招かれざる客
昼下がりの澤と谷の宿に押しかけてきたアレックスは、フロントテーブルに立つサツキの前に手土産の砂蜥蜴の尾をどんと置いた。
「久しぶりやな、元気そうやん。ええ匂いや、菓子店繁盛しとるんやなぁ」
「アレックスさんもお変わりありませんね……三十年ぶりくらいでしょうか?」
ナナクシャール島で知り合った魔術師の出現に、サツキは動揺を必死に抑えた。兄から頻繁にこぼれる彼への愚痴は聞いていたが、まさか同じように若いままだとは思ってもいなかったのだ。この一癖も二癖もある魔術師も兄と同種なのだろうかと、サツキは警戒を高めた。
「ちょお野暮用あってこっちウロウロしとったんや。今晩泊めてくれへん?」
砂蜥蜴の尻尾肉は、淡泊な料理にぴったりの希少食材だ。皮も冒険者ギルドに持ってゆけば良い値段で買い取ってもらえる。宿泊料十日分ほどの価値のある素材をチラリと見たサツキは、宿帳を手に取ってにっこりとほほ笑んだ。
「申し訳ありませんが、今は空きのお部屋がなくてお断りしているんですよ」
「ほなアキラの部屋で泊めてもらうわ」
「宿泊規則により、ベッド数以上のお客様を泊めることはできないんです」
「ほな飯だけで我慢するし」
「当宿では食事の提供は行っておりません」
朝の弁当は注文制だが、そちらも宿泊者に限定しており、アレックスの注文は受け付けられない。たまにコズエや小枝工房の針子たちが昼食用にと注文することもあるが、それは言わねばわからないことだ。
ロビーに漂う香りは甘く芳ばしいのに、サツキの笑顔も態度も冷たいとアレックスが嘆いた。
「サツキちゃん、なんでそないワシに冷たいん?」
「……お兄ちゃんから聞いていますよ。アレックスさんのせいで何度も危険な目にあったそうですね」
それでどうして歓迎されると思っているのか、と彼女は兄によく似た表情でアレックスを睨みつけている。
「えぇ、ワシ弟子に甘い師匠やて有名やねんで。危険に向けて背中押したことあれへんのに」
何も思い当たらないと首を傾げるアレックスを見るサツキの目が、どんどんと冷たく鋭くなってゆく。
「泊まれへんならしゃあないわ。せやけど今晩のトシコシソバは食わせてもらうで」
「な、なぜご存じなのです?」
「この前エルズワースが言うとったや、特別な故郷の料理なんやろ? ジョイスからも聞いて、ワシ楽しみにしとったんで」
「ジョイスさんったら……!」
サツキはテーブルの下で握りしめた拳を、親友の夫であり娘の師匠でもある炎の魔術師を思い浮かべて突き出した。年越し蕎麦の食事会は特別なものだと知っているはずなのに、よりにもよってこの厄災魔術師を招待するとは何を考えているのか。
「……夕食会は八の鐘半からです。そのころにお越しください」
兄の安眠のためにも絶対にアレックスを泊めるわけにはゆかない。夕食会はギリギリの妥協点だ。サツキは昨日の売れ残りの焼き菓子をアレックスに押しつけ、時間までは戻ってくるなと澤と谷の宿から追い出したのだった。
+
ジョイスが招待したアレックスが夕食会に参加すると相談されたコウメイは、食事会の場所を四階の澤谷家ダイニングから、一階のブルーン・ムーン店内に変更すると決めた。
「店をこんなことに使って悪いな」
「とんでもない。アレックスさんを上階に上げるのは不安ですし、お店なら追い出しやすいですし」
サツキは早じまいした菓子店の什器を端に寄せ、仕舞ってあった古テーブルを店の真ん中に置いた。椅子は上階から運びおろして並べ、足りない分はコズエの工房から借りた。
澤谷夫婦にホウレンソウの三人、コズエとジョイスと招かれざる客の八人分の席を何とか用意する。
「それにしても、ジョイスさんも酷いです」
魔法使いギルドの関係で断れない相手だとしても、勝手に招待するのは筋違いだ。椅子を並べながらジョイスへの愚痴を呟くサツキに、コウメイが思案顔でたずねた。
「それなんだけどな、本当にあのジョイスさんが招待したのに間違いねぇのか?」
「アレックスさんがそう言ってましたよ」
「招待された、とはっきり言ってたのか?」
一言一句を確かめるように問われて、サツキは戸惑いながらも昼間の会話を思い出す。
「そういえば……ジョイスさんから聞いた、と言ってましたね、それで楽しみにしていたと言うのでてっきり……あぁ、私が招待してしまってるじゃないですか!」
アレックスを追い出す際に「時間になってから来い」と口にしたのを思い出したサツキは、あの一言は間違いなく招待の言葉になり得ると気づき頭を抱えた。
「ハメられたか」
「悔しいです、コウメイさん」
「相手が悪かったんだ、仕方ねぇよ」
情報源はエルズワースだろう。それをジョイスに確かめたアレックスは、さも招待されたのだという態度でやってきたのだ。そしてサツキからまんまと招待の言葉を引き出した。腹黒陰険細目の扱いに慣れている者なら引っかかりはしないが、対面するのが三十年ぶりのサツキでは見破れなくても仕方がない。
時間より早くにやってきたコズエとジョイスは、アレックスの参加の経緯を聞かされて大きく首を振った。
「ぼぼ、僕は招待されている側ですよ。勝手に別の人を招待なんてしません。ましてやア、アレックスさんなんてっ」
「ジョイスの名前を勝手に使うなんて、許せないなぁ。ちょっと嫌がらせしていいですか?」
「ちょっとなんて言わず、遠慮せず思い切りやってくれ」
コウメイの許可を得て夫とともに工房に移動したコズエは、食事会の時間がくると小さなアミュレットを手に戻ってきた。彼女のデザインのヘアエクステとよく似た、繊細で美しい魔石の腕輪だ。大黒蜘蛛の糸で編まれたブレスレットには、エクステよりも大きめの魔石がいくつも使われている。
「アレックスさんの耳飾りの色に合わせて赤い魔石を使ってみました」
「あら、かわいいブレスレット。アレックスさんにはもったいない気がするけど」
「ふふふ、実はこれ、アミュレットなんですよ」
魔石を編みながらジョイスに教わった魔術式を描き込んだとの説明を聞き、アキラは嫌そうに眉をひそめる。自分を見るアキラの目が少しばかり冷たくなったのに気づいたコズエは「よく見てください」と笑顔でアミュレットを差し出した。
赤い魔石の連なりを眺めたアキラは、一番大きな魔石に描き記された魔術陣を読んで目を見開いた。
「……家具の角に足の小指をぶつける、アミュレット?」
「え、お守りだよな?」
「それ呪いじゃねーかよ」
効果があるのか? とコウメイとシュウが首を捻っている。
「アミュレットって、持ち主の身に起きてほしい魔術を描き込んだものだってジョイスに教わったんですよ。魔術は魔石の数だけ現実化するということも。間違ってませんよね?」
アミュレットに込められた魔術が、持ち主を守るためのものとは限らない。夫の名前を利用された恨みはなかなかに深いようだ。コズエは協力を求めるようにアキラにほほ笑む。
「なるほど、これなら細目も警戒しないだろうな」
アキラはコズエに最高の笑みを返した。
魔術陣はジョイスが用意したが、魔石に刻んだのは素人のコズエだ。アレックスならすぐに魔術に気づくだろうけれど、魔術陣のたどたどしさから、コズエが刻み間違って偶然このような奇妙な術になったと判断するに違いない。小指の角をぶつけるくらいならと警戒もしないだろう。
「魔石の数は、二十五個か。奮発したな」
「エクステ用に仕入れたばかりで、在庫はたっぷりあるんですよ」
ふふふ、ははは、と楽しそうに笑いながら材料費の分担割合を話し合う二人の姿は少々不気味である。
「お兄ちゃんが楽しそうでよかった」
「サツキ……。小指は痛いぞ、小指は」
「小指か、地味に効くぜ。呪いが発動するところを見てぇな」
「たった二十五回でいーのかよ? 百回でも足りねー気がするけど?」
「百個も魔石を使ったらさすがに不審がられますよ」
使用した魔石の半分をアキラに出資させて話し合いを終えたコズエが、鞄から魔石を編んだ腕輪を取り出した。
「カモフラージュ用にみんなのも作ってきたから受け取ってね」
急いで作ったのでデザインも込めた願いも同じだが、そこは見逃してほしいと配った。サツキには緑の魔石、ヒロは青、シュウは幻影の魔武具の魔石と同じ黄色、コウメイには深い赤、アキラには紫の魔石が編み込まれている。
「健康第一、家内安全か」
「スタンダードなお守りが一番だと思って。邪魔だったら外してくださいね」
「いや、ありがとう。大切にするよ」
さっそく腕にはめるコウメイらを見るジョイスは悲しそうにしょげている。
「ジョイスの分もちゃんと作ったのよ」
コズエは夫の手をとり、炎に似た橙色魔石のアミュレットをはめた。
「お仕事が大変だって言ってたから、ジョイスのは千客万来にしておいたわ」
「センキャクバンライ?」
「いっぱいお客さんが来て魔法使いギルドが発展するって意味よ」
袖をめくったコズエは、身につけていた橙色のアミュレットを見せる。彼女も工房の繁盛を願って同じ守りを刻んでいた。
「お揃いで大丈夫よね?」
「ももも、もちろんですっ。コズエさんっ!!」
見せつけるような夫婦のイチャイチャから顔を背けたシュウが、ぼそりと「熊族で妥協するべきだったかも」と呟いたが、その意味は誰にもわからなかった。
ブルーン・ムーンの店内に複数の魔道ランプを持ち込んだ。それらのあたたかな灯りが窓からこぼれ、通行人の視線を誘う。何人もが営業終了の看板に肩を落として立ち去って行く。
「トシコシソバ食いにきたったで~」
入店を拒む看板をものともせず、アレックスは予定時刻ぴったりにやってきた。揃って席に着いている彼らと何もないテーブルを見て、少しばかり焦ったように声をあげる。
「え、もう食べ終わったん? トシコシソバ残ってへんの?」
「食事はこれからですよ。アレックスさん、ここへどうぞ」
コズエが隣の空席に誘う。彼女の手首でキラリと光った魔石を見て、アレックスは興味深げに指さした。
「それジブンが作ったん?」
「今度ウチの店で出そうと考えてるんですよ」
「ふうん、よう分からんけど、アミュレットとしてはいろいろ足らんようやで?」
「ちょっとした真似事ですよ。装飾品に気休め程度でもこういうのがあると、意外に喜んでもらえるんです」
効果のあるアミュレットは高額になるし、ピンポイントの願い事が欲しければ魔術師に発注するしかない。庶民にはなかなか手が出ないのだ。気軽に購入できる装飾品に形だけでも魔術が込められていれば、それだけで価値は上がるし、購入した者は大切に扱うのだとコズエが説明した。
「ふうん、大陸はそうなんや?」
「アレックスさんも一ついかがですか? あ、私みたいな素人が作ったアミュレットじゃ駄目ですかね?」
エルフからすれば塵のようなアミュレットなのは間違いなかった。美的な部分は及第点だが、実用目的としてはまったく用をなさない無駄なものを身につける気はなかったアレックスだが、湯気の立つ器を持ってあらわれたコウメイの言葉を聞いて気が変わった。
「コズエちゃん、それは俺らのパーティー証みたいなもんだぜ。部外者のそいつにやる必要はねぇよ」
そのコウメイの腕にも、たどたどしいアミュレットがあった。
「えぇ、ワシのけもんにせんといてぇな」
「うるせぇ、今日だってサツキちゃん騙して招待させやがっただろ。そういうところがムカつくんだよ」
「せやかて特別な料理て聞いたら黙っとれんやん。ワシにも食わせてくれたってええやろ。アキラの師匠やでワシ」
ふわりと広がる出汁の香りに、アレックスはクンクンと鼻を鳴らす。透き通った茶色のスープに浸る黒っぽい麺、彩りの鮮やかな煮野菜が添えられたどんぶりに彼の目は釘付けだ。
「都合の良いときだけ師匠ぶるのはやめてもらえませんかね」
「なに言うてんねん、ワシはいっつもアキラの師匠やで」
弟子の突っ込みに即座に言い返しているが、その視線はコウメイの手にある椀から動かない。それを早く自分に寄こせと催促している。
「まあまあコウメイさんもアキラさんもそのくらいで。私はアレックスさんに貰ってもらえたら嬉しいですよ。アミュレットとしては役立たずですけど、耳飾りの色とお揃いにしたのでつけてもらえますか?」
よかったらお友達に宣伝してくださいね、とコズエに手渡されたブレスレットをアレックスはさっそく腕にはめた。
「これでワシも仲間やで、はよそのトシコシソバ食わせてぇな」
見せびらかすように赤い魔石のアミュレットを振るアレックスの前に、笑いを堪えたコウメイが年越し蕎麦の椀を置いた。今年はシンプルなかけそばだ。椀の他には揚げ焼きにした鳥肉に紫ギネのソースをかけた一品に、野草の天ぷら、玉菜の浅漬けが並ぶ。
「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」
押しかけてきた厄介者の存在はあれど、十数年ぶりに年越し蕎麦を囲んだ彼らは、静かに懐かしい味を堪能した。
「トシコシソバちゅうん、あったまってええなぁ」
「ところでアレックスはダッタザートで何をしてたんだ?」
アキラに呼び出された後、まさか年越し蕎麦を食べるためだけに残っていたのかと問われ、彼は野菜の天ぷらをかじりながら三人にねだった。
「面白い馬と御者を手に入れたんやて? それにえらい乗り心地のええ馬車も作ったて聞いたで。ワシ乗せて港まで送ってくれへん?」
「ウチは乗り合い馬車じゃねぇぞ」
「ついでやろ、乗せてくれてもええやん」
「残念だったな。馬も御者も先に森に帰した」
武術大会前に軍馬も甲冑も帰還させている。乗り合い馬車でのんびりと深魔の森に帰る予定を立てた三人は、自力で移動しろとアレックスを突き放した。
「えぇ、ネイトに土産も用意してんで。あそこ乗り合い馬車行かへんやん」
「ネイトさんか……」
「そーいや最近、顔を見に行ってねーよな」
「帰りに寄るか?」
そうなると乗合馬車ではなく、ギルドで馬車を借りなくてはならない。ヒロに問うと、武術大会の需要が一段落したので貸し出せる馬車はあるそうだ。
「ほなワシも一緒させてもらおか、おおきに」
「勝手に決めるんじゃねぇ」
「耳が遠くなったなジジイ、俺ら乗せるなんて言ってねーぞ」
「失礼やな、ワシはまだピチピチの二百七十三歳やで!」
二本の指を立てて見せた細目は、まだ三本目は必要ないのだと胸を張って宣言する。
ジョイスは「ここで秘密を暴露しないでくださいっ」と悲鳴を飲み込み、コズエとサツキはまさかの宣言にぽかんと口を開け、ヒロは「やっぱりか」と目を閉じて額を押さえている。
コウメイの手がアレックスの前に置こうとしたデザートの器を素早く遠ざけた。
「あ、それワシの」
「これまでずっと隠してきたくせに、なんで今さら喋っちまうんだ?」
「今さらやん。それにジブンらやったら別に知られても問題あれへんやろ」
サツキたちは三十年間若いままの三人の事情を知っているのだし、ジョイスは魔法使いギルド長としてアレックスの正体を知る立場だ、この面子の間で取り繕う必要はない。
「……そちらに問題はなくても、こちらにはいろいろと支障があるのですがね」
冒険者ギルドの副ギルド長という地位にあるヒロにとっては、できれば知らないままでいたい情報だった。
「なに言うてんねん、アキラとシュウの秘密抱えとるくせに、今さら似たようなんがもうイッコ増えたかて変わらへんやろ」
なにを言っても無駄だと諦めたのか、ヒロは大きなため息をついて「ここにいるのはアキラさんの義理の弟、一人の平民ですから」と主張し、コズエとサツキも「菓子屋の店主ですから」「ただの工房主ですよ」と逃げ道を用意した。それができないジョイスは悲壮感に青ざめたままデザートのヴィレル酒寒天を半泣きで口に運んでいる。
「アキラさん、出発は明日でいいですか?」
「……仕方ない」
「では早朝に馬車と馬を用意しますね」
強張った笑顔が、さっさとその厄介な存在を街から連れ出せと訴えている。もう二、三日のんびりするつもりだったアキラは、妹との時間を奪われた恨みをどうやって晴らそうかと真剣に考えるのだった。
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汁を一滴残さず飲みきり、揚げ焼きの鳥も野草の天ぷらも玉菜の浅漬けも平らげ、シロップと果汁に浮かぶ赤ヴィレル酒寒天をつるりと飲み終えたアレックスは至極満足げだ。
「あー、美味かったわ。トシコシソバちゅうん、また食べさせてぇな」
「これは十二月最終日に食べる料理だ、次はない」
「そないイケズいわんといて。来年またここ来たら食えるんやろ?」
「来年ダッタザートにいるかどうかわからねぇよ」
「えー、武術大会出るんだろー?」
ガツン、ガタン、ドカン、とテーブルの下で何人かの靴が素早く踊ると、シュウが唇を噛んでもだえた。
「武術大会が終わってすぐに街を出る可能性もある。確約はできないな」
「そうなん? しゃあないな、また機会があったらでええわ。ええとサツキちゃん、そこの焼き菓子三つばかりもらえへん?」
お土産を持って帰らねば留守番の者がうるさいのだとぼやくアレックスに、サツキは木の実と乾燥果実の入ったパウンドケーキを、五割増しの代金と引き換えに手渡した。
「明日の八の鐘、冒険者ギルドですよ。遅れたら放って帰りますから」
「わかっとるがな。ほな、ごちそうさん」
土産を受け取ったアレックスはご機嫌で席を立つ。
椅子から腰を浮かせ、出口の方へと足を踏み出したそのときだ。
「いったぁ――っ」
アレックスの悲鳴と同時にテーブルが大きく揺れた。
うずくまった細目は左足の先を押さえて呻いている。
「くうぅ、なんやのこのテーブル、ワシの足になにすんねん」
「おいおい、勝手にぶつかったのはてめぇだぞ。家具のせいにするなよな」
コウメイの声が苦しそうに震えている。シュウは両手で口を押さえてギリギリで踏ん張っていたし、ヒロとジョイスは顔を背けて見ない振りを貫いているが、全身に力が入っていた。サツキは夫の背に顔を押しつけ小刻みに震えているし、コズエは己の手首とアレックスを交互に見ては、感動したように目を潤ませている。
「……興味深いな」
「なんやねん?」
「いえ、こちらのことです……テーブルの脚に当たるのは止めてください、壊れたら弁償してもらいますよ」
「ああもぉ、ほな明日な」
痛みをやり過ごしたアレックスは、扉を開け足早に外に出ようとして、枠木に足の小指を引っかけ再び悶絶した。
「もうっ、なんやのっ、ワシのか弱い足指が死んだらどないしてくれるんっ」
テーブルの脚と扉の枠木を罵ったアレックスは、ぴょんぴょんと片足で跳ぶようにして夜の街に消えた。
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「まさか発動するなんて……!!」
「「「「コズエちゃんのアミュレット、すごい」」」」
「あと二十三回か」
「足の指、死んだな」