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第5話 色々試してみます

「そんなに落ち込むことはないよツバサ。昨日の活躍を見て一緒ならもっと先まで行けるって判断したんだ。だから、スキルなんてなくたっていい」


 そう言ってくれてはいるが、戦力が予定より少なくなってきたのは間違いないだろう。

 落ち込んだままの私を見てか、メイさんは付け足した。


「それに、まだ色々試したというわけじゃないだろう?」


「どういうこと……?」


 色々試すと言われても、他にできることは想像できない。

 けれども私を慰める嘘でもなさそうだ。ウィンクして見せるメイさんは何か考えがある様子だった。


「さて、次のモンスターが来たところで……、早速お出ましか!」


 そのことについて何か言いかけたところで、先程と同じモンスターが現れた。

 良い機会だとばかりにメイさんがニヤリと口角を上げる。


「ツバサ、翼を出さないで『羽弾』のスキルを使ってみてくれ」


「え? でも?」


 翼がなければ使えないスキルのはずだ。一体何を考えて……? でも詳しく話しを聞く時間もない。


「早く!」


 催促を受けた私は困惑を頭の隅に追いやって、指示に従うことにした。

 このままじゃモンスターの牙の餌食になるだけだ。


「どうにでもなれ! ……え!?」


 すると一枚の羽が宙に現れて、飛んでいく。但し、明後日の方向にだが。


「羽が出た!? でもこれじゃダメじゃん!」


 メイさんはこの結果を知っていたのだろうか? しかし、無意味に終わってしまった。

 ただ、今ので可能性が見えてきた。私の眼前に迫ってきていたモンスターに対して、『羽弾』の時同様に翼を展開しないまま『翼撃』のスキルを発動する。


「これならどうだ!」


 すると翼が一瞬だけ展開され、向かってきていたモンスターを薙ぎ払った。


「そう、それでいい!」


 それからすぐにメイさんが前に出てきて、地面に転がるモンスターを火柱に包み込んだ。急過ぎて分からないことだらけだった討伐が終わったところで聞いてみる。


「メイさん、今のはどういうこと? 翼がなくてもスキルが使えたりすること知ってたの?」


 私の質問に対していいやとメイさんは首を横に振った。


「様々な条件で使ってみて初めて分かることとかがあるんだ。だから、取得したスキルはこのように検証していくんだよ」


 そういうことね。理解できたとはいえ、先に言っておいてほしかった。

 頬を膨らませる私にメイさんはごめんってと謝るのだった。


「ツバサもやってほしいことすぐに理解できていたし、許してほしいな」


 それもそうだ。その話は終わりにして、検証の結果を確認していくことにする。


「消費が大きい翼を展開している時よりも、消費TPが圧倒的に少ないみたい!」


「翼がなくても使える技はそのまま使えて、翼が必要な技も翼を自動で展開してくれるようだね。ボクの想像通り、飛行能力を考えなければある程度のことはできるようになるかもしれない」


 スキルの数を増やしていけば、このようにできることも増えていくだろう。そうすれば更に敵もたくさん倒せるし、その分超能力を鍛えて長時間翼を発動できることだってできるようになるはずだ。夢に大きく近づいた気がする。

 これでしばらくやって……。希望が見えたところであることを思い出した。


「でも私、『羽弾』ノーコンじゃん!」


 そんな私に対してメイさんはそれも検証だよと笑いかけた。


「照準を合わせるのが難しいという問題なら、例えば昨日の光線銃を使ってみるというのはどうだい? 光線銃ならしっかり敵を狙えていたし、それに乗せるような形で発動するとかさ」


 次のモンスターに遭遇した時に、早速言われたことを試していく。

 猪型のモンスターだ。


「食らえ! 三連打!」


 すると羽が光線と同じ方向に向かっていき、無事に命中。モンスターが消滅する。

 命中補正どころか光線のダメージも与えられるため、大きな戦力になりそうだった。


「すごいじゃないか」


「メイさんのおかげだよ」


 あれもこれもほとんどメイさんのアイデアだ。この先は自分で色々考えられるようにしていきたい。


 スキルの検証が終わったところで、私たちは移動速度を早め、途中で分かれ道もあったりしたけど山の麓まで辿り着いた。

 頂上にボスがいたりしそうな気がする。メイさんも同じことを考えているようだ。


「近づくにつれて動物のようなモンスターが増えてきたからね。上に向かって行くに連れてモンスターもきっと強くなっていくはずだ」


「気をつけないとだね」


 山に入る前に気を引き締めていく。

 山に入る道は2種類あった。一つは道路が続いているところ。九十九折になっていて道は長そうだ。もう一つは登山コースのようなところ。こちらの方が早く登れそうだが道は狭い。

 相談の結果、道路が続いているところから登っていくことにした。


「確実に敵を倒して、まずは超能力を鍛えていくことにしよう」


 現れた魔物については排除しながら、登っていくとちらほら他のプレイヤーも見かけるようになってきた。

 フィールドの奥ということもあり、みんな初期服ではない。しかし、誰も近くのモンスターを倒すばかりで登る様子はなかった。


「もっと先に進めばいいのに、みんなどうしたんだろ?」


 私が疑問に思っていると、メイさんがタブで調べてくれていた。いつもながら行動が早い。


「どうやら長時間ここに居続けると、特殊なモンスターが現れるらしいね」


 そう噂をしたところで、山の上の方からブォンという大きな音が周囲に轟いた。


「噂をすればってやつか」


 噂のモンスターが来たらしい。

 他のプレイヤー達もそいつを待っていた様子で、その音を聞いて能力を発動していく。そして。


「来たぞ!!」


 一人の叫び声が聞こえたと思えば、猛スピードでドリフトしながら侵入してくる車の姿が見えた。


「まさかアレが……?」


 驚いている時間はなさそうだ。

 そのボディでプレイヤーたちの魔法を弾き、道路の上にいるプレイヤーを跳ね飛ばしていく。

 このスピードでは私たちが跳ね飛ばされるのは時間の問題と判断した私は、翼を展開してメイさんを抱えて山中の高台に移動した。


「助かったよ、ツバサ」


「いいえ。でも、車みたいなモンスターがいるなんてね」


 そのことに驚いているとこれもまた世界観案件の様子で解説してくれた。いい加減ストーリー見ようね!


「モンスターを放った存在は、この世界に存在した動物たちや機械さえも自身の手先にしたんだ」


「それがアイツってわけね」


 そのような話をしていると、高台にも先客がいたようで声をかけられた。

 黒髪黒目に現代的な服装と、本当にアバターかというくらいどこにでもいそうな男性だ。


「アンタらもアイツを倒しに来たのか?」


 恐らく自分たちの狩りの邪魔するなと言ってるのだろう。

 今回の狩りにあたってメイさんからマナーについて軽くレクチャーを受けていた私は、どう答えるべきか迷った。

 確か狩りしてる集団とかの邪魔はしちゃいけないんだよね。中途半端に知ってるからこそ、どう答えればいいか分からなくなる。


 こうしたやり取りに慣れていない私は、慣れていそうなメイさんに目配せすると、メイさんは頷いて前に出てくれた。メイさんかっこいい!


「いいえ、違います。でも、戦いに参加できるものならしたいですね」


 ……って戦いに参加するつもりなの!? 勝てる気しないんだけど!

 平凡な男性も許可しないだろうと思ったら、どうせ勝てないとばかりに嘲笑うかのように答えた。


「フッ、いいぜ。そもそも俺たちもたまたま集まっただけの集団だ。見たところ一人は翼持ちみたいだしな。まあやれるだけやってみな」

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