エルフの依頼
本日より連載を再開します。
月・水・金の更新です。
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前金だというミノタウロスから採った大きな虹魔石は、すでに義足を作り終えたアキラには不用な品だ。
虹魔石は使いどころが限られているだけでなく、これだけ大きいと買い取れる経済力を持つ相手は相当に少ない。例えば国家や王族、魔法使いギルドだろうか。権力に近づきたくないアキラたちが換金するのはほぼ不可能だろう。せめて美しさを鑑賞しようにも、放たれる魔力は強烈な痛みでしかない。
迷惑極まりないくせに希少性だけは高く厄介な前金を押しつけられたアキラは、依頼主がレオナードでは断わることもできないと、露骨なため息をついてみせる。
「……それで、私たちは何をさせられるのです?」
「簡単な仕事やで。探し物見つけてほしいねん」
「だったら自分で探せよ」
「簡単なんだろー?」
「私たちに依頼する必要はありませんよね?」
嘘をつくんじゃないと三人に睨まれ、アレックスは目尻を下げて言い直した。
「ちょっと探すん面倒そうで、危険かも知れへんのや」
「危険な仕事はお断りだ」
「面倒くせーのもパス」
「とても難しそうですね、私たちでは力が及ばないと思いますのでお断りします」
とりつく島もない三人の態度に、ミシェルはため息をつく。気持ちはわかるが往生際が悪すぎる。
「言ったでしよう、断わってもレオナードが直接ねじ込むって」
「楽しみにしていた計画を延期させられるんですから、文句くらいは言わせてください」
アキラにもわかっているのだ、断われば前回のように無理矢理放り込まれると。ごねるくらいは許して欲しいものだ。
豪華な晩餐を早々に終わらせた彼らは、食後のコレ豆茶で一服してやっとエルフの依頼に耳を傾けた。
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苦みのあるコレ豆茶には甘い菓子が欲しい。うるさく要求するアレックスを甘味の盛り合わせで黙らせた三人はミシェルに説明を求めた。
「わたくしが聞いているのは、以前こちら側で暮らしていたエルフ族の忘れ物を回収するということよ」
「忘れ物くらい自分で取りに行かせてください」
あっさりとした説明に、アキラは疑わしげな視線を向ける。そんな簡単な仕事の対価が巨大な虹魔石というのは釣り合いが取れない。
「その忘れ物ってのも面倒くせぇ品なんじゃねぇの?」
「まさかどこで忘れたか覚えてねーとか?」
コウメイとシュウも威圧を込めてアレックスを見据え、洗いざらい吐けと迫る。
「忘れるわけあれへんて。せやけど人族基準でえろう時間経っとるからなぁ」
そういえばエルフ族の時間感覚は、自分たちと大きく違うのだった。まさか年単位の忘れ物を探しに行かせようというのかと、三人の眉間に皺が寄る。
「……何年くらいです?」
「八十年くらいちゃうかな」
単位は当たったが桁が違った。しかも自信のなさそうな疑問形。
「もう残ってねぇだろ、それ」
「物によったら腐ってなくなってるよなー」
「遺失物の保管期限は確か三ヶ月だったはず」
「あなたたち、ちょっと黙って最後まで聞いていてくれないかしら?」
話を進めさせろとミシェルが薄く笑む。そのほほ笑みは、説明が終わるまで身じろぎすら許さぬ剣呑さがあった。
「こっちに忘れ物したんは、ヘルミーネちゅうてレオナードの姉ちゃんやねん」
エルフ族の中では比較的人族に中庸な彼女は、アレックスほどではないが大陸を放浪する癖があったらしい。
「人族の暮らしを眺めるんが面白いちゅうてあちこち彷徨うとったんやけど、百と四、五十年くらい前やったか、人族の男に惚れてオシカケ……なんやったっけ? サカイに教わったんやけど、オシカケ、ニュウドウ?」
「……押しかけ女房、ですか?」
「それや、それ」
エルフの押しかけ女房とは、人族にはさぞかし迷惑だったろう、と三人の目が同時にどんよりとする。
「ずっとこっちで男と暮らしとったんやけど、人族は寿命が短いよってなぁ」
珍しくアレックスの声がしんみりとして聞こえた。
人族の夫が虹の階段を昇るのを見送ったヘルミーネは、愛する夫のいないこちら側は辛すぎるとすぐにエルフの領域に引きこもった。人族との暮らしで得たすべてを残したまま故郷の家族の元で嘆き伏せっていたらしい。
「最近になって、やっと旦那の昔話ができるようになってなぁ、そんでいろいろ思い出したんやて、何もかもこっちに残したままやった、て」
身一つでエルフの領域に帰った彼女は、夫との思い出の残る家具や家財のことを思い出した。そして愛する夫の形見を取りに行こうとかつての我が家に降り立ったのだが。
「何も残ってなかってん。家があった場所が森になっとったらしいわ」
「八十年だもんなー」
「それだけ放置されてりゃ、廃墟だろうなぁ」
「忘れ物とやらも土に還ってますよ」
だから依頼は成立しないとアキラは笑顔で突っぱねた。だがアレックスはゆっくりと首を振った。
「ヘルミーネの魔力があちこちに散らばっとるんは間違いないんや。残っとった住人が売り払ったんやろなぁ」
我が家が廃墟になる前に家具や家財がり売り払われた可能性があり、もしそれを取り戻せたらと、彼女は弟にこちら側で探すように頼んだのだという。
「ちょっと待ってください……残っていた住人というのは、誰なんです?」
まさか、と顔色を変えた三人だ。
「ヘルミーネと人族の子やで」
「お子さんを残して実家に帰ってしまったんですか?」
「その子、当時いくつだよ?」
「生きてるよな、な?」
成人ならいいが、まさか幼い子供を放置したのであれば許さないぞと、シュウが細目の胸ぐらを掴んで揺すった。深魔の森に暮らす間に通り過ぎた子供たちを思い出し、エルフとのハーフという生きづらそうな子供を捨てた母親に対する怒りがふつふつとする。
「雛は雛やけど、ワシがはじめて会うたころのアキラほど若うなかったはずやで」
それなら安心だと胸を撫で下ろした三人だ。
父親を亡くし、母親は突然姿を消した。残された子は母親の帰りを待っていたそうだが、数年で見切りをつけ旅に出た。その際に家財をすべて売り払った記録が残っていたそうだ。
「普通の家具やら食器やらはさすがに探すん難しいけど、ヘルミーネが魔力を込めた品はそう簡単に朽ちたりせえへんからな」
彼女の魔力を頼りに探し、忘れ物が残されたおおよその場所は把握しているのだという。
「だったら自分で取りに行けばいいじゃねぇか」
「旦那のおらへんこっち側に居たないて泣くんやで、姉ちゃんに弱いレオナードが突き放せるわけあれへんやろ」
「姉ちゃんの頼みなんだから、弟が頑張るべきじゃねーの?」
「アレは回収に手段選ばんからなぁ、それはあかんてヘルミーネが止めたんや」
実際、レオナードは人族を殲滅させてから品を回収しに行こうとしたらしい。人族に思い入れのある姉は、夫を生み出したこちら側を滅する行為を許さなかった。
「ねーちゃんってのはどこも似てんだなー」
自分ではやりたくないから弟に任せる、だが手段は選んで強制する。シュウは理不尽を強いる実姉を思い出して遠い目になった。
「ほんで困っとったところで、こっちにおるエルフのアキラを思い出したんや」
「思い出さなくて良かったのに……」
「エルフならアレックスでいいじゃねぇか」
「だよなー。どこにでも転移できるんだろー?」
転移魔術陣に頼らなければならない自分たちに押しつけなくても、アレックスが回収に行けばいいのだ。
「残念やけど、ワシ島の管理があるし」
三人に指摘されたアレックスは残念そうに眉尻を下げた。けれどその声は建前に反して弾んでいる。
「全く残念そうに聞こえませんが」
「管理らしい管理してから言いやがれ」
「ニヤニヤしてんじゃねーよ。どーせサボる口実だろ」
「ジブンらワシを悪う見過ぎやで」
「アレックスはこんな具合で頼りないでしょう、だからわたくしがアキラたちに引き受けさせると約束したの」
どうせ押しつけられるとわかっていても、ぐだぐだと依頼内容を聞き取ってはいても、まだアキラたちは引き受けると返していないのだ。なのにミシェルがすでに応じていたなんて、こちらの意思を無視しすぎだと怒った。
「ミシェルさん!」
「そりゃねぇだろ」
「アキラの師匠だからって、ちょっとそれはオーボーが過ぎるぜ」
「ごめんなさいね」
目を伏せてしおらしく謝罪の言葉を口にする彼女だが、その口元は笑みを堪えるのに苦労していた。
「もちろんわたくしも協力するわよ。レオナードから聞いたお姉様の魔力を感じる場所は地図に記してあるし、いくつかはわたくしが調べて報告してあるの。回収しなくてもよい品ばかりだったわ」
勝手に引き受けた代わりに、下準備は済ませてある、探すための道具も用意した、と言われても納得できるものではない。
「そこまでやったんなら、ミシェルさんが最後まで面倒見りゃいいだろ」
「残っているのは、わたくしが向かうには不都合な場所なのよ」
つまりは一番厄介なところを押しつけに来た、と。
冷たい視線を笑顔の盾で跳ね返す彼女に顔を近づけたアキラは、誤魔化されないぞと目を細めて問い詰める。
「……ミシェルさんの目的はなんですか?」
「あら、目的だなんて。姉思いのレオナードに心を動かされただけよ」
「いつの間に利益のない取引きをするようになったんです?」
「アキラ、わたくしを守銭奴のようにいわないでちょうだい」
「そうですね、ミシェルさんはお金には困っていませんから金銭が目的ではないでしょう。では……エルフの魔術ですか?」
彼女の瞼が半分ほど落ち、視線がすいっと逸らされた。
もう一押しとばかりに、コウメイは運んできたガラス製のピッチャーを彼女の前に置く。ザク切りにされた新鮮な果実が、赤く魅惑的な液体に泳いでいる。ミシェルの表情が恨めしげに揺れ動いた。
「冬越ししたレギルとレシャ、冷凍してあったチェゴを赤ヴィレル酒で漬けてある」
「……まあ」
「カドヴァ酒とジムミンは風味付けだ。少し希少糖で甘みをつけているが」
「ヴィレル酒をそんな使い方して、美味しいのかしら?」
「酒精はそれほどだが、冷たくて気持ちいいぜ。サングリアっていうんだけどな」
「はじめて聞くわ、一杯いただけるかしら?」
「飲みたきゃ正直に吐くんだな」
コウメイは空のグラスをミシェルの目の前に差し出し、ピッチャーは手元に引き寄せて彼女の手の届かない場所へと避難させる。
「意地が悪いわよ」
「ミシェルさんほどじゃねぇぜ」
笑顔で睨み合う二人の勝敗は、意外に早く終わった。
悔しそうに唇を尖らせるミシェルが、グラスを突き出しながら白状したのだ。
「魔力が最も長く強く残留するのは、魔術書や魔道具なの。ヘルミーネさんの忘れ物が古代魔術言語かエルフ語で書かれた本なら、渡す前に読みたいと思って」
「魔術書だと確定しているのですか?」
「わたくしはそう思うのだけれど。エルフの魔道具が使われていれば、気付いたはずだもの。でももし魔道具だったら設計書を書き取りたいわ。分解できるといいのだけれど、難しいかしらね?」
ヘルミーネの残留魔力は、他の品とは比べものにならないほど濃いのだという。だからこそ人族の魔術師らの手に渡り、現在は滅多なことでは立ち入れないような場所に厳重に保管されているのだ。
「私欲にまみれてやがる」
渋い顔で吐き捨てたコウメイは、渋々とグラスにサングリアを注ぎ入れた。ないわー、とシュウがあきれ顔で呟き、ヴィレル酒に染まったレギルをつまんでシャクシャクと食べている。否定的な感情を出す二人とは違い、アキラは後ろめたそうに視線を動かした。ミシェルの企みを聞き、腹が立つよりも先に心が揺れたのだ。
「どうかしら、読みたくなったでしょう?」
サングリアを楽しむ彼女に問われたアキラは、必死に頷きたいのを堪えている。
「アキ?」
「アーキーラー?」
「……読みたいけれど、それだけの価値があると保証されていませんし」
アキラの天秤が大きく傾いたと知ってミシェルは満足げに笑んだ。
「レオナードからの報酬だけでなく、わたくしからも払うわよ」
「それなら」と引き受けようとしたアキラをコウメイが寸前で止めた。
「アキは誘惑に弱すぎるだろ。冷静になって考えろよ、報酬は約束されてても額は不明、しかもミシェルさんが手強いっていう厄介な場所も明かされてねぇ。そんな不備だらけの依頼を簡単に受けるな」
不満顔のアキラを押さえ込み、コウメイはミシェルとアレックスを問い詰める。
「回収する忘れ物は一つなのか? まさか複数じやねぇよな?」
「ヘルミーネの忘れ物は一ヶ所よ」
「は、ってことは?」
「目的地が近いから、わたくしの忘れ物もついでに回収してもらいたいの」
「ミシェルさん……」
彼女はテーブルに地図を開いた。
「オルステイン」
「ええ、王都ギナエルマにヘルミーネの最も強い魔力反応があるの」
一番かかわりたくない国の、最も信用ならない場所を指し示され、さすがのアキラも嫌そうに顔を歪めた。
「わたくしの忘れ物はギナエルマと、トレ・マテルよ」
「……竜血の毒、ですね」
確信を持ったアキラの声に、彼女はしっかりと頷いて返した。
ウェルシュタントに渡った毒はアレックスが始末した。作ってしまった毒は盗まれたとトレ・マテルは言うが、全部を盗まれたとは限らない。今も残る研究狂いの誰かがこっそりと保管している可能性は高いのだ。そしてオルステイン王家は間違いなく隠し持っている。
「あれを根絶させるんだな?」
「可能性の芽を摘むのなら、王家が保管している竜の素材もどうにかしたいけれど」
「それはさすがに無茶振り過ぎですよ」
うんざりしたような顔で首を振るアキラだったが、ミシェルの追加依頼を引き受ける気になっていた。それはコウメイとシュウも同じだ。むしろヘルミーネの忘れ物が彼らにとってがオマケかもしれない。
「レオナードの報酬はわからないけれど、わたくしからは……何を支払えば良いかしら?」
彼女は言い値を払うつもりだったが、辺鄙な森の奥での生活で十分に満ち足りていた彼らは大金を求めないだろうから難しい。
ミシェルの問いかけに顔を見合わせた三人は、小さくうなずき合う。
「この家へのアレックスの立ち入り禁止の確約を」
「何でや! ワシかてアキラの隠れ家でのんびりしたいし、コウメイの美味い飯楽しみたいし、思う存分討伐楽しみたいんやで!」
自堕落な生活を楽しみたければ、ナナクシャール島で思う存分好き勝手をすればいいのだ。深魔の森を我が城のように使うのは許さないと、アキラの冷気がアレックスの足をはい上がる。コウメイは彼が抱え込んでいた菓子の皿を奪い取って怒気をぶつけ、シュウは凍り付きそうになっているアレックスの爪先を獣人の力を遠慮なく託して踏みつけた。
「冷たっ、あワシの……いっ、潰れる、ワシの足が潰れるっ」
「ミシェルさん、お願いできますか?」
「わたくしの力だけではちょっと難しいかしら……わかったわ、レオナードにお願いしておくわ」
彼ならばアレックスに強制できるだろうとの言葉で、無事に依頼契約が合意に至ったのだった。
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ミシェルの依頼でもあるということで、不本意ではあるが三人は勝手に増築されてしまった地下の転移魔術陣を利用することにした。
「一度便利さを覚えると堕落するから嫌だったんだ……」
「だよなぁ。最初からこれ使ってりゃ、島への移動時間も短縮されたはずだし」
「討伐が物足りなくなったら、すぐに奈落に行けるんだからラッキーだよなー」
急遽食料保存庫の冷蔵庫らの配置を変え、隠し部屋への扉を開放する。踏み入れた小部屋にあるのは、書机と地下への急な階段だけだ。
「期待をさせて申し訳ないけれど、ここはわたくしに権限のある転移魔術陣なの。無断で使用はできないわよ」
起動も転移もすべてミシェルの魔力でしか動かないのだ。使用したければ彼女に頼んで転移させてもらうしかない。アレックスの侵入を阻めるのはありがたいが、自分たちが自由に使えないのでは宝の持ち腐れである。
「なぁミシェルさん、そろそろアキのこの魔術契約、解消できねぇのかよ」
アキラの左手首を掴んで目の前で振ってみせれば、ミシェルは迷うように首を傾げる。
「どうせここの転移魔術陣はミシェルさんの許可がなきゃ使えねぇんだし、各地の魔法使いギルドだって俺たちには伝手もねぇ。ミシェルさんはギルドとは無関係になったんだし、もういいんじゃねぇか?」
「どうかしらね……確かにギルドは無関係だけれど、エルフ族との距離が近くなってしまったもの、むしろ抑止力として残しておきたいわ」
コウメイは彼女の言い分に納得できないようだ。アキラにその意思がなくてもミシェルの許可なく転移魔術に巻き込まれるだけで、罰術が発動してしまうのだから。
「俺はこのままでも大丈夫だ」
心配するコウメイに、アキラは問題ないと返した。むしろこれがあるおかげで、ミシェル以外から持ち込まれる厄介事を断る言い訳になるのだ。
ミシェルの後をついて階段を降りた。彼女が一歩踏み出すたびに、床に埋め込まれた魔術が反応し、小さな灯りがついてゆく。
「なー、ここって想像してたより広くねーか?」
「だな。下手したら建物の床面積よりも広いだろ」
階段の辺りは無骨な石壁だったのに、階段を降りきったそこは、美しく高級感のある壁紙が貼られ、高い天井には力を失った魔石で作られた豪華な飾り照明がぶら下がっていた。床石は鏡のように艶々に磨かれており、刻まれた転移魔術陣がまるで繊細な装飾のように見えるから不思議だ。
「本当に、好き勝手してくださったんですね……」
舞踏会でも開くのかというような広大かつ豪華な地下室を見せつけられたのだ、アキラが深々とため息をつくのも当然だろう。
「まあ壁際に応接セットがないだけましか」
「あら、それを忘れていたわ。転移の疲れを休める場所は必要よね?」
「要りません!」
「作るなよー」
「持ち込みも禁止だからな!」
勝手に巣作りされては迷惑である。
「ミシェルさん、ヘルミーネという方の魔力はどうやって探せばいいのです?」
「渡してあるでしょう、あの指輪を使いなさい」
指にはめ魔力を与えると、ヘルミーネの魔力のある方向を光が指し示す。光はそれほど大きくないので、使うのは王都ギナエルマに入ってからが良いだろうと説明された。
リンウッドに留守番と見張りを頼み、ヘル・ヘルタントへの旅支度をそのまま流用した三人は、魔術陣の中央に立った。
「アレックスを連れて帰って、二度と連れてこねーでくれよ」
「冷凍庫の作り置きはリンウッドさんの飯だ、手ぇ出すんじゃねぇぞ」
「レオナードさんには必ず念を押してください、いいですね?」
なんでやねん、ドケチ、イケズ、とうるさい雑音を遮るように、魔力を帯びたミシェルの声が三人を送り出した。
『トレ・マテル』
……前章の最終話じゃないのか? て感じのスタートになりました。
またしばらくよろしくお願いします。




