第8話 翼使い同士の戦いです
ダメージゼロの激戦を繰り広げ、仲直り(?)をしたところで、2人は私たちの方に歩いてきた。
そして私の前まで来たところで、ヘイローさんが頭を勢い良く下げた。それも直角90度。最敬礼である。
「申し訳なかった。翼使いの存在を知って熱くなってしまった」
戦いをしたことで冷静さを取り戻した様子だ。
そこにコタロウさんも補足する。
「お主も知っているとは思うでござるが、翼を使い続けているものは少ないでござる。こいつは翼を布教するために掲示板も建てたりするほどの熱い男。それが裏目に出てしまっただけで悪いやつではないでござる。どうか許してやってほしい」
確かに最初はビックリしたけど、ヘイローさんの思いもよく分かる。あの翼捌きから本気で翼を好きなんだということが伝わった。
今ではこちらから話を聞いてみたいくらいだ。
気にしていないことを伝えて頭を上げてもらい、それから改めて本人かを確認することにした。一応初対面だしね。
「そういえばあなたってヘイローさんで間違いありませんか?」
「ああ。ヘイローで間違いない」
コタロウさんも続けて名乗る。
「拙者はコタロウでござる。察してると思うでござるが、ヘイローとはテスター時代からの仲でござる」
それから私たちも続けて自己紹介をすることにした。
「私はツバサといいます!」
「…… メイです」
メイさんは少し苦手に感じているみたいだったけど、第一印象から仕方ない。
「ヘイローさんに聞いてみたいことがあるから少しの間ごめんね。もしアレなら……」
「いや、大丈夫だ。それに面白い話が聞けるかもしれないしね」
「はは……嫌われてしまったな。それで聞きたいことってなんだい?」
メイさんの態度に悲しそうに苦笑するヘイローさんだけど、これを機に反省してくれることを願おう。
それはそれとして、聞きたかったことを聞いてみる。
「翼ってどのように強化していけばいいんですか?」
モンスターを倒したりすることで能力を強化するためのポイントを貯めてきたわけだけど、実はそのポイントを私はほとんど使っていない。
だから、参考までに教えてもらおうと思ったんだけど、私の質問にヘイローさんだけでなくコタロウさんも少し顔を顰めていた。
「……もしかしてまずいこと聞いてしまいましたか?」
「いや、全然問題ない」
メイさんと違って私はマナーとかその辺に詳しくないから、してはいけないことをしてしまったのかなと思ったけど、そうではないらしい。
ヘイローさんが続ける。
「俺の育成方針とかをそのまま伝えることだってできる。でも思い出してみてほしい、このゲームの超能力がどんなものかを」
言われて考えてみる。全員が持っていて、無数の育成パターンがあって、プレイスタイルによって――ヘイローさんが言わんとしてることが分かった。
「自分に合わせて育て上げていくものです!」
私が答えるとヘイローさんは笑顔で頷いた。
「そういうこと。だから俺は最初に上手く扱えるようになる方法までは公開していたけど、その後の育成方法については何も書かなかった」
そこにコタロウさんが困ったように言う。
「なかなか理解してくれない人もいるでござるがね。テスターは情報を隠してるだとか……育成パターンがテストプレイ時点で見えてきたくらいで実はそんな差はないのに」
メイさんはそういうことかと何かをブツブツ言っていた。実りがある話があったみたいで何よりだ。
「確かに能力の育成について情報が少ないと思っていたけど、個人に合わせて成長していくことを考えると逆効果というわけか……」
能力の育成に関しては充分良い話が聞けたと思う。そのことに関してお礼を言おうとしたところで、先にヘイローさんが口を開いた。
「さて、話がまとまったところで、俺と戦ってみない? 翼使い同士での戦いを通せば、育成方針も見えてくるかもしれないしね」
答えは決まってる。
「お願いします!」
願ってもない提案だった。翼界で最前線を行く存在からなら、本人が言ってる以上に色々得るものがありそうだ。
◇
ヘイローさんの提案を受けた私たちはドーム状の建物に来ていた。
ここでは超能力者同士の模擬トレーニングとして、様々なルールを設定して戦える訓練場らしい。街中でも一部エリアを除く戦闘可能エリアもあるわけだけど、そこで戦闘した場合に出てくるらしいリスクとかが一切発生してこないらしい。
「こんなところがあったんだ」
私が感嘆の声を思わず漏らすと、メイさんがそういえばと行動を振り返っていた。
「フリーフォールして、フィールドに出て……街中で見たのはお店くらいだもんね」
……確かに! 街並みは現実に近いゲームとはいえ、中身は別物だったりする。
「なら明日は街中を見てみない?」
「いいね!」
明日の予定が決まったところで、模擬戦の手続きをしていたヘイローさんから確認される。
「観客はありでもいいか? 多分観にくる人はそんなにいないけど、翼同士の戦いは映える部分も多いと思うし、翼の良い噂が広まることを願って……!」
ここでも情熱がすごい。私としても特段困ることないし、翼を評価されるのは嬉しい気がしてるから、断る理由はなかった。
「大丈夫ですよ!」
「ありがとう! ……よし、これで受付終了だ。あとは承諾を押してくれ」
ヘイローさんが言うと、私の前にタブが現れた。そこにはルールとかが書かれており、対戦を受け付けるかの選択ができるようになっていた。
フィールドの設置物なし、賭けなし、観戦可能、TP消費通常通り……。
一応私の目でもルールを確認していって、問題はなかったため承諾を押した。
「よろしくお願いします!」
私がそう言ったところで、私とヘイローさんは光に包まれて、気がつけば殺風景なアスファルトの大地の上に転送されていた。
地面がアスファルトの一方で、屋根はドームの屋根そのままで周りはコンクリートで囲まれていてその上に観客席があった。
違和感は感じるがあくまで模擬トレーニング用の施設として考えると、非常によくできている。少し高揚感も感じる。
「カウントがゼロになったらスタートだ」
ヘイローさんがそう言うと視界に数字が写った。
3……2……1……0! 戦いの始まりだ!
翼の弱点は翼使いである私がよく知っている。操作しづらい――は彼は克服してるだろうし私も後々する予定。だけど燃費はどうだ。
どう対応しているのか見せてもらうとしよう。
私は光線銃を構え、光線と合わせて『羽弾』を放っていく。回避するためには翼の展開も必要となってくるし、翼使いが最も考えなければいけない課題の一つだろう。
対してヘイローさんの取った行動は……。
「嘘でしょ!?」
私が絶対にしないであろうと思ったものであった。
黄金に輝く翼を展開し、それで身を守るというもの。TP消費で言えば最悪なものだ。
私の攻撃を一通り防ぐと、ヘイローさんの翼は黄金の輝きを失い白いものとなる。
ヘイローさんは白くなった翼をはためかせると、白い羽を散らしながら宙に舞い上がった。
「……綺麗」
その姿には対戦中だと言うのに見惚れてしまう。
自分もあれだけ美しく飛べるようになるのだろか? そのようなことも考えてしまうが、ヘイローさんの言葉で意識を現実に引き戻された。
「おいおい、それはないだろ。翼使い同士の戦いでやることと言えば決まってんだろ」




