冒険前の一幕
今日は11時投稿ができなくてすいませんでした。少し体調不良で執筆を控えさせていただきました。
なので今日は12時間後投稿ということになりました。夜間に執筆しているため明日は投稿を一時中止させていただいて明後日の11時から再開させていただきます。
リーナの一言があったとはいえ決まったことはリーナが参加することになっただけ。ギルドの酒場で頭を突き合わせながら3人はこれからのことについて考えていた。
「リーナ。お前、どれだけ金持ってる?」
「……オーク討伐の報酬ですか……?」
「いいや。というか、リーナは俺たちのことを何だと思ってやがる。アリアを抱えているとはいえ、俺たちは二人で信用ランクの頂点のAだぞ。金に困る生活はしてねぇ」
「……いえ、でも……」
リーナは隣のアリアを横目で見る。
彼女の前には積み上げられた皿があった。併設の酒場のため冒険者は安価に利用できるとはいえ、ちりも積もればという言葉が頭に浮かぶ。
ウィリアムもリーナの視線につられてアリアを見る。
「まあ、言わんとすることはわかる。重ねて言うが、金に困る生活はしてねぇ」
「な、なら、なんで私が持っているお金のことになるんですか」
「これからクエストを受けるか、受けないかだ。俺らは実績も金もこまってねぇ。その上、ひと月くらいなら森にこもっていても生活できなくもねぇ」
アリアはその言葉を聞いて食事をすることを止めた。盗賊とランデブーした30日間を思い出し、ウィリアムに視線で念じた。やめてくれ、と。
しかし、つれなく視線を無視されてしまう。アリアが見るにあれは本気で1か月の山狩りを行おうとしているときの眼だ。生活は原始的な狩りと採集で賄い、徹底的に獲物を殺しに行くときの眼だ。
リーナもアジテーターに洗脳された人の眼をしていたから希望はない。
あくまで救いは食事を置こうとしたウェイターが変人か、奇人かを見る目をしていたことか。
アリアは自分がダメ人間であることに自覚はあるがウィルも社会から弾かれる性格しているよなと思った。
「ウィル。それは嫌よ」
「寝床か?」
「いいえ。そうじゃないわ」
「なら、なんでだよ」
「ウィルが『仇』という言葉にとらわれているからよ。この女の子はあの人じゃないのよ」
ウィリアムもアリアも「仇」という言葉には少し因縁があった。それでもアリアは仇にとらわれることはないと思う。私怨に憑りつかれることが愚かだとか、あなたにはもっと大事なことがあるとか、そういう一見わかったような雰囲気で頓珍漢なことを言いたいわけじゃない。言葉に囚われると視野錯誤になるからだ。仇を殺しきるという目的に囚われるならまだしも言葉に囚われることは愚かとしか言いようがない。
アリアの言葉を聞いてウィリアムも首を振る。妄執を振り払うみたいに。
「……確かにな」
リーナはその場の雰囲気にのまれた。
場が重い。空気が重い。雰囲気が重い。ともかく重かった。上唇が重くて口が開かないほどに。
「やるなら討ちなさい。討てないならやめなさい。わざわざ獣に人の味を覚えさせることはないわ」
「……ああ。すまない」
「いいわ。人がすぐ死ぬ世界で背中を預けられる人に死なれたくないだけよ」
リーナはやっとこの二人の関係がわかった気がした。
初めはアリアのことを不愛想でダメ人間な人かと思っていたが、この二人は二人で生きている。片方が狂ったら片方も笑って狂うのだろう。今回は冷静な方に傾いただけで。
「……お二人は『仇討ち』を否定しないのですね」
「殺したいんだろ。例え、一時とはいえ仇から逃げることになっても。確実に殺したいんだろ」
「『仇討ち』という呪いにかかってしまっただけだわ。社会が、一般がとかは知らないわ。あなたがどういう生き方をしてきたかも知らないわ。知りたいとも思わない。でもね、その煮えくり返った眼があなたの生き方を教えてくれるわ」
「何年費やしたかは知らんが『仇討ち』のために生きてきたんだろ。理性的な復讐者であるお前はこれまで悩んできたこともあっただろ。自己否定もしてきただろ。それでもその眼を持っているんだろ。なら部外者である俺たちが言えることは、本懐を果たせ。ただそれだけだ」
ウィリアムとアリアの話を聞くうちにリーナは頭を下に向けていった。髪の毛の間から見えるものは爛々とした二対の瞳だけ。
「……よくそのセリフが吐けるのに英雄なんて看板を背負っていますね」
侮辱に近しい言葉を吐かれても二人の表情に一切の変化なし。
「背負いたくて背負っているわけじゃないわ」
「俺は『ガキを救う』というエゴを貫いてきただけだよ。そのためにはエゴイズムに走ったこともあったしな。それに、善人面している英雄がいるならその面の皮はずいぶん厚いのだろうな」
「普通の人じゃ殺せない数を殺してきた証明でしょ?『英雄』って」
アリアはそれ以上の問答に応える気はないのか食事を再開した。いままで問答してやったのは、あくまでウィリアムのようすがおかしかったからでお前のためではないと無言の圧力をかけながら。
ウィリアムも思い出したくない過去を思い出したと言わんばかりの雰囲気をまとった。
ただ一人アリアだけは——。
「もう質問に質問で返すなよ。それで金は持っているのか」
「いえ。あまり持っていません。ただ換金可能な道具はたくさん持っているのでそれを売れば生活することくらいはできます」
「ガキがそういう心配するんじゃねぇえよ」
「ガキガキ言いますけどねぇ……。一応これでも成人しているんですよ。13歳なんですし」
「そりゃ、人類の最前線である城塞都市ではそうなのかもしれねぇけど背が伸びるうちはいつまでたってもガキはガキだよ」
「だから、ほらよっ」
そういってウィリアムは一枚の銀コインを指ではじく。
「ここの相場は知らねぇがひと月くらいならこれで生活できるだろ。明日から森にダイブするぞ。準備室けよ」
◇
朝空は雲一つもっていなかった。
ウィリアムの心の中には暗雲が立ち込めているのに。リーナのことはもちろんのこと初めにオークに狙いをつけたのはアリアなのだ。戦闘狂というわけではないがアリアは自分のエゴを貫き通すために自分を強化することに余念がない。だから、一対一とか言い出さないかが心配だった。
城壁が作り出す影からウィリアムが出てくるころリーナが到着した。
「おはようございます。ウィリアムさん。アリアさん。お二人とも外套と剣一本を携えるだけですか?」
「そういうリーナは皮の鎧に剣、か。森ににおいを同化させるためには妥当な装備だな」
「あと、リーナ。私に関しては言った通りの装備であっているけれどウィリアムに関しては違うわよ。外套の中にいろいろ入っているわ」
「へぇ……。詳しくうかがっても?」
「戦っていればわかる」
言外にそれ以上踏み込んでくるなと伝える。
その雰囲気をごまかすようにアリアが口を開く。
「戦闘は全員が剣士だから近くにいる人が敵を倒すでいいわね」
ウィリアムは無言の肯定と共に森の方向へ歩き出した。
アリアとリーナもそれに続くように森へ歩を向ける。