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やたら長い人生のすごし方~隻眼、エルフ、あとケモ耳~  作者: HAL
魔木レリベレンと狂魔術師たち
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13 決着、レリベレン魔木



 腰が引けぎみのアレックスによる幼木の葉の採取は、昼前には終了した。時間切れである。巨大サクリエ草が完全に樹木化し、立派なレリベレン魔木に変わっていた。

 自力で葉を採取できなかったアレックスは悲嘆に暮れている。葉を譲ったと教え安堵させるのは後回しにして、アキラとリンウッドは成木の観察をはじめた。


「シーシック町の魔木はヒョロリとしていて風で折れそうな細さだったのですが、こちらのは大きいですね。葉数も多いし、枝振りも立派です」

「幼木の間に成長したぶんだけ、成木の状態がよいのだろうな。さて、葉と枝の比較をしたいが」


 リンウッドが振り返ると、シュウが待ってましたとばかりに立ち上がる。


「枝と葉だな?」

「下のほうのと、最も上のあたりのを頼む」

「りょーかい」


 まだ本格的な討伐ではないため、シュウはコウメイの斧を借りて魔木に挑んだ。

 己を害する敵であると見なしているのか、魔木の枝葉がシュウを追うように動いた。まるで人間を警戒する野生動物のようだ。

 まずは下の枝をと斧を振りかぶったシュウだが、枝を切り落す前にその場を離れた。


「あっぶねー」


 手が届く距離まで近づいた途端、一斉にシュウを狙って尖った枝先が突きつけられたのだ。魔木の攻撃を避けたシュウは、枝先が追いつけない早さで斧を振るい、目的の一枝を採取した。


「次は上かー。空中戦は不利だなー」


 カシカシ、カシカシ、と枝先を摺り合わせる様子は、まるで枝同士で相談しているように見える。

 思い切って跳躍し、魔木を飛び越えざまに採取しようと、助走のため数歩下がる。狙う枝葉を見あげた。


「うおっ!?」


 跳躍する前のシュウに、紫色の葉が迫っていた。


「シュウ!」

「生きてるか?」

「おー、ギリッギリだったわー」


 膝を落として葉刀をやり過ごしたシュウは、短くなってしまった前髪を恨めしげにつまんでいる。


「葉っぱカッターはアリだったかー」

「射程距離に踏み込んだら即反応するみてぇだ」


 シュウが立っていた位置を起点に前後して魔木の動きを確かめたコウメイが、地面に線を書き、ここが攻撃の届く限界だと示した。


「ちょっと採取は難しいみてーだぜ」

「シュウはともかく、俺はあの葉っぱカッターは避けられねぇ」

「実験と採取は終了します。このまま討伐に意向、標本は終了後で」


 アキラの口から討伐の言葉が出ると、空気がキリリと引き締まった。それまでテーブルで見物していたマイルズは、立ち上がって戸板よりも大きな盾を手に取る。オッサムはこの日のために用意した台車の側に待機し、ロビンはアマイモ三号とカカシタロウが邪魔しないように隔離に向かった。


「あとは打ち合わせ通りに」

「りょーかい。高みの見物してろよなー」

「楽しんでくれよ」


 そんな軽口を残してシュウは大斧を、コウメイは柄の長い斧を手に、魔木を挟んで向かい合う位置に立った。

 アキラとリンウッドはテーブルの位置まで下がり、遅めの昼食に夢中のアレックスと、香り茶を手にくつろぐミシェルの側に落ち着いた。


 魔術師たちが安全圏に退避したのを確かめたコウメイが、軽く浅い一歩で境界線を越える。

 反応した魔木から十数枚の葉刃が飛んできた。

 即座に後退し葉刃の届かぬ場所に逃げると、今度はマイルズが木盾に隠れながら境界線を越える。

 襲いくる葉刃は盾に刺さり、弾かれて地面に落ちる。その数はコウメイのときとは比べものにならない程に多い。どうやら近づけば近づくほど警戒が高まり、攻撃の物量が増すらしい。


「マイルズさん、どこまで耐えられますか?」

「ロビン殿の盾は素晴らしいぞ。鋭い葉刃を完璧に防いでいる。これなら最後まで囮の役割を果たせそうだ」

「無理すんなよ、おっさん。腰がヤベーってなったら引っ込むんだぜ」


 魔木の感知能力はそれほど優れてはいないようだ。コウメイとマイルズが同時に境界線を越えると、葉刃の攻撃が分散するのだ。葉刃を防ぐマイルズの盾と、防具を持たずにギリギリの回避を続けるコウメイとでは、どちらに攻撃を集中させればよいか考えずともわかりそうなものだ。だが魔木は均等に単調な攻撃を繰り返すばかり。


「脳にあたる部分が存在しないのか?」

「見えていないのかもしれませんよ」

「どうやって探知しているのだろう?」

「魔物化したとはいえ、元は植物ですもの、難しいわね」

「お、シュウが行ったぞ」


 コウメイとマイルズが魔木の気を引いたタイミングで、シュウが一気に斬り込んだ。

 枝が届く位置まで踏み込めば、攻撃は葉刃ではなく枝刺に変わる。シュウは向かってきた枝刺を大斧で払い剪った。

 キンキン、と金属の棒を打ち切ったときのような音が響く。


「見た目は枝のくせに、かなりかてーぜ」


 枝を剪り払い、さらに踏み込んで幹に斧を打ち下ろす。


「くーっ、幹もかってーよ」


 シュウは痺れる手を振り誤魔化しながら、枝刺の攻撃範囲から退避した。大斧が魔木に刻んだ傷は、手のひらほどの幅しかない。

 シュウの後ろに待機したコウメイが、続いて幹に斧を叩きつけたが、半分ほどの傷しかつけられなかった。


「こりゃ持久戦だな」

「コツコツ刻んでくしかねぇぜ」


 マイルズが囮として魔木の攻撃を引きつけ、その隙にシュウが斬り込み、コウメイが追撃という流れで、地道にレリベレン魔木に斧を入れてゆく。


「剪定が下手やなぁ」


 シュウたちの戦いを見たアレックスは、自分の腰抜け採取を棚に上げて「もっとバッサリ斬り込まんと」「片方ばっかり刈り込んで見栄えようないわ」と批判を口にしている。


「……剪定」

「相手は魔木ですもの、枝や葉を斬り落としている様子は、討伐というよりも剪定よねぇ」


 ミシェルも苦笑いをかみ殺している。シュウたちが次々に斬り落としてゆく枝葉を、長い柄のホウキでかき集めては箱台車に詰め込むロビンやオッサムの仕事っぷりは、庭師の狼藉にしか見えないのだ。


「こない簡単に魔木が討伐できるて知ったら、爺どもが血管破裂させそうやわ」


 面白そうに、けれど少しだけ悔しそうにアレックスが呟いた。魔力に支えられた領域で、魔力しか攻撃手段のなかったエルフ族にとって、レリベレン魔木は世界を脅かすほどの脅威だった。なのに人族の領域では、少しばかり厄介で風変わりな植物型の魔物でしかない。そこにモヤモヤとした思いがあるようだ。


「枝も葉も再生せえへんし、シュウも飽きてきたみたいやで」


 その声に誘われて視線を向ければ、シュウの動きが緩慢になっていた。彼だけでなくコウメイも魔木への警戒が薄れているらしく、足さばきに鋭さがない。


「コウメイもサボってるのか」

「そら攻撃手段はほぼ潰したんやし、気も抜けるやろな」


 周辺の土壌から魔素を取り除いているため、魔木は剪り落とされた枝葉を再生させる力を得られない。根も楔で固定されており、地中深くまで魔素を求めて伸ばすこともできない。


「魔木、禿げちょろけやん」

「……もう幹の部分しか残っていないわね」


 枝刺と葉刃を全て剪定されてしまったレリベレン魔木は、身じろぎして斧を避けるか、逃れきれずに耐えるしかない。

 ガギィーン、ガギィーンという、木こりの仕事にしては耳触りな音が鳴り続くたびに、魔木の切り口が広がっていった。


「もう少し角度を付けてみろ」

「あぁ、違うて。もっとこうな、キュッてえぐらなあかんて」

「腰を入れんか、腰を。せっかくの大斧を使いこなしていないぞ」

「考えなしに斧を振るうな。どっちに倒すか考えてあるのか。そのままだと薬草園に倒れるぞ」

「あーもぉー、うるせーよ!」


 アレコレと指示を出す船頭が多すぎて混乱したシュウは、しっちゃかめっちゃかに斧を振り回しはじめた。早く終わらせようという思いが斧に乗ったせいか、思わぬ力が入り魔木が大きく揺らぐ。


「シュウ!」


 そのまま倒れれば薬草園に直撃だともアキラの厳しい声が飛ぶ。


「わかってるって、方向変えりゃいーんだろ」

「まて、そっちは水路を塞ぐぞ。薬草園と薪割り場の間を狙え」

「注文が細けーよ!」


 シュウは立ち位置を変え、もう一度斧を振り下ろす。アキラとコウメイの指示にあわせて斧を振るい、なんとか薬草園を破壊せずに終えた。


   +


 切り倒された魔木はロビンとマイルズが薪割り場へと運んでいった。

 残った切り株を掘り出したシュウは、二股に分れた太い根を見て吹き出した。


「コーメイが最初に作った白芋も、こんな足だったよなー」

「白芋だけじゃないぞ、赤芋には足が三本もあった」

「そーそー、セクシーなのとかネジネジとか踏ん張ってるのとか、いろいろあって面白かったよなー」


 今では余剰分を町や村で販売しているが、菜園初心者のころのコウメイが育てた根菜は、個性的な多足ばかりだったのだ。懐かしいとアキラとシュウは思い出し笑いを浮かべているが、コウメイは聞こえない振りで魔木の根に斧を振り下ろしていた。


「シュウ、まだ討伐は終わってねぇんだぞ。最後まで仕事しろよ」

「へいへい」


 切り倒したからと言って油断はできない。二人は魔木の根に斧をあて、どんどんと切り刻んでゆく。薪の形に切り分けられた魔木は、ロビンとオッサムが炭焼き炉に運び込んだ。


「リンウッドさん、邪魔すんなって」

「標本に少し融通してくれ。枝と、紫葉と根の先と、幹は芯に近い部分と皮のあたりが欲しい」


 枝と葉を集めた箱台車をあさっていたリンウッドは、薪になった魔木の部位を指定して確保している。

 アキラは盾に刺さっている紫葉を抜き集めた。いつか糸か布を作るときのために保管するのだ。

 シュウとコウメイが切り株を割る横では、ロビンとマイルズも倒幹相手に奮闘している。硬い魔木は普段使いの斧では刃が立たないため、予備の戦斧で薪割りだ。

 割り終えた魔木は炭焼き炉の奥に詰められた。魔力で火を付けるか、火打ち石を使うかで揉めて、どうせなら最後まで魔力を排除しようと発火の石を擦りあわせた。

 炎が炉の中に広がり、白い煙が煙突からもくもくとあがる。

 煙を分析したリンウッドが、有害な物質や魔素は含まれていないと保証した。これで完全に炭か灰になるまで待てば討伐は完了だ。


「炭焼きってこんなに雑で乱暴じゃねぇはずなんだが」

「コウメイ、忘れてるぞ。これは魔木の焼却だ、炭焼きじゃない」

「けどさ、今回の討伐は全然戦った感がなかったからなぁ」

「戦ってねーけど、これだけ大量に薪割りしたの久しぶりで腹減ったー。夕飯は肉が食いてーなー」


 炭焼き炉から立ちのぼる煙は、赤く染まりはじめた空の雲に同化するように高く伸びている。日暮れまでそれほど時間はなさそうだ。


「今から作りたくねぇな」

「じゃあ俺がやるからさ、バーベキューにしよーぜ」


 燃える魔木を見てうずうずしていたシュウが、率先して支度をはじめた。

 薪を運んで火を付け、鉄板に魔猪の背脂をひろげ、食料庫から暴れ牛肉の塊を切って焼きはじめる。シュウを見習ったリンウッドは茹でた丸芋を焼き、アキラは菜園からレト菜やヨルナガ、紫ギネを収穫して野菜炒めを作りはじめた。


「自分の食いたいモンを勝手に焼いたらええん?」

「てめぇはここで大人しく食ってろ」


 コウメイは食料庫を物色しに行こうとするアレックスをつかまえ、フォークと皿を押しつけた。細目に食材を好き勝手に食べられては困る。酒も用意してアレックスをその場にとどめた。

 肉を焼く鉄板の隅で、コウメイがハギ粉を錬って薄焼きにし、野菜炒めと焼き肉を包んでロビンやオッサムにも振る舞った。


「魔木が完全に焼き上がるまでどのくらいかかるんだ?」

「そうさな、窯の大きさと魔木の量から計算して、明日の昼前までは焼き続けたほうが良かろう」

「十日かかるんじゃねぇのか?」

「野焼きならそれくらいは用心せねば危険だが、窯だからな。一晩もあれば問題なかろう」

「じゃあ交代で見張る必要があるな」

「それなんだがな」


 ガレット包みを食べながら、オッサムが声を潜めた。視線がアレックスを警戒していたので、コウメイは細目から隠すように立ち位置を変える。


「夜通しの見張りは俺とロビンが引き受けるから、代わりに魔木の灰をわけてもらいたいのだ」

「あの灰、何か使い道があるのか?」

「貴重な魔術建築素材だ。滅多にあることではないが、特殊な依頼が入れば絶対に必要になる」


 それはどんな依頼かと視線で問うと、棟梁は母屋の地面を指さした。あの地下にあるのは。


「なるほどな。魔術陣か」

「建造物に魔術を施す下地には魔物素材が適しているんだ。特に魔木は最適だが、滅多に手に入らん」


 地下の転移室も鉱族が保管してあった希少な素材を使用したらしい。エルフ族から頼まれる工事にはどうしても必要になることが多く、素材の在庫を確保しておきたいのだそうだ。


「一晩の見張りでは対価として釣りあわんのはわかっている。増築の工賃を代金にしてもらえんか?」

「俺はかまわねぇと思うが、素材になるってんならアキとリンウッドさんも欲しがるはずだ。あっちと交渉してくれ」


 こそこそとした根回しを終えたコウメイは、鉄板に向き直った。ガレットは薄いのですぐに焼き上がるが、十数枚はあったはずの作り置きは密談の間にすべてなくなっていた。新たに焼いた一枚も完成するはなからシュウがつまみ取って肉を包んでいる。この調子ではマイルズやリンウッドまで行き渡らないと判断したコウメイは、それぞれの様子を見ながら配膳することにした。


「マイルズさん、肉と野菜はどれくらい食う?」

「半々で頼む」


 シュウのカットした肉は一切れがかなりぶ厚く大きい。それを小さくカットして野菜炒めと合わせてガレットで包んで渡した。


「丸芋を包んでくれ」

「ブレねぇなぁ」


 鉄板で焦げ目をつけた丸芋を肉と同じ大きさにカットし、チーズを挟んで包んだ。


「あ、それワシも食いたいわ」

「芋を焼いて持って来い」

「芋やない、チーズやチーズ。それと肉もたっぷりで頼むわ」

「野菜を食え」


 アレックスのガレットには肉とその倍量の野菜にチーズを包んだ。ミシェルは肉控えめのチーズとフレッシュ野菜だ。肉、肉、肉とうるさいシュウには野菜をたっぷり、野菜だけでと繰り返すアキラにはチーズと肉もしっかりと包んで食わせた。

 肉脂の香りに包まれながら、もくもくとあがり続ける炭焼き炉の煙を眺めるバーベキューは、満腹で身動きできなくなるまで続いた。


   +


 翌日、四の鐘を過ぎたころだ、もう良かろうと炭焼き窯を空けた。


「完璧に焼き上がってんな」

「芯までしっかり炭だ」


 数本を切って生焼けではないと確認した。これでレリベレン魔木の討伐は完全に終了だ。

 昨夜のうちに魔術師二人と商談を済ませていたオッサムは、運び出した魔木炭を丁寧に箱詰めしている。数が多いのでロビンとシュウも手伝わされていた。

 標本を手に入れたアキラとリンウッドは、どうやって分析するか、何に使うかと楽しそうに話し合っている。

 オッサムらの作業を興味深げにのぞき込んでいたアレックスだが、単調な作業に飽きたのかすぐに興味を失ったようだ。


「ほな、ワシ島に帰るわ」

「待てよ。なんでそんなに慌ててんだ?」


 足早に地下に向かおうとする細目を、コウメイが呼び止めた。

 希少素材が目の前にあるというのに、アレックスの態度はあまりにも素っ気ない。それどころか、急いで逃げ帰ろうとしているように見えたのだ。


「えェ、別に慌ててへんでェ」


 呼び止められた細目の声はいつもよりわずかに高く聞こえる。

 標本から顔を上げたアキラが、今も作業中のオッサムとアレックスを見比べ、険しい表情で問いかけた。


「オッサムさんによれば魔木炭は希少素材だそうです。なのにあなたが無関心なのはとても奇異に映るのですが?」

「てめーが土産を強請らねーのって、すっげー不自然なんだけどー?」


 いつも料理や菓子を強奪して帰るのに、今日は何も要求しないのは気味が悪いとシュウも不審顔だ。

 コウメイは腹の辺りから離れない不自然な両手を凝視している。


「おい腹黒陰険細目、両手をあげてみろ」

「え、えぇ? なんで?」

「いつもひらひら手ぇふって帰ってるじゃねぇか」

「そうですよ、アマイモ三号とカカシタロウに手ぐらい振ってあげてくださいよ」


 朝から畑で働く魔武具たちに挨拶くらいしたらどうなのかと、アキラは細目の行動を試した。


「わ、ワシ、急いどんねん、ほなっ!」

「シュウ、確保! コウメイ、没収!」


 エルフの転移で逃げられてはならないとばかりに、アキラが即座に指示を出す。

 転移前にシュウに拘束された細目のローブ下から、荷袋がぼとりと落ちた。拾って中を確かめたコウメイは呆れ顔だ。


「魔木炭だぜ」

「こそ泥みたいなみっともないことしないでくださいよ」

「せやかてアキラ、ドケチやし」

「ミシェルさん、差し上げた幼木の葉を返していただけますか?」

「わー、堪忍して。ワシの早とちりや、アキラは心が広うて思いやりがあるええ弟子やわ」

「白々しくて気持ち悪いのでやめてください」


 取りあげられた魔木炭がオッサムの手に渡るのを恨めしそうに見ている細目に、アキラはちゃんと買い取れと釘を刺した。


「え、売ってくれるん?」

「……根こそぎは困るが、相応の対価を貰えれば、少しなら」


 オッサムの返事を聞いたアレックスは、上機嫌で後日訪ねていくと約束をし、今度こそひらひらと手を振って帰っていった。

 アレックスとミシェルが去り、ロビンも陸路で島に戻っていった。

 魔木炭を鉱族の里に持ち帰ったオッサムは、半月後に職人を連れて深魔の森に戻ってきた。


「玄関のあたりに客間、二階に寝室を増築、素材保管部屋と、解体作業用の離れだな」

「風呂場の改修も頼むぜ」


 湯船はマイルズが気に入ったため、少しばかりの拡張と、手すりや滑り止めを追加してもらった。

 棟梁と職人らによる増改築は、二月ほどで終わった。

 マイルズは増築した客間に移り、コウメイとアキラも二階の寝室に落ち着いた。かつてリンウッドの小屋のあった場所には素材保管庫が作られ、水路近くに解体作業場も完成した。

 のんびりとした暮らしに戻り、そろそろ赤ハギの収穫時期というころだ。

 前触れもなく藍色の髪のエルフが深魔の森に押しかけてきた。



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