのって、青銅大蛇退治に参加してしまった。どう考えても不用な戦力だし、むしろ足手まといになっているとケイトは落ち込んだ。
「私を誘わない方が楽だったんじゃないの?」
「女性一人での狩りなんて放っておけませんよ。冒険者の中には犯罪すれすれの蛮行を平気でする輩もいます。一人で森に入れば、そういう馬鹿どもを呼び寄せるようなものです」
朝の冒険者ギルドで、知り合いに今日は一人だと挨拶していたのも良くなかったと、アキラは厳めしい顔を作って言った。
「ケイトさんの言葉を聞いて、不穏な動きをしていた冒険者が何人かいたんですが、気づいていなかったでしょう?」
「……全然気づかなかった」
冒険者同士のトラブルはたまに耳にしている。もし今日アキラたちに合流しなければ、悪意ある者たちに目をつけられていたかもしれないと思うと、無防備だった己への迂闊さと恐怖に身が震えた。
「気づかせてくれてありがとう」
「どういたしまして。マサユキさんをこちらの都合で振り回していますから、その間の安全くらいは保障しないと申し訳ないですよ」
ケイトは青銅大蛇が事切れたのを確かめてから矢を抜いた。蛇の解体なら抵抗感はほとんどない、役立たずの汚名をここで返上しようとナイフを抜いた彼女の手をアキラが止めた。
「今回は解体しません」
「え、何で?」
「この三匹、このままギルドに持ち込みます」
ロープで大蛇の首を縛り、背負いやすいように荷造りしていたコウメイが、顔をあげてアキラの言葉を補足した。
「青銅大蛇の変種が二匹だぜ、口で報告するよりも実物を見せてギルドに判断を任せた方がいいだろ」
「変種?」
「青銅大蛇の中で一匹だけ違うのなら突然の変異だろうって気にしねぇが、正常な個体よりも変異個体の方が多いのは、ギルドに報告した方がいいんだよ。情報提供には証拠品が必須だからな」
といわれてもケイトにはピンとこなかった。魔物は魔物だ、双頭がいたって不思議はないし、見たことのない魔物はまだまだたくさんいる、何が正常で何が異常なのかよくわからない。
「それに珍しいからこそ、下手に解体して価値を下げる危険は冒せねぇよ」
「高く買い取ってもらえそうかな?」
「皮の面積から計算すれば、結構いい値段になると思うぜ」
三匹の大蛇の荷づくりを変える頃に、シュウが偵察を終えて戻ってきた。村を襲いそうな他の大蛇の巣はなかったが、成長しそうなゴブリンの巣があったので潰してきたと、ズタ袋に入った討伐部位を見せられた。
「ついで、でゴブリン退治とか……つくづく規格外よね、あなたたちって」
呆れなのか感嘆なのかよくわからないため息とともに吐き出されたケイトの呟きに、三人が即座に反応した。
「シュウと同じにしないでくれ。俺は野生のゴリ押しはしねぇよ」
「ひでー、俺は実験とか研究とか人体実験とかしねーし」
「まったくだ、俺はコウメイみたいな戦闘狂じゃない」
「うん、類友よね、間違いないわ」
大蛇三匹をシュウに背負わせ、血のしたたるズタ袋はアキラが凍らせて持ち、コウメイが村長と交渉して依頼完了のサインをもらった。わずか半日で依頼を完了させた冒険者たちの技量を褒めたたえ、雪が降る前に解決したことに何度も何度も礼を言う村人たちに見送られて村を出た。
「南東門まで回り込もうぜ。この格好じゃ大通りは進入禁止だろ」
狩猟帰りの冒険者は門を入るとすぐに裏通りへと誘導され、汚れを落としそうな通行人は兵士たちに注意される。魔法使いギルドも試作品の製作に大忙しらしい。雑用係のマサユキが泊まり込みを強いられるくらいなのだから、実際に製作にかかわっている魔術師たちは、どれほど追い詰められているだろう。
七の鐘を過ぎると冒険者ギルドには獲物を抱えた冒険者たちが戻ってくる。込み合う前にと査定に大蛇を持ち込んだコウメイらは、困惑する職員に「しばらくお待ちください」と待合のテーブルを勧められた。
「杖の最終調整に行ってくる」
ゴブリンの魔石から一つを取り出したアキラは、後は任せたと早々にギルドロビーを出て行ってしまった。サイモンの指導を受け魔石のはめ込み作業を行うつもりのようだ。
「私も先に帰っていいかな? 来週のバザール用に編みたいの」
いつでも街を離れられるように準備をしているケイトは、素材としてキープしていたものを使って、帽子やマフラーといった手編み製品を作りためている最中だ。周辺の村があつまって収穫や村の特産品を販売するバザールの片隅で、彼女も店を出し売るのだそうだ。
「シュウ、ケイトさん送ってやれよ」
「街中だし心配し過ぎじゃない?」
「いや、街の中ピリピリしてるし、何かあったらマサユキさんに顔向けできねぇよ」
彼が最初に魔法使いギルドに頼ろうとしたのも、今スパイ活動に励んでくれているのも、すべて彼女のためだ。魔法使いギルドだってマサユキの弱点だと認識しているだろうし、街灯の魔道具の修繕が終わったのだから、どこで何を見られていても不思議ではない。街中では一人にならない方がいいと忠告し、身の危険を感じたら使ってくれと魔術玉を渡すと、ケイトは気を引き締めたようだった。
「じゃあ、ボディーガードお願いします。買い物して帰りたいんだけど、いいかな?」
「荷物持ちならまかせとけ」
「それならお使いも頼むぜ、シュウなら楽勝だろ」とコウメイは粒ハギと丸芋を一袋ずつに玉菜三個を頼んだ。
+++
変種の青銅大蛇の査定は随分と時間がかかっているようだった。ロビーは入りきれない冒険者らが扉の外にあふれ出すほどに混雑しはじめていた。
「ホウレンソウさーん、お待たせしました」
耳慣れないパーティー名を聞いた冒険者たちの怪訝そうな視線を無視し、コウメイは人込みを掻き分けて受付に向かった。
「まずは魔石をお渡ししておきますね」
青銅大蛇の魔石は五つあった。頭の数なら四個のはずだが、四ツ目双尾からも魔石が二つ取れたのだ。一つはクズ魔石に近い小さなものだったが、一つの体内に二つの魔石があったのだから大発見だと職員の声は興奮していた。
「変種についての情報料もお支払いするように、ギルド長から指示が出ています」
いつもより長く待たされたのはそれが理由らしかった。情報料は二百ダル。
「依頼完遂の報酬が三百ダル、青銅大蛇の三匹の素材買取が合計で二千八百ダル、解体手数料は差し引き済みです」
「それにしては多くないか?」
「変種の二匹から通常よりも大きな革が取れましたから、その分高値がつきました。四ツ目の頭部も希少性があるとのことで、飾り物として買い手がついていますよ」
蛇の頭部を飾りたいなんて、悪趣味な金持ちがいるものだと驚きだが、金になるのならそれも大歓迎だ。コウメイは代金をすべて現金で受け取ると、今日の夕食に何を作ろうかと考えながら出口に向かった。
「なんでやの?」
「当ギルドでは魔石の取り扱いをしていないんです」
「ここ冒険者ギルドやろ、こんだけ魔物が持ち込まれとんのに、魔石売れへんてどういうことやねん」
受付から聞こえてきた男の地域限定言語に、コウメイの足が止まった。




