1 決意の旅立ち
この章は、新しい人生のはじめ方(完結済)の第7部「カモナ・マイ・ハウス」の後あたりのエピソードとなります。
大きな事件やトラブルはありません(多分)。お気楽なほのぼの船旅の章です。ロードムービーっぽい感じを目指しました(船旅だけど)。三人の初めてのクルージングの旅をお楽しみください。
「ずっと断ってきたが、そろそろミシェルさんの依頼を請けようと思う、いいか?」
ダッタザートに戻って何度目かの夕食後、部屋に戻ったアキラが遠慮がちに二人に了承を求めた。
「あー、他の国のギルドをスパイしてこいってやつ?」
「……アキはそれでいいのか?」
硬い表情で思いつめているように見えるアキラを心配し、コウメイはその隣に腰を下ろした。
「内偵を引き請けたら、来年どころか、数年はダッタザートに戻れなくなるぜ?」
年越し蕎麦を食べに帰ってくることができなくなるが、それでもいいのかとコウメイが問う。アキラの目にまつ毛の影が落ち、その笑みが微かに崩れた。
「この街に戻ってくるのは、そろそろ限界だと思う」
静かに吐き出された言葉は、もう決めたのだという決意の色が濃かった。
「ジョイスさんやジェフリーさんは魔術師だから理解があるが、街の人たちの視線がな、遠慮というか警戒というか、そういうあまり良くない感じだったのは気づいただろう?」
アキラの正面に座ったシュウは、ダッタザートに戻ってからの人々の反応を思い出してみた。
「そーだな、なんか視線がよそよそしいっていうか。いつまでも若いなーって笑ってたけど、なんかよくない感じ?」
顔見知り程度の冒険者にすら遠巻きにされているようだったと頷いた。
「居心地よくねーよな」
「年に一度しか戻ってねぇから、まだこの程度で済んでるのかもな」
顎に手を置いてコウメイも小さく息を吐いた。
良い意味でも悪い意味でも、コウメイたちは目立つ存在だ。世界にあまた居る冒険者の一人だというのに、ダッタザートの人々はコウメイやアキラ、シュウを忘れていない。それは街を去り、年に一度だけ、短期間街に戻ってくるようになった今でもだ。
「たった五年しかたってないのになー」
「流石に若作りだと誤魔化すのも難しくなってくるだろう」
人間の十代から二十代は、意外に変化が大きい。大人の顔つきになったヒロやサツキたちと並ぶと、今では自分たちが年下に見えるようになってしまった。これ以上は流石に怪しまれてしまうだろう。どうせ街を離れるのならばと、アキラはミシェルの仕事を請けようと思ったのだ。
「そろそろミシェルさんに借りを返さないとまずいしな」
何年も前にギルドの所在地と所属魔術師のリストを渡されていたのだが、アキラはダッタザートに戻れなくなるのは嫌だと断り続けてきた。
「仕事があった方が、気が楽だし」
意志の力で帰りたいという思いを我慢するよりも、仕事があるから、あるいは物理的に遠くにいるから、といった理由があった方が、諦めも、気持ちの整理もつきやすい。逆に言えば自分の行動を縛っておかなければ耐えられないのだろうと、コウメイは気丈にふるまうアキラの肩に腕を回した。
「俺は周りからどんな目で見られても気にしねぇぜ?」
「……自分だけならいいが、サツキを困らせるのは嫌だ」
齢を取らない家族がいることで奇異の目で見られたり、自分たちの長命を疑う者たちに危害を加えられるような事態だけは避けたい。何をおいても妹の安寧が優先されるアキラにとって、自分が原因でサツキが苦境に陥ることだけは許せないのだ。
「こっそり戻ってきて年越し蕎麦を食うって方法もあるんじゃねーの?」
「門兵を誤魔化す方法はある、顔を隠してサツキちゃんに会いに帰ってもいいと思うぜ」
「それでサツキを困らせるのか?」
街への不正侵入がバレて迷惑を被るのは、街に住んでいるサツキたちだ。せっかくダッタザートに根を張って生きている三人が、離れなければならなくなるような事態だけは招きたくない。
「みんなに会えなくなるのは寂しーけど、そーだよな、俺も迷惑かけたくねーし」
変わらない姿と身体能力の異常さから、自分が獣人族であることがバレる可能性を考えれば、シュウもまたアキラの気持ちが嫌というほど分かった。獣人にかかわりがあると知れ、街の人たちがコズエたちを見る目が変わったり、利用しようとする事態は絶対に避けたいことだ。
「ダッタザートにはしばらく戻らないつもりだ。そうだな、十年か二十年くらい」
それくらい時間が経てば、昔よく似た冒険者を見たことがある、と人は思うだろうが、同一人物だと疑うことはない。昔街で有名だった冒険者の子供かもしれない、そう考えるのが自然なほどの時間が経過してしまえば、再び帰ってくることもできる。
「サツキちゃんたちには言うのか?」
「……遠くでの依頼を請けたから、しばらくは戻らないとだけ」
アキラは小さく首を振った。自分やシュウだけでなく、コウメイまでが時間を止めていることを、サツキたちに伝えるのが怖かった。
「分かったよ、じゃあ明日は魔法使いギルドだな」
もともと期限がないからと五年近くも放置していたミシェルの依頼だ、今も調査が必要なのか、それがどの国なのかを確かめる必要がある。
沈んだ空気を振り払うように、シュウが明るい声を出した。
「俺は行ったことねー国がいーなぁ」
「ならオルステインかニーベルメアか、マナルカトあたりか」
「ヘル・ヘルタントは国境近い街くれーしか知らねーから、そこでもいいんじゃねーの?」
行ったことのない土地はワクワクするよな、と目を輝かせるシュウの屈託のない笑顔に誘われて、コウメイとアキラも笑みをこぼしていた。
+
ジョイスの手にある連絡板の魔石がチカチカと点滅している。
「ギルド長からは、ニーベルメアに向かってほしい、ということです。詳しい情報は明日届けるそうですよ。それと……アレックスさんからも伝言がありまして」
ジョイスは申し訳なさそうに連絡板をアキラに差し出した。アレ・テタルと連絡を取り合っていると思っていたが、ジョイスがやり取りしていたのはナナクシャール島だったらしい。
「あまり、気が進まないんだが……」
嫌そうに受け取って表示された文面を読んだアキラは、少し考えて銀のペンで返信を書き送った。無言でのやり取りが続く間、コウメイはロビーのテーブルで目を細めてアキラを眺めていた。正面にいたシュウがニヤニヤしながら揶揄う。
「何スケベ面して笑ってんだよー?」
「いや、初めてダッタザートに来た時も、あんな感じで連絡板越しにアレックスとケンカしてたなぁって」
ギルドロビーが埃だらけで汚かったころを知らないシュウは、興味津々に続きを促した。
「勝手に昇級させてたとか、ギルド所長の仕事を押し付けられたとか、まあ色々な」
「てことは今回もなんかめんどーを押し付けられてるってわけか」
「多分な。まあその方がアキの気が紛れていいんじゃないか?」
妹との別離を思って鬱々とするよりも、腹黒エルフに怒りを向けている方が前向きだろう。
「コウメイ、シュウ」
連絡板から顔をあげ二人を呼んだアキラの表情は、コウメイが言ったように好戦的な笑みで活き活きとしていた。
「陸路と海路とどちらがいい?」
「なんだ?」
「アレックスが便乗して俺たちに仕事を頼みたいらしい」
陸路と海路でそれぞれ異なる仕事があるらしく、好きな方を選べということだ。
「アイツの仕事って、ぜってー面倒くせーのだろ」
「あんまり気が進まねぇな」
断れないのかと問うと、引き受ければ往復の旅費をアレックスが出すのだと返事が返ってきた。長距離の移動にかかる費用は、移動期間が長ければ長いほど馬鹿にできない金額になる。アキラもアレックスのお使い仕事というのは気に入らないが、費用負担には魅力を感じているらしい。
「そーいや俺らって船旅したことねーじゃん」
ナナクシャール島への往復の船くらいだし、あれは船旅というのとは違うだろう。
「船旅って、どんなんだろーな」
「ニーベルメアなら、大陸周回船だな」
地図を見ながらコウメイが東回りと西回りの航路を指でなぞった。陸路でニーベルメアへは乗合馬車を乗り継いでも三ヶ月以上かかるが、周回船なら一ヶ月ちょっとというところだろう。
「船旅がいーよな、面白そーだし」
「確かに、のんびり船旅も良さそうだ」
「じゃあ海路で引き受けておくぞ」
ふたたび連絡板でのやり取りに戻ったアキラを横目に、コウメイとシュウは船旅のアレコレに想いを馳せながら、準備をどうするか話し合っていた。
+
魔法使いギルドの人間は、他国での仕事のための長距離移動には転移魔術陣をつかう。だが今回は目的地にある魔法使いギルドを内偵するのが仕事だ、転移はできない。
「普段は転移しますから、長時間の旅自体経験ありません」
「どんな準備が必要なんでしょうねぇ?」
ジョイスもジェフリーも一ヶ月にも及ぶような船旅の経験はなかった。何を持って行けばいいのか、船旅での心構えはどんなものがあるのか、そういったコウメイたちの疑問に答えたのは冒険者ギルドのブライアンだった。
情報を求め冒険者ギルドに顔を出した三人は、ブライアンに招き入れられた個室で懇切丁寧な説明を受けていた。
「お前ら金に困ってねぇだろうからな、可能な限り上等な船室を買えよ」
大陸を周回する旅船の客室は、上は特別室から下は三等客室と五種類ある。
「賃料が手ごろだから、二等客室は冒険者や庶民層が多い」
だが二等は扉のない広い部屋だ。男女が分かれているとはいえ、板の間に十人ほどが雑魚寝になるため、客たちの間に場所の取り合いからの上下関係ができやすいらしい。また出入りが自由なため常に荷物の見張りが必要だ。そして三等客室は普段は積み荷が乗せられるような場所が寝床になっている。
「積み荷って、それ客室じゃねぇだろ」
「荷が空いた場所を遊ばせとくのは勿体ないからな」
三等客室は料金も格安のため、食い詰めた冒険者や金のない旅人が集まっており、二等客室にもまして縄張り争いは激しく弱肉強食なのだそうだ。
「お前らみたいな見栄えのいい客はあっという間に身ぐるみはがされかねないぜ」
いやお前たちなら返り討ちにするから心配はねぇなとブライアンは豪快に笑った。
「船旅ってのはそんなに物騒なのかよ」
「船上は逃げ場がねぇからな。お前らは目立つし、目をつけられたら厄介なんだ。絶対に事が大きくなって面倒くさいことになるに決まってる」
「人聞き悪ぃ言い方だな」
売られた喧嘩を何倍にもして返すコウメイたちの後始末をしてきたブライアンには、船上でも三人が大人しくしていられるとは思っていない。
「頼むから大人しく鍵のかかる個室に閉じこもっとけ」
鍵のかかる旅船は一等客室から特別室まで、一部屋単位で売り出されている。六畳間ほどの板の間に毛布とハンモックだけの一等客室は四、五人で寝泊まりすることが想定されている。荷の多い個人の旅商人や金回りのいい冒険者パーティーらが利用しているらしい。それより一つ上の上級客室は、簡易ベッドが設置された部屋だ。ベッドの数は二つだが、ハンモックを利用すれば四人程度は利用可能だそうだ。そして最上級の特別室は、貴族が利用することを想定して作られている豪華な部屋で、ベッドに食事用のテーブル、寛ぐための応接スペースまで用意されている。使用人の控える小部屋も隣接してあるらしく、至れり尽くせりな豪華客室だ。
「雑魚寝はお断りだし、可能な限り清潔で静かな環境がいいに決まっている」
「どうせ費用はアレックス持ちなんだろ、一番良い部屋にしようぜ」
「豪華客船のクルージングかー、美味い飯とかあんのかな?」
贅沢な船旅を想像して、シュウの表情は期待にクルクルと変化していた。
「飯はあんまり期待するなよ。船内じゃ火の扱いも慎重だ、食堂の飯の味は屋台の飯以下くらいに思っとけ」
「マジか?!」
「それは……」
シュウとアキラの顔色が変わった。たとえ野営飯であっても、味にこだわり妥協しないコウメイによって、アキラたちの舌は肥えてしまっていて、不味い飯に耐えられる気がしない。一ヶ月以上の船の旅で食事問題はとても重要だ。
「船の食堂は不味いくせに高いからな。飯は持ち込めても飲み物は買わなきゃならねぇんだ、準備は怠るなよ」
「ああ、飯は持ち込めるのか」
それを聞いた三人はほっと肩の力を抜いた。飲み物は水魔術で困ることはないし、食料が持ち込めるのなら、コウメイがいる限りいつものレベルの食事は保証されたも同然だ。
「あとは暇つぶしできるもの持って行けよ」
「暇なのかよ」
「甲板の散歩は半日で飽きるし、海の景色も一日で見飽きる。部屋で寝るか食堂で酒飲んでるかくらいしかすることなくなるからな」
「なんかイメージと違うんだけどー」
船旅なら楽しいことが待ち構えているのではないかと膨らませていたシュウの期待が、急激にしぼんでいた。
「あとはそうだな、貴族が乗船してたら、顔を隠して極力近づくな、逃げろ、部屋に鍵かけて閉じこもれ」
「なんだそりゃ」
「客室に連れ込まれて搾り取られたかったらにっこり笑って見せりゃいいが、お前らそういうタイプじゃねぇだろ」
退屈しのぎに乗客の中から好みの相手を呼び出して遊興にふける貴族がいるらしい。金銭や貴族とのつながりができると喜んで誘いに乗る者もいるが、一度貴族に目をつけられれば次の停泊地までは逃れられないと、泣く泣くお相手をする者も多いらしい。
「お前らは相手が貴族だからって遠慮はしねぇだろうからな」
正当防衛の主張が通用するのは平民の間でだけだ。相手が貴族では権力を盾に罪を捏造されかねない。
「面倒ごとを避けたいんなら、コウメイは周りに愛想を振りまくな、シュウは色っぽいのに騙されるんじゃない、アキラはそのキレイな面を隠してひっそりしてろ」
男も女も淫欲の強い権力者ほど厄介なものはない、自衛は徹底しておけと特に念を押されたアキラは、嫌悪感も露わに顔を歪めていた。
「……聞きたくなかった」
「俺の思ってた船旅となーんか違う」
「部屋に籠ってできる暇つぶしを考えるしかねぇな」
入念な船旅の準備が必要だと、三人はそれぞれに考え込むのだった。
+
コウメイは保存食づくりに専念した。市場で購入したキノコをスライスし、白芋と赤芋も千切りしてそれぞれを干した。シュウが狩ってきた魔猪肉を燻製にして保存肉を作り、レギルやレシャにバモンといった冬の果実も丁寧に乾燥させて容器に蓄えていく。
「ここの厨房、使いやすくていいな」
サツキの厨房の片隅を借りて、保存食とクッキーバーと菓子を作った。
「クッキーバーはわかるが、そんなに大量の菓子が必要か?」
「船の中で退屈しそうだし、コレ豆茶には菓子が必要だろ」
木の実とドライフルーツのパウンドケーキは何本も焼いて、たっぷりと蒸留酒を染み込ませスライム布で包んで保管した。もちろんシュウ用のシロップを染み込ませたノンアルコールも用意している。
アキラの旅支度は薬草の採取と暇つぶしアイテムの入手だ。森で採取した薬草類は、長期保存用の処理をして薬草袋に保管する。治療薬用、回復薬用、解毒薬用に麻痺薬用、そして毒草も何種類か集めるアキラを、コウメイとシュウはあきれ顔で止めた。
「毒薬なんてぶっそーなものを持ち込むなよなー」
「何が役に立つかわからないからな、海の上では採取にも行けないんだから、備えあれば患いなしだ」
「どんな患いだよ」
また暇つぶし用としては街の古本屋で読みごたえのありそうな本を購入した。大陸北部のように寒さの厳しい地方での農業や生活の工夫を解説した本だ。冬でも温暖なダッタザートでは需要がないらしく、格安で購入できたとアキラはご機嫌だ。
「船に乗っても読書かよー」
「シュウはなにか準備してないのか?」
「剣を磨きに出して、あとは投げナイフも買ったぜ」
「何で武器の調達なんだ?」
「だって船旅なんだぜ、海賊船とか、海の巨大モンスターとの戦闘があるかもしれねーじゃねーか」
船旅の醍醐味だろと真面目に主張され、アキラは額を手で押さえ、コウメイは生温かな目でシュウを見た。
「そんな危険な航路を定期周回船が運航するわけないだろう」
「海賊船は海軍が取り締まって拿捕してるだろうし、客船は魔物の出るような海域は避けて運航するに決まってる。シュウが期待してるような戦闘なんかあるわけねぇだろ」
「えー?」
大陸を周回する旅客船は寄港するすべての国が共同で運営しているのだ。当然その安全も各国が目を光らせている。シュウの期待するようなイベントはまず起きないといっていいだろう。
「海賊との戦闘も、クラーケンとの戦いもねーなんて、何のための船旅だよっ」
「移動手段の他に何がある?」
「旅程短縮に決まってんだろ」
「夢がねーよ、おまえら」
豪華クルージングへの期待は早々に破られ、ワクワク冒険の船旅願望も容赦なく否定されたシュウは、出発日まで落胆を引きずって過ごすのだった。
+
コウメイの打った年越し蕎麦を堪能している間も、コズエたちはチラチラと三人の様子をうかがっていた。去年とも一昨年とも違う彼らの様子に、不安を感じていたらしい。
「今度は船旅って聞いてるけど、目的地はどこなの?」
サツキに問われたアキラは、正直に答えた。
「ニーベルメアに行ってみようと思ってる」
「ニーベルメア?」
「大陸の最北端にある国だ」
大陸地図を思い浮かべて、その遠さに顔をしかめたヒロに頷いて見せたアキラは、妹の手に手をそっと重ねた。
「陸路だと最短でも三カ月はかかる距離だ、来年はこの時期に戻ってこられるかどうかはわからない」
「……遠いんですね」
「ミシェルさんに前々から頼まれていた仕事があるんだ。いつでも手の空いた時にと言われていたが、流石にそろそろ痺れを切らしてるようだし」
「仕事の内容は……守秘義務ですよね?」
魔法使いギルドがらみだと察したサツキは、悲し気に目を伏せた。
「帰ってくるときは魔法使いギルド経由で手紙を送ることにするから」
いつ帰ると約束はできない。だがほとぼりが冷めて、こちらに立ち寄っても大丈夫だと思えるくらいの時間が経てば、必ず会いに戻ってくるつもりだ。言外にその想いを込めて妹を抱き寄せると、サツキはきっぱりとした表情で兄を見あげた。
「お兄ちゃん、それなら帰ってこないときも手紙をちょうだい。どこで何をして、どんなものを見たのか、どんな人と出会ったのか。お兄ちゃんたちの様子を知らせてほしいの」
「手紙、か……わかった」
時々でいい、近況を知らせてくれればそれだけで安心できるから、と。そんなサツキの懇願に、アキラはその背を抱きしめながら約束したのだった。
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新しい狩猟服を身に着けたコウメイたちは、三人に見送られて街を出た。港町アウビンへ向かう馬車の窓から顔を出して振り返るたびに、コズエとサツキが大きく手を振っている。それに何度も手を振り返して、彼らはダッタザートに別れを告げたのだった。




