深魔の森の治療魔術師たち
コウメイから送り返されてきた問診の回答を読んで、リンウッドは岩のような顔を歪めて唸った。
「これは難しいかもしれんぞ」
低く焦れたその声色に、シュウが悲痛な顔で何がどう難しいのだとリンウッドに迫る。
「両親にそれらしい病がないから、遺伝要素は除外できる。風土病も考えたが、町や近隣の住民に似た症状の病人がいないことからこれも違う」
「ケガの後遺症でもなさそうですし、薬魔術師の母が子供に毒草を飲ませるはずはありませんし」
アキラも暗い表情で魔紙を読み返し、お手上げだとため息をついた。大陸中を放浪しさまざまな土地で数多くの病人を診てきたリンウッドが難しいと言うのだ、アキラの手に負えるわけがない。
「やはり直接患者を診る必要がありますよね?」
「診るといってもな……どこをどう診ればいいかわからんぞ」
触診に血液検査で判明すればよいが、それでも病の正体がわからなかった場合にどうするか、それが悩ましいとリンウッドは首を振る。
「私は討伐現場で傷を癒やすぐらいにしか治療魔術を使わないのですが、病気の患者にはどのように魔術を使うのですか?」
この際に本格的に治療魔術師の仕事を吸収しようと、アキラは赤い目の治療魔術師にいくつかの質問を投げかける。
「身体の内側の、例えば内臓や神経に損傷や病原がある場合、それをどうやって発見し治療するのです?」
「患者の顔色や症状を聞き出して、いくつか当たりをつける。胃が不調だというなら胃に向けて治療魔術をかけるんだ」
「胃の不調といっても、傷があるのか、全体かあるいは一部が爛れているのか、でき物があるのか、そのあたりははっきりさせないのですか?」
臓器の肥大や腫れ収縮など、不調の原因はいくらでもある。そして症状の出ている臓器だけを徴すれば万事解決ではないはずだ。アキラが疑問点を口にすると、リンウッドは驚きと畏れのまじる顔で逆に問いかけた。
「……アキラ、おまえ人体解剖の経験があるのか?」
「ありませんけど」
「ならば何故それほど詳しく内臓の不調の原因を羅列できるんだ? 臓腑の状態を見たとしか思えん。それとも解剖せずに確かめる方法を知っているのか?」
疑わしげにリンウッドの眉尻が上がる。
「私の故郷は医学が発達していたので、内臓の様子を見る管状の道具や、身体の外側から体内の状態を映し出す道具があったんです」
「……エルフ族の医術はそれほど発達しているのか」
リンウッドの顔が好奇心に揺れ動くのを見て、アキラは己の失言に気づいたが後の祭りだった。藍色のエルフに隷属された彼の前に、アキラが存在しない人参をぶらさげてしまったのだ。このままでは胃カメラやCTやMRIを求めて自らエルフ族に突撃しかねない。
「リンウッドさん、エルフにも種族があるんです。私の一族はアレックスやレオナードとは違いますからね」
慌ててごまかしたアキラは、リンウッドに請われるままに知る限りの知識を話して聞かせた。一般人の医学知識など知れているが、アキラの語る医療器具に閃くものがあったのだろう、リンウッドは嬉々として魔道具の図面を描きはじめてしまった。
「これをこうつないで、密度は魔力の層で補うか。精度の調節は」
「リンウッドさん、開発は後にしてください。まずはコウメイへ指示を送らなくては」
「その子供を連れてこい。これから検査用の魔道具を作る」
「寝たきりの子供を移動させるんですか」
「おっさん、医者のくせに病人に無理させる気かよ」
往診するべきだとのアキラの声に、シュウも魔道具なら自分が運ぶと宣言する。だがリンウッドは時間と手間を考えろと一刀両断にした。
「外で魔道具が壊れても修理はできんぞ。それに必要な素材を取りに帰るのも面倒だ」
シュウを走らせても間違った薬草や素材を持ってこられては無駄足だし、担がれて何度も往復していてはこちらが病人になってしまう。
「眠らせてそっと運んでくればいい。治療がはじまったら常に経過を見なければならんのだ。ここで面倒を見るほうが手間がかからん」
そう断言したリンウッドは、手早く処方を書いてアキラに投げ渡した。
「それなら後遺症の心配はない。さっさと運ぶ手はずを整えろ」
アキラが何を言おうと、シュウがどれだけ揺すっても、リンウッドは新しい検査魔道具の図面から顔を上げることはなかった。
「シュウ、諦めろ」
「けどよー、どう考えても無茶だろ」
「リンウッドさんの言う通り、往診するよりも入院させて常に目を光らせているほうが合理的だ。可能な限り安全で負担のない移動手段を考えたほうが前向きだぞ」
ここが病院だと仮定すれば、確かに設備も薬品も充実しているし、二十四時間主治医が常駐しているのだから、何かあってもすぐ対処できる。アキラの説明にはシュウも納得するしかなかった。
「この処方は……彼女の処方の改良か。なるほど」
「アキラ、早くジョンの搬送方法を考えろよー」
「考えるまでもないだろ、運ぶのはお前だ」
コウメイに宛てる指示を書きながら、アキラはその俊足を役立てろとシュウを指さした。
「眠らせている間にシュウが運んでくるんだ。乱暴に揺すったり、どこかにぶつけたりするなよ」
やっと役割を得たとはりきるシュウは、アキラの指示で準備を整えた。
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日が暮れてから薬切れで目覚めたジョンは、母親の差し出す錬金薬を飲もうとしなかった。連続の服用は身体を衰えさせる、以前にそう説明されたのを覚えていたのだろう。マユは「上級治療魔術師の改良処方だから大丈夫だ」と説明した。
「上級の、治療、魔術師、?」
「そうよ。コウメイさんの仲間に青級の治療魔術師がいて、その方に診察してもらうことになったの。そのためにはこの薬を飲まなければならないのよ」
「青、級!?」
見開いた青い瞳が、本当なのかとコウメイに問いかける。彼は笑顔でしっかりと頷いた。
「大陸で一番の治療魔術師の処方だ、安心していいぜ」
「ジョンにたくさん説明しなくてはならないことがあるの。しっかりと聞いてほしいから飲んでちょうだい」
これまでのような罪悪感を隠した笑顔ではなく、強い決意のうかがえる晴れ晴れとした母親に吸い口を差し出され、ジョンは戸惑いながらも錬金薬を飲んだ。
「……すごい、苦くない」
「美味いか?」
「美味しくはないよ。でも、飲みやすい」
錬金薬の効果はすぐに現れた。ベッドに上半身を起こしたジョンと一緒に夕食をとりながら、これからの計画を話して聞かせる。
青級治療魔術師の診察を受けるため、丸一日とはいえ移動する必要があるということ。弱った身体ではわずか一日でも辛い思いをするだろう、だからジョンの意思を確かめたいと二人は問うた。
「ぼくは、治るんだね?」
「約束はできねぇ。錬金薬で治せねぇ傷や病気があるように、治療魔術でも治らないケガや病はある。ジョンが治るかどうか見極めるために、俺の仲間に診察してもらうんだ」
「行くよ」
即答だった。
「可能性があるなら頑張れるよ。もしダメだったとしても、もう窓と天井ばかり見ていたくないんだ」
こぼれた息子の本音に、マユは辛そうに目を伏せた。
「ならもっと食え。食わなきゃ移動する力はわかねぇぞ」
スプーンを握る手が止まっているぞと促す。彼は野菜のポタージュスープで煮込んだ粒ハギのリゾットを懸命に口に運んだ。美味しいねと何度も口にして食事を楽しむ息子の様子を、マユはまぶしそうに目を細めて見ている。
「明日の朝一番に仲間が迎えに来る。薬草の追加も持ってくるから、それで移動中に飲む分の錬金薬を作ってくれ。荷物は数日分の着替えだけでいい」
彼らがどこに住んでいるのか、どんな手段で移動するつもりなのか、コウメイは一切説明をしなかった。マユもジョンも聞きたいことはたくさんあるだろうに、詳細をたずねようとしない。
寄せられた信頼の重さに、コウメイは何とか二人の望みをかなえてやりたいと思った。
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開門の二の鐘と同時に町に入ったシュウは、真っ先にマユの家の玄関扉を叩いた。静かな早朝に乱暴なその音は、近所迷惑極まりないほどに大きい。
「シュウ、叩き壊すつもりか?」
「ノックしてんのにさっさと開けねーからだろ」
あれはノックではないと顔をしかめたコウメイは、扉が壊れていたら弁償させてやると呟いてシュウを招き入れた。
「美味そーな匂い」
「飯作ってたんだよ。食うか?」
「……いいのかよ?」
シュウはまるで家主のような態度のコウメイに呆れた。同時に突然押しかけた自分はマユにとって初対面の他人だ、同席してもいいものかと迷う。訪問前に覚悟してこなかったのかと、コウメイは苦笑いで玄関扉を閉めた。
「食べながらのほうがシュウも緊張しねぇだろ?」
マユとの再会を楽しみにしていたシュウだが、いざ対面するとなると臆病になった。彼女が自分を孤児院に捨てた狼獣人を覚えていたら……と想像して、どんな態度で接すればいいかわからないのだ。
コウメイはそんなシュウの背中を励ますように叩いて食卓へと連れて行く。
首を引っ込めて食堂に入ってきたシュウの大きな身体を見たマユは、なるほど、あの大きな音と振動も納得の立派な身体つきだと目を細める。
「俺の仲間のシュウだ。うるせぇのはコイツだった。もし扉が壊れてたら弁償させるから」
「朝早くからありがとう。これからお世話になるマユです」
「……」
シュウは立ち尽くしたまま彼女を凝視している。二十年ぶりの彼女から面影を探そうとしているのか、それとも見捨ててしまった罪悪感に苛まれているのかはわからない。
「あの……?」
「おい、挨拶もできねぇのか?」
「シュウ、だ。よろしく……」
ぎこちない挨拶の後が続かない。
困ったマユはコウメイに視線で問いかけ、シュウに席をすすめた。
朝食は角ウサギ肉のハムとマッシュした丸芋と野菜をはさんだパンだ。シュウは目の前の食事よりもマユの様子が気になるようだ。期待していた感動の再会にならなかったのが残念なのか、サークレットがなければ獣耳が垂れているだろうしょげた顔をしている。しばらくマユとサンドイッチを交互に見ていたが、話しかけるのを諦めて具が零れ落ちそうなサンドイッチにかぶりついた。
「こいつは足が早くて力がある。町を出るまではシュウがジョンを運ぶ。後でジョンに挨拶させてやってくれ」
「よろしくお願いします」
「お、おう。まかせとけ」
野菜スープと、茹でた角ウサギ肉を細かくして丸芋のマッシュと和えたものがジョンの朝食だ。シュウはその量の少なさに驚いていた。これでも昨日よりは量が増えていると聞いて表情を曇らせる。そんな顔じゃ合わせられないとコウメイに肘で小突かれ、シュウはキリッと表情を引き締めた。
「わぁ、大きいんですね。天井にとどきそうだ」
少年がシュウに向けるのは感嘆の眼差しだ。枯れ枝のように痩せた少年を見て一瞬だけ痛ましげに顔をしかめたシュウは、すぐに大きな身振りで腕を伸ばし、天井を触ってみせた。
「どうだ、天井にも届くんだぜ。すげーだろ?」
「わぁ、父さんよりも大きくて強そう」
ニカッと歯を見せて笑うと、少年はキラキラとした憧れの目を向けた。父親よりもかっこいいと褒められ、シュウの笑顔がデレて溶けた。
ジョンが食事を終えると、すぐに出発だ。毛布にくるまったジョンをシュウが背負い、親子の荷物はコウメイが背負子で運ぶ。町門に向かう途中でマユは心配げな何人かに声をかけられた。
「治療魔術師にジョンを診てもらえることになって、しばらく留守にします。お薬は冒険者ギルドで買えるように預けてあるから」
小さな田舎の町だ、ジョンの病気も、マユが治療魔術師に手紙を送り続けていたことも、住人の多くが知っていた。よかったね、がんばっておいでと励まされ、ジョンは嬉しさと恥ずかしさに顔を隠している。
冒険者ギルドの前を通ったとき、ジーナが飛び出してきてマユを止めた。同じ説明をしたのだが、彼女は信用できないと尖った声でコウメイとシュウを責める。
「どこの何という治療魔術師なのか教えられないなんて、怪しすぎます。マユたちを騙してどうするつもりなの」
誰だコレ、丸一日もあって根回しもできてないのか、さっさと誑しこんでしまえとのシュウの非難の視線がコウメイに刺さる。
「騙すわけねぇだろう。俺たちの身元はハリハルタのマイルズって冒険者が保証する。元赤鉄の双璧の副リーダーだ。ギルドを通じて今すぐ確認してくれ」
「まさか……でも」
ハリハルタの冒険者ギルドで相談役のような役割をしているマイルズは、隣町のサガストでも名が知れていた。コウメイに急かされ、ギルド間の連絡に使う魔道具でコウメイの言葉が真実だと確かめたジーナは、仕方なしに彼らを解放した。
「心配かけてごめんねジーナ。私たちは大丈夫、ちゃんと戻ってくるから」
「ジーナおばちゃん、ぼく、野菜のスープを飲めたんだよ」
「まぁ、すごいわジョン」
「お肉とパンも、食べられるようになって、もどってくるからね」
毛布の間から顔を出したジョンの気力に満ちた笑顔には説得力があった。
ギルドに預ける薬は十日置きに届けると約束し、彼らはようやく町を出た。
+++
街道を北に進み、川の手前で西の草原に踏み込んだ彼らは、そのまま深魔の森に入った。
「この森に住んでいるの?」
国内でも最も魔物が溢れやすいといわれる森に住むなど、尋常では考えられない。ジョンははじめての森に興味津々だが、異常さを知るマユは風の音にすらビクビクと神経を尖らせていた。
「言ったろ、ちょっとワケありなんだよ」
草原が見えなくなるまで森に入ったあたりで、コウメイはシュウに魔物や尾行の気配を探させる。どちらの心配もないとの合図で足を止めた。休憩には早すぎないかと戸惑うマユに、コウメイは静かに選択を示した。
「俺たちはここから先の移動方法と場所を特定されたくない。だから選んでくれないか。この眠り薬を飲んで運ばれるか……」
もしくは、診察を断念するか。
ここまで来て今さらそれを迫るのかと批判されるのも覚悟の上だったが、マユとジョンの返事は早かった。
「お薬、ください」
「息子の身体の負担にならないように運んでくれれば問題ないわ」
ジョンは毛布の間から薬をくれと手を差し出し、マユは息子の運搬は丁寧にしろと注文をつけるのだから、拍子抜けだ。
「即答かよ」
「フツーは迷ったり考えたりするだろー?」
身体の自由を奪うような要求に二つ返事で応じるなんて危機感がなさ過ぎる。騙されているかもしれないと疑うくらいはしろ、とシュウは二人に腹を立てた。だが彼女はそれを鼻で笑う。
「今さらだわ。とっくに覚悟は決めてるもの。信頼しているし、どんな結果になるとしても受け入れるって。だから飲まされた薬が毒薬であっても恨まないわ」
「睡眠薬だ」
「毒なんか飲ませるわけねーだろ」
「それなら問題ないでしょ」
寝ている間に目的地に着くのなら、それが一番息子の身体に負担がないと彼女は断言する。
「ジョンは怖くねぇのか?」
「いつも錬金薬を飲んで眠るのと同じだよ」とけろりとしたものだ。
自分ならば、相手への信頼がなければ完全に意識は失えない。まともな説明一つしていない自覚のあるコウメイは、二人の信頼と期待の重みに胸が熱くなった。
ジョンを背からおろし、マユを広げた毛布の上に座らせて、睡眠薬を差し出した。錬金薬と同じ容器に入った眠り薬は即効性だ。飲み干して二呼吸ほどで瞼が落ち、意識が飛ぶ。
倒れるマユを支え、丁寧に横たえたコウメイは、その身体を毛布で包み、シュウを仰ぎ見る。
「日暮れまでに二往復できるか?」
「俺の全力ならヨユーだ」
「全力はやめろ。木の枝に引っかけただけでも大怪我させる」
子供の身体を抱きかかえたシュウが、同じように母親を抱き上げようとするコウメイを睨みつけた。殺気にも似た不信感丸出しの目を向けられ、コウメイの手が止まる。
「コーメイ、まさかと思うけど、マユに手ぇ出してねーだろうな?」
「は?」
何を言い出すのかと呆れたコウメイだが、シュウの顔は真面目そのものだ。
「たった一日で二人とも、ありえねーくらい懐いてるじゃねーか」
昨日会ったばかりの怪しげな他人から、薬を渡されて躊躇いもせず飲む。その信頼はどこから来るのかと、シュウの疑いの目がコウメイを刺そうとしていた。どう考えてもコウメイが気合を入れて誘惑したとしか思えないと糾弾する。
「マユが美人になってたからって、タラシ込んでんじゃねーよ」
「ふざけんな、そんなわけねぇだろ」
「病気の子供を必死に看病するケナゲな未亡人は魅力的かもしれねーけどよ」
「勝手に殺すな、旦那は生きてるぞ」
「てめー、人妻に手を出したのかよ、サイッテー」
「出してねぇ!!」
罪をねつ造し勝手に断罪するなと怒鳴りつけたが、シュウは聞いてはいなかった。
「二人っきりだからって眠ってるマユに手ぇ出してみろ、全力で制裁してやるから覚悟しとけ!」
脳筋とはいえ物わかりの良いはずのシュウが一方的に断罪するその理由を察し、コウメイは大きなため息をついていた。
「……シュウ、マユに気付いてもらえなくて寂しいからって、拗ねて俺に八つ当たりするな。仕方ねぇだろ二十年も経ってるんだ」
「うるせーよ」
彼女が懐いていたのは狼獣人の青年だ。人族の青年シュウが、二十年前の獣人と同一人物だと気づかなくて当然である。
「心配するな、年上も人妻も俺の趣味じゃねぇ」
「マユは年下だろ」
「年下も対象外だから安心しろ」
何を言ってもシュウの機嫌はよくならないと諦め、コウメイは早くジョンを連れて行けと彼の尻を蹴った。
「薬が切れるのは日暮れだ、それまでに二往復しなきゃならねぇんだ、さっさと行け」
病人であるジョンが優先されるのだ、マユが心配なら難癖つけている時間がもったいないだろうと急かされて、シュウは「絶対に触るんじゃねーぞ」と捨て台詞を吐いて駆け出した。
「触らずにどうやって運べってんだ、まったく」
嫉妬深いにもほどがあると呆れるコウメイは、包んだ毛布が外れてしまわないよう気を配りながらマユを抱き上げた。あの様子だとシュウは七の鐘過ぎには戻ってきそうだ。マユを託すまでに少しでも距離を詰めておこうと、コウメイはしっかりとした足取りで我が家へ向かって歩き出した。
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ジョンをアキラに預けたシュウは、マユが心配だと昼食抜きでひた走り、六の鐘よりもずいぶん前にコウメイと合流した。マユの無事を確認し、携帯食を空腹に流し込んだ彼は、マユを奪って再び駆け出した。
置き去りにされたコウメイが我が家にたどり着いたのは、そろそろ空が明るみはじめる早朝だった。




