ナナクシャール到着
本日より「やたら長い人生のすごし方」第九章の連載をはじめます。
月・水・金の更新となりますのでよろしくお願いします。
「奔放すぎる療養記」という章タイトル通り、お気楽な章になると思います(多分)。
『ナナクシャール』
リンウッドの声と同時に、深海の天井に眩いばかりの光が差し込んだ。
思わず目を閉じた彼らは、微かな浮遊感の後に柔らかな絨毯の感触に気づく。肌にまとわりつく潮の香りが懐かしく、張りつめていた緊張が解けた。目を開けて周囲を見渡したコウメイは、変わらない殺風景な部屋に苦笑いだ。
「相変わらず、実用第一っつうか、前より雑多な感じじゃねぇか」
「ケギーテは水族館みてーでキレイだったよなー」
「あれは凝りすぎなだけだ」
気の緩んだ彼らの声も軽い。ナナクシャール島は外聞を気にすることなく自由でいられるせいか、彼らにとって故郷のような場所になりつつある。今回も三人の療養を兼ね長期滞在するつもりだ。
「なー、なんか外が騒がしくねーか?」
誰かが扉を叩いているようだ。転移室の扉を開けると、打撃音が大きく激しくなってゆく。懐かしいギルドロビーは窓も扉も固く閉ざされており、職員は一人も居ないようだ。
「留守番いねぇのかよ」
「色々あってな、今は俺一人だ」
「いろいろって、何があったんですか?」
扉を叩く音は次第に緊迫感を増しており、今にも破られそうだ。あれを放置して三人の質問に答えるわけにはゆかないだろう。
「連中の気が立っているし、扉を叩き壊されては困る……アキラ、そこに座れ」
説明は騒ぎの根源を解消してからだ。リンウッドはアキラがカウンター席に座るのを確かめてから、扉の鍵を開けた。
「やっと開いた!」
「仲間が瀕死なんだ、早く診てくれ!!」
「二日たってる、ギリギリなんとか生きている、頼むっ」
扉が開くと同時になだれ込んできたのは、十数名の冒険者らだ。リンウッドを見るなり叫んだ二人の狩猟服は、染みこんだ血が黒く変色し固まっている。二人は真っ先にリンウッドに駆け寄り、そのまま抱え上げた。瀕死の重傷を負った仲間のもとへ連れて行こうというのだろう。
「あ、あんた新しい職員か?」
他の冒険者らが見知らぬ三人を見て顔を輝かせた。
「転送を大至急」
「早く送ってくれ! 向こうで待ってるんだ!!」
「予定より遅れている、大至急っ」
どの顔も切羽詰まっており、突然増員された見知らぬ三人に抱えていた大量の魔物素材を押しつけた。
「ま、もの、素材?」
カウンターに次々と積み重ねられて行く素材を前に、アキラは目を丸くした。彼の記憶では、ナナクシャールのギルドは、基本は魔石の買取しかしていなかったはずだ。山のような魔物素材と冒険者らをどう処理すればと途方に暮れるアキラに、連れ去られるリンウッドが羊皮紙の束を投げて寄こした。
「それを読んで、後は頼む」
その一言を残し彼は二人の冒険者に連れ去られた。
「待ってください、せめて説明を!」
「重傷者が優先だ、諦めるしかねぇよ」
人の生き死にがかかっていると言われれば引き止められないが、何の説明も無いまま殺気だった冒険者らの相手をしなければならないこちらも非常事態だ。アキラは業務記録らしき紙の束に慌てて目を通した。
「送り先? と、素材のリスト? 種類と数量を代表者に確認させてから署名をもらう……契約魔術なのか」
どうやら彼らが島にいなかった間に、いろいろと大きな業務変更があったらしい。経過はわからないが、持ち込まれた魔物素材を転移魔術陣を使って各ギルドに送っているらしく、マニュアルには契約魔術のひな形もあった。
「シュウは素材を運んでくれ。コウメイはリスト作成の手伝いを頼む」
詰めかけた冒険者らの怒気と山積みの魔物素材をどうにかしなくてはならないと、アキラは思考を停止してギルド職員モードに切り替えた。
「コウメイがチェックし終えた魔物素材をシュウが転移部屋に運ぶんだ。移送先ごとに別けて置け、混ぜるなよ、後が面倒だ」
転移料金の精算と契約魔術はアキラが担当だ。冒険者らは転移室へ入ることができないため、自分たちが苦労して討伐した魔物素材を他所のものと間違えられては困ると、彼らの仕事に睨みを利かせ、ロビーと転移室を往復する二人の仕事を監視し続けている。
「……俺の知ってる島からずいぶん変わってるなぁ」
「俺の知ってたのとも違うぜー」
「数年でずいぶんと様変わりしたようだな」
ともかく詳細は目の前の混雑を解消してからだと、三人は淡々と業務をこなしていった。
+
「所長、何日も閉めるなら前もって教えておいてくれ」
「急患がいるのに錬金薬も手に入らなくて生きた心地がしなかった」
「本国との調整もある、こっちにも準備が必要なんだ」
「頼むぜ!」
重症患者の治療を終えてギルドに戻ってきたリンウッドに、転送契約を終えた彼らは声を揃えて同じ苦情を言い残し去っていった。
「……てめぇらのせいで叱られた」
恨みの目を向けられた三人は、それぞれ明後日の方向に視線を逸らせた。
たった一人でギルドを運営していたリンウッドがシュウに連れ去られた後、通行手形(転移係)の役割を終え放り出されたノエルが、ケギーテに戻る前にギルドを閉鎖していたらしい。おかげでリンウッドが不在の間は錬金薬が入手できず、負傷者は瀕死にまで悪化し、また予定の転送が行えなかったらしい。
「あー、悪ぃ」
「ごめーん」
「……すみませんでした」
転送契約書は六枚、転移室に積み上げられた素材の山も六つ。それらをリンウッドが転送している間に、アキラは冒険者らの買い占めによって品薄になった錬金薬を製作した。シュウがロビーを掃除し、コウメイが簡易台所をあさってハギ茶を煎れる。
一服して落ちついた彼らは、リンウッドを問い詰めた。
「他に魔術師はいないのですか?」
「転送サービスとか、どーなってんの?」
「業務内容も激変してるし、冒険者の連中も前とは雰囲気が違ってる。激変じゃねぇか」
リンウッドは酒がよかったとでもいうような顔で茶を飲むと、遠い目をして答えた。
「島の変化は一年……いや二年前だったか。毒を盛られたミシェルが生きてギルド長を続けていると分かった直後からだ」
口を開いたリンウッドの横顔は、当時の疲労を思い出したのか渋かった。
「あれで情勢が大きく変わったんだ。真っ先に軽犯罪者の受け入れが終わった」
「あー、毒を盛る王家の仕事なんかやってらんねーって切ったのか」
「いや、取り決めの終了を一方的に通達し、早々に引き上げたのは向こうからだ」
「それは……毒殺首謀者が自白したようなものですね」
ナナクシャール島が引き受けていたのはシェラストラルの腕輪付き冒険者だ。それを停止するということは、何かしらのかかわりがあると白状したようなものだ。
ミシェルが死ななかったと知るや否や、毒を盛ったウェルシュタント王家が報復を恐れ、彼女と関係の深いナナクシャール島との関係を断ったのだ。
「意味わかんねーんだけど? 犯罪者を人質にされたくねーとかか?」
「人質にはならねぇだろ。国家が押さえられて困る人質ってのは、王家の血筋か上級貴族だ。腕輪付きを百人盾にしたって眉ひとつ動かしゃしねぇよ」
その通りだとリンウッドが頷いた。
「王家は傀儡魔術を恐れていた」
「ああ、なるほど」
リンウッドの言葉に、アキラは納得だと冷たく笑う。
傀儡魔術は人間を思い通りに操る魔術だ。島に送られていたのは軽犯罪を犯し奴隷落ちした連中だ。彼らは刑期に応じた借金の返済が終われば、腕輪を外し王都に戻ってくる。
「この島で傀儡魔術を施された冒険者が、ミシェルさんの命令で王都が襲撃されるのを警戒したのか」
「うわー、そんな悪趣味な仕返しすると思われてんのかよー」
「ミシェルさんならそんな非効率的な報復はしないだろうな」
「単身で乗り込んだほうが絶対簡単だし、早ぇよな?」
実際に乗り込んでいったのはアレックスだったと、当時を思い出したリンウッドだ。
「人は攻撃から身を守ろうとするとき、自分の物差しで敵の攻撃を想定するものだ。地位の高い凡庸な者ほどその傾向がある」
今のウェルシュタント国王は切れすぎた先代に比べれば凡庸だとリンウッドは評した。
「やっぱウェルシュタントも好きになれねぇな」
「オルステインよりはましだ」
「偉い連中ってのはどこも似たよーなものじゃねーの?」
権力には極力近づかないでおこうと三人は改めて頷きあった。
「次に仲介屋が引退を決めた」
「白狼亭のオッサンが? 何かあったのかよ」
懐かしい名前を聞いたシュウが、まさか彼も毒を盛られたのかと慌てた。
「表向きは宿屋の亭主だ、そんな奴をわざわざ毒殺なんかしないだろう。ただミシェルが毒を盛られたことで思うところがあったんだろう、年齢を理由に引退を決め、宿を売ってシェラストラルを離れた」
七十歳を超えたネイトが年齢を理由に廃業するのは不自然ではない。彼が姿を消したことにより、シェラストラルの冒険者は島に渡れなくなった。
「ネイトさんの故郷って何処なんだ?」
「挨拶くらい行きてーよな」
「俺は知らん。ミシェルに聞いてくれ」
ネイトが王都を去ったため、大陸と島をつなぐ唯一の定期船の運航も途絶えた。
「ん? じゃあさっきの連中はどういう素性なんだ?」
一目で歴戦の猛者というような冒険者らは何処の誰なのかと首を傾げるコウメイに、リンウッドは深いため息をつく。
「ヘル・ヘルタントの魔法使いギルドに雇われた冒険者連中だ……あいつらのせいで、ゆっくり研究もできない」
「一人で切り盛りしていたら、まあ忙しいですよね」
「転送サービスなんてはじめるからだろ。誰が考えたんだよ?」
「島からの素材供給が断たれて困った冒険者ギルドと魔法使いギルドだ。連中に頼み込まれてアレックスが受け入れた」
ヘル・ヘルタントが窓口となり、各地の魔法使いギルドや冒険者ギルドの希望をとりまとめている。送り込んだ冒険者らに魔物素材を集めさせ、転送契約で各地に販売しているのだ。リンウッドが断りもなく島を離れてしまったため、納期に縛られている冒険者らはパニックに陥ったのだ。
「わざわざ契約魔術を使ってまで取り寄せるような、貴重な素材はありませんでしたよ?」
「大黒蜘蛛とか、青銅大蛇とか、銀狼とか、大陸でも狩れる素材ばかりだったぜ」
「わざわざ島で調達する必要ねーよな?」
いくら島産の魔物素材が高品質だとしても、莫大な経費をかけてまで討伐するほどの価値があるとは思えない。アキラがそう言うと、リンウッドは苦々しく弟子を叱った。
「お前が素材の品質を侮るのはいけねぇな。同じ魔道具でも素材の差が耐久性や魔術効果に差を生むことは知っているだろう。一流の魔術師なら素材の品質まで目を光らせておけ」
薬草の質が錬金薬の品質に影響するように、防具や武器の材料として使われる魔物素材の差が、それを使う者の生死を分ける。
「アレックスが許可したってのも意外だぜ。あいつサボってばっかだろ。そういう面倒くさそうなの嫌がりそうなのに」
「冒険者のギルド長会議ってのが国境を越えてはじめて開催されたらしくてな、そこで対策を練って、ミシェルに泣きついたらしい」
「命知らずだな」
「そりゃ連中も国の圧力には逆らえなかったんだろうぜ」
冒険者ギルドに持ち込まれた魔物素材の販売先は、その大半が実は国や領主である。何処の国も大きな戦争は避けているが、国境での小さな小競り合いは頻繁に起きている。国防兵へ支給される防具や武器の材料として、国や領主は、品質の良い素材を優先して買いあげている。ナナクシャール島産の魔物素材はどういう経路をとったとしても、最終的に国にたどりつくのだ。
「最近の冒険者ギルドはどこも権力にすり寄ってんのか?」
「いや、利害が一致しただけだろう。島の魔物素材を手に入れたい国と、国を相手に稼ぎたい冒険者ギルドの思惑が一致しただけだな」
「その国ってのは、ウェルシュタントか?」
毒を盛り、アレ・テタルの長の座から引きずり下ろそうとした国が、手のひらを返したのは醜悪だ。ミシェルがアレックスを仲介したのにも何か策がありそうな気がする。
「大陸全ての国が、それぞれを代表する冒険者ギルドに圧力をかけたようだ」
「全てですか……オルステインもウェルシュタントも、厚顔にもほどがありますね」
大陸中の冒険者ギルドの総意となれば、ミシェルも立場上無視はできない。
「それでも細目が許可したってのが信じらんねーな」
「狭い島で魔物があふれたら後始末が大変だ、間引く奴が必要だと言っていたな」
面倒で手間のかかる仕事をやりたくない細目は、冒険者ギルドや各国に恩を売りつつ押しつけたのだ。しかも各種条件を山のように提示したという。
「島での討伐の許可と、転送を有料で請け負う代わりに、魔石は全てギルドに献上。もちろん入島の契約魔術も義務づけ、完全自己責任で命の保証はしなかった」
「タダで魔石を巻きあげるのか。悪辣だな」
それらの条件を受け入れて派遣されてきたのが、先ほどの冒険者らだ。厳しい環境で生き抜き、魔物を一体でも多く討伐し素材を得られる経験と実力の持ち主ばかりが送り込まれた。彼らは半年ごとに入れ替わりながら、討伐に明け暮れているらしい。
「そういえば転送先は各国の魔法使いギルドでした」
王家と対立し閉鎖されたトレ・マテルと、転移魔術陣のないウナ・パレムをのぞいたギルドへと素材が転送されている。転送部屋に素材を運び込む際に宛先を見ていたコウメイは顔をしかめた。
「リウ・リマウト経由でオルステインに素材が流れてんのか?」
島の素材が悪巧みに利用されるのではないかと考えるのも当然だ。
「いや、あそこからニーベルメアに陸路で移送されている」
「ダッタザート行きの荷がかなり多かったようだが」
「サンステン国の発注分だろうな」
険しい山頂のマーゲイトから移送するよりも、ダッタザートから砂漠を越えたルートが早くて確実だ。
「そういうわけで、連中が素材を持ち込むたびに、何処宛の素材なのかきっちり管理しなけりゃならん。これが面倒なんだが、アレックスの野郎はミシェルの手伝いで戻ってこねぇし…アキラはいつまで島にいるんだ?」
転送部屋を睨んでいたリンウッドは、期待するように弟子とその仲間を振り返った。
「いつと決めているわけではありませんが、義足の目処が立つまででしょうか」
「虹魔石を集めなきゃならねぇし」
「おっさん、休めって言ったじゃねーか。のんびりさせてもらうぜ」
「なら当面はギルドをまかせる」
「いきなり全部を任せないでください」
もとから事務や管理の仕事を苦手にしているリンウッドは、やっと適任者に押しつけられると嬉しそうだ。顔をしかめて返したアキラだが、片足では森に入ることも難しいだろうし、毎日海岸で昼寝をするのにもすぐに飽きるに決まっている、仕事があるのは悪いことではないと苦笑いで引き受けた。
「そういやおっさん、どこに住んでるんだ?」
「大きな倉庫のある古屋だ」
かつて島にいた大工が住んでいた家だ。二階建ての一階半分を占める倉庫は、リンウッドが診察と実験場として活用している。
「俺らの使ってた家は、またアレックスの素材で散らかってんだろうなぁ」
「ああ、あの家なら半壊しているぞ」
「……何があったんですか?」
元は居住用の一軒家だが、アレックスが素材置き場にするようになってからは、防御魔術で守りを固め補強され耐久度も上がっている。盗みに入るのも不可能、扉や窓を破って侵入も出来ないはずだ。
「少し前に金髪のエルフがやってきて素材を物色していたんだが、目的の物が見つからなかったらしくてな。癇癪おこしてでっかい雷魔法をぶっ放して去っていった」
「「「……」」」
コウメイは目を細め、シュウは噴き出したいのを堪えるように口を閉じ、アキラは静かに視線を逸らした。
「は、半壊しても防護魔術は完璧だと思いますが、さすがに住むのは難しいでしょうね」
「あのキンキラな宿舎で寝泊まりしたくねーかなー」
「思惑ありげな連中の近くじゃくつろげねぇしなぁ」
「俺の住処の二階の広いほうの部屋が空いてるから住め。そのかわり飯は任せた」
リンウッドのいかつい顔が、改善される食生活への期待でほころんでいる。
「おっさん、まさか茹で芋しか食ってねぇとか言うなよ?」
「……料理は苦手だ」
「金華亭があるだろ」
「飯屋は廃業している。冒険者連中も自炊しているぞ」
魔術師が去り、冒険者らが島に訪れなくなれば、飯屋は営業が成り立たない。素材収集の契約冒険者らがやってくる前に、金華亭は店を閉じ、その後は料理人がいないため廃業したのだという。
「コウメイが飯屋を引き継げば俺も助かるし、儲かると思うが、やらないか?」
「やらねぇよ」
火蜥蜴討伐で受けた傷と疲労を癒やすため、そしてアキラの義足と自分の義眼の素材を集めるために島にやってきたのだ。のんびりと飯屋を経営する暇などないとコウメイは首を横に振る。
「おっさん、ここはずっと店番が必要なくらい忙しいのか?」
「いいや、日暮れ前に素材を持ち込む奴がいるが、それまでは暇だ」
「なら俺らが使う部屋を案内してくれ。それとアキの足をちゃんと診てくれ」
「コウメイの義眼もだ」
そういえば到着直後にギルド仕事に引きずり回され、彼らはまだこの建物を一歩も外に出ていない。
「話に聞いてるだけじゃなくてさー、やっぱ変化は自分の目で確かめねーとな」
シュウは転移室に置きっぱなしにしていた自分たちの荷物を抱え、今にも懐かしい島へと走り出しそうな様子だ。
「ロビンさんも島を離れたんですか?」
「いや、冒険者を相手に儲けているよ」
食事は自分で作れても、武器は専門家に頼らねばこの島での討伐は続けられない。歴戦の猛者らは武器や防具にもこだわりがあるらしく、ロビンは忙しい日々を送っているそうだ。アキラは彼が暇なときに松葉杖作りを頼もうと決める。
四人は玄関から砂地に踏み出した。
リンウッドが施錠している間に、シュウは砂の感触を確かめるように足跡をつけてはニヤニヤと笑っている。アキラはコウメイの腕に支えられながら静かに砂を踏みしめる。靴底越しに感じる沈むような感覚が懐かしかった。
ナナクシャール島の冬空は青が濃く、雲は白くて厚い。肌を撫でる潮風はほんのりとやさしく、日差しは包み込むようにあたたかい。
「塩臭せぇ。けど懐かしい匂いだ」
潮風を吸い込んだ彼らは、久しぶりの島を楽しむようにゆっくりと町に向かって歩き出した。




