第3話 『翼』は不人気能力らしいです
フレンド登録を終えたところで、メイさんから衝撃的な情報が齎された。
「え!? 翼って不人気だったの!?」
不人気の理由もそのまま教えてくれる。ちなみにフレンド登録を機に堅苦しいのもなしにした。
「この辺はツバサも体験したと思うけど、人間に本来ない器官を操ることになるから、操作が非常に難しいんだ。そして能力の発動に伴う消費ポイント――TPも大きいからあっという間に時間切れ。空中にいる時に能力が消えてしまえば落下ダメージを採用しているこのゲームでは……」
「死亡確定ってわけね……」
「そういうこと」
確かに私も一通り体験したことだけど、メイさんの語り方ではこれだけではないはずだ。続きを促した。
「そして何よりも不人気たらしめる理由が、他の能力でも将来的には飛べることが確認されたこと。例えば放出系の能力なら手足から能力を吹き出して飛べるようになるし、纏系なら纏った能力に翼を生やすことだってできる」
空を自由に飛べる唯一無二の能力ならまだデメリットを受け入れられたかもしれないが、そうなってくると確かに誰も選びたくなくなるだろう。扱いの酷さが私の想像を遥かに越えてきた。
メイさんは続ける。
「だからテスター達は口を揃えて、最初に翼を選ぶのだけはやめておけって言っている。本サービス開始時には改善されるだろうと言われていたけど、結果はツバサが知ってる通り……。掲示板を見ていると、前情報を仕入れてなかった人でさえ、最初の30分以内にすぐ変えているほどだよ」
「うわぁ……」
思わずそんな声をだしてしまう。これは茨の道だなと。
けれども、一切の後悔はなかった。ゲームとして楽しむ難易度は確かに高いかもしれない。それでも。
「……それだけ早く飛ぶ練習ができるってことだし、扱えるようになればそれを補えるだけの力がありそうだよね!」
「ここまで露骨な調整がされているんだ。ボクもそう思うよ! その翼でどこまで羽ばたけるか、是非見せてほしい!」
「言われなくても!」
当面の目標は決まった。翼を鍛えながらゲームを楽しんでいく!
決意を新たにしたところで、まずは能力を使いこなせるようにならなければ育成もままならないだろう。能力を使う練習をしてくることを口にしたところで、メイさんがタブを開いて見せてきた。
「ここに翼を鍛える方法が書いてあるんだけど興味ない?」
◇
メイさんが見せてくれた情報を参考に、私たちは近くにある高層ビルの屋上にやってきていた。
「……本当にやるの?」
屋上から街を見下ろしていた私の声はきっと震えていることだろう。
何せ今からやるトレーニングは、屋上から飛び降りて、その落下中に翼を展開して舞い上がるというのを繰り返すというものだ。まるで自殺を繰り返すようなトレーニングである。
ただ、そうすることによって落下を回避するために翼の操作感を身につけられ、また発動を繰り返すことによってTP消費を抑えるスキルも身につくらしい。
「やるって決めたのはツバサだよ? それにこれは確かな情報さ。……これを見てご覧」
今度はゲーム内で撮影されたと思われる写真を見せてくれた。そこには2対4枚の白い翼を展開している金髪碧眼の青年の姿があった。
「これはテストプレイ期間中に撮られた写真なんだけど、テスターの中にも数少ないとはいえ翼を諦めずに使い続けた人はいたんだ。この写真の人はヘイローさんと言って、翼使いの先駆者的存在。その人が最も効率が良いと提唱したトレーニング方法がこの自殺トレーニングってわけさ」
情報が信頼できるものということは分かった。だけど今自殺って言わなかった? やっぱり自殺って思っているんだよね?
「それじゃあ行ってみようか」
踏み止まっている私に対して、メイさんはそれは良い笑顔で言ってきた。絶対分かって言ってる。何なら自分は飛び降りないからと楽しんでる。確かにやるって決めたのは私だけどさ!
「さあ、行く!」
「待って!? あ? え!? 少し熱いんだけど!? ていうかダメージ受けているんだけど!?」
メイさんがそう言ったところで私の足元から炎が発生し、私を持ち上げてそのまま柵の外に放り出された。
「いやあああああああああああー!」
「頑張ってねー」
呑気に応援する声が聞こえたものだから上を見上げてみれば、柵から少し身を乗り出して手を振ってるメイさんの姿が見えた。
この落下感を味わう身にもなれ! 自分はフリーフォールする必要がないからとばかりに……!
ん……? フリーフォール……? 閃いた!
非常に良いことが思いついてしまったかもしれない。
私はそれを実行するべく翼を展開し、ビルの屋上の高さを少し越えるくらいのところまで一気に飛翔し、能力を終了させて屋上に飛び乗った。
「無事戻ってこれたよ。これはいいトレーニングだね」
笑顔でそう言うと、メイさんはジリジリと後ろに下がる。やだなぁ、お礼を言ってるだけなのに。
「その笑顔がとても怖いんだけど……」
「フフフ、隙あり!」
メイさんがビルの中に戻ろうと後ろを向いたその瞬間、翼を展開しメイさんに向かって急加速。
それからメイさんを抱えて上に上昇していく。そして、完全に空中に来たところで……。
「ぎゃああああああああ!」
「あははははははははは!」
今度は私が笑う番だった。
翼を解除して落下タイムだ。友達と一緒なら今日は体験も楽しくなるね!
これを切っ掛けに単純な操作ならコツを掴め、それからは消費量軽減のスキルを身につくまでひたすら自殺トレーニングを繰り返した。
その間にTP切れで何度か死んだことは説明する必要はないだろう。
◇
私のスキル欄に『翼の消費TP軽減Lv1』が発現したところで、NPCが開く店の中に来ていた。
「確かにボクも悪かったと思うけど、最初に死んでからそれ以降も一緒にやる必要あったかい?」
「ごめんって」
「本当に思ってるー?」
なんだかんだ言いつつも、トレーニングに最後まで付き合ってくれたのはメイさんである。
そして今回もフィールドに出る準備をするために、メイさんの案内でここに来ていた。いい人である。
「それでツバサは何を買うんだい? TP回復薬とかかい?」
「違う、武器だよ」
「武器? 肉体強化系でもないのにかい?」
私が買いに来たものを答えると非常に驚いた様子であった。
それも無理はないだろう。全員が一律に超能力を渡されている世界であまり需要がないことは私でも想像できる。お金を使うならそれこそメイさんの言うように回復薬とかを買うべきだろう。
それでも私が武器を買う理由は、あることが考えついたからだ。
「まあまあ、思いついた戦術試させてよ」
目的の武器を探していると、色々な発見や話が聞けて面白かった。
「ナイフにグローブ……なんか小さいのが多いね」
「ああ、肉体強化系だと殴りつけたりといった戦法をとることが多くなるからね」
「剣や弓まである。ファンタジーか!?」
「武器に超能力を纏わせたりなんてこともできるらしいけど……フフッ、世界観が合わないね」
しばらく見続けたところで、目的のものは見つかった。
「あった! これで試せる!」
「ツバサが探していたのはそれかぁ。なんとなく、考えてることが分かった気がするよ」
今度こそ翼をちゃんと扱ってみせる!