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やたら長い人生のすごし方~隻眼、エルフ、あとケモ耳~  作者: HAL
17章 焦燥の森

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00 プロローグ/階段

本日より連載を開始します。

月・水・金のお昼頃に投稿いたします。


今章は戦闘シーンや残酷と思われる場面が多々あります。

特に厳しい話(主に後半)にはタイトルに*をつけますので、苦手な方は自衛をお願いします。

また、17章の完結後、続けて最終章の連載も投稿いたします。

ハッピーエンドです。

最後までお楽しみ頂けますように……。

00 プロローグ/階段



 気がつくと階段を昇っていた。

 足をかけた段がやけに派手な虹色なのを認識して疑問が湧く。


「……なんだ、これ」


 寝室のある二階への階段はこんな派手な色合いではなかったはず。そもそも何故階段を昇っているのか。確か森に駆け出して……何をしていたのだった?

 薄もやのように消えてゆきそうな思考をかき集めていると、足元が陰った。

 自分のものではない影の形を確かめてゆっくりと空を仰ぐと、すぐ近くの階段に懐かしい人物がいた。


「コズエちゃんだよな?」

「……お久しぶりです、コウメイさん」


 再会を喜んでいるように見えない彼女の笑みに、コウメイは首を捻り、周囲を見渡してすべてを理解した。


「くそ、しくじったのか!」


 悔しさをぶつけようとしてコズエの存在を思い出し、振りあげた拳をゆるりとおろす。


「失敗しちゃったんですか?」

「……そうなんだよ、ちょっとミスって、こうなっちまったらしい」


 五年も前に亡くなった彼女がいて、踏みしめる階段は虹色。ここはリンウッドが言っていた死後に昇るソレに間違いない。

 自分の立つ階段から一、二メートルほど離れてコズエのいる階段がある。一つの階段を皆が昇るのではなく、一人に一つの階段があるのか。コウメイは周囲にある天に向かういくつもの階段を見渡し、他に見知った人物がいないかと探した。


「いねぇな」


 アキラも、シュウもいない。

 自然と安堵の息が漏れていた。

 いつ、何故死んでしまったのかを思い出そうと、霧のように広がる記憶をかき集めた。

 夜の森、陥没した地面、打ち倒される木々、襲い来る炎。


『コウメイがやらねーなら、俺がやる!』


 悲痛な誰かの叫びが聞こえて、剣が肉を裂いた。

 血が流れ……手のひらを染めるこれは、誰の血だ?

 コウメイは膝を突き、段に腰を下ろした。

 どうして死んでしまったのかを思い出そうとして、アキラの驚愕と悲痛の瞳が浮かぶ。


「ああ、この血は……」


 そのあとの記憶はたぐり寄せようとしても見つからない。あの直後に自分が死んだのは間違いなさそうだ。


「……最悪だ」


 最も避けねばならない場面で死んでしまった己への怒りと焦りを隠して笑い、コウメイは階段に座ったままの彼女に問いかけた。


「コズエちゃんはここで何してるんだ?」

「なにしてるんでしょうね。自分でもよくわからないんです」


 彼女はもう何度も振り返った階段の先に、どうしても進みたくないのだとこぼした。


「ずっとここにはいられないってわかるんですけど、まだ逝きたくないかなって」


 たぶん、待っているんだと思います。そう呟いた彼女の視線を追って階段の先を仰ぎ見たコウメイは、乱暴に眼帯を外した。右目の虹色がギラリと不敵に輝く。

 階段の先でおいでおいでと何かが手招きしていた。

 誘いに答えようと動く足を意思の力で抑え込み、天に背を向ける。

 招く存在が見えなくなると、誘惑の力は弱まった。

 コウメイの足元から伸びる下り階段は、白海の下へと続いている。リンウッドが生還できたのだ、自分にだって可能なはず。


「そうだな、俺もまだ逝けねぇよ」


 唇を歪めて笑ったその一瞬で、コウメイの気配が殺気を帯びた。

 目覚めてすぐに戦線に戻らねばならない。二度とここに戻ってこないつもりだが、自分が離脱している間に戦況がどう変化しているのかはわからない。決着がついていればいいが、そうでなければ。


「頼みをきいてくれるか?」


 立ち上がったコウメイは心配そうに見ているコズエに笑顔を向けた。


「もしここにアキやシュウがきたら、問答無用で蹴り落としてくれるか?」

「……戻れるって保証はありませんよ?」

「保証なんざいらねぇよ、俺は絶対に帰る」


 だからアキラやシュウがやってきても、階段を昇らせずに蹴り落としてくれ。

 コウメイは自信満々の笑みを残し、彼女の返事を待たずに階段を駆け下りた。


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― 新着の感想 ―
初っ端から号泣もの。連載楽しみだけど、恐ろしい展開ありそうで、こわいかも
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