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第6話 特殊モンスターと戦います

 平凡な男性に許可をもらった私たちは、猛スピードで走り回るモンスターの様子を確認する。

 ある程度進んだところでターンして、同じ道を走り続ける仕様のようだ。


「これなら安全圏から攻撃し続ければ一応勝つことはできるかな?」


 私の呟きを聞き取った、平凡な男性は無理だと言う。


「アイツは道路の上から人がいなくなるかもしくは一定時間の経過で何処かに走り去ってしまう」


「ふむ、そうなるとみんなが戦えてるうちに短期決戦を挑む必要があるわけか」


 その話を聞いたメイさんは、道路上で戦える人数を確認している様子だ。全員で10人近くおり、道路外の安全圏に戻って回復薬を飲んだりと交代で何とか耐えている様子だが、明らかに回復が追いついていない。敵があのスピードでは全滅もすぐだろう。

 全滅が見えている様子に、平凡な男性は悔しそうに右手で頭を掻いた。


「情報を拡散してみんなに来てもらったんだけどな。動きを止められるように、タイヤを狙うこととかも伝えたんだけど見ての通りだ。全部弾かれる」


 残ったプレイヤー達は地面に撒菱のようなものを撒いたり遠距離攻撃などで、確かにタイヤを狙っている様子である。けれども、撒菱は全部踏み砕かれ、タイヤも言われた通り攻撃を弾いているみたいだ。


「なるほど……。そうなるとタイヤは無敵という仕様かもしれないですね。でもゲームである以上弱点がないということはないだろう……。そうだ!」


 メイさんは何か思いついたようだ。


「一つ聞きたいんですけど、アイツに下から大きな攻撃を加えたりはしてみましたか?」


「いや、ないが……」


 平凡な男性がそう答えたところで、決まりとばかりにメイさんが私に支持する。


「アイツが迫ってくる前に一度道路に降ろしてくれ。そして私が合図したらまたこっちへ」


 恐らくメイさんの能力を下からぶつけるつもりなのだろう。でもあの猛スピードで走る相手に上手く当てられるとは思えない。考えは見えないが、兎に角その指示に従っていくことにした。


「……分かった」


 道路の上に降ろしたメイさんは、地面に触れていく。そしてモンスターが迫ってきたところで、持ち上げてとの合図してきた。


「ツバサ!」


「了解!」


 高台に戻ったところで、道路からは爆発音が響き、モンスターが宙に舞い上がっていた。

 そこにメイさんが叫ぶ。


「思った通り足元からなら持ち上げることができた! 今だ! 一斉攻撃!」


 その言葉にみんなが一斉に攻撃を開始する。もちろん私と平凡な男性もだ。

 何をしたのかが気になるところだけど、それは後でも聞ける。今は倒すことが最優先だ。地上にいた時より遥かに狙いやすいし、速度が出ていないためか攻撃が弾かれることもない。私達も攻撃を開始する。


 私は光線銃を構えて『羽弾』と合わせた攻撃を、平凡な男性は全身から白い光を放ち出すと、高台から跳躍。そしてモンスターに拳を打ち込んだ。


「でりゃあああああ!」


 私達の攻撃によって運転席側の窓ガラスが砕け散った。

 これで大きな負担を与えることができたと思ったが、地上に戻った車はまたすぐに先程のように動き出す。


 みんなからの攻撃もあってボディ全体も歪んでいるのだが、動きからはそれによるダメージを一切感じられない。

 モンスターに撥ねられる前に平凡な男性も高台まで駆け上がってきており、悔しそうにメイさんに向けて言う。


「くそっ! 今のでもダメか! だけどHPは確実に削られているはずだ! もう一度お願いできないか!?」


「そうしたいのは山々ですが、今のは私のスキルの力で起こしたものです。威力の代償に再使用まで時間がかかります」


 メイさんも仕留められなかったことで歯噛みした様子だ。ようやく与えることができた有効打をもう一度使えないということもあってお通夜のような雰囲気になるが、私はあることを思いついていた。


「あれって車ですので、中に入って操作とかできないんですか?」


 答えたのは平凡な男性だった。


「恐らく可能だ。だが、どうやって入るつもりなんだ?」


「ツバサ、まさか……」


 平凡な男性が呆れた目を向けてくる一方で、メイさんは私の考えに気がついたようだ。


「そのまさかだよ!」


 そう言ってやった私は翼を展開し、高台を飛び出した。

 確かに翼は不人気かもしれない。だけど、弱いと言われてるわけではない。その実力を見せつけてやる!


 最高速度に到達した私は車に追いつくことができた。驚く他のプレイヤー達の顔が見える。見て! 短時間だからこそ許された速度を!

 もっと驚かせたいところだけど、さっき言ったように時間制限は短い。すぐに割れた窓から車に乗り込もうとするが……。


「追いつけても、そこから先が……!」


 運転席の窓となると人が乗り込める広さがあるとはいえ、それも高が知れている。乗り込む際の体制も考えるとその難易度は思いの外高い。

 私が入りあぐねていると、上空から声が聞こえた。


「ったく、仕方ないな!」


 白い光を纏った平凡な男性が車のボンネットを上から思い切り殴りつけた。


「平凡な男性さーん!?」


 止まることのない相手に正面から挑んでいけば、当然弾き飛ばされる。とはいえ、彼の犠牲を悔やんでいる暇はない。

 彼の尊い犠牲を無駄にしないために、私はモンスターの動きが鈍った一瞬を見逃さず、滑り込むようにして乗り込むことができた。


「間に合ってよかった!」


 乗り込むと同時にTP切れで翼が消滅するが、ここまでくれば私の……いや、私たちの勝ちだ。

 車を運転するわけではない私でもブレーキくらいは分かる。思い切り踏み込んだ。


 急ブレーキのせいかゴリゴリゴリという嫌な感覚が朝から伝わってくるけど、動きさえ遅くできればそれでいい。このモンスターが攻撃を弾いた理由はもう分かっている。動きが遅くなったところで、何も言わずともみんなが攻撃を開始した。


「よし、みんなやっちゃって! あ、待って、これ怖っ!」


 攻撃さえ有効になってしまえば後はあっという間だ。こうしてモンスターとの戦いに無事勝利することができた。

 ……私にトラウマを残して。閉じ込められている所にたくさんの攻撃が飛んでくれば当然である。魔物の中にいたたから被弾することはなかったけど……。


 それはさておき、戦いを終えた私達は戦利品を確認していた。

 その途中で参加していたプレイヤー達に「見直したぜ翼!」「翼の評価を改めないとな!」と声をかけられて少し嬉しい。頑張った甲斐ありました!


 今更だけど、今回倒したモンスターは特定条件下で現れる特殊モンスターというものだったらしい。発見事例は今回の敵含めてまだ2体らしいけど、そのおかげでドロップアイテムなども特殊なことが確定した。


 私たちは何に使うか分からないような機械のパーツを入手していた。メイさん曰く「将来的に車を作れるようになるのでは?」とのことだ。

 特殊モンスターはゲーム内で使える道具作りに役立ってくる立ち位置なのかな?


 一通り確認が終わったところで、メイさんにあのことを聞かないと。


「メイさんの言ってたスキルって何?」


「そうだな。俺も教えて欲しいぜ」


 あんな強力なスキルを持っていたなんて、気になって仕方がない。

 気になっていたのは私だけじゃないようで、平凡な男性さんも来ていた。……って、あれ?


「平凡な男性さん!? 生きてたの!?」


「……ボクも正直驚いている。無事じゃ済まないだろうし、トドメへの貢献を考えてアイテムの分配についても相談していたくらいだ」


 私を手伝って、どこかに飛んで行った気がしたけど……。というかメイさんいつの間に。しっかりしてるなぁ。

 平凡な男性はそれよりも呼ばれ方が気になったようで……。


「おい、さっきも気になったが、平凡な男性さんって俺のことか? 失礼過ぎないか!? 俺にはユウキって名前があるんだが!」


 名前も平凡じゃないですか!

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