彼らの平穏な日常
宿屋の朝は早く忙しい。
開門時間に合わせて討伐に向かう泊まり客は、二の鐘が鳴る前に宿を出る。朝の軽食を注文している客にヒロが対応している間に、コウメイは自分たちの朝食を用意する。
客を見送ったヒロと、朝一番の仕込みを終えたサツキが澤谷家に戻るのが二の鐘半だ。四階まであがる途中でアキラとシュウを起し、全員そろって朝食がはじまる。
「「「「「いただきます」」」」」
今朝のメニューは炊きたてのご飯(赤ハギ)に刻み野菜と卵のスープ、黒芋の煮物、細緑豆の木の実和え、千切り野菜の酢漬けに厚焼き卵だ。ほっくりとした黒芋を味わったサツキは、真剣な眼差しでコウメイに問う。
「この黒芋の煮物、お醤油なしでどうやったらこの味つけになるんですか?」
「ブブスル海草の出汁を濃いめにしてみた。うん、良いできだ」
「木の実で和えた細緑豆も美味しいです。芳ばしさがちゃんと残ってる……どうやるんですか?」
「炒って砕いて、もう一回炒ってから使ってる」
「なるほど、もう一回炒るんですね。それと赤芋とレト菜の酢漬けにもブブスル海草を使っていますよね、割合はどのくらいですか?」
「今日のは名刺くらいのを一枚だ。野菜によって分量と漬け時間は変えてるぜ」
白芋を漬けるときは分量も時間も多めに、レト菜のような葉物野菜のときは短めだ。コウメイの説明をサツキはふんふんと相づちを打ちながら聞いている。
「なんで野菜ばっかなんだよー?」
コウメイから顔を背けたシュウは、料理談義に花を咲かせる二人に聞こえないようボソリと愚痴る。自分に向かってこぼされた愚痴に、アキラは不快げに目を細めた。
「卵料理があるだろう」
「足りねーよ。俺はガッツリ肉が食いてーんだ」
「朝から胸焼けするような食事でサツキの胃を傷めるつもりか?」
家主らの体は脂っこい食事がそろそろ辛くなる四十代後半である、朝からシュウが好むこってりした肉料理はダメージにしかならない。もちろん肉料理を食べないわけではないが、確実に量よりも質を優先するようになっている。いつまでも若い野生児と同じ食事は体に悪いし、シュウもたまには健康的な食事をするべきだろう。
「ソーセージでもハムでもいいからさー、肉を一品増やして欲しーよなー」
「コウメイに言え」
「言ったけど朝は時間がねーし面倒くせーって聞いてくれねーんだよ」
品数も多く美味しい和の朝食だというのにシュウの不満は根深い。量の少なさはご飯のお代わりでどうにかできるが、野菜尽くしのおかずで腹は満たされてもシュウの心は満たされないのだ。
「アキラはいーよなー。野菜食ってりゃ満足なんだもんなー」
「……俺の卵焼きをやるから黙れ」
隣で文句を垂れ流されては美味しい朝食が不味くなると、アキラは唯一の動物性タンパクでシュウの愚痴を封じた。
+
「じゃ、気合い入れて狩ってくるぜー!」
三の鐘の鳴る直前に、シュウは討伐支度を整え、弁当の包みを腰鞄に収めた。これから一泊二日の予定で、先日目撃情報のあった砂竜を討伐しに行くのだ。
「無茶はしないでくださいね。目立たないように、国境兵に捕まったりしないでね?」
「突飛な行動はできるだけ控えてください。もう庇いきれませんよ?」
見送りに出たサツキとヒロは、浮かれるシュウを引き止めくどくどと説教しているが、狼の耳にも念仏は聞こえないらしい。逃げるように駆け出し、手を振って通りの角を曲がって消えた。
「ちゃんと二日で戻ってくるかしら?」
「シュウさんだしな、討伐に夢中になって時間を忘れて、何日も帰ってこない気がする」
成人してはじめて討伐に向かう息子を見送ったときの情景を思い出したのだろう、サツキとヒロは心配そうにシュウの消えた角を見ている。
「大丈夫じゃねぇかな」
「だな。腹が減ったら戻ってくるだろう」
コウメイとアキラは延びてもせいぜい一日だろうと予想していた。握り飯はコウメイの拳よりも大きなものを十個、クッキーバーも三日分持たせたが、シュウの食欲なら明日までには食べ尽くすだろう。調味料は持たせなかったから、きっと明日の食事は味のない魔物肉だ。いくらバーベキュー好きでも、シュウが味付けなしの焼き肉を我慢し続けられるとは思えない。
「お塩、持たせなかったんですか?」
「あいつはピクニック気分だったからな」
どんなに近場の狩り場であっても、一人前の冒険者は必ず塩を持ち歩く。
「持たせなかったんですね?」
「自分で準備しねぇのが悪いんだぜ?」
塩がなくて困っても自業自得だが、たぶんシュウは困らない。美味しいご飯を食べるために全力で戻ってくるだろう。
安心していいのか呆れていいのかわからないと、サツキとヒロはため息をついた。
シュウの次はアキラの出勤だ。ローブを深く被って顔を隠した姿が、アキラの街歩きのスタイルだ。染めた黒髪は銀髪ほど目立たないが、それでもすれ違う住人らにじろじろと見られてしまうため、外出時はいつも顔を隠すようになった。
「ほら、アキの弁当」
手渡された包みを見てアキラは眉をひそめた。見た目よりも大きく重い弁当だったからだろう。コウメイは「残すなよ」と釘を刺す。
「握り飯は少しデカイが二個だけだ。具は焼き魚のほぐし身とピリ菜を和えたやつと、赤芋とボウネの金平」
昨夜のおかずの残り物だが、アキラの好みの具ばかりだった。「もちろん全部食うよな?」と笑顔で念押しされたアキラは無言で鞄にしまい込む。ちなみにシュウの握り飯には、アキラと同じものの他に、ソーセージに卵焼き、蒸し角ウサギ肉をほぐしてマヨネーズで和えたものが追加されている。
「……帰りはコズエちゃんとジョイスが一緒だ」
「飯は六人分か。了解」
魔法使いギルドに出勤して行くアキラを見送ったコウメイは、サツキの仕込みの手伝いに入った。レシピ通りに材料を量り、焼き型を並べて準備する。厨房から漂ってくる甘い香りを流すべく、出勤してきた店員が通り側の窓を開けた。
店内の掃除が済んだころに、荷車が店の前に止まった。
「サツキちゃん、粉屋から届いたぜ。どこに運べばいいんだ?」
「白ハギの袋は一つを厨房に、残りは奥の食材庫にお願いします」
食材庫には木の実やドライフルーツ、菓子用の酒が納められていた。
ブルーン・ムーンの開店は四の鐘だ。まだ半鐘も前だというのに、店の外には香りに引き寄せられてきた客が並んでいる。開店と同時に誘い込まれた客は、焼きたてのマドレーヌやドライフルーツ入りのカップケーキを競うように買ってゆく。
「明日はどら焼きの日よね? 芋餡はある?」
「ごめんなさい、明日は黒豆餡と黒芋餡なの。芋餡のどら焼きは土の日よ」
オーブンを手伝っていたコウメイは、店から聞こえてきた声に首を傾げた。
「焼き菓子は日替わりなのか?」
「クッキーのような比較的日持ちのするもの以外は、曜日を決めてるんです。どら焼きは月の日と土の日で、パウンドケーキは風の日、マドレーヌやカップケーキは星の日って」
屋台で菓子を販売しはじめたころにつけられた難癖が、今もサツキの中に戒めとして残っている。それにこちらの世界の庶民の家庭では、冷蔵の魔道具はそれほど普及していない。衛生面からも元の世界ほどの日持ちを保証できないのだ。店をはじめたばかりのころは多くの菓子を常時用意していたが、手間もかかるし売れ残ったときの損失が大きい。試行錯誤の結果、今のように常時販売の菓子の数を絞って、店の売りになる一、二種類の菓子を日替わりのような形で販売する形式に落ち着いた。
「コウメイさん、あとで新作にアドバイスもらえますか?」
「俺がサツキちゃんにか?」
料理ならともかく、街で人気の菓子職人にアドバイスなどおこがましいとコウメイは遠慮する。だがサツキは引き下がらなかった。
「和菓子なんです。譲ってもらった赤ハギ(米)で、いくつか試作を作ったんですけど、自信がなくて」
赤ハギを安定して得られるようになってからは、餅や団子が作れるようになった。自分たちには慣れた懐かしい和菓子だが、それがこの街の人々の口に合うのかはわからない。また洋菓子を中心にしてきた店で和菓子が受け入れられるのか、サツキは不安なのだ。
「自信持てよ。俺よりもサツキちゃんのほうが、ずっとこの世界の人のことを知ってるんだぜ」
「そうでしょうか?」
「簡単な計算だ。サツキちゃんは三十年のこの世界で、この街で生活してるんだぜ。俺よりダッタザートの人のことはわかってるはずだ」
「それならコウメイさんだって同じですよ」
「同じじゃねぇよ、俺らは違う」
異世界で生きているのは同じかもれしないが、自分たちはサツキたちのように、世界や人々になじんで暮らしているわけではない。
「俺らはこっちの人たちの中になじめねぇから、深魔の森に避難所を作って引き籠ってるんだ。相手にしてるのは魔物と少ねぇ顔見知りの冒険者だけで、たまに街に寄りもするけど基本は人を避けて隠れて暮してる」
表面的に上手くやり過ごしてはいるが、深く交わっていないからこそこちらの普通や常識には未だに疎い。
「ダッタザートで長く菓子店を営んできたサツキちゃんのほうが、住人が何を好んでいるのか、どういう和菓子なら受け入れられるのか、良く知っているはずだぜ」
以前は気味悪がられていた黒豆餡をこの街の人々に受け入れさせたのは、サツキが努力し積み上げてきた結果だ。和菓子もサツキがこれだと信じた味を伝えれば、ちゃんと人々は受け入れてくれるはず。
「俺の偏った舌に頼る必要はねぇよ。サツキちゃんがこれが美味いんだって思う菓子で勝負すればいい。ちゃんとお客さんはついてきてくれるって。俺が保証する」
「コウメイさん……」
「ああ、でも味見は大歓迎だぜ。俺も美味い和菓子を作れるようになりてぇし」
「それじゃいっぱい味見してくださいね」
魔道オーブンからベルの音がして、焼き上がりを知らせた。
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サツキの手伝いを終えたコウメイは、食材探しに市場へ向かう。
交易都市でもあるダッタザートの市場には、結構な数の他国の旅商人が露店を出している。十年以上もブランクがあるせいか、出入りの旅商人も、品揃えもずいぶんと様変わりしていた。
コウメイは器や生地や糸、魔道具や美術品はさらりと流し、他国の食材や香辛料、調味料を丁寧に見て回る。長時間の移動に耐えうる食材は乾燥させた豆類が多いようだ。そういった食材を扱う露店で、いびつで皺の寄った殻付きの豆を見つけた。
「これ、なんて豆だ?」
「それは豆じゃない、芋だ。殻つき芋っていって、殻の中にちっさな芋が入ってるんだよ」
店主が殻を指で砕いた。殻屑の中から茶色い薄皮に包まれた粒を取り出して見せる。
「落花生じゃねぇか。これ豆だろ」
「ラッカセイ? なんだそれは。土の中から掘り出すんだから芋に間違いないよ」
産地はオルステインの東山脈近辺だそうだ。煮込み料理に使われているらしいと聞き、一粒もらって口に放り込む。落花生に間違いない。地中から収穫するものは全て芋扱いなのか。コウメイは殻つき芋を二袋買った。炒ってそのまま食べても美味いし砂糖をまぶしてもいい。茹でてバターと塩で食べても美味い。ピーナツバターも作りたい。サツキなら菓子にも使うだろう。
帰りに寄ってもう一袋追加で買うべきかと迷いながら食材の露店を見て歩く。コウメイが足を止めたのはそれらの食材店ではなく、異国の品を並べた奇妙な露店だった。
「熱塩豆?」
珍しい織物や染め物、貝や染料で装飾された小箱や使い方のわからない道具。それらの異国情緒溢れる商品と一緒に並べられている小樽の、側面に書かれた文字が目についたのだ。聞いたことのない豆の名前だった。
「食材も売ってるのか?」
「俺は大陸周回船の旅商人だからな、服でも道具でも食材でも、何でも扱う。ここにあるのは全部ウェルシュタント国以外で仕入れた珍しい品さね」
「へぇ。じゃあこの『熱塩豆』ってのはどんな豆なんだ?」
「豆だが、豆じゃない。これだ」
髭もじゃの店主が樽の蓋を開けた。
途端に濃厚な酒精のような、けれどふわりと丸い香りが広がる。
「これ……」
「黒いだろ。けど美味いんだぜ」
驚くコウメイに店主は小さなスプーンですくったそれを差し出した。
コウメイは思わず背筋を伸ばし息をのむ。黒く乾燥した硬めのペーストに顔を近づけて香りを確かめ、舌先に乗せてゆっくりと口の中で押し広げる。
「……味噌だ」
「どうだ、美味いだろ?」
「ああ、塩辛いが、美味い」
まさかダッタザートの露店市で探していた味噌を発見するなんて驚きだ。
「これ、どこで仕入れたんだ?」
「ニーベルメアの南部だ。豆の生産地で作られている豆の加工食品だ」
別の品の仕入れで立ち寄った村で、とある農家に買ってくれと頼まれたのだという。黒い食材は好まれないため、売りさばくのは難しい。断わるつもりだった彼は、拝み倒されて渋々味見をし、一転して仕入れを決めたのだという。
「製法は聞いたのか?」
「教えてくれるもんか。だが手間暇かかってるのは間違いない」
製法は明かしてもらえなかったが、材料は樽に書いているように豆と塩なのは間違いないそうだ。胸の前に抱えられるくらいの大きさの樽一つ、この量の豆なら五百ダルほどだろう。異国の保存食という希少性に店主はいくら上乗せするだろうか。
「買うか?」
「一樽いくらだ?」
「一万ダル」
「高すぎる。一千ダル」
「ふざけんなよ、ここまでの輸送費がかかってるんだぜ。それに他では絶対に手に入らないぞ。八千ダル」
さすがに安すぎると髭もじゃが声を荒げる。それでも値を下げたのは思うように売れていないからだろう。勝機がありそうだと、コウメイは値切り交渉に気合いを入れた。
「その小樽の量なら、最高級蒸留酒でも三千ダルだろ」
「だがあんたはこの熱塩豆が欲しいんだろ? 七千ダル」
「足下見やがって。一樽じゃなく全部買うから負けろって言ってんだよ、四千ダル」
「五樽全部か?」
髭もじゃ店主は戸惑いを隠せなかった。仕入れた熱塩豆は確かに美味いが、一度に大量に食べる食品ではない。樽一つあれは一年は食べ終わらないだろうに、それを五樽全部買うというのだから驚いた。
「そうだ。それとあんたダッタザートには定期的に来るのか?」
「毎年は難しいが、二年毎というところだな」
「なら毎回必ず熱塩豆を仕入れてくれ。俺が買う」
「あんたこの街の冒険者か?」
「違うが、この街に仲間の実家がある。そこも顧客になるのは間違いねぇぜ。定期的な、しかも確実な売り先があるんだ、五千ダル」
熱塩豆(豆味噌)が入荷したと知らせがあれば、何をおいても引き取りに深魔の森から駆けつけるつもりだ。
「嘘じゃないだろうな?」
「澤と谷の宿ってとこだ。俺たちの分も宿が買い取る」
もじゃ髭の旅商人は目を見開いてコウメイを見返した。
「……澤と谷の宿は知ってる。今回満室で泊まれなかったんだ」
「へぇ、あんたも客だったのか」
「四年前からな。宿は快適だし、風呂も良い。それと奥方の菓子を仕入れて、周回船で儲けさせてもらっている。隣の店の髪飾りも他所の国で高く売れるんだ」
意外なつながりを知って今度はコウメイが目を丸くしていた。
「お得意先は大事にしないとな。一樽五千で手を打とう」
「商談成立だな」
「おう。俺はフェルダだ、よろしく頼むぜ」
二人はしっかりと握手を交わした。
+
八の鐘の少し前に運び込まれた五つの樽は、サツキに感涙をもって歓迎された。
「お味噌が市場で手に入るなんて!」
「お菓子の露店、出してんだろ? 探さなかったのか?」
「お客さんの対応にかかりきりで、他のお店を見て回る時間がなくて」
店で使う食材は取引先から配達してもらっているし、家庭で食べるための食材も昔なじみの農家に配達してもらっているのだという。味噌を扱っている旅商人が、何年か前の澤と谷の宿の客だったと聞いて余計に悔しく感じたようだ。
「忙しいって言い訳せずに、新しい食材を探さないと駄目ね」
「熱塩豆(豆味噌)は二、三年毎になるがここに届けてくれるように話をつけてある。邪魔かもしれねぇが、俺たちの分も保管しておいてもらえるか? 連絡くれたらすぐに取りに来るから」
それくらいはお安いご用だと、サツキは熱塩豆(豆味噌)の取引と保管を引き受けた。
「お米にお味噌、あとはお醤油が欲しいですよね」
サツキのため息にコウメイは、味噌があるのだから醤油もどこかにあるはずだと断言した。醤油の材料は麦と豆と麹だ。これまでほとんど足を向けなかったニーベルメアの地方に、熱塩豆(豆味噌)が存在したのだ。醤油もそのあたりを探したほうが発見できる確率は高いだろう。
「俺らが探してくるからサツキちゃんはここで待っててくれ」
「期待しています。でもあまり無茶はしないでください。私たちは今の食生活に何も不自由していないんです」
米(赤ハギ)の発見にもずいぶんと危ない橋を渡ったようだと、ヒロから話を聞いている。もう二度と死にかけたなんて話は聞きたくないのだ。サツキは醤油に命をかける必要はないと、コウメイを諭したのだった。
+++
コズエとジョイスの加わった夕食は盛り上がった。予想通りにコズエも味噌の存在を知って大喜びだ。サツキに共同購入しようと持ちかけている。二人の大盤振る舞いの笑顔を見て、ジョイスも嬉しそうだ。
「なのに、せっかく手に入れた調味料を夕食に使わなかったのですか?」
「シュウがいねぇからな。俺たちの故郷の調味料なんだ、最初に味わうのは全員そろってからにしてぇんだ」
結束の強い彼ららしいとジョイスはほほ笑む。
「味噌汁は定番ですよね」
「煮込みは基本だな。暴れ牛のすじ肉と、白芋と魔猪肉もいいな」
「魚の味噌焼きが食べたい」
「鯖の味噌煮ですよ、鯖!」
「いいな、鯖」
「鯖か……サハギン(鯖)を漁りに行くか?」
ジョイスはポンポンと出てくる見知らぬ料理名に戸惑い、少しばかり疎外されているような寂しさを感じた。だが彼らのうっとりとした表情を見ていると、思わず唾を飲んでしまう。ミソニコミというのはとてつもなく美味しい料理なのだろう、自分も味わってみたいものだ。
「ぼ、僕もそのミソニコミというのを食べたいですっ!」
ほんの少しの勇気と、湧き出てくる唾液に背を押されて、ジョイスは前のめりになって声を絞り出した。
滅多にない力強い主張に、全員が無言で、目を丸くしてジョイスを凝視する。
「あ……あの、ぼ、僕っ」
和やかな空気を壊してしまったと落ち込む夫の背を、コズエが力いっぱい叩いた。
「もちろん、ジョイスも食べるに決まってるじゃない。ね?」
「ああ、すげぇ美味い味噌煮込み食わせてやるから期待しててくれ」
「は……はいっ」
ジョイスがミソニコミを堪能できたのは、シュウが戻ってきた翌日だった。