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やたら長い人生のすごし方~隻眼、エルフ、あとケモ耳~  作者: HAL
17章 焦燥の森

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10 迷いと決意 *



 一対一の戦いの余波からですら森を守り切れなかったというのに、数十のエルフが入り乱れた魔術戦となっては、もう彼らには手の施しようがない。


「風刃とか火弾とか、いっぺんに来るんじゃねーよっ」


 両腕で抱えた倒木で切れ味の良すぎる風刃を阻んだところに、狙ったように火弾が襲いかかり木が燃えあがった。投げだそうとするそこに腕ほどもある太い氷の槍がドスドスと振ってくる。


「雨のように振る槍ってのは厄介だよなぁ――あ、シュウ、それ捨てろ。雷が落ちるぞ」


 燃える倒木を振り回して氷槍を振り払い、次は何の攻撃だと振り返ったシュウに、コウメイが木を捨てろと叫ぶ。

 頭上に現われた稲光が暗くなりかけた空を昼間のように照らした。


「やっべー!」


 慌てて投げ出した倒木に雷が落ち、一瞬で炎とともに砕け散った。


「直撃するところだったな」

「あの雷撃は誰のだ? 無差別攻撃じゃないか」

「雷撃つったらミシェルさんだろ――おぅっ」


 体重をかけたシュウの右足の裏で、石がコロリと動いた。

 重心が狂い激しく捻った足首が痛い。

 無意識に胸ポケットの錬金治療薬に伸びる手を、コウメイが素早く叩き落とした。


「やめろ、もったいねぇ」

「自業自得だな」

「ひでー」


 踏ん張れなければエルフの攻撃魔術を避けられないのに、とごねるシュウの足首に、治療魔術が飛んできた。振り返って礼を言うと、カカシタロウの持つ盾の向こうで、ミシェルがシュウを睨み、呆れ顔のリンウッドがため息をついていた。


「もう無理だな……」


 炎が渦巻き、水と氷の槍が蒸発し、風がすべてを斬り割いて、土礫が飛び交い、それらを雷撃が撃ち落とす。

 戦況はすでに彼らが関与できるレベルになかった。身を守るだけで精一杯だ。


「ハリハルタは大丈夫だろうか」

「魔物だけなら問題ねぇと思うぜ。苦労してるだろうけどな」


 森から逃げた魔物が押し寄せて大変かもしれないが、流れ攻撃魔術の直撃さえ受けていなければ、町が壊滅することはないだろう。万一に備えて避難を呼びかけたいが、連絡手段がないのが悔やまれた。


「俺らの家もぶっ壊されてんだろーなー」


 流れ攻撃魔術の方向と角度から、いくつかは近くに落ちているのは間違いない。畑も菜園も果樹園も、そして家にも大きな損害を受けている可能性は高い。おそらく無事なのは地下だけだ。

 ブレイディがサカイを避難させた場所だ、おそらく目の前の戦場が直上に移動したとしても耐えられるだろう。


「もー地下室に逃げ込むしかねーよ」

「赤ハギと丸芋の備蓄は山ほどあるし、飢え死にはしねぇか」

「肉がねーのはキツイけど」

「マーゲイトで岩鳥を狩ればいいんじゃないか? ついでにサカイさんの様子も見てきたらどうだ」

「さんせー」

「撤収決定だな。問題は、ここからどうやって逃げるかだが」


 アキラの作った氷盾越しに眺める戦いは熾烈を極めていた。

 誰が何の攻撃魔術をどこにむけて撃ち、誰が何を弾き返しているのか、追うのも不可能なありさまだ。四方八方から息つく間もなくありとあらゆる攻撃魔術が襲いかかる中を、どうやって避難すればいいだろうか。


「俺の結界魔術は弱すぎて役に立たないし……」


 全方位に守りを固めようとすると、強度が危うくなる。一面だけに集中すれば数発なら余裕で耐えられるが、結界を張っていない側に被弾すると目も当てられない。


「とりあえずリンウッドさんに合流しようぜ」


 コウメイはカカシタロウの支える盾の陰にいるリンウッドとミシェルを振り返った。あちらも身動きがとれずにいるようだ。合流すれば知恵と力を上手く組み合わせられるだろう。

 コウメイが状況を見極めて指示を出し、アキラが結界を維持しつつじりじりと移動する。守りの薄い側に流れ攻撃がきたときは、シュウが物理で防御した。火弾や岩礫を打ち返し、水弾を散らし、氷槍を砕く。


「伏せろ!」


 だが雷撃だけは物理では防げない。コウメイが二人を押し倒し、アキラが三人を覆う結界魔術を張ってしのぐ。

 そうやって何度も足を止められながら、もう少しで合流というときだった。

 礫が彼らに向かってきた。

 阻もうとアキラが結界を向ける。

 しかし、受け止めて、あるいは弾き返すハズだった礫は、結界を貫いた。


「あうっ」


 激痛で、アキラの左手から萌芽の杖が落ちる。


「結界が破られたのかよ?」

「コーメイ、あの爺だ!」


 味方の老エルフに守られながら、フィーリクスはレオナードではなく彼らを、憎悪に満ちた目で睨み据えていた。


「……おどれらさえ」


 コウメイが暴かなければ、アキラやシュウが邪魔しなければ、レオナードの魔力が尽きるのを待ち勝利していたのに。フィーリクスの声には、そんな怒りと恨みと蔑みと、莫大な魔力が込められている。

 それを聞いた三人はまるで縛られたかのように体が強張り、足が動かせなくなった。

 フィーリクスの怒声とともに攻撃魔術が彼らを襲う。


「人族風情が!」


 炎がコウメイを嬲る。


「獣ごときが!」


 氷槍がシュウを貫く。


「紛い物の身で、ワシに盾突くな!!」


 風刃がアキラを斬り割いた。

 何の守りもなく受けた族長の攻撃は、数呼吸で致死に至るほどに深く大きい。だが リンウッドから飛んできた治療魔術が、ギリギリで三人を救った。


「アキ、シュウ、生きてるな?!」

「あ、あぁ」

「死んだかと思ったー」


 コウメイの着衣は焼け焦げ、癒えきれぬ生々しい火傷痕が見え隠れしている。全身を切り刻まれたアキラの狩猟服もズタボロで血痕に染まっている。シュウの上着の腹部には大穴があき、そこから塞ぎきれなかった傷から血が流れていた。

 一撃で滅せなかったと知り二発目を構えたフィーリクスを、レオナード率いるエルフ族の攻撃が襲った。


「今のうちだ、走れ!」


 声を張り上げるリンウッドの横で、ミシェルが盾を強化する。

 鉱族提供素材の盾にミシェルの守りが重ねられたそこが最も安全だ。


「はやくなさい!」


 叱りつける声でシュウが跳ね起き、コウメイが駆け出した。


「アキ?!」

「早く行け!」


 自分一人なら身を守れると杖を振りかざして、アキラは二人を急かす。

 しんがりのアキラは、氷盾に結界を重ねがけして流れ攻撃から身を守っていた。

 コウメイとシュウが安全域に駆け込んだのを確かめ、アキラも走りだす。

 その側面を火弾と大岩の礫が襲った。

 長老の一人から放たれた火弾が氷盾を砕き、結界の脇から大岩がアキラを打つ。

 数十メートルほども飛ばされたアキラの身体が、倒木にぶつかって止まり、荒れた地面に転がった。


「アキ――!」

「コウメイ、ダメだっ」

「邪魔よ、どきなさい!」


 飛び出そうとするコウメイを羽交い締めにしたシュウを押しのけて、ミシェルが杖を振るう。

 二発目、三発目の岩礫は、倒れたアキラに届く前に雷撃が粉々に砕いた。

 魔力回復薬の容器を口にくわえたまま、リンウッドが治療と回復の魔術を連続して撃つ。


「起きろ! アキ!」

「アキラー! こっち来ーい!!」


 地に倒れ伏したアキラに向けた声が張り裂けそうだ。


「アキ――っ!!」


 声に応えたかのように、アキラの体が動き、手が何かを探すように地面をさぐる。

 放り出されていたミノタウロスの杖を見つけると、それを握りしめてゆっくりと身を起こした。


「こっちだ」

「よし、早く来い!」


 安堵し歓喜の声で呼ぶ二人の横で、ミシェルが悲鳴をあげた。


「――なんてこと、やられたわ!」


 彼女の杖からアキラめがけて雷撃が放たれた。


「ミシェルさん?!」

「何しやがる!」

「あぁ、やっぱり爺は抜け目あれへんなぁ」


 ミシェルを止めようとしたコウメイを、アレックスがボヤキとともに阻んだ。

 邪魔するなと剣を抜いた腕を、細目よりもアキラだとシュウが引き離す。


「コーメイ、左手だ」

「あぁ?」

「気がつかねーのかよ。アキラが杖を左手で持ってんだよ!」


 剣を握るとき以外、右手にミノタウロスの杖、左手に萌芽の杖。それがアキラのスタイルだ。なのに、雷撃の直撃を受けても平然と立つアキラの右手には何もなく、左手にミノタウロスの杖が握りしめられている。

 ゆっくりと左腕を掲げるその顔に、感情はなかった。


「アキ?」

「うっ……わーっ」


 振り下ろされたミノタウロスの杖から、風刃が撃ち出された。

 コウメイの頬をかすめて抜ける。

 ジンとうずいた熱に続いて、頬から顎へたらりと流れる感覚を拭うと、指先が赤く染まった。


「まさか、だよな?」

「そのまさかみてーだぜ」

「傀儡魔術?! いつ、どこで?!」


 フィーリクスとの距離はそれなりにあった。触れてもいない相手にどうやって傀儡の針を刺したというのだ。


「左腕だ……あの傷」


 苦々しげに目を凝らすリンウッドが、アキラの左上腕を指し示す。

 狩猟服に残る風刃で切られた痕跡の中に、一つだけ矢に射られたような痕があった。


「いつの間にあんなモノを……」

「あそこに傀儡の楔があるのに間違いないわ。岩礫に打たれて気絶した隙に、あれを経由して族長が支配したのよ」


 自分も同じ方法だった。アレックスから解放された直後に、重傷の体を癒やすべく隠れ家に逃げ込んだものの、止血と治療が間に合わずに意識を失いかけたところで、族長に傀儡の楔を打ち込まれ自由を奪われた、というミシェルの説明にコウメイが問う。


「同じってことは、解放する方法もか?」

「この状況では、それが手っ取り早いでしょうね」


 攻撃魔術を撃つアキラを拘束して楔を抜くよりも、腕を斬り落すほうが簡単なのは間違いない。だが、とコウメイはギリリと奥歯を噛んだ。


「……よりにもよって、左腕かよ」


 血まみれの左腕を必死に繋ぎ合わせ、錬金治療薬に望みを賭けた記憶がまざまざとよみがえる。

 アキラの放つ無数の風刃が容赦なく彼らに襲いかかった。

 傀儡の攻撃対象は明確だ。コウメイとシュウを露骨なほどに狙ってくる。フィーリクスの毒々しい悪意に、コウメイの怒りが煮えたぎった。


「……行くぞ」

「おう。カカシタロー、頼むぞ!」


 二人の声で、リンウッドとミシェルはアマイモ三号の陰に移動した。

 盾を持ったカカシタロウが、コウメイとシュウの前に立ち、アキラの攻撃魔術を引き受ける。

 ガツ、ガツ、と盾に傷が刻まれてゆくが壊れはしない。さすが鉱族由縁の盾は頑強だ。


「エルフどもの流れ攻撃(弾)がなきゃもっと楽なのになー」


 シュウはアキラの足止めを計りつつ、あちこちから飛んでくる流れ攻撃魔術(弾)を引き受けていた。火弾、氷槍、また火弾と、剣への負担は倍増している。岩礫を受け止めたとき、鈍い音がした。


「やべー、追いつかねーよ」


 慌てて魔石を交換したが、自動修復が間に合わない。

 次に火弾を打ち返すか岩礫を受ければ、ポッキリといってしまいそうだ。


「コーメイ、早くしろ!」


 焦って怒鳴るシュウの声に、タイミングを見計らっていたコウメイの剣を持つ手に、余計な力がこもった。

 可能な限り一刀で終わらせたい。

 それがアキラにもっとも負担が少ないはず。

 そんな気負いが、視野を狭め、躊躇いと迷いになっていた。


「躊躇いは捨てなさい。アキラを取り戻すことだけ考えるのよ!」

「傷は俺が癒やす、任せておけ」

「腕はワシが責任持って踏んだるから安心してスパッとな!」


 全く安心できない細目の声を無視し、コウメイは襲いくる風刃をかわして攻撃魔術の及ばない懐に踏み込んだ。


「アキ!」


 声を張り上げて呼んでも、銀の目に感情は戻らない。

 攻撃魔術は遠距離攻撃が基本だ。間近の敵に撃てば我が身も巻き込みかねず、躊躇するものだ。だが傀儡は我が身の安全など考えない。むしろ操る側の「人族もろとも滅してしまえ」という意思に忠実だ。

 杖がゆっくりと掲げられた。

 アキラが振り上げた左腕が目の前にある。

 誘うような絶好の機会だというのに、コウメイに葛藤が生じた。

 その隙を見逃すまいと、足元から炎が吹き出し二人を包む。


「くっそぉ――」


 コウメイはありったけの魔力をつぎ込んで水を出し、自分とアキラにぶちまけて後ろへ跳び退がった。

 魔力不足でクラクラする頭を振る。

 滴の垂れる前髪の間からアキラが見えた。

 炎に嬲られて焦げた銀髪から水がしたたっている。

 消えてしまった炎に頓着することなく、風刃の間合いと判断したアキラが再び杖を振る。


「何やってんだよ!」


 足をもつれさせたコウメイの襟首を、シュウが掴んで引き寄せる。

 風刃が前髪を擦っていった。


「悪ぃ」


 震える手で錬金薬を探り取り、魔力回復薬を一気飲みした。

 染み渡ると同時に視界と思考がクリアになる。


「迷ってる暇ねぇんだ。コウメイができねーなら、俺がやるぞ!」


 風刃を打ち消すシュウの剣は、いつの間にか半分に折れていた。それをコウメイの眼前で振り回し、

「間合いにぴったりの長さになったぞ」と挑発する。

「やめとけ。その(なまくら)じゃ斬れねぇよ」

「じゃあコーメイは斬れるのかよ?」


 覚悟は決まった。


「ああ、斬る」


 柄を握る手にいつもの感覚を思い出す。

 親指と人差し指を軽く浮かせると、余計な力が抜け、腕の力が剣に流れるように伝わった。

 コウメイはシュウに手を差し出した。


「治療薬、一本よこせ」

「上手く使えよ」

「ああ、大丈夫だ。もう一度飛び込む。後は頼んだぞ」

「おー、任せとけ」


 治療薬を渡したシュウは、拳を突き出して激励する。

 コツンと拳をぶつけ返したコウメイは、アキラを振り返った。

 傀儡が攻撃魔術を放つとき、必ず杖を上下させている。また一度に放たれる攻撃魔術の数は多いが、動きは単純で予測は難しくない。

 杖が振り下ろされ、十数の風刃が一度に撃たれるのと同時に、コウメイは跳びだした。

 盾で防ぎきれなかった風刃を回避して、左脇に踏み込む。

 傀儡がコウメイを向いた。

 杖を握る左手が上がる。

 風刃か、炎か。

 それを見極める前に、コウメイの剣が傀儡の上腕を斬った。

 血を撒き散らして跳ね上がった杖から、攻撃魔術が飛ぶ。

 どさっ、と、腕が地に落ちる音よりも先に、背から胸を激痛が貫いていた。


「――氷かよ、っ」


 太い氷の槍が、コウメイの背から胸を貫通していた。

 氷の冷たさのせいだろうか、肉が裂ける痛みと熱が妙に遠く感じる。


「あんまり、痛く、ねぇの、ラッキー、だな」

「コウ、……メイ」

「起きたか、アキ?」


 寝汚いぞと笑うコウメイの体がふらりと揺らぐ。

 なんとか踏ん張って、握りしめた錬金薬の蓋を指で弾き開ける。

 それをアキラの左肩に振りかけたところで、コウメイの脚が崩れ落ちた。


「コウメイっ!」


 痛みと出血の止まった左肩で受け止めたコウメイの体は、胸に空いた穴から流れる血に染まっていた。

 アキラは胸ポケットを探り、手持ちが魔力回復薬だけなのを思い出す。コウメイのポケットは氷槍で砕かれている。腰に手をやったが、萌芽の杖はそこにない。


治療(プラシーボ)!」


 流れ出る血を受け止めるように手を押し当て、魔力を込める。

 だが治療魔術に適正のないアキラには、杖なしにコウメイの傷は癒やせない。


「自分の分を! なんで!!」

「う……る、せぇ」

「……コウメイは馬鹿だ」

「それ、は、お互い、さまだ……ろ」


 笑顔のまま、瞼がゆっくりと落ちてゆく。


「……本当に、馬鹿だ」


 片腕でなんとか体を支え、助けを求めて辺りを見回す。

 リンウッドが「届く位置まで来い!」と叫んでいた。彼が治療魔術を届けられる距離までなんとしても近寄れ、と。


「コーメイ!!」


 火弾や岩礫をくぐり抜けたシュウが、駆けつけるやいなや最後の治療薬を振りかける。だが傷が塞がるスピードは遅い。癒やしきれないのは足りないのか、効いていないのか、どちらだろう。

 襲い来る石礫に向けてアキラが手をかざす。

 受け止めた氷壁にひびが入る。


「シュウ、頼む」


 片腕ではコウメイを抱えられない。

 ぐったりした体を抱えたシュウが、防御は任せたとアキラを振り返る。


「今度は気を失うなよ」

「ああ、絶対に、もう奪われたりしない」


 癒えきっていない左腕の激痛があれば、意識は失えないだろう。


「盾を作る。それを追いかけてくれ」

「わかった。いつでもいーぜ」


 アキラは氷盾をシュウを導くように配置してゆく。リンウッドに向けてまっすぐに作られてゆく氷盾の道を、シュウは全力で駆けた。

 アマイモ三号の体の陰に飛び込み、待ち構えていたリンウッドにコウメイを託す。

 コウメイをひと目見た瞬間、岩顔が青ざめた。


「出血が多すぎる。増血剤を作れるか?」

「素材を借りるわ」

「レッドベアの肝がある、使え」


 ミシェルに指示しながら、リンウッドは中途半端に癒やされた患部にナイフを入れた。

 消毒薬代わりの魔力水で傷を洗い、氷槍に突かれた部分を素早く調べる。


「背骨は無事。肋骨二本、肺に心臓もか!」


 リンウッドは肋骨の破片を魔力水で集めて脇に寄せ、心臓の修復にかかった。

 傷ついた内臓を一つずつ、治療魔術で丁寧に、だが素早く修復してゆく。

 目の前で繰り広げられる外科手術と治療魔術の融合技を、シュウは祈るように見つめていた。


「死ぬなよ、コーメイ。死んだら許さねーぞ」


 ゴォンと派手な音と同時にアマイモ三号の体が揺れた。

 カカシタロウの盾で防げなかった岩礫をその身で受け止めたのだ。

 火弾や岩礫を受け続けたカカシタロウの全身は、あちこちが凹み、熱で変色している。アマイモ三号の前足の一本は折れ、胴にも大きな穴が空いている。それでも甲冑と戦軍馬はリンウッドらを守るため立ち続けていた。


「シュウ、コウメイは?!」


 氷の盾で身を守りながら逃げてきたアキラが、シュウの前に倒れ込んだ。


「リンウッドさんが治療中だ……」


 支えたアキラの体を、治療の様子が見えるように傾ける。軍馬と鋼の鎧に守られて続けられる緊迫した手術を見て、アキラの手がシュウの腕に爪を立てた。


「……アマイモ三号とカカシタロウだけじゃ、ここは保たないぞ」


 手術を終えても治療は続くのだ。リンウッドとミシェルが命をつなごうとするこの場を、なんとしても守らねばならない。

 コウメイが目覚めるまでは、とアキラは己を奮い立たせた。


「行くぞ、シュウ」


 自分の足で立ち、支えようと伸ばされた手をしかと握って戦禍を見据えた。

 冷たく震える手を握り返して、シュウは厳しい戦いを覚悟する。

 補給も休息もなしの、いつ終わるかもわからない防衛戦だ。


「りょーかい。で、作戦は?」

「そのデカイ剣で流れ弾を打ち落とせ」


 今まで通りだ、簡単だろう? と微笑むアキラの目の前に、シュウは折れた剛剣を突きつける。


「見えねーのかよ、ポッキリいってんだけどー?」

「まだ半分残っているじゃないか」


 有るだけマシだ、俺は杖なしだぞとアキラが目を細める。


「いざとなったら棒きれでも石ころでも、シュウなら何でも武器になるだろう?」

「うわー、無茶振り!」

「なんだ、できないのか?」

「それができるんだよなー。俺、最強だし!」


 ニヤリと笑って、シュウは折れた剛剣をくるりと回した。

 厳しい戦いこそ心が燃えるというものだ。

 カカシタロウの盾の陰から出ていこうとして、ミシェルに呼ばれた。


「アキラ!」


 振り返ったアキラに彼女の杖が投げ渡される。


「使いなさい。勝手が違うかも知れないけれど、何もないよりはマシだわ」


 シャランと鳴る金の装飾には、増幅と制御の術式が刻まれている。錬金薬が乏しい現状で、省魔力の支えとなる杖はありがたかった。

 受け取った杖を握る手に、シュウが拳をコツンとぶつける。


「死守するぞ」

「ああ」


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度を超えた爺はボロ雑巾の様にされなければならない 魔力切れで停戦しても同族だからとかで庇われそうでやだなぁエルフは
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