ホリール村の魔道農具
日も暮れてしばらくしてから村に到着した彼らを、夜間の警備に出ていたチェルダは歓迎した。イートス村、そしてワオル村での話は伝わっているのだろう、馬車から降りたばかりのアキラをつかまえて、せっかちにも「魔道具は扱えるか?」とたずねる。
「魔術師は専門外であっても、初歩的な魔道具の修理くらいはできると聞いているが、どうだね?」
「実物を見せていただいてからの返事になりますが、魔道ランプ程度でしたら可能ですよ」
「それなら大丈夫だ。ランプよりずっと単純で簡単な作りの農機具なのだが、壊れてしまってね。町に修理に持っていく時間もないと困っていたところなんだ」
「あの、農機具は専門外なのですが」
「魔力で動く農機具だ。魔道具だろう?」
アキラはそういうものだろうかと首を捻りながら、まずは現物を見てからだと返した。
彼らが滞在するのは、冬場の間は兵舎となる村はずれの小屋だ。ホリール村の収穫が終わるころに兵士が派遣され、冬の戦争に向けた準備がはじまる。それまでの間は雇い入れた労夫らを寝泊まりさせ、兵士らが住めるように手入れもさせているのだという。
「平屋の一戸建てとは、結構な待遇じゃないか」
「けどこれを全部掃除して、メンテナンスもするのは大変だぜ」
昼間は収穫仕事があるのだ、住まいを整えるのは夜になる。二十人収容を見込む兵舎のメンテナンスを限られた時間で、しかもたった三人でとなると、寝ている時間がなさそうだ。コウメイはほこり臭い室内を見渡して顔をしかめた。
部屋の出入り口に近い付近はホコリは目立たないが、奥のあたりや隅の方は綿埃が毛玉のようになって転がっている。全く使われていないわけではなさそうだが、隅々まで掃除をするのは大変そうだ。
「村のすぐ側に兵舎があるってことは、戦場も近いのか?」
「いや、ずっと南東だ。砦があって、そこに前線部隊が配置される。ここは後方部隊、衛生隊や補給隊、あとは整備隊が置かれるんだ」
衛生班(軍医)が配置される関係で、兵舎が病院として使われることもあるらしい。宿舎の建物群からみて北西に集落があり、ハギの収穫はここから村にむけて刈ってゆくそうだ。
「もう収穫ははじまっている。残り半分ほどだが、今年は少し早めに軍を派遣すると通達があった。急がなくてはならんのだ」
イートス、そしてワオル村での活躍は聞いている、期待しているぞとチェルダはシュウの背中を叩いた。
「働くのはいーけどさ、飯が少ねーのは勘弁してくれよ」
「ここ、台所がついてねぇけど、その辺はどうなってんだ?」
「食事は朝と夜の二回、西の端の建物まで食べにきてくれ」
暗くてよく見えないが、チェルダの指し示す方向に食堂として使う小屋があるらしい。人手が足りず昼食が用意できないため、朝夕の食事は多めに用意しているそうだ。朝食を受け取る際にパンを余分に受け取り、それを昼食にする者が多いらしい。
「食料を自分たちで調達するのは問題ねぇんだな?」
「かまわんが、狩りをするならハギ畑の北東の森にしてくれ。宿舎の近くに見える森は、兵士らの食料調達場だ、絶対に入るんじゃないぞ」
多くの兵士らの胃袋を満たすため、春までは南の森は国軍の専用狩り場になっている。
おおよその位置関係と情勢を説明したチェルダは、朝が早いからと食事場所に指定された建物へと帰って行った。収穫期は村人もこの宿舎で寝泊まりしているらしい。
「晩飯抜きかよー」
「見た感じ、もう寝てる時間のようだし、仕方ねぇ」
「……今日は疲れた」
「掃除は明日だな。埃のねぇところで寝るぞ」
精神的な疲労と肉体的な移動の疲れでが、アキラの瞼はほとんど閉じかけていた。入り口近くの板の間に荷物を降ろし、マントと荷袋で体裁を整えた簡易寝床で三人は横になった。
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風が窓をガタガタと揺らす音で目が覚めた。
木枠が今にも圧し割られそうに軋んでいる。南東の荒れ地から吹く風を、この兵舎が受け止めているのだ。見た目以上に頑丈な兵舎の連なりは、南の強い風から畑を守る役割も果たしているようだ。
「アキ、シュウ、そろそろ起きろ」
この風では窓を開けるわけにもゆかないだろうと、コウメイは魔道ランプをつけた。マントを頭から被り胎児のように丸くなっているアキラと、荷箱を蹴りのけて大の字になっているシュウ。どちらも耳障りな風の音などものともせず熟睡している。
遠くで鐘の音が聞こえた。強風にも邪魔されない女神の鐘音は一の鐘だろう。
「シュウ起きろ、飯に行くぞ」
「――飯っ!」
眠りに落ちる寸前まで腹の虫をなだめていた彼は、コウメイの一言で普段の寝起きが嘘のように飛び起きた。
「アキ、魔道具修理の時間だぞ」
「……もうランプは見たくない」
マントを剥いたそこには、眉間に皺を寄せてうなされているアキラがいた。オルステインで魔道ランプばかりを修理をさせられていたころを夢見ているようだ。寝ぼけたままのアキラを引っ張り上げると、先に玄関に向かったシュウを追う。
「うおっ、風つえー」
扉を開けた途端、横殴りの風に身体を持って行かれそうになってシュウがたたらを踏む。
まだ暗い中を、西端に見える明かりを目指して歩いた。彼らと同じように兵舎から出てきた農夫らも、強風から身体を守るように身を屈めて歩いている。
「こんなに風が強くて、ハギが育つのかよ」
「風が強いのは朝のこの時間帯だけだ。空が明るくなるころに風は止むぜ」
あくびを堪えて歩く農夫が、コウメイの疑問に答えた。
「新入りか?」
「昨日の夜着いた。よろしく頼むぜ」
玄関に灯された魔道ランプの明かりを頼りに集まってきた農夫らは、新入りの三人を珍しげに眺めている。コウメイとシュウはその風貌や体つきから、良い働き手がきた、と歓迎されているようだが、ひょろりとしたアキラには労働力になるのかと懐疑的な視線が向けられている。
「芋と肉のスープか」
「肉が少ねーよ」
「……野菜」
大椀にたっぷりと注がれたスープと黒いパンを受け取ってテーブルに着く。アキラが肉をシュウの椀に移動させようとするのを阻止しながら、コウメイは周囲を見回した。油ランプで照らされる食堂に集まっているのは、およそ五十人ほどの農夫らだ。彼らの体格を見てコウメイは首を傾げる。誰も彼もが戦うために作られた体つきをしているのだ。
雇われ農夫が全員揃ったのだろう、チェルダが鉄鍋を叩いてざわめきを止めた。
「昼までの間に壊れていた魔道具の修理が終わるだろう。予定より早いが、三日後に先遣隊がやってくると通達があった。本隊の行軍も早くなる可能性が高い、宿舎の掃除と手入れも急いでくれ」
背後の席で「早すぎる」といくつもの声が上がった。軍がやってくるのは、例年なら風が身を切るほど冷たくなってからだ。どうやら今年のヘル・ヘルタント軍は積極的に攻め入るつもりのようだ。これは戦いが激しくなるぞと、男たちの声が興奮している。
「……彼らは、ここの仕事を終えた後、軍でも働くつもりのようだな」
「あー、なるほどね。そーいう体格と顔だよなー」
「三日後だってよ。どうする?」
軍には近づかないと決めていたが、さすがに三日で収穫を終えるのは無理だろうし、もし達成したとしても雑穀を探す時間がない。
「できるだけ近づかないようにするしかないだろう」
幸いなのはやってくるのが本隊ではなく先遣隊であることだ。小隊程度の兵数なら、避けるのも誤魔化すのも難しくはない。
朝食を終えた男らは、風の止んだハギ畑へと駆け出していった。
最後に食堂を出た三人をチェルダが呼び止める。
「コウメイとシュウはジェットの指示に従ってくれ。アキラ、修理してもらいたい魔道具はこっちだ」
長めの赤毛を首の後ろでまとめた青年が、二人を連れて畑へと向かう。アキラは建物の裏手にある農機具倉庫に案内された。鎌や台車や背負子らが持ち出されて残ったのは、車輪付きの大きな櫛のような道具だった。
「大きいですね。両側に車輪があるということは、動くのですよね?」
車輪はアキラの腰ほどの高さがあった。車輪が挟んでいるのは二十マール(二メートル)ほどの、アキラの目には巨大な櫛にしか見えない木組みの何かだ。
「あ……金属の、これは刃ですね。なるほど、確かに魔道具のようです」
「ハギを刈り取る魔道具だ、直るか?」
これが壊れる以前は、刈りとりを魔道具に任せ、農夫らはハギ束作りと乾燥に専念していたそうだ。時間さえあれば人手だけで収穫するが、今年は一ヶ月以上も早くヘル・ヘルタント軍がやってくるのだ、魔道具で収穫しなければ間に合わないと焦っている。
アキラは断わってから収穫魔道具に触れ、魔術式の仕組みを探った。限られた働きしかしない道具に刻まれた魔術陣は単純なものだ。すぐに術式の構造を理解したアキラは、魔道具を明るい場所に運び出してもらった。
しまい込まれている間もきちんと手入れされていたのだろう、使い込まれた魔道具はとても良い輝きを放っている。
主要な魔術陣が埋め込まれているのは三箇所、両車輪の軸と、櫛鎌だ。アキラの見立てではそれらに摩耗や破損はない。主術陣をつないだ線式のほうに不具合があるようだ。
「チェルダさん、ここを見ていただけますか? ここの術式ですが」
「うん? 術式? どこだ?」
指し示された幅広の木枠には、足置き場のようなへこみがあるだけで、アキラのいうような魔術式らしきものは見つけられなかった。
「ここに車輪と櫛鎌の魔術陣をつなぐ配線式が刻まれているのですが、見てのとおり擦り切れて消えているのです」
「もしかして、足をのせすぎて、板がすり減っているが……」
「それが原因ですね」
魔道具の管理のために伴走する者が、怠けて乗っていたのだろう。年季の入ったへこみ具合からも一人や二人ではない。それが原因で車輪と櫛鎌が連動せず、正常に動かなかったのだろうと説明すると、チェルダは頭を抱えた。どうやら彼も乗っていた一人のようだ。
「広い畑を歩くのは大変ですしね……すこし改良しておきますね」
アキラは配線式を板の裏側に新しく刻み直すことにした。ついでに省魔力化も施しておく。丸一日の連続運転に中魔石が二つ必要だったが、これを半分ですむように改良した。
「車輪にかかる重さによって魔力消費量が変わりますので、管理のために乗るのであれば、できるだけ体重の軽い者を選ぶといいですよ」
車輪にはめられたままの魔石にはまだ魔力が残っていたので、アキラはテスト走行だとスイッチを入れる。
「おお、おおーっ!!」
カシャカシャと櫛鎌が動き、車輪が同時に回りはじめる。ハギ畑に向かうように設定されているそれは、まだ収穫されていない畑に向けて走り出した。
歓声をあげて追いかけるチェルダを見送ったアキラは、まだ残っている魔武具を振り返った。
「……これはどういう意図があって保管されているのかな」
薄暗い倉庫の奥に、隠されるように置かれた鉄の固まりに複雑な視線を向ける。足に腿に尻に首。分解された状態の駿馬人形を確かめたアキラから深い息が漏れた。
「部位的に数体分はありそうだが、組み立てるには足りない部位が多いな」
どんな意図があって集められたのかはわからないが、復元不能であると確かめられて、正直気が楽になった。アキラはヘル・ヘルタントの戦馬に気付かなかったふりをして、農具倉庫から出た。
+++
半日はかかると予想していた収穫魔道具の修理があっという間に終わったせいで、チェルダは慌てて人員配置をし直すはめになった。運転する者がいないのに、収穫魔道具は未収穫のハギを見逃すことも漏らすこともなく、淡々と刈り取っている。
小走りの早さでハギを刈り進む収穫魔道具の後ろを、数人の農夫らが追いかけている。根元で刈り取られ放置されたハギを束ね、運搬係の背負子につぎつぎに積んでゆく。人間は休まねばならないが、魔道具は休みなしだ。みるみるうちに遠ざかる魔道具を追いかけて、数人ずつの組が畑を走り回っていた。
「すげーな、収穫魔道具」
「どうせなら束にまとめるところまで自動化できりゃ楽だよなぁ」
「アキラに頼めば作れるんじゃねーの?」
「無理だな。あいつ不器用だし」
「ちっせー魔術陣を、ほっせー針でカリカリできるのにか?」
「魔術陣は構築できても、動く対象の道具はアキには作れねぇだろ」
そういえばアキラが作れるのは箱がせいぜいだったと思い出したシュウだ。
二人も収穫魔道具を追いかけてハギ束の回収に忙しく働いた。
「今日は早めにあがって、遅れている宿舎の整備にかかってくれ」
魔道具に刈りとりを任せた結果、二日かかる面積を一日で収穫し終えることができたとホリール村の人々は嬉しそうだ。だが雇われ農夫らは、早上がりは歓迎だが掃除はしたくないらしい。だらだらとした動きで掃除道具を手に取っていた。
「掃除はコウメイとアキラに任せる。俺は肉を狩ってくるから楽しみにしてろよー」
掃除道具を運び終えた瞬間、シュウは剣と背負子を持って飛び出した。
「床掃除させようと思ってたのに、サボりやがって」
二十人は寝泊まりできる板の間の床を拭くだけでも大変なのだ。
「それなんだが、収穫魔道具の術式の応用を試してみようと思うが、いいか?」
「掃除にか?」
「ああ。そのホウキを貸してくれ」
使い古されたホウキを手に取ったアキラは、木の節目に隠すようにして魔術式を書き込んだ。
「どうだ?」
「……ホウキだけ飛ばしてどうするんだよ」
「埃を集めるんだ。うまく動いていると思わないか?」
アキラの魔力が注がれて跳ね起きたホウキは、床を掃きながらゆっくりと移動している。その動きは正確で、丁寧に塵や埃を集めて回っている。どうだ、と鼻高々に振り返ったアキラだが、コウメイは微妙な表情で働くホウキを眺めている。
「すげぇとは思うが、悠長に動くホウキの仕事が終わるのを待ってらんねぇんだよ。風魔法でパパッとキレイにしてくれよ」
「せっかく作ったのに」
「自動化するならホウキよりも雑巾のほうがありがてぇんだけど」
「……裁縫は苦手だ」
布に魔術式を書くことは可能だが、水濡れ前提の雑巾にインクは使用できない。となると魔術陣は刺繍で描くしかなく、アキラにはお手上げだ。不貞腐れたアキラはホウキを吹き飛ばす強さの風魔法を放ち、室内の埃という埃を集めて屋外へと放り出した。
「さすが、銀の魔術師様。早くて正確で仕上がりも最高!」
「……」
わざとらしい賛辞で機嫌を取ろうとするコウメイを無視して、アキラはホウキの魔術陣を消した。
窓の補強、床板や天井の点検と、二人は順調に宿舎を整えていった。あわせて自分たちの寝床もしっかりと整える。ハギ藁をもらってきて、本来は上掛け用に支給された毛布の下に敷き詰めた。上掛けには自分たちのマントを使う。品質も肌触りも保温性も高いのが理由だ。
「なんか騒がしいな」
「シュウが戻ってきたんじゃないのか?」
野太い悲鳴と歓声のまじったざわめきが流れてきて、二人は顔を見合わせた。魔獣を狩ってきたくらいでこれほど騒ぎになるはずがない。まさか肉食魔獣を呼び寄せるような狩り方をしてきたのかと、二人は慌てて外に出た。
「おー、コーメイ、アキラ。肉、狩ってきたぞー」
大きな毛皮を担いで戻ったシュウを、村人や雇われ農夫らが畏れ慄いた目で凝視している。
「それは、レッド・ベアか?」
「なんで魔猪とか角ウサギじゃねぇんだよ!」
素材に値段のつくレッド・ベアの解体は神経を使うし手間もかかる。肉の調達が目的なら、解体慣れした魔獣を狩ってこいとコウメイの説教がはじまった。
「俺だって魔猪が食いたかったんだよ。けど向こうから襲ってきたんだ、仕方ねーだろ!」
襲われたから返り討ちにした。食べられる肉だから無駄にできないと持ち帰っただけなのだ、叱られるのは納得できない。
「まて、レッド・ベアが襲ってきたのか? どのあたりでだ?」
「北東の森に入ってすぐだぜ」
顔色を変えたチェルダに詰めるように問われたシュウは、ハギ畑や集落が目視できるほど浅い森の入り口でレッド・ベアが木の陰から飛び出てきたのだと説明する。
「なんてことだ! 今年は熊狩りの周期じゃなかったはずなのに」
青ざめた彼は、熊狩りにどれだけの人員を割けるだろうかと唸る。チェルダによれば、北東の森に生息するレッド・ベアは、数年ごとに異常なほどに繁殖し増えるのだという。
「夏に二匹、多くても三匹の子を産んで育てるが、五、六年おきに何故か十匹も子を産むんだ」
特定の個体だけではなく、北東の森に住む全てのレッド・ベアが例年の五倍の子を産む。その全部が育つわけではないが、過剰な繁殖は食糧不足と縄張り争いの原因となる。冬に向けて脂肪を蓄えねばならないのに、それができないレッド・ベアは食料を求めて森を出てくるのだ。
「二年前に熊狩りをしたばかりなんだ。次は五年後だと考えていたから……」
熊狩りの人員を冒険者ギルドで集めねばならないが、レッド・ベアが今にも森を出てきかねないこの状況では、どれだけ急いでも間に合わないだろう。
「だったらさ、俺らが熊狩りを引き受けるぜ」
「収穫魔道具が稼働したのですから、我々三人が抜けても問題はないと思います」
「熊狩りかー、腕が鳴るぜ」
コウメイらの提案に、チェルダは目と口を大きく開けた。暴れ牛よりも巨大で、しかも飢えて凶暴化したレッド・ベア討伐は、十数人がかりの命がけの仕事だ。それをホウレンソウの三人で引き請けると、それも鼻歌まじりに言うのだから、驚きと呆れで声がでない。村人も、収穫の次は傭兵家業だと張り切っている連中も、半信半疑の目を向けている。
「三人でかかるのは安全性と確実性を高めるためです。別にシュウ一人でも戦力としては十分ですが、狩りすぎて絶滅させたらまずいでしょう?」
「俺を狂戦士みてーに言うなよ」
「種が存続できる最低数を知っているか?」
「……サーセン、討伐計画は任せまーす」
コウメイはシュウが降ろしたレッド・ベアの死骸を指し示し戦力を証明する。
「詳しい取り決めはあとにして、早いとこコレを解体しちまわねぇと、鮮度が落ちるぜ」
「今日の夕食には間に合わねーけど、明日からの飯に使ってくれよ。美味いの期待してるぜー」
「わ……わかった。明日の朝でいいか?」
収穫魔道具が使えるようになったことで、ハギ刈り計画を練り直さねばならなくなったところに、レッド・ベア討伐も加わったのだ。短期間に予定外の出来事が雪崩のように押し寄せ、チェルダは思考が回らなくなったようだ。
シュウによって食堂宿舎の洗い場に運び込まれたレッド・ベアは、村人数人がかりで解体された。そのせいで夕食が少々遅れたが、誰も苦情を言う者はいなかった。




