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彼は背を向けられない  作者: 99万回死んだ猫
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アリアとリーナ

 オークの死体処理を処理した後、彼らは森の深部に突入することに決めた。

 アリアとリーナが消耗していないことはもちろんのこと、リーナの手際を確認して起きたかってのだ。オークの変異種という強敵の戦闘を行う前に手際を確認しておきたかったのだ。


「アリアとリーナ。さっきはすまなかった」

「まあ、癖だものね。私も残されてから気づいたもの」


 リーナは突然謝ったウィリアムが何に謝罪しているのかがわからなかった。

アリアの発言でリーナもオークの戦闘前のことだと理解した。


「アリアさん。さっきはすみません。出遅れました」

「まあ、いいわ。初見の人はあれを見て呆然としない人のほうが少ないもの」


 その言い草を聞いてウィリアムは眉間にしわをよせた。

 樹木の側面を蹴って移動する。足場の確認の必要もなく、小型の昆虫や爬虫類の危険性も無視することができる。側面を蹴り続けながら地面に落ちない脚力と側面を蹴りながら体制を崩さない体幹を持っていれば合理的だ。

筋力は「オキニス」で開放すればなんてこともないし。


そして、ウィリアムは自身が使っている宝石魔術に出力調整機能があることにしみじみ感謝した。さもなければ宝石魔法ではなく、破滅魔法である。


「二人とも次の戦闘の方針を決めるぞ」

「そうね」

「わかりました」

「次はリーナに戦ってほしいと思っている。アリアはリーナが無理そうなら助太刀をしてくれ」

「とりあえず私一人ですか?私にオーク数匹を殺すことを期待しているならその望みは薄いですよ」

「あ……?オークの変異種が仇なんじゃないのか?」

「……ああ。もちろんこの手で首を切り落とすのが確実であるとは思いますけどね。無理なものは無理ですし。それに、最近オークの集落に一人で夜襲をかけてこれまで貯めてきた道具もほぼないですし」


 ウィリアムはトチ狂ったことしているなと思った。オークの集落を人間が滅ぼすためには十倍の人数が必要になるはずなのに。十倍どころか十分の一以下。

 それでオークが自身の死の危険性を冒してまで追撃してきたのか。


 ギルドの受付さん真っ青だろうよ。だって、ゴブリンの討伐を行いますと宣言した少女がオークの集落に特攻かましているのだから。


「あー……。……夜襲……?」

「夜襲を行いました。そこそこの数を討ち取れましたが日が昇ってからの反撃が激しくて……」


 困っちゃいますよねと言わんばかりのリーナにウィリアムは圧倒されていた。圧倒というかドン引きである。

 そら仲間を殺しつくされたら誰だって追撃するわ。


「お前、なんで生きてんの?普通、死ぬだろ」

「道具をたくさん持って行ったって言ったじゃないですか」

「よくそんな道具をそろえる金を持っていたな」

「遺産を食いつぶしました」


 ウィリアムは口を閉ざすしかなかった。

 目の前にいるクレイジーガールのせいで。


 質問に答え終えたと判断したリーナは懐をまさぐり、一本のポーションを出す。


「ですから、今持っているのはこのポーションみたいな回復用品ばかりですね」


 アリアにとってリーナの話の話は興味もないため通行人の雑談のようなものだった。


しかし、懐から出されたポーションを見て目を見開いた。モノの物価には興味を持ってこなかったけれど、リーナの持っているポーションの価値くらいは知っていた。

そして、アリア以上にウィリアムはそのポーションの真の価値を知っていた。


ポーションの質は青ければ青いほど効果が高い。効果が低いものは赤色によって行くからだ。そして、リーナが懐から出したものは純青。つまるところ最高級品質だ。瀕死の患者すら癒すと言われているものだ。


「なあ、リーナ。お前、それをどこで手に入れた?作成法補不明、所有者セロの代物がその純青のポーションじゃないのか?」

「夜襲のお土産です。火矢を村中に放ったら慎重に移動しているオークがいたので毒矢を放ってみたらこれを持っていました」


 その言葉を聞いた二人は気持ちを切り替える。

 オークの変異者という強敵を殺すだけのクエストからオークの変異種より強い個体が発生する可能性のあるクエストへ。


 その時、一本の石がリーナめがけて飛んできた。


 後背から飛んできた矢をいとも簡単に反応して切り落とす。そこには熟練の技が見えた。


「リーナ!できるわね!」

「無理ですよ!ウィリアムさんみたいに肉体を強化する術を持ってませんもん!オークと近接戦闘とか自殺行為じゃないですか!」


 ウィリアムはその言葉を聞いて、黒の宝石を出す。


「オキニスよ。オキニスよ。魔払いの宝石よ。彼のモノに力を貸し与えたまえ」


 ウィリアムは朗々と続ける。


「解放させしは肉体。破魔の宝石の名をもって彼のモノが悪鬼を討伐するための力を貸し与えたまえ」


 そして、アリアに宿る加護。黒の強化がリーナに与えられる。


「それは加護だ。すべてを拡張してくれる。だから、振り回される心配はするな」

「アリアさん、信じますよ!」


 思いっきりリーナは飛び出す。

 リーナとオークとの距離はわずか。されど、オークの投石のほうが一歩早い。

 その石を切り払い、オークの眼前で剣を構えたリーナは思う。今なら3メートルの巨躯を持つオークの首を刈りとれるかもしれない、と。


 だから、狙う。


「『魔獣討伐流・一刀』」


 魔獣討伐流。文字通りの流派だ。人間相手なんか眼中になく、ただ人間より大型生物を殺すことを願った流派。これまで幾多の冒険者がこの流派を扱い、綿密に積み上げられた戦闘術。

 武器に貴賤はなしを標榜に掲げ、「斬る・叩く・突く」を極めれば最強という至極まっとうなことを追求し続けた流派でもある。


 故に、その切断には歴史が乗る。

 

斬撃がオークの右足を二つに分ける。切断面を中心に血の花が咲く。


「ッッッッッツツツ!!ガァァァァァ!!」


 オークは眼前にいる村の悪魔に拳を振り抜く。右足の激痛の腹いせとオークの村に壊滅的被害を与えた悪魔に。

 リーナは悪意の拳を眼前に見据えながら横に飛ぶ。力を入れて飛びやすい前方に飛び込みたかったが、足を切断した瞬間からオークの体制が崩れ、股下を抜けようとすれば潰される可能性があったためだ。


「ガァァァァァ!!」


 膝をつかされたオークは憤怒の眼で目の前の小娘を見据える。

 これが戦も知らぬ小娘であれば腰を抜かして食われるままであっただろう。リーナにも殺意の波動は十分に伝わった。伝わったが、だからどうしたという話である。ここにいるのは一人で村に夜襲をかける殺意に囚われた少女である。

 

「『魔獣討伐流・石弾』」


 地面に転がっている石を剣先でオークの顔面に飛ばしながらリーナは思う。

 殺意がぬるい。呪詛が甘い。総じて温い。

 こんな中途半端な復讐者に滅ぼされてたまるか、と。


 決意を新たに、体躯を低くかがめ、疾走の準備をする。

 3メートルの体を足場に首まで走りきるために。


「これで死ね。『魔獣討伐流・首——


 飛び出る前に獲物を確認するとオークのニヤケ面。

 その不愉快な顔面を恐怖に叩き込んでやると思っていた瞬間。腹を蹴り飛ばされる。


 前傾姿勢だったため体が転がり続け、木の幹にぶつかって止まる。

 肺に空気が通らないため思わずせき込む。


「——な、なにが……」

「お嬢ちゃん。視野が狭まっているわよ」


 リーナを蹴り飛ばしたアリアはそう告げる。

 リーナがいたであろう場所に大木を武器として叩き込んだオークを見据えながら。


「ガァァァァァァァァ!!」


 アリアの後背。リーナに足を切り飛ばされたオークはアリアに怒号を浴びせる。

 しかし、前方のオークは一言も叫び声をあげることはなかった。まるで化け物の前に突然連れ出された子供の用に。

 

「そして、見なさい。これが最強よ」


 自負と自身の声は裏切らない。

 これぞ最強。これこそ最強。そういわんばかりの声がアリアに力を与える。


「『魔獣討伐流・一刀』」


 そう単調に告げ、オークの持つ大木ごと真っ二つに切り分ける。


 轟音と共にオークが地面に伏す。


 その様を見届けた瞬間、リーナは呆然としているオークめがけて打ち込む。

「『魔獣討伐流・首狩り』」、と。


 隻脚のオークも続けて躯となる。


 その首が地に落ちた瞬間、ウィリアムが木の上から登場する。


「よくやった二人とも。これならあの変異種にも挑戦できるだろう」

「それは良かったです」


 リーナの言葉は空虚でありながら、とてつもなく重みをもっていた。


「そうかしら。さっきそこのお嬢ちゃん死にかけてたわよ」

「いらん心配だろ。戦場なら不意打ちはない」

「私は多人数を相手にはしてられないわよ。おそらくあの変異種との一対一とその邪魔をする個体を切り払うことくらいしかできなくなると思うから」


「——私のことは気にせずあいつを殺していただければ」


 リーナのその言葉は二人の話し合いを止めるだけの威力を持っていた。


「酒場でさ、言ったと思うけど、俺たちはあくまで『ガキを無為に死なせる』ことは嫌なんだよ。それこそ、英雄の看板をもらえるほどには」

「まあ、私はウィルがいるから付き合ってあげてるだけだけど。それでも死んでほしいとまでは思ってないわ」

「だから、俺たちが戦う以上、俺たちより先にリーナがくたばるっていうのはなしだ」


 そういってタスマリンを外套の中からウィリアムは取り出し、リーナに放った。

 なんの変哲もないもので作られたタスマリンを。


「タスマリン。要はお守りだ」

「そんなものをなぜ?宝石のように効果があるというわけでもないんですよね?」

「ああ。単なる願掛けだな」

「それならなぜ——」


「俺が、俺たちが死んでほしくないと思った。これじゃダメか」


 ウィリアムは真なる願いは言葉をこねくり回してもしょうがないと思う。言葉が濁るような気がするから。


「——わかりました」


 今はまだ真なる願いのすべてはリーナには通じない。言葉一つで変わることもあるけど、言葉一つですべてが通じることもない。


 リーナはそれでもこのタスマリンをもらっておこうと思った。今は復讐に憑りつかれているけどいつかこのタスマリンを他の人につなげるように。


「俺たちはリーナの腕も把握したし、リーナもだろ。だから、城塞都市に戻るぞ」


 その言葉を閉めとして彼らの一回目の冒険は終わった。


試験的に投稿時間を1時間づつ早めることにしました。

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