第7話 『翼』使いと遭遇しました
平凡な男性改めユウキさん曰く、HP満タン状態なら一度撥ねられたくらいじゃ死にはしないとのことだ。
そういえば要所要所では飛び出していたものの、基本ずっと上にいた気がするし、働いていなかったのはないだろうか?
私に疑惑を植え付けられたのを感じてか、ユウキさんは急いで弁明する。
「あ、いや、何もしてないってわけじゃないからな! 情報に撒菱とかのアイテムを用意したからな!」
うん。そう言うことにしておこう。
「全く信じていないな!」
横で騒いでるフリーライダーは放っておいて、メイさんの話に戻ろう。
「それでメイさんの使ったスキルって?」
「だから話を聞けって!」
「『罠設置』というスキルだよ。特定の箇所に踏んだら発動するように超能力を設置するんだ。大量に設置できないようになっていてかつ敵を誘導したりする必要がある分、威力は少し強力になっているみたいだね」
「アンタもか! なんか俺の扱い分かってきた気がする!」
今日この日のためにあったようにも感じられるスキルだ。そんなものをよく取得していたなと思ったけど、少し考えればピンときた。
「もしかして私のスキル取得を手伝ってくれた時に……!」
「ビンゴ! その通りだ」
私が敵をメイさんの魔法の発動ポイントまで誘導するということで取得できたらしい。
メイさんは付け加える。
「だから言ったのさ! 一緒ならもっと先まで行けるって!」
「メイさん!」
「恥ずかしいだろう? よせよせ」
とても嬉しいことを言われて感際立って思わず抱きついてしまう。メイさんもそうは言うけど、微笑みを満更ではないみたいだった。
「……俺ってもしかして影が薄いのかな?」
私たちの横で本気で悩み始めたユウキさんにそろそろ謝っておこう。
「ごめん。反応が面白くって」
「右に同じだ。済まない」
「お前ら……」
ユウキさんは半泣きだったけど、ずっとここにいた辺り本気で嫌だったというわけではないだろう。
なんだかんだ打ち解けた気がするし、よし!
「今ので仲良くなれた気がするし、もし良かったらフレンドになって」
「今のでって……。お前は鬼か悪魔か!?」
そうは言いつつもフレンド申請を承諾するユウキさんであった。
一通り話も終わったところでみんなに別れを告げ、今日のゲームを終了するために街に戻ることにした。一気に奥まで進んだし、強敵とも戦って疲れたからね。
――この時の私は一切想像していなかった。街に戻った瞬間から急展開が待ち受けていることを。
◇
「もしかして! あなたが翼使いですか!?」
街に戻るや否やいきなり少し興奮した様子の変な男性に絡まれた。この金色の髪はどこかで見たことある気がする。
……見たことあってもいきなりのこれは怖い。テンションが凄いし私のことも何か知ってるみたいだし。メイさんは恐怖で身動きを取れずにいる私を後ろに下がらせると、金髪の男性を思い切り睨み付けた。
「いきなり何のよう? ボクらとしては通報も辞さないが」
こういう時メイさんは本当に頼れる。どんな相手さえも怯ませそうな剣幕だ。
「……俺の邪魔をしないでくれるか?」
だけど金髪の男性は怯えないどころか、態度が急変して静かに言葉を返した。そこからは明確な怒りを感じられる。
逆上して騒ぎ立てない分、不気味さを際立たつ。
どちらが先に動いてもおかしくはない。
長く続いているようにも感じられるこの一触即発の空気を破ったのは、メイさんでも金髪の男性でもなかった。
「何してるんだこの馬鹿野郎が!」
叫び声と共に現れた侍だった。
黒の袴に頭の高いところで結った灰髪、そして腰に帯刀している刀をいつでも抜けるように柄を握っている姿を、侍(但し、二次元の)と呼ばず何と呼ぼう。
やるゲームを間違えていると思う。
「『電光石火』」
侍が技名を言ったその瞬間、バチッという火花が散るような音と同時にその姿が消えたと思えば、刀を金髪の男に叩き込んで――いるように見えただけだ。
金髪の男は金色に輝く翼を自身の左背から一枚だけ展開し、それで刀による一撃を防いでいた。
「お前も俺の邪魔すんの?」
「当たり前でござる! あの子、怖がっていたでござるよ」
侍の口調にツッコミたくなるところだが、それ以上に金髪の男の翼が私は気になった。何せ自分以外の翼使いを見るのは初めてなことに加えて、彼が顕現させていたのは左の翼だけ。
私は左右の翼を独立させて動かすことはまだできない。それだけで翼使いとして実力の一端が垣間見える。
そして翼使いとしての実力者は限られてくるため、彼の名前を思い出すこともできた。前に画像で見せてもらった人物だ。
「……あれがヘイローさん」
「そういえば……! あんな変なやつだとは思わなかったよ」
思わず私が彼の名前を呟くと、侍の介入でこちらまで避難して来ていたメイさんも思い出したようで、イメージとのギャップに困惑してきた。
確かに、翼を広めようとトレーニング方法まで公開している彼が、いきなり興奮した様子で話しかけて来たり、些細なことで怒り出したりする姿は想像できない。
それはそれとしてだ。私はこれから始まろうとしている2人の戦いに集中したかった。あんなでもヘイローさんは恐らく私の夢に一番近い人。その動きを見るために。
片翼で刀を防いでいたヘイローさんは、もう片方の翼も展開すると羽ばたくことで後ろに飛び、距離を取るが侍もすぐにそれ以上の速度で距離を詰めようとする。
ヘイローさんはそれを防ぐために翼を振るうことで、真っ直ぐ侍に向かっていく黄金の竜巻を放った。それも時間差で三つだ。
侍はそれに足を止めることなく真っ直ぐ向かって行き、青白い雷撃を纏った刀で最初の二つは容易く切り裂いていった。そして残る三つ目だが……。
「轟け!」
侍に直撃するその寸前に雷が落ちてきて相殺された。
侍は二つ目を切った時点で次の攻撃の準備を開始していた。そのことから、攻撃の到達速度など全てを読んでいたことが窺える。
一瞬で結果を分けることもある戦いの世界でこの差が勝敗に繋がることもある。
「なんてプレイヤースキルだ」
メイさんも驚愕するほどだ。彼女もこの戦いからすでに目が離さないらしい。
侍の接近を許すことになったヘイローさんだが、不敵にも笑みを浮かべていた。
「フッ、その程度か? こっちはもう準備できてんぞ」
「そんなわけ! ないだろっ!」
ヘイローさんの翼はより一層激しい輝きを。
侍の刀は纏う雷撃が紫色に変化を。
「天の裁きを!」
「『紫電一閃』!」
二つの大技同士がぶつかり合い、周囲が閃光に包まれる。
そして。
膝をついた両者の姿があった。相手の技を受けてか、ヘイローさんは周囲に紫色の電撃が走っており、侍の方は白い煙を放っていた。
二人は技の影響が完全に消えたところでゆっくりと立ち上がると、それぞれが歩み寄ったところで拳をぶつけ合い笑い合った。
「久々にやりあったけど、やるじゃないかコタロウ!」
「お主もテスターの頃と変わらず何よりでござる」
戦いを通してなんだか仲直りしたみたいだ(?)
二人の友情にメイさんもうんうんと頷いている。
いや、分からねーよ! 最初あんなに興奮してたのにもういいのかよ!
声も荒げそうになるけど、もう流れに身を任せることにした。
ちなみにだけど、二人が戦っていた場所は街の初期地点ということもあり、対人ではダメージが入らない仕様である。二人のやり切った感がますます意味分からない。




