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3 懐柔


 マーゲイト村は、村とは名ばかりの()()だった。

 急斜面を登り切った先に現れた平らな地面、入り口には鉄の門柱があり、狭い敷地を鉄柵がぐるりと囲っていた。囲われた中央には二階建ての大きな建物が一軒あり、それを挟むように両脇に大小の平屋が二軒建っている。村というよりも個人の少し大きな邸宅にしか見えない。農村にありがちな家畜もいなければ、当然畑もなく、狩猟で獲た皮や素材を加工している気配もない。それどころか、人の気配もほとんど感じられなかった。


「きみ、この村の人だよな?」


 コウメイは三切れ目の干し肉を食べ終わるタイミングで声をかけた。それまで夢中で食べていた少女は、ビクッと飛び跳ねるように振り返り、自分をのぞき込む眼帯男と、荷物にもたれている鉢巻男、そして少し離れた場所で村を観察するように見ている銀髪の三人を認識し、我に返った。


「あ……」


 アキラの後ろから射す太陽の光に目が眩んだか、少女は目をそばめた。


「ここはマーゲイト村で間違いないんだよな?」

「そ、そうよっ」


 滅多にない来客の前で強奪した食料を貪り食ってしまった少女の顔は一瞬で赤く染まり、すぐに青ざめて冷や汗をかいた。


「ペイトン町のギルドの依頼で荷物を運んできたんだが、村長さんとか、誰か大人はいねぇかな?」

「わ、私は大人よ」


 十四、五歳ほどに見える少女は干し肉を隠して取り繕うと、ムッとしてコウメイを睨む。


「この村に何の用よ? いつもの荷運びの人とは違うのね。それに町で見かけたこともない顔だけど、あんたたち本当に冒険者? なにか良からぬものを持ち込んだり、不埒なこと考えてたりしないでしょうね?」

「不埒……」

「そりゃ余所者だけどなぁ」

「とりあえずさー、この荷物どこに運べばいーのか教えてくれよ」


 羞恥を誤魔化すような少女の早口は遮るもののない村中に響いていた。


「シンシア、大きな声を出してどうしたのです」


 門での騒ぎを聞きつけて、二階建ての家から中年男性が顔を出した。


「師匠っ」

「お客様ですか……このような辺鄙な村に、いったいどのようなご用件でしょう」


 見慣れぬ三人を警戒し、硬い表情で近づいた男は、少女を背に庇うようにしてコウメイたちと向かい合った。五十手前に見える小太りの男は、少しばかり色あせた黄色いローブを身に着けている。口を開きかけたコウメイを止めたアキラは、男の正面にゆっくりと歩み出た。


「こちらはマーゲイト村で間違いありませんか?」


 アキラは男が魔術師だとすぐに気づいた。相手が魔術師(同業者)なら自分が対応すべきだろう。ダッタザートで培った営業スマイルを張り付け、黄級魔術師に会釈した。


「私たちはペイトンのギルドで依頼を請け、こちらの荷物を運んでまいりました」


 シュウが支えている大きな荷を示し、ギルドに提出する受領証を見せると、すぐに男から緊張が抜けた。


「これは失礼しました。村長のアーネストです。険しい道をご苦労様です」

「村長さん、でいらっしゃる?」


 目を細めたアキラは、アーネストと彼に庇われるシンシア、そして敷地中央の古びた建物から隔たるもののない空へと視線を移し、案じるように首を傾げた。


「こんな山の上の生活は、ご苦労が多いのではありませんか?」

「確かに、食料はいつも不足していますし、色々と大変ですが、務めですので仕方ありません」

「務め……」


 やはりそうだったか。もしかしたらとの推察が正しかったと確信し、それと同時にアーネストの疲れたような様子がダッタザートでの自身と重なり共感を覚えてしまった。


「こんな険しい山頂近くに魔法使いギルドがあるなんて驚きました。このような場所で転移魔術陣を管理し守るのは大変なご苦労でしょうね」

「なっ」

「あ、あんた何なのよっ」


 アキラの言葉にアーネストが顔色を変え、ローブの袷せから杖を取り出して構えた。攻撃の意思を感じたコウメイが柄に手をやり、シュウは即座に飛びかかれるようにと片足を引く。


「……ぶしつけに、失礼しました」


 アキラは両手をあげて害意はないと示し、コウメイとシュウを視線で押し止めた。


「失言をお許しください」


 アキラは丁寧に頭を下げた。

 魔法使いギルドにとって転移魔術陣の存在は最大級の秘匿情報だ。ダッタザートでもごく一部の魔術師にしか知らされていなかったし、必要と認めて知らせた相手にも、誓約をさせ魔術的な縛りを入れていた。それなのに突然やってきた見ず知らずの冒険者が、ギルドの存在理由である転移魔術陣の事を口にしたのだ、警戒するのも当然だ。


「冒険者の身なりをしていますが、私は魔術師のアキラと申します。三か月ほど前までダッタザートのギルド所長を務めておりました」


 アキラの差し出した魔術師証の橙の紋章を見たアーネストからは、目に見えて身体から緊張が抜け、構えていた杖が下ろされた。


「お若いのに橙級の魔術師とは、素晴らしいですね」

「橙!? 嘘でしょっ」


 アーネストは自分よりも上階級の魔術師の来訪に驚き、焦り、恐縮したように頭を下げたが、シンシアはアキラの魔術師証を奪い取ってその色を確かめ、裏書の師匠名を読むと悔しげに唇を噛んだ。


「こら、シンシア、失礼だぞ」


 シンシアの手から魔術師証を取りあげてアキラに返し、アーネストは弟子の無礼を詫びた。


「申し訳ありません、しつけが行き届きませんで」

「いえ、こちらこそ余計なことを言いました、申し訳ありません。あの建物から魔力が漏れていたのでつい気になって視てしまいました」


 アキラの指し示した建物は、中央にある二階建ての古い建物だ。その右手の奥の方から魔力が漏れている。その指摘にアーネストはため息を吐いた。


「マーゲイト村は、魔法使いギルド出張所のためだけに作られた、魔術師の村なのです」


 改めてギルド所長だと名乗った黄色の魔術師は、困り切った様子で建物を振り返った。


「ご覧の通り、修復が間に合いませんで」


 アーネストの視線を追って建物を見あげたコウメイとシュウは首を傾げた。


「古くて趣あるけど、壊れてるように見えねぇぜ」

「雰囲気いいよなー。雨漏りでもしてんのか?」

「建築物としては問題なさそうですが、施された防壁魔術が綻んでいるように見えますね」


 アキラの指摘にアーネストは「おっしゃる通りです」と肩を落とした。ダッタザートでもアレ・テタルでも、転移魔術陣はギルドの中心部に近い場所に物理的、魔力的に隔離され隠されていたが、それらのメンテナンスはギルド所長の仕事だ。


「……わかるか?」

「わかるわけねーじゃん。それよりこれ建てた大工はすげーよな」

「ここまで煉瓦を運んでくるのは大変だったろうなぁ」


 魔力やら魔法使いギルドやらの話はアキラに任せておけとばかりに、二人はこんな場所に建築物を完成させる方法をあれこれ想像して楽しんでいた。


「魔術師の村ということは、ここに住んでいるのは魔術師だけなのですか?」

「ええ、所属の魔術師は五人、うち二人はペイトンの町からの依頼で出払っているので、今は三人ですね」


 魔法使いギルドだという建物は、少しばかり立派な民家のように見えた。玄関を入ったロビーからまっすぐに奥へと続く廊下、左手の最初の部屋が食堂兼居間で、その奥に台所や洗い場がある。右手の部屋が魔法使いギルドの事務所だそうだ。廊下の突き当りにある階段から上がった二階は、魔術師たちの居住として使われている。


「それで、今回はどのような用件でいらっしゃったのですか?」


 三人を居間に招き入れたアーネストは、アキラに遠慮がちにたずねた。


「監査の連絡は受けておりませんが……いえ、決して疚しい事は致しておりませんが、あまりにも突然で、ええ」


 汗を拭きながらしどろもどろなギルド所長は見事な勘違いをしているようだ。


「抜き打ちの監査官だと思われたらしいな」

「アキラって役人っぽいもんなー」

「……誤解をされているようですね。私は荷運びの依頼を引き受けただけの冒険者です」


 アキラの笑顔が引きつっている。


「いや、しかし、橙色の方が冒険者などするはずが」


 アーネストの常識では、魔術師が市井で冒険者とともに活動するのは、白級あたりならばあり得ることだった。だがそれ以上の階級になると、実力に応じてギルドから職務を与えられ、冒険者とともに依頼を受けて活動することはなくなる。ましてや辺鄙な田舎の村への荷運びを、宿代にもならないような安い料金で引き受けるはずがない。荷運びはカモフラージュで他に狙いがあるはずだと勘繰るのも、彼の立場からすれば自然な結論だった。


「本当ですよ。なんでしたら本部に問い合わせてください。私は一冒険者であり、ただの魔術師です」


 とてもそうは見えないとアーネストの目は語っていたが、藪蛇を恐れたのだろう、愛想笑いで言葉を飲み込んだ。


「ここに住まなきゃならないのは分かったが、狩りをしたり畑作ったりしねぇのか?」


 二人の間に漂った気まずい雰囲気にコウメイがやんわりと割って入った。補給が止まったら飢え死にするだろうと心配するコウメイに、アーネストは難しい表情で首を振る。


「こんな場所ですし、我々はあまり狩りが得意ではないのです。薬草の栽培は行っておりますが、野菜となると勝手が違いまして。ですから食料はペイトンからの荷に頼るしかない状態です」


 険しい山道を嫌がって荷運びを引き受ける冒険者が少ないため、ここにいる魔術師たちはいつも腹を空かせているらしい。今日届いた荷も、本来ならば三日前に到着する予定だったそうだ。


「転移魔術陣で本部から食料を送ってもらえばいいんじゃねぇか?」

「とんでもない、転移魔術の術料は高額でして、とても我が出張所で支払える金額ではないのです」


 マーゲイト出張所は魔術師たちの出稼ぎの収入と、村で作った魔道具や錬金薬をペイトンの町で売った代金で運営されている。一度の転移魔術の代金は三ヶ月分の運営費用が吹っ飛ぶほどの値段だ、食料調達のたびにそんな高額な費用をかけていてはギルドが破綻する。

 アーネストは会計帳簿を見られたくないのか、チラチラとアキラを気にしながら言葉を選び汗を拭いた。


「出稼ぎの魔術師たちも食料を持ち帰ってくれますし、ペイトンからの荷もなんとか途切れずに届いています。いざとなれば薬草がありますから大丈夫ですよ」


 食料が尽きたら薬草を食えばいいのだからと笑って言うギルド所長の顔が、薬草をつまみ食いするアキラの姿に重なって見え、コウメイとシュウは何とも言えない表情で視線をかわした。


「いくら魔術陣を守るったって、こんなところにいたら退屈だろ?」

「そうでもありませんよ。この辺りには希少な薬草が多く生息していますから、採取して本部に送ったり、錬金薬を作ってペイトンのギルドへ卸しているので、それなりに忙しくしています」


 研究バカの魔術師にとってはそれほど悪い環境ではないらしい。希少な薬草と聞いてアキラが前のめりになったのを押しとどめて、コウメイは荷物の受け渡しを完了させた。シュウが運んだ荷は魔術師たちの半月分の食料だった。


「この時間じゃ山を下りるのも危険だし町にも戻れない、俺たちが泊まれる部屋を貸してもらえねぇか?」


 太陽は西の山に近づいており、さすがに今から山を下って町に戻るのは無理だ。


「それでしたら右手の平屋を使ってください。荷運びの冒険者たちが泊っていくための小屋ですから、必要な設備は整っていますよ」


 案内された平屋には、扉の脇に少し広めの土間とカマドがあり、小あがりの奥には八畳間程度の板の間があった。洗い場とトイレは狭かったが臨時の宿としてなら問題はない。


「しばらくこちらに滞在してもかまいませんか?」


 三人が一泊して翌朝には立ち去ることを期待していたアーネストは、アキラの申し出に不安そうに視線を泳がせた。


「それは結構ですが……申し訳ないが、食料はお分けできませんよ」


 次の荷が届くまでは今日届いた食糧で食いつながなくてはならないのだ、よそ者に施す余裕などない。


「ご迷惑はおかけしません。私たちは自分で食料を調達しますから」


 そうだろう、とアキラが視線を向けると、コウメイとシュウが調子を合わせた。


「ここへ来る途中で魔鹿を見かけた、あれを狩ってこようか」

「丸っこい鳥も見かけたし、食料には困らねーよな」

「よろしければみなさんの分も狩ってきますよ。購入した食料はできるだけ温存したいでしょう?」

「それは、助かりますが……よろしいんでしょうか?」

「しばらく滞在させていただく代金です、お気になさらずに」


 厳しい食糧事情と機密を天秤にかけたアーネストは、食料を優先することに決めた。それに自分よりも若く上級位であり、ギルド本部からの監査官かもしれない魔術師に抗う選択はできない。


「それでは後ほど、獲物をお届けします」


 そう言ってアーネストを平屋から追い出したアキラは、埃臭い平屋の掃除をはじめ、コウメイとシュウは狩りに向かった。


   +


 山の日暮れは早い。空がオレンジ色に変わったかと思えば、あっという間に夜になる。かろうじて太陽が空にある間に戻ってきたコウメイとシュウは、魔鹿を三頭に羽蜥蜴を二匹抱えて帰った。


「羽蜥蜴は久しぶりだな」

「だろ? 香辛料もあるから、久しぶりにエビチリ風にして食ってみたくなったんだよ」

「エビチリが食えるのかよっ?」

「エビチリ風だぜ、風」


 何でもいいから食わせろと騒ぐシュウを宥めつつ、コウメイは腕によりをかけて大量の羽蜥蜴肉と魔鹿肉料理を作った。


「こんなに沢山食えねーよ」

「全部食う気だったのか」

「こっちの皿のには手を出すなよ」


 エビチリ風、塩焼き、戻した乾燥野菜のみじん切りとつぶした鹿肉でハンバーグ風に仕上げ、団子にしてスープの具にもした。


「さて、胃袋から篭絡してくるか」


 ギルドの台所から借りてきた大皿に盛りつけた料理は、それぞれ五、六人分ほどある。これはアーネストたちに差し入れる賄賂だ。大皿料理を明日の分だと思っていたシュウは「なんで賄賂?」と首を傾げた。


「アキが言ってただろ、しばらく滞在するって」

「あー、それだよ。なんですぐウォルク村に行かねーんだ?」


 昼間のやり取りを思い出したシュウは「勝手に決めるな」とハギ茶を煎れるアキラに不満をぶつけた。


「配達は終わったんだし、さっさとウォルク村に行こうぜ」

「焦るな。村へ行く前に調べたいんだ」

「ウォルク村の事をか?」


 そうだと頷いたアキラは、にんまりと笑んだ。


「ペイトンではまともな情報は得られなかったが、ここなら間違いなく記録は残っているはずだ」


 人里から遠く離れた場所に転移魔術陣があり、獣人が目撃された村が近くに存在していた。全く別物のようでいて、切り離しがたく感じるとアキラは言った。


「それなら村に行った方がぜってー早いぜ」


 シュウはここまで来たのだから現地に行った方が早いと譲らない。


「実際に現地を見た方が色々わかるかもしれねーだろ」

「何を探すのか、それがわからなきゃ無駄足になるぞ」


 無策で押しかけるよりも、事前に手がかりくらいは掴んでから行くべきだというアキラは、一息にハギ茶を飲み干して言った。


「手がかりがないからとりあえず行ってみる、から、手がかりを探せそうだ、に状況が変わったんだ。調べつくしてからの方がいい」

「村は逃げねぇんだし、アキに賛成だな」

「コウメイはアキラの味方ばっかじゃねーか」


 拗ねるシュウに、コウメイは苦笑いだ。


「あのなぁ、シュウは村の跡地に行って何を探すつもりだよ」

「そりゃ、獣人に決まってるだろ」


 何のためにここまで来たのだと、シュウは二人を睨み腰をあげた。コウメイは宥めるように肩を叩いて座らせ、アキラは諭すように声をかけた。薬草の姿も形も知らないまま採取に出かけても成果が出せないように、何を探すのかはっきりしないままウォルク村に行っても、時間を無駄にするだけだぞ、と。


「無駄骨は折りたくないだろう?」

「三十年近くも廃墟のままなんだぜ、そんなところに誰がいるんだよ」

「獣人が隠れて住んでるかもしれねーだろ」

「隠れ住んでるとしたら、なおさら俺らが突然訪ねて行っても警戒して出てこねぇよ」

「俺がこれ外せばいーだろ」


 額のサークレットを鉢巻の上から触ってシュウが訴える。


「俺が狼獣人だって分かれば、隠れてる獣人だって出てきてくれると思うんだよなー」

「出てきてくれなかったら、その後どうするんだよ」


 その廃村に獣人族が隠れ住んでいる証拠があるのなら、明日の朝すぐにでもウォルク村へ向かってもいいだろう。だが現時点ではっきりしているのは、かつてネイトがウォルク村で獣人族を見たという証言と、村が廃墟になっているという事実の二つだけだ。


「そもそもだ、今の時点で村が獣人の隠れ里だったかどうかは、はっきりしてねぇんだぜ」


 シュウは獣人の村だと決めつけているが、それを証明できる根拠は何もないのだ。


「けどアキラは獣人族がいたかもって、証拠が見つかるかもって思ってんだろー?」

「いたかもしれないし、見つかるかもしれない、だ。推測を裏付けるために、この村にとどまって調べるんだ」

「証拠積み上げてから村に行っても遅くはねぇと思うぜ」


 手がかりは多い方がいいし、無駄足は嫌だろ、とコウメイがシュウを宥め、アキラも頷いた。


「魔法使いギルドなら他所にはない記録が残っている可能性は高い」

「ここ陸の孤島だし、情報が盗まれるとかもなさそうだしな」

「魔術師は記録を捨てない人種だから廃棄もされていないだろう。メモ書きから有力情報が見つかる可能性もゼロじゃない」

「あーもーっ、わかったよ!」


 二人に挟まれて畳みかけられたシュウは、資料探しは避けられないと諦めた。


「……ホントはアキラがただ調べたいだけなんだろー」


 不貞腐れてはき出した言葉に、アキラの伏せた目がすいっと逸れた。


   +


 コウメイたちが料理を持ってギルドを訪問すると、魔術師たちに感涙をもって迎え入れられた。


「こんなに手の込んだ料理は久しぶりだ」

「ジジイばかりだと料理をするのも億劫でな」


 村に残っているのはギルド所長とその弟子のシンシア、そしてアキラと同じ橙級の老魔道具師のトマスの三人だ。

 料理を囲みながら、コウメイたちはアーネストの弟子自慢を聞かされた。成人と同時に魔術師になれるシンシアの才能は別格なのだそうだ。一般的には、よほど才能と環境に恵まれた逸材でもなければ、死ぬまでかかっても赤級あたりの色級で終わるらしい。それを聞かされると、シンシアがアキラの魔術師証の真偽を疑うのも当然だった。


「舌がピリピリするけど、毒じゃないでしょうね?」


 エビチリ風の羽蜥蜴肉を口に入れた彼女は、初めて舌に感じる刺激に顔をしかめた。だが憎まれ口をききながらも、料理を口に運ぶシンシアの手は止まらない。


「仲間が魔鹿を三頭狩ってきました。血抜きと解体は終わって居ますので、あとで二頭分持ってきます。みなさんで食べてください」

「いいのかね、貴重な食料だろう?」

「私たちはいつでも狩りができますから、遠慮しないでください」


 コウメイの手料理で満腹になった魔術師たちは、村に滞在することになった冒険者たちが、自分たちの食生活を豊かにしてくれそうだという期待に胸を膨らませた。突然現れて村に居座ることになった冒険者と、上級の魔術師に対する警戒は急激に薄れ、アキラたちの滞在は胃袋的に歓迎されることとなった。



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