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やたら長い人生のすごし方~隻眼、エルフ、あとケモ耳~  作者: HAL
幕間3 深魔の森に生きる人々

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深魔の森のフィールドワーク



 七月の中旬、コウメイは八月のエルフ狩猟日を狙いナナクシャール島へと発った。街道を南下し、ネイトの漁村から島に渡る旅程は片道およそ十日。島での討伐期間は約二週間なので、彼が深魔の森に戻ってくるのは一ヶ月以上先になるだろう。

 コウメイが発って少ししたころ、マイルズが彼らを訪ねてきた。


「食事中に邪魔をする」


 庭に設置したバーベキューコンロを囲んでいた三人は、マイルズを歓迎した。特にシュウは、彼の手にある土産の角ウサギ三羽に大喜びだ。


「いらっしゃいマイルズさん。遠路お疲れでしょう? 冷たいお茶をどうぞ」

「おー、おっさん、ちょうど焼けたところだ、一緒に食おうぜ」


 背負子をおろし、血抜き済みの角ウサギをリンウッドに渡したマイルズは、冷えたハギ茶を一気に飲み干した。気持ちよさげな息を吐き、空のカップをアキラに返す。


「どうせなら冷たいエル酒がよかったな」

「昼間から飲むつもりですか」

「焼き肉は酒があるといっそう美味いんだが」


 目の前でジュウジュウと油のはぜる音と、たちのぼる肉の香りが、マイルズの空腹を刺激している。


「夜まで待ってください。ヴィレル酒がありますので冷やしますよ」

「そうだな、酒は説教の後が良いだろう」


 説教の言葉を聞いて、アキラは肉を頬張る駄犬を振り返る。ハリハルタの町で何か失態をやらかしたのかと視線が冷たくなる。


「お、俺じゃねーよ?」

「なぜ疑問形なんだ」

「心当たりねーし……多分?」


 マイルズは二人のやりとりを聞き流して、目の前で焼ける肉を「美味しそうだ」と要求した。鉄板には暴牛肉だけでなく、紫ギネの輪切りや薄切りの赤芋も並んでいる。そこへリンウッドが捌いたばかりの角ウサギ肉が加わった。運んできた丸太を切っただけの椅子に腰を下ろしたマイルズは、二本の細棒と皿を手渡され彼らの食事にまざった。


「相変わらずこの箸というのは難しいな」


 彼はごまかすように鉄板の肉をつまむ。皿には塩の他に赤茶色いソースが用意されていた。一枚目は塩で、二枚目の肉はソースで味わった。暴れ牛肉は少し焼きすぎで硬いが、消し炭というほど酷くもない。


「箸使い、お上手ですよ。それでシュウはどんな失態をやらかしたのですか?」

「最近深魔の森に、迷える冒険者を導く銀の賢者が現れるらしいぞ」


 アキラの箸が止まった。

 どうやら説教されるのは自分でないらしいと、シュウはニヤニヤと笑いながら表情を強張らせるアキラをのぞき込む。


「銀のってことは、俺じゃねーよな」

「な、何のことでしょう?」

「声が裏返ってんぞー」

「アキラは隠れ住んでいるんじゃなかったのか?」


 肉を口に運ぶ手の動きはそのままに、彼は視線をアキラに固定し圧力をかける。


「……見つからないように時間と場所を選んでいたのですが、仕方なくて」


 薬草を求めて森を散策しているときに、偶然に遭遇した冒険者。無視しても良かったのだが彼が引き連れてきたゴブリンは無視できなかった。こっそりと始末し、冒険者は煙に巻いたつもりだったのだが、何故かそれ以降も頻繁に窮地に陥った冒険者らに遭遇してしまう。


「まさか顔を視られたからと殺すわけにもゆきませんし、誤魔化したつもりだったんですが」

「中途半端にかかわったせいで、ハリハルタでは夜の女神だとか、月神の使者だとか、森を統べる賢者だとか噂されているぞ」

「ぶほっ、ま、また女神だってよーっ!!」


 シュウは口の中の肉を噴き出しそうになりながら爆笑し、リンウッドはたいして変わらない二つ名だと息をつく。アキラは説教が拡大しないように神妙にするべきか、増えてしまった不本意な二つ名に文句を言うべきか、悩ましいと目を伏せた。


「その顔は反省していないな」

「まさか、そんな……」

「俺の目は誤魔化せんぞ」


 付き合いも長くなると表情も読めるようになる。ましてやマイルズは一筋縄ではゆかない冒険者連中を長年率いてきた経験がある。部下が失態を誤魔化そうとするときの顔など嫌というほど見てきたのだ。


「まったく、隠れ住むつもりがあるならもっと慎重に行動しなさい。コウメイが心配するはずだ」

「コウメイがですか?」


 仲間の耳には入らないはずの時期に行動していたはずだとの呟きは、確信犯であると白状したも同然だ。


「コウメイが島に向かう前におまえらを心配していたんだ。様子を見てくれとまで言われて、甘やかすなと説教したんだが……」

「あー、あいつ俺らをガキ扱いするとこ、ムカつくよなー」

「しかたあるまい。コウメイのいない三ヶ月の食事は酷いものだった」

「野菜も薬草もあるのに」

「食事だけではないだろう?」


 しょっぱなから問題を起こしたアキラだけではない、これから何かしらの騒ぎを起こしそうなシュウも、マイルズの咎めるような視線から顔を背けている。

 シュウは誤魔化すように数枚の肉を一度に口に放り込み、リンウッドは茹で芋を半分に切って鉄板に置く。アキラは指先にきゅっと力を込めてピナを搾った。彼のおすすめはピナ果汁をかける食べ方だ。なるほどさっぱりして美味い。


「あまりにも過保護が過ぎると思っていたが、賢者騒ぎもあって監視する必要があると納得した」

「私を叱るためだけにわざわざ来たのですか?」

「いや、別件の用事もあったんだ」


 マイルズが懐から取り出しアキラに渡したのは、封蝋された羊皮紙だった。


   +


「「「「いただきます」」」」


 コウメイ不在の朝食は冷凍庫の作り置き料理を中心にまかなわれる。その朝の当番であるリンウッドは、丸芋を茹でるついでに人数分の卵も鍋に入れた。野菜は酢漬けと畑のエレ菜をちぎって添える。冷凍のスープを鍋に移して煮立たせれば完成だ。


「肉がねー」

「卵があるだろ」

「卵は肉じゃねーし」

「立派な動物タンパクだ」


 茹で芋職人のリンウッドは、固ゆで限定だが新たにゆで卵を作れるようになった。シュウの焼き肉も多少焦げはするが炭化させることはなくなったので、食材ロスも減ったし食べる側も健康になった。


「立派な朝食じゃないか。干し肉と水よりもずっといい」


 不満を漏らすシュウを鼻で笑ったマイルズは、楽しげにゆで卵をかじる。


「町まで遠いが、不便はしていないようだな」

「ええ、シュウの足があればその日のうちに必要な物は買って帰れますし、島ほど閉ざされているわけではありませんから、のんびりできています」

「のんびりという割に精力的なようだが」


 彼の目がガラス窓越しに薬草園を見た。ハリハルタからここまでに見つけたものとは比較にならないほど高品質な薬草が生い茂っている。コウメイが高品質の薬草をハリハルタに納めはじめたのは、彼らの転居の直後からだった。そんな短期間で他に類を見ない薬草園を作り上げたのだ、精力的としか言い様がない。


「集中できる環境ではありますね。ただ少しばかり情報収集が難しいのが難点で」

「魔術師は独自の方法で手紙のやりとりをしているのではないのか?」

「事情があって隠遁している身ですから、なかなか」


 それよりも、とアキラは食後のコレ豆茶をすすめながらマイルズに問うた。


「薬草依頼の他にハリハルタに急いで戻る用件はありますか?」

「いや、隠居の身だからな、気が向けば討伐に出るくらいだが」

「ではお使いはシュウにまかせて、少しゆっくりしていきませんか?」

「……何か手伝いが必要なのか?」

「話が早くて助かります。ちょっとある場所を探したいのですが、私は覚えていなくて」


 アキラはとっておきの笑顔でマイルズを引き留めた。


   +


 ハリハルタからの依頼よりも少し多めの薬草を持たせてシュウを送り出したアキラは、食器を片付けたテーブルにマイルズから渡された羊皮紙を広げた。


「地図だったのか」

「島に向かう前にコウメイに依頼を出してもらっていたんです」


 冒険者ギルドから届けられたのは、ハリハルタを起点にした森の地図だ。地図には十数カ所ほど印が書き込まれていた。町に近いものもあれば、森の奥深くまでと、広範囲に散らばっている。


「覚えていますか? ゴブリンのスタンピード魔核のあった場所を」

「コウメイとアキラを引き込んだ、あの現場か」

「ええ。あのときは無我夢中でしたし、魔力切れで昏倒していて、私は正確な場所を覚えていないんです」


 地図に書き込まれているのは過去三十年のスタンピードの記録だ。魔核の場所に×印と魔物の名前が記入されている。ゴブリンと青銅大蛇が最も多く、他には雷蜥蜴やオークも複数ある。じっくりと地図を眺めたマイルズは、おそらくと前置きして二つの場所を指で示した。


「このどちらかだと思うが」

「ずいぶん町に近いですね」

「あのときは森の浅い場所でスタンピードが起きていた。移動距離と位置関係からこのどちらかなのは間違いない」


 さすがのマイルズも、二十年も前の討伐現場の正確な位置は覚えていない。

 地図を眺め、印の位置を指でたどりながら思案していたアキラが顔を上げた。


「マイルズさん、ギルドを通さない依頼を引き受けてもらえませんか?」

「あの場所に行きたいのか?」

「ええ、それだけじゃなくて、この印のある場所すべてに」


 素早く印を数えたマイルズは、アキラの真意を探ろうとその表情をうかがう。


「二十八ヶ所もあるぞ」

「一日に二、三ヶ所を回れば、十日以内に終わる計算です。マイルズさんには護衛をお願いしたいのです」

「待て、俺はハリハルタに住みはじめて四ヶ月だぞ。森にも慣れたが奥地までは」

「現役時代に何度もこの森のスタンピードを終結させたと聞いていますが?」

「……誰からだ?」

「町のギルドで、コウメイが聞いてきました」


 アキラがにっこりと微笑むと、マイルズは恥ずかしそうに視線を逸らした。

 深魔の森は大陸のどこよりもスタンピードの発生する確率が高い、それは冒険者なら誰もが知っている。スタンピードという災害討伐で名をあげよう、あるいは資産を作ろう、はたまた己の力を試そうとする冒険者は多いのだ。

 それは若かりしころのマイルズも例外ではなかった。依頼を受けていないときは町に数ヶ月も滞在し、スタンピードを待つこともあった。魔物の脅威を待ち望んでいた己の若さと傲慢さをこの年齢になって突きつけられるのかと、マイルズは顔をしかめている。


「……さすがに全部は無理だ。確実にここだと案内できるのは三割がせいぜいだ」

「十分です。それだけこの森で活動していたのなら、地図を頼りにおおよその場所はわかるんじゃありませんか?」

「年月は森の風景を変えるんだ、正確さは保証できない。俺がかかわった場所とて確実とは言えんぞ」

「近くまで案内してもらえれば、あとはこちらで探します」

「案内はいいが、いったい何のために魔核跡に行くんだ?」


 不可解な依頼に警戒心が尖った。スタンピード終結後に魔核は欠片も残さず掘り出されている。魔石が目的なら魔物を討伐するほうが確実だというのに。その目的がわからないままでは、どうにも不安で仕方がない。


「リンウッドさんとの共同研究における、一つの仮説の立証のためですね」

「義肢のか?」

「いえ、そちらではなく薬草の」


 マイルズはすっと背筋を伸ばすと、笑みを貼り付けたままのアキラを見据えた。


「アキラ、出せる情報は最初にすべて出しなさい」


 それは予想外に強く厳しい声だった。


「駆け引きではなく、誠実に必要な情報を出したうえで協力を求める、それが交渉の基本だ。何事においても協力を得やすくなる。特に相手が冒険者の場合はな。アキラのやり方は、もったいぶりすぎて疑ってくれと叫んでいるのと同じだ」


 狡猾な魔術師やエルフを相手にするような手順は、大陸一般では逆効果だとたしなめると、アキラは少しばかり迷うように視線を揺らせた。


「裏をかく変人ばかり相手にしていた弊害ですね。改めます」


 たまには町に出て仲間以外の者と接して慣れておけとの助言に、彼は素直に頷いた。


「私の目的は薬草の発見です。ニーベルメアで新種の薬草が発見されたことはご存じですか?」

「いや、知らんな。専門外だ」

「その薬草そのものも稀少で特殊なのですが、植生が謎に満ちていまして、かなり限られた条件下でしか発見されていないんです」

「……スタンピードの跡地が関係があるのか?」

「それを検証したいのです」


 冒険者ギルドの長まで勤めたマイルズが知らないというのならば、その新種の存在は魔法使いギルドのかなり上の方で秘匿されているのだろう。


「国家を越えて冒険者ギルド長会議は行われていますか?」

「三年に一度だ、各国のギルド長会議で選出された代表者が集まる場がある」

「そちらでニーベルメアの……ウナ・パレム近辺でスタンピードが多発するようになったとの報告は?」

「毎月のように小規模なスタンピードが起きていると聞いている。これまでではあり得ない頻度だが、規模としてはどれも小規模だとも……もしかして」

「ええ、新種の薬草は、かつて封じられたスタンピード跡地で、再発生直前に発見されました」


 ウナ・パレムと条件を同じくしようと試行錯誤したが失敗が続いた。こうなればスタンピードの跡を探すしかないと考え、マイルズを頼ったのだ。


「なるほど。それでその新種の薬草というのは、そうまでして探し出すからには、価値のある薬草なのだろうな」

「ええ、とても汎用性が高くて、けれど稀少すぎて実用化の目処が立っていません。ウナ・パレムにしか生えないのか、条件さえ合えば大陸のどこでも栽培可能なのか、それを調べたいのです」


 新種の薬草はリンウッドとも協力して研究しているのだという。安定供給が可能になれば錬金薬だけでなく一般薬までその恩恵を受けられると説明され、マイルズはアキラの依頼を引き受けると決めた。


   +++


 数日分の野営に必要な物資を背負ったマイルズは、狩猟服姿の二人を振り返った。


「リンウッドさんも同行するのですか?」

「アキラとの共同研究だ、当然だろう」

「年寄りの冷や水じゃねーかって心配してんだよ」

「これでも昔は冒険者として活動していた。ミシェルほどではないがそれなりの攻撃魔術が使えるぞ」


 途中で遭遇した魔物を狩る気満々のシュウは、ロープとスライム布を腰にくくりつけている。アキラは座布団を入れた鞄をさげていたし、リンウッドは魔道具を収めた箱を背負い、手には攻撃魔術用の杖をしっかりと握っていた。


「最後にこの森のスタンピードを止めてから二十年もたつ。正確な場所を案内できる保証はない」

「承知しています」

「いいから行こーぜ」


 家を厳重に施錠し、四人は深魔の森に入った。


   +


 彼らは隠れ家の北西から森に入り、跡地をたどった。森の深い場所から町の近くへと回り込むルートだ。深魔の森は深く広大だが、二十八ヶ所のスタンピード跡地を回るだけなら、足の遅いリンウッドにあわせても十日もかからない。足場が悪ければシュウが背負うし、アキラは座布団に座って優雅に移動する。この速度なら五日もかからないのではと思ったマイルズだが、時間を要するのは移動ではなく、跡地での作業だった。


「一の三、白の六」

「一の五は白の十二です」


 地図を頼りにたどり着いた跡地とおぼしき場所で、アキラとリンウッドは地面にマス目を書いた。そして妙な魔導具を地面に挿し、よくわからない作業をはじめたのだ。


「二の六、灰の十八。二の七、白の一」

「あの二人は何をしているんだ?」


 邪魔にならないようにマス目を避けて周囲を警戒する。マイルズは退屈そうなシュウにたずねた。


「魔素濃度を測ってるんだってさー」

「そんなものを測って、どうするんだ?」

「魔核のあった場所を探してるんだと思うぜ」


 俺も詳しいことはわからねーよ、と笑う彼は全く魔物を警戒する様子がない。ここまでの行程でも魔獣すら見かけなかった。シュウの威圧で追い払っているのだろうが、マイルズにも全く感じ取れない。魔物だけに効果のある威圧なのか、それとも感じ取れないほど自分が鈍ってしまったのか……後者でないと思いたかった。


「アキラの研究には魔核の位置が重要なのか?」

「多分なー」


 マイルズは二人が固執する地面をじっくりと観察した。日当たりが悪いせいか雑草は背丈が低い。地面には湿り気が多く、苔むした木々の根が目立つそこに、杖で地面に書き込まれたマス目はそぐわない。

 五×五のマス目すべての魔素を測定し終えると、今度は何カ所かの土や雑草を採取した。それが終わるまでに鐘一つ半、記録を突き合わせての話し合いが終わるのに半鐘。ようやく意見が一致したのだろう、リンウッドは背負っていた荷箱から取り出した銀の杭を一つのマス目に刺した。


「ここは終わりました。次に行きましょう」

「二十八ヶ所全部で同じ作業をするのか……」


 魔物を警戒する必要もなく、ただ彼らの作業が終わるのを待つだけの時間は、退屈よりも疲労感のほうが大きい。


「退屈でしたか?」


 ため息のようにこぼれた声を聞いて、アキラが申し訳なさそうに振り返った。


「すまん、護衛の必要がないと時間を持て余してな」

「シュウは忌避剤としてとても優秀ですから。作業が終わるまで狩りを楽しんでくださっていいんですよ」

「いや、シュウに恨まれそうだから遠慮しておこう」


 マイルズよりも退屈を苦痛に感じているだろうシュウは、彼に「抜けがけはずるい」と不満げな顔を向けている。マイルズは作業で手伝えることはないかとアキラにたずねた。


「固い地面に難儀していたようだし、魔道具を刺すのを代わろうか?」

「あれは深さとか角度にもコツがあるので……では私たちが読み上げた測定結果を書き取っていただけますか?」

「わかった」


 三ヶ所目の魔核跡を測定し終えたところで初日は終了した。その場で夜を明かすと決め、焚き火を中心に結界魔石で囲む。食事はマイルズが作った。といっても彼が用意できるのは一般的な冒険者の野営飯だ。


「美味い飯に慣れているアキラたちの口に合わないかもしれないが、我慢してくれ」

「俺は肉があればじゅーぶんだぜ」


 やっと忌避剤係から解放されて張り切ったシュウのおかげで、マイルズは魔猪を四頭も解体しなければならなかった。十日分の肉の運搬は当然シュウの仕事だ。


「シュウ、今後は狩るなら食えない魔物にしてくれ」

「物足りねーけど、しかたねーか」


 串に刺した魔猪肉は厚切りだ。焼き加減はマイルズの好みで表面をカリッと、内はじっくりと火を通してある。味付けは塩だけだが肉が柔らかく、肉汁も甘く美味かった。


「とても美味しいですよ。私のはもう少し肉を薄くしてほしいです」

「おっさん料理できるんだな、すげー美味いぜ。俺のはもっと厚い肉がいいなー」

「悪いが、俺はこの厚さでないと美味く焼けんのだ」


 この厚みだから食える焼き肉になると言われては黙って食べるしかない。シュウは串肉五本をペロリと平らげ、もう五本とおかわりを要求した。リンウッドはマス目の記録を読むのに夢中で、手にした串肉が減る気配はない。


「何か発見はあったか?」


 マイルズの問いかけに応えたのはアキラだ。


「いいえ、まだ三ヶ所ですからね。全部を測定して、しばらくは継続観測というところでしょうか」

「最後に刺した杭は何かの目印か?」

「あそこが一番魔素が濃かったんです。おそらく魔核があった場所でしょう」

「新種の薬草は見つからなかったんだな」

「そんなに簡単に探し出せるものなら、とっくに見つけていますよ」

「それはそうだな」


 ナナクシャール島の奈落の森でも魔物を寄せ付けなかった結界魔石の内側で、四人はしっかりと睡眠をとって翌日に備えた。

 そうして二十八ヶ所のスタンピード跡地を回った彼らは、予定通り十日後に森の家に帰り着いた。


「魔術師殿の現地調査というのは面白いものだな」

「継続して観測する予定ですから、また手伝っていただけるとたすかります」

「年寄りをこき使おうとするな」


 討伐は数えるほどしかなかったが、さすがに十日間も森を歩き回れば疲労はたまる。森の家に戻った翌朝、マイルズは護衛報酬の魔物素材と薬草を背負いハリハルタへと帰って行った。


   +++


 マイルズが森の家を去ったその日の夜、彼らは再び魔核跡へと向かった。 




【おまけ】

ボツにしたシーンのリサイクル


「冷凍庫に作り置きがある、ちゃんとレンチンして食えよ。読書とかリンウッドさんとの研究に没頭して飯抜くんじゃねぇぞ。あと薬草食うくらいなら畑の野菜を全部食べちまってもいい。ドレッシングは三種類を冷蔵庫に入れてあるから。それとシュウはマヨネーズ食い尽くすな、あれすげぇ手間かかるんだからな」

「どこのおかんだ」

「コーメイ、うぜー」

「過保護が過ぎるな。こいつらは立派な大人だぞ」

「そーだそーだ、俺らはガキじゃねーぞ」

「シュウは自己管理できるようになってからオトナを主張しろ」


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