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やたら長い人生のすごし方~隻眼、エルフ、あとケモ耳~  作者: HAL
11章 穀物大捜索

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レッド・ベア狩りと薬草採取



 ヘル・ヘルタント軍の先遣隊は、手入れを終えたばかりの宿舎に陣営を作っていた。アキラたちの宿舎と同じ間取りであるが、出入り口に近い部屋は待機所として使われている。ジョージが入ってゆくと兵士がチラリと視線を寄こしたが、すぐに興味を失って着衣や装備の点検に戻っている。上官があらわれたという態度ではない。


 その奥にある部屋が、仮設の司令官室として使用されていた。自分の執務室だというのに、ジョージは小気味よくノックし、室内から許可の声がかかるまで無言で待つ。

 司令官室にいたのは四人の士官らだ。執務机に一人、脇の打ち合わせテーブルに三人。ジョージが扉を閉め、小さく頷くと、彼らは一斉に態度を変えた。


「アキラ殿、紹介しておく。ここに居る者らは俺の直属の部下だ。俺の正しい身分を知っているのはこの四人だけだから、そのつもりでいてくれ」

「わかりました。よろしくお願いいたします」


 アキラが軽く会釈をすると、四人の顔色が変わった。


「昨夜も説明したが、今度捕虜として遇する予定の薬魔術師殿だ……竜殺しの一人だ、わかるな?」


 ジョージに連れられてやってきたアキラを見た部下らは、あんぐりと大口を開けっぱなしにして驚く者、持っていた書類束をばらまいても気付かぬほど見とれる者、怒気を込めて上司を睨みつける者、首がもげるのではないかと心配になるほど首を傾げる者、と驚きの表現が個性的なものばかりだ。


「え、迷宮都市の、花冠の? え?」

「歳取ってませんねぇ。さすが魔術師、羨ましいかぎりだ」

「……」

「大将、あんたとうとう拉致ってきちまったのかよ!」


 よく見れば、四人の顔になんとなく見覚えのあるような気がする。首を傾げているアキラに、ジョージは、迷宮都市でジョージのパーティーメンバーとして冒険者に成りすましていた者たちだと説明した。


「頼んで来てもらったんだ。おい、時間がない。アレを」


 詰め寄る部下をむっつりとして引き剥がしたジョージは、薬草の在庫を用意しろと命じる。昨夜のうちに手配してあったのか、すぐに乾燥薬草が運ばれてきた。


「これは我が軍の薬魔術師が五リル(一リットル)の錬金薬を作るのに必要する薬草だ」

「量と品質は魔法使いギルドの規定通りの品ですよ」


 口を開けて見とれていた兵士が、運んできた薬草の説明をする。錬金治療薬の材料であるセタン草とヤーク草の葉、ユルックの茎が並べられた横には、糸瓜の水の樽も用意されている。書類を拾い終えた兵士が、簡易調合魔道具を持ち出して置いた。


「湯水のごとくと言った言葉を証明してくれ」

「では、調合しますね。ナイフをお借りしても?」


 薬草を大胆に手で半量ずつに分けたアキラは、ジョージに借りた小刀でそれを刻み、簡易調合魔道具に投入した。用意された糸瓜の水は全て使用しても足りないと感じたため、自分の魔力でこっそり水を補充する。


「使用する薬草の量が少なすぎませんか?」

「水が多いような……?」

「え? 早くないですか?」

「量が多いよ、量が!?」


 通常ならば使用された糸瓜の水は、錬金薬生成過程で何割かが失われるものだ。半量が残れば一人前、七割を残せば凄腕と評価される。ところがアキラが完成させたのは、樽からあふれそうなほどの大量の錬金薬だ。

 ジョージの部下らは半信半疑の顔で試験棒を浸けた。


「……薬草を半分しか使ってないのに、なんで高品質な錬金薬ができるんだ?」

「量が増えるなんて、おかしいだろ、意味がわからない……」


 カップに三、四杯ほどだろうか、錬金薬が調合鍋に残されたままだ。


「さすが、謎の花を素材に錬金薬を作った薬魔術師殿だ」

「ええっ、あの花は薬草素材だったのですか?」

「あの当時は団長の気が触れたのかと思っていましたよ」


 いそいそと黄色い花を摘み集め、束にして銀髪の冒険者に貢いでいた上官を、複雑に思っていた彼らだ。


「どうでしょう、合格ですか?」


 アキラが薄くほほ笑んで問いかけ、その横ではジョージが「どうだ」と自信満々に胸を張っている。


「合格も何も、ぜひともウチの専属になってほしいくらいです」

「大将は大げさに言ってるんじゃなかったんですね」


 どうやらアキラの言葉をそのまま伝えても、部下らは眉唾に受け取っていたようだ。いくら竜殺しの魔術師であっても、攻撃魔術師と薬魔術師ではその魔術も生き方も正反対、とても言葉通りの調合ができるとは信じられなかったらしい。手のひらを返して熱心に勧誘され、アキラは苦笑いだ。


「私がヘル・ヘルタント軍のために働くのは、捕虜としてとどまっている間だけです」

「承知しています。が、もったいないなぁ」

「それなら錬金薬を作るついでに、軍の薬魔術師の指導をしてもらえませんか?」


 専属が無理なら、身内の魔術師を鍛え直してくれと頼まれた。


「本人が希望すればかまいませんが、押しつけるのは良くないですよ。一人前の魔術師に対する侮辱です」 


 安請け合いして軍の薬魔術師に恨まれたくはないと、やんわりと断わった。

 腕試しは終わった、これ以上この部屋に留まっていると余計な仕事を押しつけられかねないし、それを断わって彼らとの関係が悪くなるのは避けたい。早々にコウメイらと合流しようと、アキラは部屋を辞した。

 連れてきた体裁もあり、ジョージに伴われて建物の外に出る。


「今夜、正式に返事をする。契約魔術の準備を頼む」

「お待ちしています」


 交渉はほぼこちらの案が通りそうだとの手応えに、アキラは満足の笑みを向けた。


   +++


 熊の主な食料は木の実だ。秋も深まるこの季節は、森の木々も次の春に向けて様々な種を落とす。それらの中でもカルカリやミクルル、ピーナルの実らを他の魔獣らと争い食べているようだ。


「うわー、刺の実も食ってるのかよー」

「普通は刺を避けて食わねぇんだが、増えすぎて木の実が足りてねぇんだろうな」


 刺ごと噛み砕き、吐き捨てられた食べられない刺があちこちに落ちていた。カルカリの木には大きな手で叩き揺すった爪痕が残っている。ここで魔猪と争ったのだろう、両方の足跡と血のついた抜け毛が散らばっていた。

 駆除したばかりのレッド・ベアの死骸を担いだシュウに、コウメイが見解を問う。


「どっちが勝ったと思う?」

「そりゃ熊だろー。頭の上から爪で殴られたら、魔猪でもかなわねーよ」


 証拠もあるぞと、シュウが熊の手を掴んで見せた。太く鋭利な爪に、獣の血と体毛がこびりついている。散らばっている毛と同じ個体だろう。


「ついでに魔猪の死骸も探して持って帰ろーぜ。熊肉ばっかじゃ食い飽きるし」

「のんきだな。肉の味を覚えた熊はたちが悪いぞ……食い尽くされてればいいが、食べ残しに群がってたら厄介だ」


 普段は木の実中心の食事をする熊だが、元来は雑食獣だ。肉の味を知ったレッド・ベアが魔獣肉で満足すれば良いが、森を出て人を襲うようになっては大変だ。魔獣よりも弱い人族のほうが簡単に食べられると学んでしまえば、村はレッド・ベアの餌場になってしまう。


「怖いこと言うなよなー」

「ニュースとかで見たことねぇのか? 日本(あっち)でも熊が住宅街をうろついてたり、登山してた人が襲われたりしてたじゃねぇか」

「そんな昔のこと、覚えてねーよ」


 だがコウメイが心配する被害がいつ起きても不思議ではないほど、レッド・ベアが異常繁殖しているのは間違いない。魔猪の死骸も率先して回収するべきだろう。普段はできる限り遮断している嗅覚を開放して、シュウは濃い血の臭いを探った。


「この熊のじゃねーのが、あっちにあるぜ。五十メートルも離れてねーと思う」

「わかった。俺が回収してくる」


 熊の死骸の運び出しを優先しろとシュウを森の外に向かわせ、コウメイは彼が指し示したほうへと足をすすめる。

 シュウの嗅覚はかなり正確だ。三十メートルほど進んだ先の地面に、引きずった跡のような血痕が見つかった。駆除した熊が引きずったのか、たまたま死骸を見つけた他の熊や肉食魔獣によるものなのか。コウメイは周囲の気配を探りながら、慎重に血痕をたどった。


「隠してやがる……こりゃさっきの熊だな」


 雑木の根元に浅く穴を掘り、生い茂った枝葉で隠すように魔猪が押し込まれていた。討伐した熊の性別までは確かめなかったが、あれが母熊で、子の食料として隠したのだとしたら、近くに子熊が隠れている可能性がある。

 耳を澄まし、あたりを見回して、死肉を狙う存在はいないと判断したコウメイは、素早く魔猪を担いだ。

 森の外に向かって歩きはじめてすぐだった。

 ざわわ、と、風が吹いたわけでもないのに、背後の茂みが大きな音を立てて揺れる。

 首の後ろに嫌な汗が流れた。


「……っ」


 枝が踏み潰される音が耳に届くのと同時に、コウメイは魔猪を放り投げ駆け出していた。

 太い木の幹に回り込み、魔猪が数匹のレッド・ベアに食い散らかされるのを観察する。


「小熊ってサイズじゃねぇだろ。ほとんど成獣じゃねぇか」


 どれも先ほどのレッド・ベアよりは小柄だが、二本足で立てば人族と背丈は変わらないほどに成長している。わずか一頭の魔猪の死骸を争うように食べている、相当に飢えているのだろう。


「満腹になってくれよ……」


 もしくは早くシュウが舞い戻ってこないかとジリジリしていたコウメイだが、死骸を食いつくしても足りない熊が、コウメイの狩猟服についた血の臭いを嗅ぎ取ってのそりと動き出した。


「一人で四頭はキツいが、やるしかねぇな」


 剣に魔力をまとわせ、切れ味を最大までに高める。

 幸いだったのは、今回の討伐は毛皮を含めた素材の価値を無視できることだ。報酬を計算しながら戦わなくてもよいのだから、いつもより難易度は下がる。

 コウメイは真っ先に向かってきた熊の顔に水の玉を投げつけた。

 振り払おうとして向けられた頭部に剣を叩きつけ、背、脇、喉と続けざまに斬りつけて離れる。

 コウメイが飛び退く場所を知っていたかのように、二頭のレッド・ベアが左右から襲いかかってきた。

 朝露に濡れた枯れ葉を利用して足を滑らせ、コウメイはつるりと身をかわす。

 熊同士の正面衝突の瞬間に、片足を斬り落し、腿から突き入れた剣を胸へと引き上げて割いた。

 片足で踏ん張りきれないレッド・ベアの背を蹴って、もう一体に押しつける。

 押し倒された熊は、兄弟の身体を押しのけて跳ね起きるが、むき出しにした爪を振り下ろす前に、コウメイの剣先が喉を貫いていた。


「あと一頭はどこだ?!」


 魔猪にかぶりついていたのは四頭いたはずだ。まさか森の外に出してしまったのかと焦ったが、どうやら最後の一頭は満腹だったらしく、コウメイと兄弟の戦いの結末を、食べ残しのある場所からじっと見ている。


「……くるか?」


 兄弟を殺した敵を排除しようとするのか、それとも、兄弟といえども死ねば食料だと考えるのか、満腹個体の緩慢な様子からその行動は判断がつかない。だが一対一ならよほどのことが無い限り、コウメイは負けない自信がある。レッド・ベアも転がる兄弟の死骸から油断ならないと悟ったのだろう、じりじりと後退をはじめた。


「逃さねぇぜ」


 これがピクニックに来ていたのなら、去って行く熊を追いかけたりしないが、コウメイはレッド・ベアの駆除をしに来ているのである。肉食に味を占めた逃げ腰の熊を見逃すわけにはゆかない。

 距離を詰める前に逃げられないように、コウメイは大きな水の玉を顔面に撃ち放った。衝撃で散ってしまわないように魔力を固め、水で熊の呼吸を妨害する。

 暴れれば暴れるだけ、走れば走るだけ、苦しさは増し、レッド・ベアの動きが鈍くなった。


「あんま気持ちのいいものじゃねぇなぁ……」


 瀕死のレッド・ベアに追いついて、その喉を一息に貫いて終わった。

 アキラに借りてきた軽量魔術の大布で、一度に何頭を運べるだろう。まずは目の前の一頭を布で包んで何とか背負った。シュウならレッド・ベアの一頭や二頭は余裕だが、コウメイでは軽減魔術の力を借りても、背負えるのは一頭だ。二頭になれば引きずるしかないだろう。


「解体したらもっと運べるんだが、悠長にしてる暇はねぇし」


 先に屠った三頭の中で、最も身体の小さな個体を一緒に包み、コウメイはズルズルと引きずりながら森の外に向かう。あと少しで木々が途切れるというところで、戻ってきたシュウとはちあった。


「シュウ、この跡をたどった先にデカめのが二頭転がってるから頼む」

「そこに何頭入ってんの?」

「二頭だ」

「何だよー、俺がいねー間に四匹も、ずりーぞ」

「ずるくねぇ。一斉に襲いかかられて、間一髪だったんだぞ。それになぁ、なんか殺戮してるみたいな気分になって、ちょっと……」


 森から人里へと縄張りを広げられてしまえば、村は全滅しかねない。駐留のヘル・ヘルタント軍も領主の兵団も、ウェルシュタント国との戦争に全力を傾けねばならず、熊退治の余裕はない。現状、できるのは自分たちだけなのだし、正式に依頼として引き請けたのだから感情など捨てるべきだが、手負いや逃げる獣を追いかけてまで、というところがコウメイには引っかかっていた。


「繊細だねー」

「うるせぇ。討伐はシュウに任せて、俺は運搬に専念するぜ」


 軽量魔術の布と荷車があればなんとかなるだろう。

 シュウとすれ違いに森を脱したコウメイは、集落に臨時に作られた解体場に向かった。収穫したハギの乾燥用の小屋の一つを空け、解体と素材の保管庫に使っている。そこでは先にシュウが運び込んだレッド・ベアがさっそく解体されている真っ最中だった。

 コウメイが引きずってきた包みから二頭の死骸をおろすと、解体にあたっていた村人から驚きの声が漏れた。


「一度に二頭も?」

「そんなに剛力に見えないのに……やはり冒険者は凄いな」


 熊の死骸に集まってきた一人に、チェルダの居場所をたずねると、先遣隊の詰め所だとの返事が返ってきた。


「レッド・ベアの素材を買い取って貰うんです。村で消費しきれないですし、ホウレンソウへ依頼料の支払いがありますからね、高く売りつけてくるって張り切って出かけましたよ」

「そうか、荷車を借りたかったんだが、どうするかな」

「それなら収穫の方から一台回しますよ。人足も必要ですか?」

「いや、人はいらねぇ。荷車だけ頼む」


 村人が調達してきたのは、今にも壊れそうな荷車だった。荷台には穴が空いているし、車輪と軸がギシギシと不安な音を立てている。アキラに全体の補強と重量軽減の魔術をかけてもらう必要がありそうだ。 


「角ウサギ並かと勘違いするくらい頻繁にレッド・ベアに遭遇するせいで討伐で精一杯なんだ、悪いが運び込んだ数を控えておいてくれるか?」


 チェルダとの間で結んだのは、討伐数に応じて報酬が決められる契約だ。ホウレンソウの申告数と村側の確認数があわなければ、後々に揉めるだけだろう。だがコウメイらに数えている余裕はない。多少の誤魔化しには目をつむるつもりでそう頼んだのだが、意外にまともな言葉が返った。


「安心してください、僕がしっかりと数えておきますから」


 コウメイを憧れの目で見る若い村人は、ずる賢い年寄り連中に誤魔化されないようちゃんと記録をつけておくと約束する。どうやら青年はコウメイのような冒険者に憧れがあるらしい。

 人好きのする笑顔で村人を味方につけたコウメイは、ガタギシと不穏な音のする荷車を引いて森に向かった。その途中でハギ畑の間をこちらに向かってくるアキラに気づき足を止める。荷車の悲鳴のような音が聞こえていたのだろう、アキラは怪訝そうに顔をしかめていた。


「壊れそうな音だが、レッド・ベアをのせても大丈夫なのか?」

「どうだろうな。手っ取り早く魔術で補強してもらいてぇんだけど」

「……頑強になる魔術陣を刻んでみるか」


 銀の針先でカリカリと魔術陣を刻み込むと、荷車から嫌な軋み音は聞こえてこなくなった。レッド・ベアをのせてみて様子を見て他の魔術陣も書くことにする。

 二人は肩を並べて森に向かいながら情報を交換した。


「当面は森の奥まで討伐に行くことはねぇな。熊は村を目指して出てくるから、それを片っ端から討伐してれば予定数の半分くらいは達成できそうだ。そっちは?」

「こちらの条件を丸呑みで合意は確実だろう。軍の薬魔術師よりも生産量が上だと示して見せたらイチコロだった」


 先遣隊の隊長はジョージの部下で、迷宮都市でも彼について冒険者として活動している古参だ。捕虜生活の待遇もそれほど悪くはないだろう。


「それじゃ、軍の連中が薬草採取をはじめる前に、アキは採取に集中してくれ」

「熊討伐は二人で大丈夫なのか?」

「シュウがやる気満々だからな、俺は運搬に専念だ」


 そのためにも森の浅い場所に基地を作りたかった。シュウが屠った熊を探して森を歩きまわるのは効率が悪いし、一度に大量の死骸は運べない。討伐した死骸を一時的に集めておく場所は絶対に必要だ。


「結界魔石と、あとはシュウとの打ち合わせだな……『縛』」


 先ほどコウメイがレッド・ベアと戦ったあたりまでは、障害物も少なく荷車が入ってこれた。ここを一時的な集積場にするべく、結界魔石を設置してゆく。


「アーキーラー!!」


 森の奥から唸り声とともに怒気と振動が駆け戻ってきた。レッド・ベアを担いだシュウは涙目だ。


「この呼び出し方、やめるんじゃなかったのかよっ!!」

「悪い、急いでいたから……サークレットを貸してくれ、調節する」


 オルステインで緊箍児(きんこじ)の痛みを実体験したアキラは、気軽に使っていいものではないと反省していた。そのうちシュウのサークレットを手直ししなければと思っていたのだが、ここまですっかり忘れていたのだ。

 サークレットは呼び出しアイテムとしては優秀だ。これを完全に消すのはもったいない。軽くつねる程度の刺激に修正してシュウに返した。

 結界魔石を置いた場所に小枝を立てて目印にした。場所が判っていれば結界内に入ることも難しくはない。


「ここを基地とするぞ。結界内なら他の魔物や魔獣が集まってくることもないだろう」

「倒した熊はここに置いといてくれ。村への運搬は俺がする。シュウは存分に暴れてこい」

「昼飯はどーすんだ?」

「食いたい魔獣を狩って一緒に放り込んどいてくれ」


 その日以降、領主軍が先遣隊と合流するまでの五日間、シュウはレッド・ベア討伐、コウメイは運搬、アキラは薬草採取と、それぞれの仕事に専念したのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 迷宮組は大出世してるんですねー 献花ガチ勢と一歩引いた仲間達の結束硬そうでなにより シュウのサークレット痛信はかわいそう! 前章やらの積み重ねで魔道具への理解も深まって気軽にいろいろと加工で…
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